【対談】逹瑯(MUCC) × KIRITO、シンガー同士のただならぬシンパシー「激動する時代の中で、長年立ち続けていることには理由がある」
■言葉の断片から伝わるのは意味じゃなくて
■感情だろうから──KIRITO
逹瑯:もうひとつ聞きたいのが、単純に作詞で全然言葉が出てこないなとか、作曲しなきゃいけないけど全然出てこないとか、そっち系のスランプはないですか?
KIRITO:それはね、ないですね。
逹瑯:うわー! すげえ! マジですか!?
KIRITO:たぶんね、変に音楽ジャンルを通らずにバンドを始めちゃったことが、逆に良かったんだなと。自分はロックをやってるからとか、メタルをやってるからとか、そういう感じでずっとやっていたら、絶対に尽きると思うんで。でも俺の場合、iPhoneを作っているような感覚。次はこのチップを使って、でも部品を掛け違えて、イビツだけど美しいものにしたいなって。そういうアイデアは尽きないから。
逹瑯:俺、作詞中になかなか出てこないと、しんどいし、“どうすんべかな〜”という感じなんですけど(笑)。この曲に対してまず俺は、“なにをテーマに歌うのか”、“曲はなにを求めているんだろう”って、まず根本を探すにも時間が掛かるし。だいたい、いつも困っているんですよね〜(笑)。
KIRITO:自分のことを最初から振り返ると、泣けるバラードにしようとか、ロックだからこんな感じとか、形式にこだわっている間は、確かに答えが出ないなって感じになりがちなんですよ。だけど、そこで必ず根本に立ち返るんです。僕は、いわゆる歌詞みたいな歌詞を、そもそも最初から書いてないじゃんと。そういうことに毎回気づくんですけど、そうすると歌詞を書くという感覚じゃなく、出てきた言葉を自分なりの伏線をはってつなげれば、自分なりのストーリーになる。1曲1曲を見ると、“この人は頭が狂ってるんじゃないの?”というぐらい脈略のない歌詞なんだけど。
逹瑯:ははははは!
▲MUCC
KIRITO:ところが、それがアルバムになると点と点がつながり、自分の中の感情が見えてくる。例えば初期、僕が世に出始めたときは「脳内モルヒネ」(PIERROTのミニアルバム『CELLULOID』収録曲/1997年発表)とか、そんな言葉を歌詞にしますか?ってところから平気で始めちゃっているような人だから。“歌詞で悩んでいることがそもそも違うじゃん、バ〜カ”って自分に対して思うんですよね。
逹瑯:へぇ〜。近くで見たらドットでしかないけど、引いて見たら一枚の絵になっているという感じなんですかね?
KIRITO:そうそう。誰から見ても、いい歌詞だなと思われるものを作ろうと思っても、それは無理だなというのは分かってるんですよ。意味は分からないけど、言葉の断片から伝わってくる感情が分かる、というふうになればいいんじゃないかなって。伝わるのは意味じゃなくて感情だろうから。
──KIRITOさんの歌詞は、映像とか映画的な感じもありますよね。1曲ずつストーリーにもなっていつつ、アルバムになると、さらにドラマティックな流れになる。そこが特徴であり、個性にもなっていますから。
KIRITO:ものすごく独りよがりな歌詞だと思うんです。自分の中だけに映像があって、その断片を歌詞にしていますってのは、PIERROTのときから音楽雑誌のインタビューでも言ってたんで。だからこそ、インタビューで歌詞の補足をしないと、ファンから「歌詞の裏にあるストーリーをもっと教えてほしい」って言われるんですよ。
逹瑯:曲を作って、映像を言葉にして、実際に歌いましょうってなったとき、声の出し方や歌のニュアンスや唱法の方向性で、曲そのものの印象もガラッと変わるじゃないですか? そのジャッジって、KIRITOさんは全部、自分でやる感じですよね。
KIRITO:そうですね。MUCCの場合はどうしてるんですか?
逹瑯:僕らの場合は最初、自分で好きに一度歌うんです。「その感じでいい」って、うまくハマればそのまま進んでいくんです。でも、ミヤの頭の中にもイメージがガッチリあって。お互いにイメージのキャッチボールをしながら声のトーンや歌い方を変えていったとき、曲のイメージが変わるんですよ。
KIRITO:なるほどね。
逹瑯:それを一人でやるって、けっこう大変そうだなと思っているんですよ。例えば歌い方も、歌詞としての正解はこの歌い方だけど、曲としての正解はその歌い方じゃないとか。そういう客観的なジャッジを、KIRITOさんはどうやっているのかなと思って。
▲<Allen birthday presents KIRITO vs MUCC>2023年9月4日@東京・Zepp DiverCity
KIRITO:まず、自分の中で完結させるのが、僕にとって一番ラクなやり方で。例えばミヤ君が思っていることを逹瑯が歌で変換してという、そのやり取りのほうが大変だなと思っちゃう。PIERROTの超初期は、別のボーカルがいて、僕はギターだったんですよ。でも、これじゃダメだと思ったんです。
逹瑯:どういう意味ですか?
