【インタビュー】アーバンギャルド、アルバム『メトロスペクティブ』で初心を提示「我々はアンダーグラウンドカルチャーの人間」
■ “何かにならなくちゃ”ではなく、アーバンギャルドでいいんじゃない?
松永:容子さんが閉じこもっている間は、ここの2人でやり取りをしつつ、デモを貯め、アレンジについて議論を交わし、ということをやっていました。
──MVを撮影されている「メトロイメライ」は、今作のキーになる楽曲だというのを最初から決めていたんですか?
松永:キーになる曲ではあったんですが、できたのは最後だったんですよ。
浜崎:だいたいアルバムのリード曲は一番最後にできますね。
おおくぼ:最初から作ろうとはしていたんですけどね。
松永:そうそう。曲のタイトルはあったし、昨年秋のツアータイトル(<METRAUMEREI TOUR>)にもしてしまって、そこで絶対に披露しないとダメですよっていう締切を作ったんです。そうしないと絶対に作れないと思ったので。それで最初は2人でやりとりをしていたんですけど、ああでもない、こうでもないとやっているときに、ちょうど岩戸が開いてきて。
浜崎:ははははは(笑)。
松永:この曲の作曲(クレジット)はアーバンギャルドになっているんですけど、僕が書いたデモをおおくぼさんにイジってもらいつつ、岩戸から出てきた浜崎さんもイジって、さらに僕が手を加えて歌詞も乗せるという、LINE上でのセッションですね。アーバンギャルドはスタジオに入ってセッションはしないんですけど、データを交換し合いながら作っていくというのを、2、3日ぐらいやって形になりました。
──おおくぼさんは、そういったセッションをしているときに、どういうことを考えていたんです?
おおくぼ:なんか、今回は何も考えずに作れたんですよ。去年、オールタイムベストを作ったことで、アーバンギャルドを一度俯瞰できたことがすごく大きくて。“何かをしなくちゃ”とか、“何かにならなくちゃ”ではなく、“アーバンギャルドでいいんじゃない?”っていうところで作れたから、ある意味、何かの憑き物が落ちたというか。だから、僕はすごく楽しく作れました。
──おおくぼさんが単独で作曲されているものは、「トー横キッス」「Dr.脳」「歌舞伎ブギウギ」「りぼん曼荼羅」の4曲ですね。
おおくぼ:いつも先にタイトルがあるんですけど、「Dr.脳」と「りぼん曼荼羅」はすぐに思い浮かびました。最初は、「りぼん曼荼羅」はいらないかもって言ってたんだよね?
松永:そうね。どうしようかなと思ったんですけど、入れて正解でした。
おおくぼ:僕はこのタイトルをすごく気に入っていたんですよ。それこそ、リボンが曼荼羅みたいになっているイメージがすごく沸いたので、いいなぁと思って。
松永:“りぼん”は“Reborn”(再生)ともかけているんですけどね。「Dr.脳」に関しては、AIと問いかけあうメタル風のEDMを作りたいんだよ!みたいなことを僕が言ったら、おおくぼさんが作ってくれて。
おおくぼ:それこそAIみたいに(笑)。
松永:ChatGPTみたいに“このような曲はどうでしょうか”って出してきてくれるんですよね。
──タイミング的にもAIやChatGPTは曲にしておきたかったんでしょうか。
松永:毎回時事モノは入れていますけど、通底している部分でいうと、コロナが終わって、東京の街がまた再活性していくときに、コロナ禍でも実際には行われていたんだけど、やや遅れて体感することができたのが、再開発されているということですよね。渋谷にしてもベイエリアにしても、街並みが変わってきている。そういった再開発されている都市に関して何を思うのかということと、日本という国は、経済的な意味でも、少子化的な意味でも、非常に後退していると思っているんですよね。言い換えると、退廃している。
──そうですよね。
松永:たとえば石原慎太郎とか、戦後に非常にめちゃめちゃなことをする若者のことをアプレゲールと言ったんですが、令和のキッズ達の文化や行動がアプレゲール化してるなと思ったんですよ。睡眠薬を飲んで、ベロを真っ青にしたものをTikTokにアップするとか。でも、この退廃的なものに興味が出てしまって。アーバンギャルドが今回考えているアンダーグラウンドカルチャーと密接に関わっていくんじゃないかなと思ってましたね。
──浜崎さんは、おおくぼさんが岩戸の外で鳴らしている曲を聴いて、「おっ!」と思った曲はありました?
