【インタビュー】Qaijff、乳がん宣告から闘病、事実婚発表。激動の1年から生まれた音楽への想い
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■悲しいとかショックとはまた違って、自分の人生というものを感じて泣いているみたいな
──その後、2023年5月1日に抗がん剤治療が始まったんですよね。おそらくここからの数ヵ月は、副作用が最も苦しかったはずで。
森:吐き気、発熱、頭痛、疲れやすいとか、ありとあらゆる体調不良が現れた感じでした。3ヵ月くらい経って薬の内容が変わったあとは、手足の痺れや関節痛が出て、ひどいときは物に触る、スマホをタップするのもキツかったです。5月半ばには髪の毛も抜けて。まあ、抜けるのはあらかじめわかってたことなんですけど。
──とはいえ、心を保つのは大変だったんじゃないですか?
森:なんか振り返ってみると、当時はあまりショックを受けないように、元気でいようとしていたなと思います。「うわー、すごい抜ける! 見て見て」と、手にベタッて付いた髪の毛を内田に見せたり、わーわーと口に出すことで気持ちを落ち着けていたというか。ヘッドスカーフやウィッグも準備して「その状態でのオシャレを楽しむぞ!」みたいに考えてたんですけど、髪がどんどんなくなって、見た目も変わっていくわけだから、つらくないわけないんですよね。
──話だけでもしんどさが伝わるほどですよ。
森:そうですよね。今はあの頃の自分を「よしよし」と撫でてあげたいです。
内田:なんとかしてあげたいんだけど、体調を直接的に治すことはできないので、常にもどかしさはありましたね。頭が痛いとなったときに、がんが脳に転移してるんじゃないかという怖さがあって、MRI検査を受けに行ったり。そういった対処はしつつも、何かと不安が付き纏うような時期でした。
森:体調を崩すと、どこかが悪化してるのかもしれないと思っちゃうんだよね。
内田:大丈夫だと思ってるのに、もしかしたらみたいな考えが拭い切れないっていう。雰囲気を暗くしたくないので、できるだけ明るく声はかけていたんですけど、僕も不安でうまく眠れなかった日が数ヵ月は続いたかな。
森:本当はいろいろやりたいのに、制作がはかどらないことも多くて、自分に罪悪感を覚えちゃったりもしましたね。ちゃんと治療をがんばっていて、今までの人生でいちばん休むべきタイミングなのはわかってるんですけど、気持ちのコントロールが難しかったです。
内田:森がそうやって自分を責めがちなときは、いっしょに休むようにしました。僕だけが作業をしてると、かえって気になっちゃうだろうから。
森:しんどい日は寝て過ごして、調子がいい日は曲作りをする感じで。
──罪悪感なんて、本来は覚える必要ないんですけどね。病状が詳しくわからなかった自分が願っていたのは、療養中に森さんが「ソングフォーミー」を思い出してくれてたらいいなということでした。
森:あはははは(笑)。“弱くてもいいんだ”ってことですね。確かにそうだ〜!
──そうした抗がん剤の副作用と向き合いながらも、2023年6月に「たらしめろ -FILM_SONG. Remix-」、8月に「サニーサイド」をリリースされたんですね。
内田:やっぱりバンドを止めたくない気持ちがあったので、制作はずっと地道に続けていました。
森:体調第一でやってたけど、どうにか新曲を出せてホッとしましたね。治療も活動もできて、音源が届けられたことは嬉しかったです。
──「サニーサイド」って、もともとは枕メーカーさんのために書いた曲でしたよね?
内田:そうですね。2022年かな。まくらのキタムラさんのブランデッドムービーに使っていただいたのが最初で、音源化はしてなかったんですけど、今回アレンジを新たにレコーディングしました。歌詞は変えてないです。
森:というのも、病気になってから書いたわけじゃないのに、今の自分たちの心境に驚くほどぴったりな歌詞だったんですよね。このときのために作っていたんじゃないかと思っちゃうくらい。
内田:乳がんがわかった直後の東京ワンマンでも、アンコールで演奏したんです。あの時点で2024年のうちにリリースすることは決めてました。
森:“涙がひらひらと 落ちる夜もあるでしょう”という歌詞が、病気がわかった日に私と内田が2人して無言で涙を流した情景とすごくリンクしているんです。
──曲で歌われているような夜が、現実の自分たちに訪れて。
森:歌うたびに、聴くたびに、その情景や涙を思い出すんですけど、私の中ではつらい記憶のようで、そうじゃない記憶なんですよね。なんて言えばいいんだろう。悲しいとかショックとはまた違って、自分の人生というものを感じて泣いているみたいな。
──噛み締めるじゃないけど。
森:しみじみと味わう……と言うのかな。ああ、自分の人生にこのタイミングで乳がんになるという出来事が起きたんだなあって。それを内田もいっしょに感じて泣いていたのが、その綺麗な涙が、すごく大切な瞬間として残っているんです。忘れもしない情景だけど、こうやって曲にすることで、よりハッキリと思い出せるようになりました。
──そのときの記憶や感情が色あせないように、真空パックしたみたいな。
内田:心の奥に抱える複雑な想いまで、曲の中に生々しく込められた気はします。「サニーサイド」は自宅のスタジオでレコーディングを完結させているので、それもよかったと思います。
森:ミックスとマスタリングも内田がやりました。治療の影響で体調は不安定だったけど、それでもピアノを弾いて、歌を録って。いろいろあった期間のすべてが、ここに集約されてる感じがする。だから、リリースできてよかったなという気持ちが本当に強いです。
内田:曲を録る行為って、瞬間を閉じ込めるものじゃないですか。自分たちのプライベートスタジオでそれをやる、バンドが置かれている状況や空気感を含めて、まさしく真空パック的に収める試みというのは、音楽を作る、レコーディングをすることの本質だったんじゃないかなと思います。
──美しい曲ですよね。“疑わないで 僕たちの行方を”“変わりゆく日々だって愛せるよ”と、願うような祈るような歌にリアルな深みがあって、響きとしてはとても繊細で切ないっていう。
森:ありがとうございます。その部分の歌詞は「これからも音楽を、Qaijffを続けるよ」ということ、「病気になって変化はあったけど、今の日々を愛しているよ」という気持ちで歌っています。
内田:今ならではの曲になったよね。
──森さんと内田さんの声がどちらも印象的に入っていて、人間の弱さと強さが見えるような曲でもあるなと思いました。
内田:歌やピアノやミックスを何度もやり直した試行錯誤の末、リズムとビートがほぼなしという、絶妙なバランスの曲ができた気がします。歌詞も無駄な言葉は入れないようにして、最後はあえて同じサビの繰り返しにしました。
──コーラスにレイヤー感を出した理由は?
内田:「サニーサイド」の制作段階でよく聴いていたボン・イヴェールにインスピレーションを受けた感じですね。コーラスの使い方や重ね方が面白くて、そのニュアンスを取り入れてみようかなと。
──遊び心もあるんですね。
内田:はい。シンプルに作る意識がありつつ、音楽的なトライもしています。
森:そういうことは、常に楽しみながらやってるよね。
──佐藤祐紀さんがバリトンサックスで参加されているのも。
内田:これも音楽的な探求や欲求の表れです。佐藤くんを自宅スタジオに呼んで「いい感じにやってみてよ」とラフにお願いしたら、素晴らしいソロを吹いてもらえました。
森:まったくディレクションなしです、サックスに関しては。コードだけ伝えて、オケに合わせて、ほぼアドリブみたいな。佐藤くんも楽しんでやってくれました。
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