【ライブレポート】BAND-MAID、進化していく“等身大”「今の私たちだからできる」

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待望の新作アルバム『Epic Narratives』の発売が迫りつつあるBAND-MAIDだが、今回は8月30日に行なわれた<BAND-MAID 番外編お給仕 Medium in Summer>について振り返っておきたい。

◆ライブ写真

これまで番外編と銘打たれたお給仕(ライブ)では、昨年11月26日に横浜アリーナで開催された結成10周年記念公演では披露しきれなかった楽曲を中心とした演奏プログラムが組まれてきたが、この日に限ってはさらに“Medium in Summer”というテーマが設定され、あらかじめ「ミディアム曲を中心にセレクトしてお送りする、BAND-MAID夏の番外編お給仕」との説明が伴っていた。そうしたレアな機会が設けられたのが東京・渋谷Spotify O-EASTという親密な距離感の会場だったこともあり、この夜の公演チケットについては熾烈な争奪戦が繰り広げられることになった。実際にその場に居合わせることができたご主人様お嬢様(ファンの呼称)たちは、かなりの強運の持ち主ということになるだろう。


開演定刻の午後6時を5分ほど過ぎた頃に、場内は暗転。リボンが象られたお馴染みのシンボルマークが背景に浮かぶシンプルなステージが赤い照明に染まり、手拍子が鳴り響く中、5人がそれぞれの配置に就く。すると、まず聴こえてきたのは「Awkward」。2017年発表のアルバム『Just Bring It』からの選曲である。BAND-MAIDの楽曲を隅から隅まで知り尽くしている上級者のご主人様お嬢様でも、この曲がオープニングを飾ることは予想不能だったのではないだろうか? まさしくこの夜のコンセプト通りのミディアムテンポの楽曲だが、まずはその選曲の意外さに驚かされてしまう。

それに続いたのは、いわゆるシティポップス的な軽快さを持ち合わせた「start over」。こうして冒頭の2曲に触れただけでも明らかだったのは、一口にミディアム曲とは言っても、音楽的な幅はすこぶる広いのだということ。そして最初のうちは「たまにはこんな感じも新鮮でいいね」という感触だったのが、次々と曲が披露されていくにしたがって「これまで何故こうしたお給仕が行なわれてこなかったのだろう?」という想いに変わっていった。


「お帰りなさいませ、ご主人様お嬢様。やって参りました、番外編!」

楽曲セレクトについては意外性満点だが、序盤終了後の小鳩ミクのMCは通常運行だ。そして彼女の口からは、足元が悪い中での来場に対する感謝の言葉が述べられた。この時期は日本各地で台風の被害が出ており、当日も交通機関などへの影響が心配されていた。こうして予定通りにお給仕が実施されたこと自体もまた幸運だったといえるはずだ。

そしてミディアム曲ばかりが続く中で筆者が気付かされていたのは、BPM的には大差なくともそれぞれに表情が異なったレパートリーについて、各曲の特性を存分に活かしながら披露する5人の表現力の向上ぶりと、彼女たちのライヴバンドとしての足腰の強さに磨きがかかっていることだった。

BAND-MAIDを代表する楽曲の中には、スピードの速さと情報量の多さが並大抵ではないものが少なくない。たとえばフェスなどの場における時間枠の短いステージにおいては、そうしたインパクトの強い楽曲の威力が存分に発揮され、初見の人たちをも圧倒し「BAND-MAIDってこんなに強力なロックバンドなのか!」という印象をもたらすことになる。そうした楽曲を演奏するうえでは当然ながら、何よりも個々のプレイの正確さと全体の整合性が重要になってくるわけだが、それ自体が彼女たちにとっての鍛錬のプロセスになっていたのかもしれない。そこで養われた力が、演奏のスピードを緩めた時に発揮されることになるのだ。