浜崎:「Dr.脳」は、イントロが始まった瞬間に「好き!」って思ったから、この曲をソロで歌いたいって言い出したんですよ。ソロで歌いたいし、私もラップがしたいって。
松永:どちらかと言うと普段は僕がやってるんで。
浜崎:そうそう。これは天馬曲だなっていうのはわかったんですけど、グループLINEに“歌いたいからメインにしてくれ”って送ったら、“ダメです”って。“イヤだ!”、“ダメです”、“歌いたい!”、“ダメです”って。“ダメです”しか言わないAIになっていて。
松永:結果的にこの曲に関しては、半々ぐらいになりましたね。
浜崎:そうだね。あとは「トー横キッス」も純然たるテクノポップって感じじゃないですか。こういうのやりたかったんだよねー!って嬉しかった。あと、「背神者」はソロでやれと思った(笑)。
松永:僕のソロ?
浜崎:うん。これをアーバンギャルドでやんなくてよくね?と思って。
──「背神者」は松永さんが単独で作曲されていますね。あとは「アング・ラグラ」、「ミームなゲーム」、「サンタクロースビジネス」、「Sick Sick シックスティーン」も。
浜崎:「背神者」は非常に松永天馬ソロ色が強いんですよ。
松永:ソロはファンク寄りの音楽をやってますからね。
浜崎:だから、アーバンギャルドの私物化がひどいんじゃないか?っていう文句をおおくぼさんにしていて。
おおくぼ:ただ、この曲の出発点は、アーバンギャルドの「詩人狩り」だったんですよ。
松永:アルバム『昭和九十年』に入れた「詩人狩り」には元々そっちの要素があったんですよ。そこからソロに旅立ったんですけど、「背神者」は、それをアーバンギャルドにちょっと戻してみたらどうなるかっていう実験をしてみた感じでしたね。
おおくぼ:僕は天馬くんのソロも手伝っているんですけど、「背神者」はそれとは違って、アーバンギャルドの側面からこういうふうにしたらいいんじゃないかっていう。実はソロとは違うものになってるんです。
浜崎:そう?
おおくぼ:そうなんですよ、意外とこう見えて。
──浜崎さんは「青春失格」を単独で作曲されていますが、この曲を作ったのは天岩戸から出てきた後ですか?
浜崎:そうです。バラードが1曲もないから作ってくださいと言われて、わかりましたって。それで締切直前まで作らなかったんです。ギリギリまで眠っていたかったので(笑)。そしたらおおくぼさんが“もし、バラードに悩んでいるようだったら、こういうコード進行はいかがでしょうか”って、いい感じのコード進行をいくつか送ってくれて。
松永:すごい! ホントにChatGPTみたい!
浜崎:それを私がパズルのように組み合わせて、こういう曲にしたらおもしろいんじゃないかなって。「青春失格」っていうタイトルになったのがいつかは覚えていないんですけど、自分の中ではわりとオールディーズなバラードをイメージして作ったので、懐古的な曲になるだろうなという予感はしていて。『メトロスペクティヴ』の曲を聴いていると、開発されていくことに対して、ある種のメランコリーみたいなものがあって。それこそ渋谷がどんどん開発されていくけど、“前のほうが趣きがあってよかったよね”みたいな気持ちと、“新しいのめちゃ便利でいいじゃん”みたいな気持ちのせめぎ合いがあるなと思って。そこのメランコリック担当みたいな感じの曲ですね。
松永:歌詞に〈まるでラビリンス〉と書いてますけども、渋谷も駅が新しくなって、ダンジョンみたいに入り組んでいて、どこに出るのかわからないようになっていたり、〈森の木を切って〉というのも、神宮の開発についてのことだったりとか。
浜崎:こういうところでいきなり環境のことを言い出すのとか好きなんですよ(笑)。
松永:歌舞伎町タワーに、昭和レトロ風の横丁があるじゃないですか。あれって実はいろいろなところにあって。新宿東口のビルの中にもあるし、渋谷のMIYASHITA PARKにもあるし、全部同じ会社が運営してるんだなぁって。ちょっとレトロ風にして個性を出してるけど、全部ツヤツヤにコーティングされたものなんだなと思うと、非常に感慨を持ってしまいますよね。
おおくぼ:でも、意外と好きだよね、あそこ。
松永:僕は結構好き(笑)。
浜崎:はははは! 好きなのかよ!
