【ライブレポート】BAND-MAID、ホールツアー開催。築いてきたものを目の当たりに
特に大きなテーマが伴っているわけではなかったはずのツアーが、結果的に重要な意味を持つようになることがある。7月14日、神奈川県民ホールで行なわれたBAND-MAIDのお給仕(ライブ)を観て、そう感じた。
◆ライブ写真
これは6月28日に名古屋で幕を開けた計3公演の短期集中型ホールツアーを締め括るもの。その名古屋公演や7月5日に行なわれた大阪公演についてもSNSなどを通じて盛況ぶりが伝わってきていたが、実際、横浜で目撃したそのステージは、このバンドのさらなる飛躍を確信させずにはおかない説得力に満ち溢れていた。
約2,500人を収容する会場内に足を踏み入れると、象徴的な光景が目に飛び込んできた。ステージの背景には巨大な塔の下層部のようなものが映し出されている。それが去る3月にリリースされた映像作品『BAND-MAID 10TH ANNIVERSARY TOUR FINAL in YOKOHAMA ARENA』のアートワークに重なるものだということには一目瞭然だったが、それに加えてステージ左右にはシンボリックなエンブレムが上部に掲げられた街燈が配置され、天井には大きなフラッグが吊るされている。それはまるで、この会場からもさほど離れていない横浜マリンタワー界隈の、近未来の風景のようでもあった。
そうした光景が意味するものについて考える間もなく、開演定刻の18時ちょうどに場内は暗転。耳馴染みのない新たなオープニングSEが流れ、赤い照明が交錯する中、5人がステージ上の配置に就く。そして最初に炸裂したのは「NO GOD」。満員のオーディエンスはそのスピーディな展開にすぐさま順応し、拳を振り上げ、声を重ねていき、さらにSAIKIは「声出していこうかー!」と扇動し、合唱の火に油を注いでいく。フロアの前方で観客がひしめき合うライブハウスの空気感とは明らかに違うものだが、整然と座席の並ぶこうした劇場型の会場においても、BAND-MAIDのお給仕ならではの一体感が損なわれることはない。オープニングチューンが始まってからわずか数十秒の間に、筆者はそれを実感させられていた。
同時に、そうした様子を目の当たりにしながら、ちょっとした安堵感をおぼえてもいた。実はツアー初日にあたる名古屋公演を終えた数日後に5人に取材した際、ホール公演というあまり慣れ親しんでいない状況ゆえのモニター環境の違いについて、いくぶんの戸惑いがあったことを認めていたからだ。とはいえ、その際の小鳩ミクの発言によれば、ツアースタッフからは「今日はアメリカツアー中だと思って、思い切ってやればいい」との助言をもらっていたのだという。欧米には古い建物がリノベーションされたホールなども多く、ツアーの際には毎日のように異なった演奏環境でプレイすることになる。そうした状況でのツアー経験がすでに豊富なBAND-MAIDならば、慣れないホールでの演奏についても不安を感じる必要はないはずだが、彼女たちとしては、昨今の自分たちのパフォーマンスの向上ぶりを自覚できているからこそ、ここでオーディエンスに「やっぱりライブハウスのほうがいいね」と言わせるわけにはいかない。しかし小鳩によれば、名古屋公演の際にも結果的には「環境の違いによる不安よりも、楽しさの方が上回って」いたのだという。より正確にお伝えするならば、彼女は「~上回っていたんですっぽ」と言っていたのだが。また、その取材時、演奏陣が少なからずそうした不安を抱えていたことを認める中、SAIKIは純粋にホールという環境を楽しんでいたようだ。その際の彼女は次のように語っていた。
「広い会場というのは大好きだし、気持ちよく歌えました。今回のホールツアーは絶対成功するっていう自信が最初からあって。わりと無理難題な感じのセットリストではあったんですけど、それに応えてくれているメンバーにも自分にも拍手って感じでした(笑)。確かに、ホールツアーに慣れてないというのが楽器隊のみんなには少なからずあったみたいですし、モニター環境について結構考えなきゃいけない状況ではあったんですけど、私は自分の声がホールならではの“鳴り”でステージに返ってくるのが結構好きなので、もうリハの時から楽しくて。そのまま最後まで突き進めたというか、途中で立ち止まることなく行き切ることができました」