そういえばここ最近、取材の機会があるたびに彼女たちの口からは“メリハリ”とか“引き算”といった言葉が聞こえてきていた。足し算や掛け算の極致ともいうべきスピードチューンとは逆に、ミディアム曲では個々が「何をするか」ばかりではなく「何をせずにおくか」が重要になってくる。次々と顔を出すさまざまな表情の楽曲と向き合いながら、そうした演奏上の駆け引きやさじ加減の見事さに、筆者は感動に近いものをおぼえていた。

誤解を恐れずに言うと、速い曲では正確ささえ損なわずにいればオーディエンスを圧倒することができる。それに対し、ミディアム曲というのは“間”をうまく操ることができないと着こなすことができないし、淡々と演奏するだけでは観る者たちの身体を揺らすことはできない。そしてこの日、フロアを埋め尽くしたご主人様お嬢様は、激しいヘッドバンギングのような反応とは当然ながら無縁だったが、ずっとスウィングし続け、手を掲げ、歌声を重ね続けていた。そこに筆者は、BAND-MAIDの進化というよりも深化を、成長というよりも成熟を感じずにいられなかった。


そうしたプラス方向への変化をいちばん強く感じさせられたのは、中盤で「Big Dad」が披露された際のことだった。いわゆる小鳩曲(小鳩ミクのメインボーカル曲)のひとつだが、それを彼女はたったひとりで、しかもアコースティックギターの弾きがたりで披露したのだ。この曲を歌い終えると、小鳩ミクは「超緊張したっぽー!」と声をあげ、ハードルの高い場面を無事にクリアすることができた安堵の表情を浮かべていたが、この初期楽曲をまさかこんな形で歌う日がやってくるとは、当の小鳩自身も想像していなかったのではないだろうか。

もちろんそうした深化と成熟を感じさせたのは小鳩ばかりでない。引き算の発想で音符の数が減った状態にある楽曲が間延びしたものに聴こえることがなかったのは、楽器隊の全員が、長年の経験の中で育ててきたグルーヴを活かしながら“間”をコントロールしていたからだろうし、SAIKIの歌唱からも、彼女がこれまで以上に自らの声について熟知し、各曲に似つかわしい引き出しをその都度開けながら歌っていることがうかがえた。また、昨今の彼女は自ら歌詞を書くことも増えているが、それによって小鳩の手による過去楽曲の歌詞についての理解度もいっそう深まっているのではないだろうか。それが、これまでのお給仕を通じて聴き慣れてきた楽曲の響きにいっそうの深みをもたらしているように感じられた。

そして、そのSAIKIの口から聞こえてきた「今の私たちだからできる」という言葉がすべての答えなのだと思えた。同時に筆者は、何故か往年のメタリカが経てきた成熟の過程を思い出していた。スラッシュメタルの先駆者のひとつである彼らは、その初期においてスピードを最大の特徴としていた。ただ、1991年に発表された第5作『メタリカ』には、スピード勝負の楽曲はひとつも収められていない。そうした変化はすべてのファンに受け入れられたわけではなく、古くからのファンには同作以降の彼らを違うバンドのように見ている人たちも少なくない。ただ、ツアーにおける主戦場が大型アリーナやスタジアムへと移り変わっていく中で彼らが必要としていたのは、もはやスピードで圧倒する曲ではなく、大観衆を巻き込む力のある楽曲だった。それが要するに「エンター・サンドマン」に代表される同作の楽曲たちだったのだ。それ以前の看板曲たちには、オーディエンスを同調させ、暴れさせることはできても、巨大会場を大合唱で包み込むことはできなかった。そして、この『メタリカ』期において、彼らが文字通りの怪物バンドへと変わっていくことになったのは周知の通りである。


そうしたメタリカの実例を、BAND-MAIDに当て嵌めるのは強引すぎるかもしれない。しかしメタリカの場合も、仮に「エンター・サンドマン」のような楽曲が初期からあったとしても、当時の彼らにはそれをうまく着こなせなかったのではないかと思えてならない。それと同様に、BAND-MAIDはかつて背伸びする必要があった楽曲たちを、自然体で披露できるようになっているのだと思う。この夜の終盤に披露された「Manners」にこれまで以上の説得力が感じられたことからも、彼女たちの“等身大”があの時点よりもずっと大きなものになっていることを実感させられた。同楽曲については、「Unseen World」(2021年)発表当時の取材時、同作に掲げられていた原点回帰、現点進化というふたつのテーマを繋ぐ楽曲だとの説明がなされていたが、その言葉の本当の意味が、今になって理解できたようにも思う。

