【インタビュー】WANDSの柴崎浩が語る、ツアー<BOLD>の極上サウンドメイク「気持ちいい音を目指した結果」

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■'90年代の冷蔵庫みたいな巨大ラックが
■この一台のなかに収まってるだけではない


──続いて、アンプについて教えてください。

柴崎:アンプはFractal Audio SystemsのAxe-Fx IIIです。

──ハイエンド・モデリングアンプのFractal Audio Systemsは、それこそいろいろなアンプのモデリングを選びたい放題ですよね。結構いろんなアンプを試されましたか?

柴崎:試しましたね。使っているアンプモデルは、5153といういわゆるEVHのモデリングや、CUSTOM AUDIO ELECTRONICSの3+とか。一番大変だったのはキャビ選びでした。

──さすがです。モデリング/シミュレート系で上質なトーンを引き出しているギタリストは、キャビネットが大事だとおっしゃる方が多いです。

柴崎:そう、キャビなんですよ。Axe-Fx IIIは4つまでキャビを混ぜられるんですね。僕は2つ混ぜることが多い。よく使うバッキングのディストーションは、ヘッドがEVHで、キャビが'70年代マーシャルのシミュレート“GB”…GBという名前は“グリーンバック”のことだと思うんですけど、GBの音をMD421のマイクで拾った音と、5153の音をSHURE 57のマイクで拾った音を混ぜています。


▲Fractal Audio Systems Axe-Fx III

モデリング/シミュレーション機器の最高峰のひとつとして、トップアーティストを含む無数のプレイヤーに愛用されているFractal Audio Systems Axe-Fx。MarshallやFender、VOX、Bognerなどをはじめとした様々なアンプや名機と称される多数のエフェクター、2000を超えるキャビネットなどのサウンドや特性などがリアルに再現可能なことはもちろん、レイテンシーが皆無でプレイの細やかなタッチやニュアンスなどをダイレクトにアウトプットしてくれることもポイント。最新機種の本機は25%アップしたCPUや2つのDSPを搭載するDUAL DSPの採用、ひとつのレイアウト内で4チャンネルの切替が可能など、さらに機能性が高まっている。使いこなすのが難しいようなイメージとは裏腹に扱いやすく、その気になればマニアックに追い込んだサウンドメイクが行えることも魅力。

──さらっとおっしゃいましたが、キャビに立てるマイクも厳選されているわけですね。

柴崎:マイクによって音の違いが大きいですからね。で、リード用の音は、アンプが3+LEAD。ブライトスイッチをONにする時とOFFにする時があるんですけど、意外とブライトスイッチはOFFで使っていることが多いですね。だから、リアピックアップでも、ちょっとフロントっぽい…みたいな。

──意外とハイを出していないということですか?

柴崎:ハイは出ているんだけど、いわゆるメタル系のリードサウンドとはちょっと違う感じになるんです。で、リード用のキャビはバッキングの時とはまた違って。やっぱり2種類のキャビを混ぜているんですけど、主にマーシャルの4発入りキャビですね。今回のツアーから使っているもので、僕の知り合いがIRデータを自分のスタジオで書いて作って、販売しているんですよ。TacoSoundsっていうんですけど。それを「試しに使ってくれませんか」と言われて、試してみたら良かったので、ユーザーキャビにインストールしました。

──柴崎さんのお話をうかがって気づきましたが、Fractal Audio Systemsを使うとバッキングとリードでキャビを変えるということも簡単にできますね。

柴崎:それにAxe-Fx IIIは、ひとつのブロックの中でABCDという4チャンネルに切り換えられるんですよ。


▲Fractal Audio Systems FM3 MARK II Turbo

Axe-Fx IIIラックの上にはAxe-Fx IIIと同等のスペックをフロアタイプの筐体に収めたFractal Audio Systems FM3をバックアップ用にセット。豊富なアンプやエフェクター、キャビネットなどのトーンを味わえることはもちろん、Axe-Fx IIIと同じく異なったキャビネットをミックスしたり、キャビネットに立てる収音マイクの種類や位置も設定できるなど、優れた機能性を誇る。フットスイッチを3つに絞りつつ8タイプのスイッチレイアウトにカスタマイズが可能なことやパソコンとUSB接続することで高品質なオーディオ・インターフェイスとして使用できることなども注目。Axe-Fx IIIとFM3を併用していることからも柴崎がFractal Audio Systemsに全幅の信頼を寄せていることが分かる。

──うーん、すごい。こういうデジタル機材は近年ますます発達していますが、いわゆるアナログ機材で育ったであろう柴崎さんはFractal Audio Systemsを使いこなされていますね。

柴崎:僕はデジタル機材に一切嫌悪感はないんです。Axe-Fx IIIはキャビも2,000種類とか入っているんですよ。それらをいろいろ試した結果、マーシャルを選んだんですけど、そういう作業も楽しいですよね。

──2,000個! それをチェックする柴崎さんの根気や、訳が分からなくなったりすることのない耳の良さに圧倒されます。では、クリーントーンは、どういうモデリングを使われているのでしょうか。

柴崎:クリーンは、ディストーションのバッキングとかリードほど定まっていなくて、いろいろ使っています。たとえば、「MILLION MILES AWAY」では、アンプは3+のクリーンチャンネルで、コンプレッサーをアンプの前と後ろの両方に入れています。

──えっ? アンプの前後にですか?

