【インタビュー】アルコサイト、1stフルアルバム『一筋縄じゃ愛せない』で切り開く新たな未来
■心が動く瞬間とか、衝動こそがロックンロールかなと思う
──『一筋縄じゃ愛せない』はプレイ周りの聴きどころも多くて、ドラムも耳を惹かれる場所が多いです。たとえば、ビートチェンジを多用されていますが、単純にリズムパターンが変わるのではなく、イントロはハネたビートで歌中はスクエアな8ビートというようにノリ自体が変わる曲がいくつかありますね。
森田:そういうアプローチは、あまり意図してやっていることではなくて。歌に沿わせて作ることが多くて、そうなるとたとえばイントロはスクエアに縦を刻んでおいて、サビとかでは後ろから押すようなビートになるような展開に自然となるんです。後から聴いて、1曲の中で結構違うことをしちゃったなと思うことがよくあります(笑)。
──ノリが変わっても違和感がないのは、歌に寄り添っているからなんですね。「ウォーアイニー」の楽曲や歌詞についても話していただけますか。
北林:「ウォーアイニー」は、実は「迎え酒」とつながっているといいますか。「迎え酒」のAメロに《ツレのそうま》という言葉が出てきますけど、この人は本当に実在していて一緒に酒を飲むことが1番多い友達なんです。高校の頃からの友達で、彼が今年結婚することになって、結婚式で歌ってほしいと言われまして。それで書いたのが「ウォーアイニー」です。もう仲良しすぎて、照れくさいところがあって、“おめでとう”とか“幸せに”というようなことは僕的に照れくさかったので、ちょっと物語調にして祝福の気持ちを込めました。
小西:僕の中で印象が強いのは「微熱とレモンサワー」です。この曲は熱いバラードで、ギターソロがガッツリ入っているじゃないですか。アウトロ的な立ち位置ではありますが、ギターソロというよりはもうサビくらいの気持ちで作れたソロやなと思っています。ゲイリー・ムーアとかを聴いて、これくらい泣かせたいなと思ってビブラートの幅だとか、揺らし方、タイミングの取り方といったことで結構悩みました。
▲小西 隆明(G)
──単なる泣きのソロということを超えて、せつない心情や情景などをギターで表現されていることを感じました。この曲に限らず、小西さんのアイディア豊富なリードギターもアルバムの大きな聴きどころのひとつになっています。
小西:最近は3ピースのバンドが多かったり、ギターソロがない時代になってきている印象がありますけど、僕はずっとギタリストとして生きてきたので、ギターの魅力や面白さを伝えたいというのがあるんです。なので、尖ったギターリフや尖ったギターソロ、歌の情景がちゃんと思い浮かぶようなソロといったことを意識しています。
──ソロに限らず、イントロ・リフや歌のバックのリードフレーズなども楽曲のエモーションを増幅するものが並んでいますね。
小西:リフに関しては、英雄もイメージを持ってきてくれるんです。こういう感じでということをスタジオで伝えてもらって、そこから英雄のOKが出るまで、これかな、これかな、これかな、もうちょっといけるかな……みたいな感じで考える。でも、今回に関しては1撃OKをくれた曲が多かった。「迎え酒」もそうですし、7曲目の「メンヘラになっちゃうよ」もそうですし。僕は、尖ったリフは結構得意なほうかなとは思いますね。
──アルバムを聴かせていただいていて、ギターが弾きたくなる瞬間が多かったです。話を「微熱とレモンサワー」に戻しますが、この曲は楽曲、歌詞ともに大人っぽい洗練感を湛えていますね。
北林:「迎え酒」の時に話しましたが、僕は酒を飲むので、酒の甘酸っぱい曲を書きたいなと思って。「墓場まで持っていくわ」という曲がすごく沢山の人に聴いていただけたので、それをブラッシュアップしたような曲も書きたいなとずっと思っていましたし。それに、今回のアルバムは全曲をライブで定番にできるものにするということも意識していて、「微熱とレモンサワー」はバラードじゃないですか。バラードは大体5分くらいの尺になるんですよね。そうすると、フェスとかサーキットでは基本的に30分くらいの尺のライブになるので、そこで5分の曲というのはライブメイクとして難しい。だから、2分半とか3分くらいの尺でバラードを書きたいなというのも、この曲を作るにあたってありました。
