【インタビュー】アーバンギャルド、パンデミックの渦中に示す意欲作「時代に応じた何かを」

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2020年元旦に新体制として初のアルバム『TOKYOPOP』を発表したアーバンギャルド。そこから3人はバンド史上最多本数のツアーをスタートさせたのだが、コロナウイルスの影響で中止に。それに伴い、急遽制作されたアルバムが、本作『アバンデミック』だ。結果、年に2枚アルバムをリリースするという、本人たちとしてもイレギュラーな状況にはなったのだが、「アーバンギャルドとは何か」を物語る快作に仕上がっている。誰もが想像だにしなかったパンデミックの中、前作で自らを鮮やかに“解体”した3人が、その先に目指した“再生”とは。

  ◆  ◆  ◆

■時代に応じた何かを示していきたい

──前作『TOKYOPOP』の制作は昨年されていたと思います。それでも年に2枚アルバムを出すというのはかなり大変だったんじゃないかと思うんですけど、実際に作業のほうはいかがでした?

松永天馬(Vo):僕は逆に、コロナ禍で自分の想像力がどんどん溢れてきてしまって。やっぱり状況にインスパイアされて曲やアルバムを作ることが多いですし、しばし状況を予見していたと言われることもあるんですよ。2018年に〈オリンピックは中止だ〉って歌詞を書いていて(「トーキョー・キッド」)、当時のインタビューを見ると「オリンピックも中止になるかもしれないですしね(笑)」って話してるんですよね。いまは延期ですけど、それがリアルにそうなりそうな今日この頃。でも、他のみなさんはどうだったんでしょうね。

──浜崎さん、いかがでした?

浜崎容子(Vo):いやあ、やっぱりキツかったですよ。いつも制作するときって、私は内に篭っていくというか、自分の中の引き出しをひとつひとつ開けていくんです。何があるんだろうって。で、だいたい何も入ってなくて(苦笑)、「ああ、私って何もないんだなぁ……」ってがっかりしながら曲を作り始めるから、精神的に結構キツいんですよね。元々そんなに家から出なくても大丈夫だから、自粛で精神的にしんどいとかは全然なかったんですけど、短いスパンで自分と向き合わなきゃいけないのが大変でした。だから、自分がコロナ禍でしんどかったのは、自粛とかパンデミックとかじゃなくて、アルバムを2枚作ること(笑)。

──大変でしたね(苦笑)。

浜崎:ライブも制限されている中、音源を発表することで「こちらは動いていますよ」という姿勢を見せないといけないと思ってはいましたけど、それでも2枚はキツかったです(苦笑)。それに『TOKYOPOP』を出したばかりなのに、この期間で自分たちをアップデートできるのか?っていうところもありましたし。

松永:2018年に出した『少女フィクション』は、これまでアーバンギャルドが提唱してきた「トラウマテクノポップ」の集大成といいますか、自分たちらしいものを作りまして。その翌年にギターの瀬々信が脱退したことで、サポートを入れてバンド編成でもやりつつ、3人のテクノポップ編成でもライブをやるようになったんです。それで、テクノだけのアルバムを作ってみようと思って、ガラリとサウンドを変えたのが『TOKYO POP』だったんですよ。そこからの『アバンデミック』は、ギターやドラムも入っていて、バンドサウンド感を取り戻しつつも、いまの3人でできる音、いまこの時代に自分たちが気持ちいいと思うものはなんだろうと。そこに焦点を定めるのに3、4、5月ぐらいは苦労してましたね。

おおくぼけい(Key):『TOKYOPOP』はすごく苦労したんですよ。アーバンギャルドのサウンドをゼロから新しく作っていかなくちゃという気持ちでやっていたので。でも、完成させた後に、すぐに次のものが作りたくなったので、僕はデモをどんどん出してました。次にやりたいことがいっぱい見えていたので。

浜崎:おおくぼさんがスピーディに出してくれたおかげで、自分もそこまで病まずにできましたね(笑)。


おおくぼ:あと、ツアーがなくなってから、いくつかカバーをやったんですけど、それも大きかったですね。

松永:YouTubeにアップしてたんです。『アイドルマスター』の曲とか、ビリー・アイリッシュの「bad guy」を聴いてたら、だんだんクラフトワークの「The Model」に聴こえてきたから、その2つを混ぜて「Bad Model」を作ってみたりとか。そういう実験をしてみたり、いまの音をなるべく選り好みせずに聴いたりして、いま自分たちが出したら気持ちいいものは何かを探ってました。





──そういうなかで、4月に配信された「マスクデリック」が生まれたんですか? 『アバンデミック』には「マスクデリック(ver.2.0)」という形で収録されていますけども。

おおくぼ:あの曲は、いまの状況にいち早く反応して曲を作ろうっていうことになったんですよ。

浜崎:(松永が)もう本当にうるさかったんです。「一刻も早くマスクの曲を作らないと」って。

松永:安倍晋三がマスク2枚配るよりも先に、なんとしても我々は曲を出さないと!っていう。

浜崎:もう「歌を入れろ」「歌を入れろ」ってうるさくて。「わかりました」って言っても、朝起きると「まだですか?」「まだですか?」って100件ぐらいLINEが来てて。そのとき、体調があんまりよくなくて結構しんどかったんですよ。でも、早く歌を入れないと、この地獄から抜け出せないと思って(笑)。

松永・おおくぼ:(笑)。

浜崎:もう本当に嫌でした(笑)。曲は嫌いじゃないんだけど、こんなに催促されるのが。





松永:今年の1月から過去最多本数のツアーを3人編成で廻っていたんですけど、3月の後半に中止になってしまって。そのライブのテンションのまま、なんとかしないとって思ったんですよね。ライブ(=LIVE)って生きると書くじゃないですか。だから、我々は音源を出すことで、もう一度“再生”しようと。我々なりのライブをWEB上に出すということは、やっぱりいまの、ライブな音を発表することだろうなと思って。それで僕はもう10数年、DTMソフトは持ってなかったけど、これを機にDTMソフトとコンデンサマイクを買い、ものすごくつたない「マスクデリック」のデモをおおくぼさんに送って、これを形にしてくれ!ってお願いしました。

おおくぼ:これかあ……って思いましたね(笑)。

松永:もうペラッペラな音だけど、これをかっこよくしてくれ!って。

おおくぼ:そのペラッペラな音に意外とこだわるんですよ(笑)。

──(笑)。アルバムを作ろうとなったときに、まずタイトルを決めたんですか?

松永:そうです。2ヶ月ぐらい悩みましたね。『アバンデミック』は、アバンギャルドとパンデミックのマッシュアップ言語なんですが、このパンデミックを、時代や世界を先進化させていくようなものとして捉えたいという気持ちがあって。もちろん、それによっていろんなつらいこと、苦しいことがいまは起きていますけど、それによって我々もアップデートしていけたらなという気持ちを込めています。ただ、世の中の人が、アップデート、アップデートって言ってるけど、それって本当?って思っているところもあるんですよ。

──ああ、なるほど。

松永:世の中の人が「人権意識をアップデートした」「社会意識をアップデートした」って言うけど、パソコンのOSをアップデートしたら使いにくくなることもあるじゃないですか。だから、これが本当にアップデートなのかわからないけれども、ただ、変わっていきたいなと自分は思う、ということですね。自分としては、変わらないよりも変わっていきたいし、変わらないものを持ちながら変わっていきたい。その時代に応じた何かを示していきたいという前向きな気持ちを込めて、『アバンデミック』というタイトルにしました。

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