なんとも頼もしい発言だが、実際、この横浜公演での彼女の表情や言動からも、心地好く歌えていることが充分に伝わってきたし、その歌唱は完成度を損なうことなくパワフルな伸びやかさを増していたように思う。加えて、名古屋公演の際には、めずらしくKANAMIがステージ上でビールを飲むという場面もあり、それ自体がSNS上などでも目撃者たちの間で話題になっていたが、KANAMIいわく「アドレナリンを高めるために、ちょっとアルコールの力を借りてみた」のだそうで、結果的には「それによって“ここから行くぞ!”というスタンスになれて、最後まで突っ走ることができた」とのこと。余談ながら付け加えておくと、彼女のそうした行動に驚かされたのは、「気が付いたら、まだ結構残っていたはずの自分のビールがほとんど空になっていた」というMISAと、「自分のドリンクが置いてあるはずの場所にビールが置かれていてびっくりした」という小鳩だった。つまり当初から彼女のためのビールが用意されていたわけではなく、MISAのものを勝手に飲み、それを小鳩のドリンクの定位置に置いていたというわけだ。どうでもいい出来事と言われればそれまでかもしれない。ただ、緊張が和らいだKANAMIがそれを機にハジケたことも、このホールツアーを快調にスタートさせるうえでひと役買ったということになるだろう。
話がやや横道に逸れたが、この横浜公演の序盤、筆者はこうした「名古屋公演と大阪公演の狭間の時期に聞いた話」が目の前の光景と合致していくのを感じていた。もちろんそうしたことについて熟考しているような余裕がないほど、ステージは無駄なくスピーディに進んでいく。序盤の4曲の畳み掛けるような猛攻ぶりはまさに圧巻だったし、変化と緩急に富んだ中盤以降の展開も、さまざまな楽曲たちを破綻なく綺麗に再現するだけではなく、各曲が持つキャラクターをさらに際立たせていく足し算と引き算の巧みさ、さじ加減の絶妙さを感じさせるものだった。そんな中、SAIKIがこのホールツアーについて語る中で口にした「私たちのなかではリベンジ」という言葉、そして背景に映し出された塔を指して「10年の軌跡、証し。みんなで作り上げてきたもの」と述べたことが印象的だった。
もういまさら「あのコロナ禍がなかったならば」という話をするまでもないだろうが、実際問題、あの忌々しい事態に見舞われることがなければ、BAND-MAIDはホールツアーをとうに実践済みだったはずだし、その意味においては現地点に到達するまでにずいぶんと遠回りを強いられてきたことになる。ただ、そこで「結果オーライ」みたいな軽い言い方をするつもりはないが、実際、当初の計画よりも良い形でこの場所に辿り着けたのではないか、という気もする。たとえばここ最近はインキュバス来日公演のスペシャルゲストとしてのパフォーマンス、<THE DAY OF MAID 2024>という“限られた人たちのための祭り”ともいうべきステージ、そしてお互いに共鳴し合う関係にあるメキシコのTHE WARNINGとの対バン形式の公演を続けざまに目撃し、それぞれについてBARKSでもレポートしてきたが、そうした機会を通じて痛感させられたのは、今やBAND-MAIDが演奏環境を問わず自分たちならではのお給仕を限りなくパーフェクトに近い形で披露できるバンドになっているという現実だった。
もっと単純に言うと、そこがどんな場であろうと、人を巻き込む力が強くなっているのだ。インキュバスの来日公演の際には、BAND-MAIDがステージ上に登場した瞬間には傍観者を決め込んでいたものと思われる観客が、ずっと着席したままではありつつも、一度も席を離れることなく5人の演奏ぶりに釘付けになっているさまを目撃した。<THE DAY OF MAID 2024>の際には、バンド側とご主人様お嬢様(ファンの呼称)の結びつきの強さを改めて実感させられたものだし、THE WARNINGとの対バンでは、好敵手の存在がお互いをさらに光り輝かせることになるという化学反応の素晴らしさを目の当たりにすることになった。もちろん、それ以前のライブハウスでの公演やフェス出演時のパフォーマンスなどからも常にバンドの成長ぶりを感じさせられてはいたが、ことにここ最近は単純な意味での向上を超えた成熟ぶりを感じずにいられない。先頃の取材時、MISAが「ここ数年ずっと“メリハリ”を重視している」と発言した際、他のメンバーたちも同意を示していたが、それもまた筆者の感じた成熟の一因なのだろう。大物感を増してきたとか、大人っぽい曲を着こなせるようになってきたということ以上に、情報量の多い楽曲を、いわば音源以上に効力のある形で届ける術を身につけてきているのを感じさせられるのだ。そうした成熟ぶりもまた、「10年の軌跡、証し」だといえるだろう。