▲L to R:濵口 亮(B)、北林 英雄(Vo.G)、小西 隆明(G) 、森田 一秀(Dr)
──今は尺の長い曲は敬遠される傾向がありますので、3分前後のバラードというのは時代にもフィットしています。もうひとつ、「微熱とレモンサワー」は歌詞の主人公が男性とも女性とも取れることもポイントです。
北林:そういう曲にしたくて、1人称は敢えて入れないようにしました。自分自身が歌っているように聴こえるのもいいなとも思ったし、いろんな人が自分の忘れられない夜を思い出せたらいいなとも思って。酔っぱらっている感じと微熱が出た時の感じは似ているなというところで、そういうことも書けて、いい感じの曲になったなと思います。
濱口:僕の中で印象の強い曲は……まあ、ひと通り出てしまった感はありますけど(笑)、「ロックンロールさ」とかはすごくいい曲だなと思いますね。僕らの音楽を聴いてくれている層にとってロックンロールというのは絶妙にピンとこないワードの可能性もありますが、言葉の雰囲気とかで想像できることもいっぱいあるワードだと思うんですよ。それを、英雄がああいう感じの歌詞で歌って、僕らの言うところのロックンロールみたいなものを表現してくれた。曲調も、歌詞も気に入っています。
▲濵口 亮(B)
北林:僕はロックとかロックンロールということを、ライブでもよく言ったりするんです。ロックというのが自分の居場所でもあり、自分の武器でもあり、自分が切り開いていくものでもあり、ずっと大切に持っていたいものでもあって。そういう中で、自分達のロックンロールの定義みたいなものを提示したいなというふうに思ったのと僕の中でロックンロールという言葉で1番に思い浮かぶのはTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTなんです。チバユウスケさん(Vo, G)とかは、もうロックンロールやと思うし。ジャンル的に比べたらアルコサイトはそことは全然違うもので、僕らはどっちかというとポップスになってしまうのかなと思うけど、衝動的なものというか、ロックを聴いて自分にはできないと思っていたことができてしまう……夢とか希望といった口に出すのが恥ずかしいようなものも叶えられるかもしれんというように心が動く瞬間とか、衝動こそがロックンロールかなと思う。自分達アルコサイトとしてはそう定義して、それを「ロックンロールさ」で歌うことができました。
──私もロックンロールというのはジャンルではなくてスピリッツだと思っています。ここまでの話でドラムやギターの話が出ましたので、濱口さん本作のベースについても話していただけますか。
濱口:最近ちょっとベースラインの考え方を変えたんです。ずっとベースを弾きながら考えていたけど、1回それをやめて打ち込みで考えるようにしたんです。そうすると自分の手癖ではないところにいけるんですよね。そのうえで、なるべく歌えるというか、メロディアスなベースになるようにということを1番意識しました。
──フレーズの上質さに加えて、それぞれの楽曲にフィットさせたグルーヴの使い分けなども光っています。そして、今作は表情の豊かさや表現力にさらなる磨きのかかった北林さんのボーカルを全編で味わえることも大きな魅力です。
北林:前回、前々回くらいから歌録りの時にディレクションしてくれる人とかと、どうやったら伝わるか……言葉の母音と子音を、こういうふうにしたら伝わるんじゃないかというようなことを密にやり取りするようになったので、今回のアルバムはいい環境で歌えたかなというのはありますね。歌録りとかの時にアドバイスされて自分の中で印象に残っているのは、自分の感情を表現する時……たとえば、せつなさを表現する時に今までは泣くしかレパートリーがなかったけど、せつなさを表現する時は悲しいだけじゃなくて、立ち直って全然悲しくないような歌い方をすると、逆に強がっているようでせつなさが出ることもあるよねと言われたんです。感情を1つに固めてしまうんじゃなくて、いろんなアプローチの仕方で歌うことで表現が広がるので、今はそのことを意識しています。
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