【インタビュー】Qaijff、森彩乃の乳がん手術を経てついに5年ぶりのツアー「僕たちはここからもう一度始めたい
◼︎「自分を誇ろうぜ」と一人ひとりに言いたい
◼︎「誇れ」はそういう曲になりました
──今年3月にリリースされた最新曲「誇れ」は、名古屋グランパスの2024シーズンオフィシャルサポートソングになってますけど、森さんの手術前後あたりにはオファーが来ていたんですか?
内田:そうです。グランパスサイドはもちろん森の病気も知ってくれてるから、「お願いできる状況なんでしょうか?」みたいに心配してくださった感じもあったんですけど、僕らが苦しかったときに横断幕を掲げてくれたりと、たくさんのエールをいただきましたし、「もらったぶんを返したい」という気持ちが今回は特に強かったので、「ぜひ、やらせてください!」とお返事しました。
森:サプライズもしていただいて、グランパスのイベントでライブができた恩もあるからね。絶対に応えたかったです。
内田:9シーズン目、8曲目のサポートソングになるんですよ。曲の内容も僕らに任せてくださっていて、本当にありがたいなと感じてます。
──チームの歴史や成績、ムードを知ってくれてるのが大きいんでしょうね。年々ハードルが上がっていって、ふさわしい楽曲を仕上げるのも一苦労だと思いますが。
内田:その難しさは相当ありますね(笑)。でも、毎回ベストを尽くしたい。
森:聴いてくださる側は「あのときの曲が好き」みたいな、それぞれに好みがあるだろうけど、作る側からしたらベストを更新したい、「前回よりもいい」と思ってもらいたいんです。
内田:そうそう。超えることはいつも意識してます。
森:チームの士気をしっかりと高められる曲。それが大前提にありつつ、サッカー以外のシチュエーションで聴いたときにも響く曲でありたいんですよね。毎年そういう姿勢で作らせていただいてて。
内田:これまで以上に、意気込みや粘り腰がすごかったよね。「妥協せずにとことん向き合って作るぞ」と最初から覚悟を決めていました。Qaijffの新たなアンセムにもしたかったから。
森:さっきも内田が言ったとおり、治療が始まる前にグランパスから絶大なパワーをもらったので、次はこっちがリーグ優勝できるようなパワーを返したいと強く思ってましたし、この一年の自分たちを反映させた表現を届けたかったんです。いろんな想いがあふれる中、あれこれ試行錯誤を重ねて、歌詞も締め切りのギリギリまで悩みました。
──“誇れ”という短くスパッと言い切るワードは、どんな流れで出てきたものなんでしょう?
森:サビ頭にある“ダン、ダン、ダンッ!”のリズムを内田が先に考えていて、そこにハマる言葉として私が挙げました。まず、これまでのサポートソング「Viva la Carnival」「Salvia」で“誇り”“咲き誇れ”という表現を使ってきた流れがあったこと、グランパスのチャント(試合中の応援歌)で“誇り”という言葉がたくさん出てくることを踏まえたらしっくりきたんだよね?
内田:うん。今一度“誇れ”に立ち返って歌うこと、それをタイトルに持ってくるのがシンプルでいいなと思いました。
森:チャントと同じくグランパスの存在を誇ろうという意味合いもあるんですけど、それと同時に選手やファミリー(サポーター)の一人ひとりが自分自身を誇ることが大切なんじゃないかなと思って。
──というと?
森:たとえば、スタジアムに足を運んでくれる数万人の方も、第一に普段の生活があって、その中にグランパスがあるわけじゃないですか。誰もがみんな日常を生きていて、もしかしたら今まさにつらく悲しい出来事に直面していたり、苦しい過去をなんとか乗り越えてきていたり。当たり前のようにいろんな経験をされてるはずなんですけど、予測がつかないこれからの未来を含め、どんなときでも自分のことを、自分の人生を誇っていてほしいなと思ったんですよね。
内田:自分を好きでいられることや、好きなものがあることの素晴らしさというかね。選手のみなさんにも伝わったら嬉しいなと。
森:そういう心を持った人、誇れている状態の人が集まったら、チームってさらに良くなる、強くなれる気がするんです。
──自分たちの経験が表れた曲になってますね。歌詞で“傷”という言葉も用いながら。
森:1番のサビで“闘う傷は紛れもない勲章”、2番のサビで“涙も傷も抱き締めよう一生”と歌ってるんですけど、これは「同じファミリーの私も、病気になろうが、手術で体に傷が付こうが、自分のことを誇りに思っているよ」という個人的な想いも込めています。同時に、試合に負けたときの悔しさ、選手の物理的なケガなどにも寄り添って、再び立ち上がるための言葉でもありますね。
内田:みんな大なり小なり生活の中で大変なときもあるだろうけど、「自分を誇ろうぜ」と一人ひとりに言いたい。そういう曲になりましたね。
──「たらしめろ」に通ずるようなメッセージがあって、とてもQaijffらしい曲だと思います。
内田:確かにそうですね。サウンド感は徐々に変化していってるんですけど、芯にあるメッセージの軸は、おそらく結成当初からあまり変わってなくて。その変わらない部分が自分たちらしさなんだと思います。
森:研ぎ澄まされた表現にはなっていると思うので、変わらないまま変わってきたと言えばいいのかな。今の自分を素直に見せるところも変わってない。もちろん病気のことを重ね合わせてはいるけど、決してそこに特化したいわけじゃなく、シンプルに現状を歌った曲なんですよね。
──しかし、心身ともに大変だったところから、よくこれだけ強い作品を作りましたね。
森:あはははは(笑)。冒頭の歌詞が“強くなりたいと思った”なのは、病気になった自分を支えてもらったからかな。過去に「ソングフォーミー」で歌ったとおり、“弱くてもいいんだ”という気持ちはそもそもあるんですけど、今のマインドはこうなんです。
内田:“強くなりたいと思った”をアカペラにした上で、無音の1小節を後ろに入れてるんですよ。リズムもコードも何もないからけっこう勇気が必要だったんですけど、それがカッコいいんじゃないかなって。最終的には直感を信じてこのアレンジにしました。
森:攻めてるよね。“強くなりたいと思った”のあと、“君のため それは僕のため”と続くところもこだわってるんです。“それは”の部分を。どっちのためでもあるニュアンスで、“君のため そして僕のため”と歌う選択肢も考えられるじゃないですか。
──はい。
森:でも、誰かのために強くなりたいという願望は、自分の欲と結局イコールな気がするんですよ。たとえば、誰かのために何かをやってあげたくなって、“他者のため”というところだけにフォーカスしちゃうと、裏切られたときとか、思うようにいかなかったときに、「こんなにやってあげたのに!」と人のせいにしちゃう怖さがあって。それが嫌だったんです。
──ギブ&テイクみたいになり兼ねないというか。
森:こういうことをよく考えてるんですよね。サッカーで言えば、選手が強くなりたいと思うのは、応援してくれる人のためもあるけど、やっぱり自分のためだと思うんです。私も自分のためにも強くなりたいから。
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