【インタビュー】アーバンギャルド、アルバム『メトロスペクティブ』で初心を提示「我々はアンダーグラウンドカルチャーの人間」

ポスト


約2年半振りとなるアルバム『メトロスペクティブ』をリリースするアーバンギャルド。昨年はデビュー15周年を記念した中野サンプラザホール公演や、オールタイムベスト『URBANGARDE CLASICK』の発表など、これまでの総括的な活動も多かったが、それらを経て、3人が今作で提示したテーマは、ずばり“アンダーグラウンド”。実にアーバンギャルドらしい“トラウマテクノポップ”を高鳴らしつつ、“再開発”という名の破壊と再生を繰り返す東京という街へのメッセージが詰め込まれた1枚になっている……のだが、完成に辿り着くまでにはいろいろなことがあったようで……。3人にじっくりと話を聞いた。

  ◆  ◆  ◆

■天馬と解散するぐらいのケンカをしたんです

──アルバム『メトロスペクティブ』を完成されましたが、今作もかなり濃密ですね。何度もループで再生してました。

松永天馬(Vo):今回は、楽曲や構成含めて、地下鉄の環状線をイメージしたような感じでデザインさせていただきました。なので、その聴き方は非常に正しいと思います。

──ありがとうございます(笑)。今作のタイトルは、“メトロ”と“レトロスペクティブ”を混ぜたものだと思うんですが、テーマや構想はいつ頃からあったんですか? 昨年は15周年で、ここまでの総括的な活動もありましたけれども。

松永:構想自体は2022年の初頭にありまして。次は“メトロスペクティヴ”だと。それはつまり、15周年を回顧する上で、自分たちの初心に立ち返ろうと。じゃあ初心とは何なんだと考えたときに、我々はアンダーグラウンドカルチャーの人間であるということを自覚しようという。メジャーな媒体に出させていただいたり、オーバーグラウンドな場所に立たせていただけたりすることもあるけれども、我々はアングラです、と。アングラでいいじゃないか。アングラであることを自覚して打ち出したアルバムを1枚作ってもいいんじゃないかということで、“『メトロスペクティブ』をやりましょう”と言ったんです。その後に15周年記念の中野サンプラザホール公演や、オールタイムベストの話も出てきたので、アルバムを作る時間が……(笑)。じゃあ落ち着いたから作りましょうかとなったのが、2023年の初夏ですかね。

おおくぼけい(Key):そうですね。2023年の6月とか7月とか。

松永:いつもコンセプターとして僕がまずアルバムの企画書を書くんですけど、この絵みたいなイメージでいきたいんですって、自分が作ったPDFに載せていたのが、今回のジャケットになっている中村宏先生の「円環列車」というシリーズなんです。

おおくぼ:この絵の中に、アーバンギャルド的要素が詰まっているんですよね。

▲アルバム『メトロスペクティブ』初回豪華盤


▲アルバム『メトロスペクティブ』通常盤


松永:中学生のときに、東京都現代美術館で「円環列車A-望遠鏡列車」を観て、非常に感銘を受けたことをふと思い出したんですよ。あの絵の感じがいいんじゃないかということで、いろいろ調べまして。それで、先生はメールやネットをやらないので、手書きでお手紙を書いたら、あるとき非通知で中村先生ご本人からお電話をいただきまして。そういった許諾のやり取りを、今回の制作と並行しながら2、3ヶ月ぐらいしてましたね。

おおくぼ:今回のことがあって先生の文章にも触れてみたんですけど、言っていることがすごくアーバンギャルドだったんですよ。“セーラー服はアンドロギュノスだ”とか。

──ほぉー。

松永:“ほぉー”としか言えないですよね(笑)。あとは、“セーラー服は呪物である”とか。少女やセーラー服を、非常に混沌とした存在として捉えていらっしゃって。



浜崎容子(Vo):制服を着てる女の子は無敵だからね。

おおくぼ:そういうことを書いてた。(少女自体より)制服のほうが強い、みたいな。

松永:だからまぁ、出会うべくして出会ったと言いますか。今作のコンセプトやイメージは、先生の絵画作品に支えられていたところはありましたね。

──中学生のときに影響を受けたものが、改めてこのタイミングに出てきたというのもおもしろいですね。

松永:音楽に対しての影響もそうですが、インスパイアされたものの周りをずっと巡り続けているというか。特に思春期に影響を受けたものは、一生その周りをぐるぐる周り続けるしかないですよね。僕は思春期にアングラの洗礼を受けていたので、アングラに立ち返らざるを得なかったってことですかね。

おおくぼ:円環だったんですね。



──浜崎さんは、松永さんが今回のコンセプトを持ってきたときにどう思われました?