KIRITO:自分が曲を作ったとき、“歌はこうしてほしい”っていうのが頭の中に明確にあるんで。それをボーカルの人にいくら伝えても、それができないとか、そこに辿り着くまでに大変な思いをする。それがストレスだったから。だったら自分でやっちゃったほうが早いな、というのが全ての始まりで。
逹瑯:ボーカルがいたときはガーッと注文をつけていたけど、実際に自分で歌ってみたら、めちゃくちゃ難しいなってことはなかったですか?
KIRITO:いや、逆に全部これでOKだった。
逹瑯:はははは! すげぇ(笑)。
KIRITO:僕の場合、ほとんど全部がそうなんです。作品のジャケットや映像関係もそう。PIERROTのデビュー当初は、映像ディレクターとかデザイナーとかプロの人たちがそれぞれ分担して、やっと作品ができていた。でもそのときから僕には、“こうしたいんだ”ってのが頭の中に明確にあったから。それをプロのデザイナーやディレクターに伝えても、うまく伝わり切らなかったり、その人たちの力量の問題で実現に至らないというケースがあって、そのストレスがものすごかったから。だから、プロの人たちが使うアプリケーションやソフトを、今は自分が使えるようになって。校正時に修正とかして完パケまでできるようになったとき、また大きなストレスが消えたんです。
逹瑯:そこに時間を割いて、他のことができなくなるってことにストレスを感じないんですね?
KIRITO:自分にとってのストレスは、自分の思いが担当する人に伝わり切らないとか、ちゃんとやってもらえないことだったから。自分でやったほうが早い。だから、Angeloをやり切ったことで、バンドの化学変化に望む可能性の追求も、ある種、行き切ったところがあって。
逹瑯:ああ、なるほど。
▲<Allen birthday presents KIRITO vs MUCC>2023年9月4日@東京・Zepp DiverCity
KIRITO:Angeloの最後のアルバム『CIRCLE』から、2022年より始まった第三期ソロ活動は、自分の中では継続しているんだけど。でも、サウンドの構築や技術的なことは、もはやバンドでは再現できない領域に踏み込んでいて。『NEOSPIRAL』を始めとする第三期ソロは、バンドのままでは作れない。最新アルバム『ALPHA』にしろ、バンドのままでは無理だった。
逹瑯:バンドでやると、絶対的にバンドメンバーの音が入ってないと、楽曲は成立しない感じがするじゃないですか。ソロの場合、自分が作っていれさえすれば、声が入っていないインストも自分の音楽だし、鍵盤や打ち込みだけの音楽でも成立するわけで。ソロには縛りがないから、より自由になるのかもしれないですね。
KIRITO:でも自分の場合は、設計図が命でもあって。バンドをやっていたとき、設計図以外のところで……例えばギタリストの性格や特色でいい感じのものが生まれて、それが化学変化にもなって、それを良しとする余白がまだあったんです。でも、そこから先は、それぞれのメンバーのオリジナリティを組み込む余白を、もうなくしたんですね。余白だった部分も、完全にネジ1本、部品ひとつの配置に至るまで、自分の設計図で埋め尽くした形にするには、もうバンドという形が可能性として限界に来ていたのが正直なところで。
逹瑯:なるほど。何年かして、KIRITOプロデュースというものが、全てにおいてやり切ったとなってしまったとき、どうなっていくんでしょうか? “またバンドやりてーなー”というところに戻るんですか(笑)?
KIRITO:どうなるんだろう。先のことは分からないけど、このやり方でどこまで突き詰められるんだろう?って可能性に、今はワクワクしているんで。今度こそゴールがないと思ってるんですよ。部品の配置どころか、量子力学的な領域に入っていって、“ここひとつを変えると全てが変わる”というような、まるで円周率を追求していくようなもので。死んでもゴールはないと思う。だからこそ楽しいっていうところもあるけど。
逹瑯:学問を学問として学ばなきゃっていう感じではなくて、それを研究としてずっとやっていく教授職みたいな感じなんですね(笑)。
KIRITO:例えが偉そうだけど(笑)。でも、追求していけばいくほど、それまで当たり前だと思っていたものが、ガラッと変わる瞬間もあって。“なるほどな、あなどれないな、だったらもっとやってやろう”と。その繰り返しが楽しいのかもしれない。
逹瑯:追求することをずっと楽しみながらやっていく……周りのみんながKIRITOさんのことを“KIRITO先生”と呼ぶのは、あながち間違いじゃないっていう。やっぱり先生なんですね(笑)。KIRITOさんは、バンドミラクルをずっと経験してきて、今はソロがワクワクしてしょうがないってことは、たぶん一人で突き詰めていくのが正解なんでしょうね。
KIRITO:そこに行き着く流れだったのかなと思う。ただ、そこまでにバンドミラクルや可能性はどこまであるんだろうかって、見る必要もあったと思うし。
逹瑯:知っていると知らないとでは、全然違いますからね。でも俺、「KIRITOさんと二人で音楽を作りましょう」ってなったら、2日で窒息しますね。「勘弁してくださいよ」って(笑)。
KIRITO:ははははは! でも全て自分でやらなきゃなっていう責任感は、一応あるんですよ。それを誰かに強いると、絶対にその人は壊れちゃうから。「だったら自分でやりなさいよ」って自分に言ってきた。その結果が今なんで。苦しまざるを得ない立ち位置が必要なのであれば、それを自分で請け負って、自分で形にしましょうっていう。究極のセルフな感じ。
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