人を巻き込む力の強さについては、序盤に続けざまに演奏された4曲にも顕著だったが、いきなり終盤の幕開け(しかもお馴染みの“おまじないタイム”=小鳩ミクによる観客とのコール&レスポンスの時間 を経た直後)という重要なポジションに配置されていた最新シングル曲「Protect You」も、それを実証する好例だったといえる。初めて聴いた瞬間から同調しやすいこの楽曲は、2コーラス目からはオーディエンスの合唱の渦を引き起こしてしまう。これまでにも、BAND-MAIDのステージを初めて目撃した人たちがその演奏ぶりのすさまじさに圧倒されたという話は幾度も目や耳にしてきたが、筆者はテクニカルさ以上にバンドとしての機能美、それぞれの楽曲に似つかわしいグルーヴの躍動感などに凄味を感じさせられている。それはもちろんSAIKIの歌唱がパワフルさや伸びやかさばかりではなく、微妙な心情描写やニュアンスの表現力を増している事実とも無関係ではないだろう。超絶な演奏や実験的なアレンジは、あくまでその歌の世界を際立たせるためにあるものなのだから。
さて、実際のお給仕の具体的な流れについてはあまり述べずにきたが、最後の最後、さまざまなキラーチューンを経たうえで「influencer」で幕を閉じたこの夜のお給仕は、2時間10分ほどに及んだ。そのすべてが緊張感に支配された時間だったわけではないし、前述の“おまじないタイム”のまったり加減は、鬼気迫る演奏場面とはまさに対極をなすものだった。ただ、グッズに関する説明をしたり、横浜がAKANEにとって特別な場所であることが語られたりする微笑ましい場面もまた、BAND-MAIDのお給仕において失われてはならない要素なのだろうと感じた。加えて、小鳩がメインボーカルをとる「Brightest star」から続いたセッションパートを経て、KANAMIが中央のお立ち台に立って大きくのけぞりながら「Shambles」のイントロを弾き始めた瞬間の姿には、ロック史に残る名場面が切り取られた有名な写真のような文句なしのカッコ良さがあった。曲の流れによって背景の映像が夕暮れ時や夜などに時間帯を変えていくさまも印象的だったし、会場規模や演奏環境を問わず発揮されるカッコ良さや説得力がバンド自体から伝わってくるのみならず、ホールならではの世界観演出も実に見事だった。
そうしたきわめて満足度の高いお給仕終了後、ステージ上のスクリーンには今後のさまざまな重要事項に関する情報が映し出され、来場者たちを歓喜させた。8月30日に“番外編お給仕”が開催されること、11月にZEPPツアーが実施されること、そして9月25日に待望のニューアルバムがリリースされることが伝えられたのだ。『Unseen World』以来、約3年半を経ての登場となるこの新作は『Epic Narratives』と命名されている。この作品については、また然るべき時期にメンバーたちが詳しく語ってくれるはずだが、この夜のステージに触れた誰もが、同作に向けての期待感の高まりを感じていたことだろう。
そして会場からの帰路、筆者はステージの背景に浮かんでいたあの光景について改めて考えさせられていた。「10年の軌跡」であり「共に築いてきたもの」だというあの塔そのものが、現在のBAND-MAIDを示しているのかもしれない。そして、どんどん高さを増していくその塔の揺るぎない姿は、遠く国境を超えた世界からも目にすることができるものであり、さまざまな場所からこの塔を目指してやって来る人たちがいる。地球上のあちこちで血なまぐさい出来事が続いている昨今、BAND-MAIDが常にテーマに掲げてきた「世界征服」という言葉を使うことにも躊躇をおぼえることがあるが、世界からその場を目指してくる人たちの動機を止めることは誰にもできない。国内のファンのみならず、海外からの来場者とおぼしき人たちがたくさん行き交う横浜の街を歩きながら、そんなことを考えさせられた夜だった。
取材・文◎増田勇一
写真◎伊藤実咲
セットリスト
2. Play
3. Unleash!!!!!
4. DOMINATION
5. DICE
6. The non-fiction days
7. Don't you tell ME -solo-
8. HATE? -solo-
9. After Life
10. from now on
11. Sense
12. Bestie
13. Daydreamig
14. YOLO
15. endless Story
16. Choose me
16. Brightest star(新曲)
-session-
17. Shambles
18. Protect You
19. alone
20. Different
21. Magie 新曲
22. influencer -solo-
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