浜崎:私は、アーバンギャルドはアングラだとずっと思っているので、やっとというか。逆に、今まで作品を作ってきた中で、“天馬は何言ってんだ?”って思ってた部分があるんですよ(笑)。もちろん、メジャーレーベルに所属していたときは結果を残さないといけないところはあったけど、アーバンギャルドは元々アングラで、サブカルで、それがやりたくてやっているのに、こいつは何を言っているんだ?ってずっと思っていて。“何系の音楽が流行っているからやりましょう”じゃなくて、それも込み込みで“これってアーバンギャルドっぽいね”と言われる存在にならないといけないと思っていたから、“今回のテーマはアングラです”と言われて、やっと目覚めたか、と。

松永:今までは夢を見ていたんですけど、夢になったんですよ。

浜崎:あ、そう。

──「メトロイメライ」の歌詞や、今作のリリースツアーのタイトルでもありますね。“夢見るよりも、夢になれ”と。

浜崎:なんかもうずっと、“売れたい、売れたい”ってほざいていたんですよ。

松永:売れたいじゃないですか。

浜崎・おおくぼ:いや、売れたいのは売れたいけど!(笑)

浜崎:それよりも、アーバンギャルドをジャンルとして確立することが大切だし、いまって何が起こるかわからないじゃないですか。我々の過去の曲が突然掘り起こされて、TikTokでバズったりとか。そういうこともあったりするから、“次はこれが売れそうなのでやりましょう”というやり方は、私にはツラ過ぎたんですよ。それがようやく“アングラに戻ります”という話が出て。ただ、そこまではよかったんですけど、ちょうど制作に入り始める去年の6月ぐらいですかね。天馬と解散するぐらいのケンカをしたんです。

──えっ……。

松永:ケンカというか、僕が一方的に嫌われてるだけです。

浜崎:違うよ。あれはメンバーに対して大失礼なことを言ったから。ここでは言えないぐらい、もう本当に失礼なことを。

松永:何を言ったっけ?

おおくぼ:いや、ここで始めないでよ(苦笑)。



浜崎:自覚がないからたぶんまた繰り返すと思うんですけど、色々物事を進めていく上でいざこざがありまして。ものすごいショックだったんですよ。それですべて遮断したんです。LINEもSNSも全部ブロックして。

松永:天岩戸が閉じてしまったんですね。

浜崎:(笑)。で、もう本気でこいつが反省しない限り、二度と口を聞かん!と思って、必要最低限のこと以外は話さないようにしてました。

おおくぼ:LINEも一度僕を介してましたからね(笑)。

浜崎:だから、今回はけい様にいろいろと頼り過ぎてしまって。けい様の負担は、制作よりもそっちのほうが大きかったんじゃないかなって。

おおくぼ:確かに(笑)。

浜崎:そこは本当にごめん。でも、この男を人間と思ってはいけないということを、私は声を大にして言いたい。

松永:…でも、閉じていた岩戸が開いたわけですよね。

浜崎:それは、けい様から連絡があって。“そろそろ本格的に動いていただかないと、制作が間に合いません”って。

おおくぼ:だいぶアルバムの曲が出来あがってきていたので、音楽を鳴らし始めたんですよ、岩戸の前で(笑)。

──ははははははは!(笑)

おおくぼ:なにか楽しそうなことをやっているぞ……?みたいな(笑)。で、こっちが踊り出したら、チラっと顔を出してくれて。

浜崎:だから、私は過程をまったく知らないんです、今回のアルバム(笑)。

◆インタビュー(2)へ
この記事をポスト

この記事の関連情報