柴崎:そう。気持ちいい音を目指した結果、こうなりました…みたいな(笑)。全部のクリーントーンがそうなっているわけではなくて、ケースバイケースで。ここまでガチガチにしないのもあるし。たとえば、クリーンリードという名前を付けてるプリセットは、アンプはDumbleのクリーンで、コンプレッサーはJFET Comp (UREI 1176のシミュレート)をアンプの前だけに入れている。あと、Bogner Shivaのクリーンが意外といいんですよ。それらを使うことが多いですね。

──そうしますと、今はエフェクターもすべてAxe-Fx IIIのモデリングを使われているのでしょうか?

柴崎:そうです。Axe-Fx IIIだけで完結しています。


▲Fractal Audio Systems FC-12

足元に置かれているFractal Audio Systems FC-12。同機はプリセットやチャンネルの切替え、エフェクトのダイレクトなオン/オフ、ルーパーのコントロールなど、Axe-Fx IIIやFM3の多彩な機能をパーフェクトに活かせるように設計されている。Axe-Fx III、FM9、FM3と接続するだけで使用できるように、それぞれのスイッチにあらかじめ8タイプのレイアウトが用意されていることや、より細やかな切替の設定も可能、視認性に優れたディスプレイの採用、エクスプレッションペダル用の4つのジャックと最大4つの外部スイッチを接続できる2つのジャックを装備するなど、圧倒的な機能性を誇っている。過酷なライブ/ツアーの使用に耐える堅牢性に加えて、故障の原因になる機械的接点を持たないSSSフットスイッチの採用もポイント。Fractal Audio SystemsのエクスプレッションペダルEV-1はワウペダルとして使用。BOSSのFV-500Hはボリュームペダル。

──では、エフェクターの主だったところをお聞きしたいのですが、まずドライブ系エフェクターは使われていますか?

柴崎:基本的にはあまり使っていなくて、クリーン/クランチにブースター的に足す使い方しかしていないですね。クリーンリードではDumbleのクリーンにRC Boosterをかけるみたいな。リードと一番よく使うディストーションのバッキングは、アンプの歪みだけを活かしているので、エフェクターはかけてないんです。

──クリーントーンを少し歪ませるというのはポイントといえますね。では、クリーントーンでコーラスなどは使いませんか?

柴崎:コーラスは使ったり使わなかったりですね。それも、出したいクリーントーンのニュアンスによって使い分けています。あと、ディチューン(原音から微妙にずらした音を加えることで音に厚みと広がりを与える)も使っていますね。

──そこもキメ細やかですね。そうなると、ディレイも細かく使い分けているのでしょうか?

柴崎:ディレイは、ステレオディレイ、ピンポンディレイ、モノラルディレイとか、いろいろ使っています。付点8分ディレイも曲によって使っているけど、WANDSは楽曲のテンポが決まっているので、あらかじめディレイを作っておくことができるんですよ。なので、タップ機能付きのものを足で踏んでタイム設定…みたいなことはしていません。

──それにしても、これだけ凝ったシステムをAxe-Fx III 一台で組める辺りにデジタル機器のすごさをあらためて感じます。

柴崎:そうですね。'90年代の冷蔵庫みたいな巨大ラックが、この一台のなかに収まってるだけでなく、もっともっといろんなものが入っているわけで。40Uくらいのことが簡単にできてしまうから、本当に便利ですよね。

──全く同感です。デジタルでいながら、柴崎さんのギターの音は人間味があるというのも素晴らしいですし。ただ、ライブ中の音色の切り替えがすごいことになっているような気もしますが?

柴崎:いえ。足元にフットスイッチ(Fractal Audio Systems FC-12)があるんですけど、これを自分で踏むことはあまりないんです。シンクデータにプログラムチェンジのデータを入れてあるので、自動的に音色が切り替わっていくという。

──えええっ!? 今どきはそんなこともできるんですか?