松永:シミュラークル感に溢れているというか。あれはあれで楽しめるんですけど、まがい物ではあるんですよ。『ブレードランナー』とか、サイバーパンクの映画にアジアの街が出てきますけど、あの感じですよね。すべてが嘘くさいんだけど、それがおもしろくなっている。なんか、今度高円寺の駅前が再開発されるんですって。だから高円寺の人たちはめちゃくちゃ反対運動をしていて。
おおくぼ:日本のおもしろいところを見ようと思って海外から旅行しに来て、綺麗になった街を見てもおもしろくないだろうにね。
松永:いま、「インバウン丼」っていう7,000円の海鮮丼が豊洲にあるらしい。
浜崎:この前、築地に撮影に行ったんですけど、あそこって観光客価格だったりするじゃないですか。でも、思っていた以上の3倍ぐらいの値段になっていて。日本ってもう自力で立てない国になってしまったというか、外国の方々に頼らないと立っていられないんだっていうことに関しては、みんなもっとマジメに考えたほうがいい。
──ああ。インバウンドに期待するというのはどういう意味なのかという。そこはリアルに感じにくいところもあるかもしれないですね。
浜崎:対岸の火事みたいになってますよね。私、事故現場をスマホで動画撮ってる人の精神がよくわからないんですけど、あれだよ?っていう。
松永:元々東京の街って、非常にテーマパークっぽいというか。山手線を一周しても、一駅ごとに違うアトラクション、違う顔を持っていたんですけど、再開発されることにより加速化しているというか。よりテーマパーク化しているんだけど、より虚構に近づいてるなっていう。
浜崎:原宿っぽいでしょ?みたいな感じだよね。
松永:その原宿っぽいものがどこにでもあるっていう。
浜崎:そのうち東京は中心じゃなくなると思います。
松永:なりますかね。
浜崎:なるとは思うよ。だって人が多すぎるもん。引っ越してきて、なんでこんなに人いるのかなって改めて思った。
おおくぼ:そうか。この制作中はずっと東京にいなかったのか。
松永:容子さんはコロナ禍で実家の近くに戻られていたんですが、去年の秋頃に東京に戻ってきたんです。
浜崎:最初に2年って決めてたんですよ。コロナが落ち着くまでにそれぐらいかかるかなと思っていたので。引っ越したのは事後報告だったんですけど。
松永:地元に戻ってからも、ライヴのたびに戻ってきてくれて。
浜崎:本当に旅行気分で、東京ホテル住まいは楽しかったですけどね。でも、新宿のめちゃ狭ビジネスホテルが、コロナ禍のときは3,000円で泊まれたんですけど、外国人の方が戻ってくるにつれて14,000円とかになってきて。最終的には、宿泊費と行き帰りの交通費で家賃以上に払ってたんです(笑)。
松永:もう住んだ方がいいじゃんっていう。
浜崎:うん。そろそろ2年経つし。あとは結婚もあったんですけど。
松永:これは言っていいのか分かりませんが、結婚の報告を受けた日に、「青春失格」の歌詞を書いたんです。
浜崎:ええー!
おおくぼ:初めて聴いた(笑)。
浜崎:私も初めて知った(笑)。
松永:だから、そういった感慨が何らか入っているかもしれない。
おおくぼ:入ってるだろうね。
浜崎:松永さんは思い出にできないんですね、浜崎のことを。
松永:できないですね。思い出化できないです。重過ぎて、重過ぎて。
浜崎:うるさい(笑)
──(笑)。
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