同時に、偶然なのか必然なのか、終わってみれば『CONQUEROR』(2019年)からの選曲の割合が思いがけず高かったことにも少しばかり驚かされた。あの頃の楽曲たちも、今の彼女たちならばずっと上手く、なおかつ自然に着こなすことができるのだ。その事実にも裏付けられているように、新しいアルバムが登場したからといって、それまでの流れが完結するというわけではない。彼女たちはひとつ駒を進めるたびに、過去すらも更新しているのだ。9月25日に世に放たれる『Epic Narratives』もまた、そうしたBAND-MAIDならではの終わらないストーリーを象徴するものだといえる。


そしてこの夜の最後を飾ったのは、その『Epic Narratives』における目玉要素のひとつでもあるTHE WARNINGとのコラボ曲、「SHOW THEM」だった。背景に両バンドの共演によるミュージックビデオをベースにした映像を流しながら披露されたこの曲は、6月12日に行なわれた両バンドの対バン公演で初披露された時と同様に、観衆を巻き込む力を発揮し、その場に大きな合唱を発生させていた。今後、もっともっと大きな場所で同じ一体感を味わえることになるはずだと確信させられた一夜だった。

取材・文◎増田勇一
写真◎伊東実咲

『Epic Narratives』


2024年9月25日(水)発売

■完全生産限定盤[CD+Blu-ray+LIVE PHOTOBOOK]
PCCA-06328/税込¥12,100
特殊仕様

■初回生産限定盤[CD+DVD]
PCCA-06329/税込¥8,800
通常仕様

■通常盤[CD only]
PCCA-06330/税込¥3,300
通常仕様

【収録内容】
[CD]各形態共通
全14曲収録予定
Memorable
Shambles
Bestie
Protect You
SHOW THEM *BAND-MAID with The Warning
Toi et moi
Magie
Forbidden tale
Go easy
Brightest Star
The one
Letters to you
TAMAYA!
Get to the top
*収録曲順は後日発表いたします

[Blu-ray/DVD]
※完全生産限定盤、初回生産限定盤のみ付属
2024年5月10日開催「THE DAY OF MAID」お給仕(ライブ)映像
ご予約はこちらから:
https://band-maid.lnk.to/EpicNarratives_CD

■早期予約特典「Seasoned」収録CD
予約対象期間:2024年7月14日(日)〜2024年8月7日(水)

■ショップ別オリジナル特典
・Amazon.co.jp:巾着
・タワーレコードおよびTOWER mini全店、タワーレコードオンライン:レコードキーホルダー
・全国HMV/HMV&BOOKS online:缶マグネット
・楽天ブックス:ビニールスライダーケース ※オリジナル配送BOXでお届け
・セブンネットショッピング:アクリルコースター
・Neowing:A4クリアファイル
・ポニーキャニオンショッピングクラブ、その他法人:ポストカード

■楽天ブックス「BAND-MAIDオリジナル配送BOX」につきまして
※楽天ブックスにて対象商品をご購入いただいたお客様限定で、オリジナルデザイン仕様の“BAND-MAIDオリジナル配送BOX”で商品をお届け

ライブ情報

<BAND-MAID番外編お給仕 Medium in Summer>
8月30日 Spotify O-EAST
https://bandmaid.tokyo/contents/766655

<BAND-MAID ZEPP TOUR 2024>
11月2日 ZEPP NAGOYA
11月3日 ZEPP OSAKA BAYSIDE
11月25日 ZEPP HANEDA
11月26日 ZEPP HANEDA
https://bandmaid.tokyo/contents/763114

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