柴崎:できますよ(笑)。

──すごい時代になりました。そして、ワイヤレスはSHUREのモデルを使われています。

柴崎:これはテックさんが用意してくれたものですね。


▲PICK

ピックはEXCEL APEX PRO-SHの白いタイプとベッコウ柄のタイプ、Jim Dunlop Tortex Small Tear Drop 423という3種類を使用。EXCEL APEX PRO-SHはセルロース製で厚さは1mm。Jim Dunlopはトーテックス製0.88mmとなっている。いずれもマンドリン用のピックで、実物を見ると想像以上の小ささに驚かされる。極小でなおかつ硬めのピックを使用していることからは、柴崎のピッキングの正確さが伝わってくる。

──テクニシャンの私物は信頼できますよね。最後に、使用ピックも教えていただけますか。

柴崎:ピックは、いわゆるマンドリン用のものを使っています。「弾きにくくないですか?」とよく聞かれますが、もう慣れましたし、このピックでしか出せないニュアンスがあるんですよね。ただ、WANDSではあまりないけど、カッティングとか、ラフなストロークの時にピックを落としてしまうこともありました、実は(笑)。右手を大きく動かすプレイは、大き目のピックのほうが弾きやすいですよね。

──それを分かっていながら、マンドリンピックを愛用しているわけですよね。

柴崎:そうです。で、ずっと使っていたEXCELのベッコウ柄のシグネチャーピックは、一番いい音がするんですけど、減りがめっぽう早いんです(笑)。それで、今使っているピックに替えました。厚さは1mmかな。ただ、材質によって同じ厚さでも硬さが違ってくるんですよ。Jim DunlopのTortexのほうは0.88mmだけど、結構硬い。だから、ピックを細かく使い分けているわけではなくて、弾き心地を揃えるために2種類のピックを使っているんです。

取材・文◎村上孝之
撮影◎TOYO

■<WANDS Live Tour 2024 ~BOLD~>7月8日@東京ガーデンシアター SETLIST/使用ギターリスト

01. We Will Never Give Up
 →EVH Wolfgang Special QM
02. GET CHANCE GET GROW
 →Ernie Ball Music Man JP7 John Petrucci Signature
03. David Bowieのように
 →Suhr 2020 Limited Classic S Metallic
04. 賞味期限切れ I love you
 →Suhr 2020 Limited Classic S Metallic
05. FLOWER
 →Suhr 2020 Limited Classic S Metallic
06. Secret Night ~It's My Treat~ [WANDS第5期ver.]
 →Suhr 2020 Limited Classic S Metallic
07. 空へ向かう木のように
 →Nishgaki Guitars Amnis Novus
08. SHOUT OUT!!
 →Suhr 2020 Limited Classic S Metallic
09. honey
 →Nishgaki Guitars Amnis Novus
10. 真っ赤なLip
 →Nishgaki Guitars Amnis Novus
11. RAISE INSIGHT
 →Nishgaki Guitars Amnis Novus
12. Burning Free
 →Suhr Modern 10th Anniversary Limited Edition 2008
13. もっと強く抱きしめたなら [WANDS第5期ver.]
 →Nishgaki Guitars Amnis Novus
14. 時の扉 [WANDS第5期ver.]
 →Nishgaki Guitars Amnis Novus
15. 愛を語るより口づけをかわそう [WANDS第5期ver.]
 →Nishgaki Guitars Amnis Novus
16. 愛を叫びたい
 →Nishgaki Guitars Amnis Novus
17. 大胆
 →Suhr 2020 Limited Classic S Metallic
18. WONDER STORY
 →Nishgaki Guitars Amnis Novus
encore
19. MILLION MILES AWAY [WANDS第5期ver.]
 →Suhr Modern 10th Anniversary Limited Edition 2008
20. カナリア鳴いた頃に
 →Nishgaki Guitars Amnis Novus
21. 世界が終るまでは… [WANDS第5期ver.]
 →Suhr 2020 Limited Classic S Metallic

▼TOUR SCHEDULE
6月25日(火) 愛知県芸術劇場 大ホール
7月02日(火) 大阪国際会議場 グランキューブ大阪 メインホール
7月08日(月) 東京ガーデンシアター
https://wands-official.jp/


■<WANDS Live Tour 2025>

4月18日(金) 宮城・仙台サンプラザホール
open18:00 / start19:00
(問)GIP https://www.gip-web.co.jp/t/info
4月22日(火) 北海道・カナモトホール(札幌市民ホール)
open18:00 / start19:00
(問)WESS info@wess.co.jp
4月25日(金) 新潟・新潟県民会館 大ホール
open18:00 / start19:00
(問)FOB新潟 025-229-5000
4月30日(水) 香川・レクザムホール(香川県県民ホール) 大ホール
open18:00 / start19:00
(問)DUKE高松 087-822-2520
5月02日(金) 福岡・福岡サンパレス
open18:00 / start19:00
(問)キョードー西日本 0570-09-2424
5月16日(金) 愛知・Niterra日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
open18:00 / start19:00
(問)サンデーフォークプロモーション 052-320-9100
5月19日(月) 大阪・大阪国際会議場 グランキューブ大阪 メインホール
open18:00 / start19:00
(問)サウンドクリエーター 06-6357-4400
5月21日(水) 広島・広島上野学園ホール
open18:00 / start19:00
(問)キャンディープロモーション 082-249-8334
5月30日(金) 東京・東京ガーデンシアター
open18:00 / start19:00
(問)H.I.P. 03-3475-9999
▼チケット
全席指定 8,500円(税込)
※3歳以下入場不可/4歳以上はチケットが必要
2025年2月15日(土)10:00~


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