【インタビュー】緑仙、メジャーデビュー作『パラグラム』に数々の隠しメッセージ「自分は歌の人です」
バーチャルライバーグループ“にじさんじ”に所属する緑仙が10月4日、メジャー1stミニアルバム『パラグラム』をリリースした。同作には緑仙の誕生日4月16日に配信された「ジョークス」に加え、『ベガルタ仙台』2023年応援ソング「WE ARE YOU」、ポルカドットスティングレイとのコラボ曲「天誅」など全6曲を収録した。
◆緑仙(りゅーしぇん) 動画 / 画像
緑仙は6月にKT Zepp Yokohamaで開催された初ワンマンライブ<緑仙 1st LIVE 「 Ryushen 」>でソロメジャーデビューを発表。そして完成した『パラグラム』は多彩なテイストの楽曲によって、緑仙の様々な表情が感じられる作品に仕上がっている。
音楽的ルーツをはじめ、これまでのキャリアや作品の数々を探った前回インタビューでは、「VTuberって次元の壁があるけど、それを越えて、みなさんの感情を揺さぶるような音楽を届けていきたい」と語っていたが、果たして『パラグラム』はどんな作品に仕上がったのか? その全容に迫るロングインタビューをお届けしたい。
◆ ◆ ◆
■明るいなかの卑屈…人間らしさはVTuber特有
■どうしても出てくる感情を曲に入れたかった
──今年6月に初のワンマンライブ<緑仙1st LIVE「Ryushen」>を神奈川・KT Zepp Yokohamaで開催されました。緑仙さんにとってはどんなライブになりましたか?
緑仙:メインの活動の場がインターネットなので、みんなの前で歌わせてもらえる機会がなかなかなくて。しかも途中から歌い出したのではなくて、最初から歌で活動しているんですけど、そんな自分でもリアルなライブをやるのはかなり難しいんですよね。なので、6月のライブは本当に貴重だったし、しかもワンマンでやらせてもらえるのは本当にうれしかったです。応援してくれたみんなはもちろん、たくさんの人たちの力で何とかステージに立たせてもらえたというか。“自分の力でここまで来たぜ!”という感じではなく、“ありがたい”という気持ちでいっぱいでした。ファンの方との普段のやりとりは文字なので、ライブではお互いの距離感がよくわからなくて(笑)。ドキドキしましたけど、やっぱりいいなって思いました。
──緑仙さんの歌はもちろん、バンドメンバー(奈良悠樹[G]、堀崎翔[G]、岸田勇気[Key]、ウエムラユウキ[B / ポルカドットスティングレイ]、ゆーまお[B / ヒトリエ]のみなさんの演奏も素晴らしかったです。
緑仙:Rain Drops (緑仙が参加している音楽ユニット。現在休止中)もそうだし、にじさんじのイベントでも生バンドのステージが多かったんですよ。個人的にVTuberさんのライブに行くことがあるんですが、生バンドだと音の迫力が全然違っていて。自分は音楽をメインでやっていきたいし、みなさんにしっかり楽しんでもらうためにも生バンドは必須でした。1stライブのメンバーはRain Dropsにも関わってくれていて。人見知りっぽいウエムラさんとも普通に雑談できるようになったし、一緒に麻雀をやったこともあるんですよ(笑)。
──素敵です(笑)。そして10月4日にメジャー1stミニアルバム 『パラグラム』がリリースされます。このタイトルには、“作品全体に散在して隠されているメッセージを、それぞれの観点で受け取ってほしい”という思いが込められているとか。
緑仙:普段からよく言ってるんですけど、緑仙のファンのみなさんには安心して楽しんでほしくて。狭いコミュニティのなかで、嫌な思いだったり、不快な気持ちになるくらいだったら、しばらく離れてほしいんですよ。たとえば僕が炎上しちゃったとして、自分のことのように落ち込んでしまうようだったら、“その期間は僕を見るのをやめてください”と奨励していて。もうちょっと多角的に世の中を見ることができれば、もっとラクに生きられると思うんですよ。
──視野が狭くなってるときは、インターネットから離れたほうがいい、と。
緑仙:そうですね。推し活という言葉が流行ってるのもそうですけど、何かに依存して、その対象によって自分を支えてる人が多いと思うんです。でも、実はそれって怖いことでもあって。自分は幼い頃から配信界隈にいるからわかるんですけど、推しに依存すると私生活にも影響が出るし、そのなかで視野が狭くなるのは本当に良くないと思うんですよね。こちらが出来るのは、“もっと楽しいことはたくさんあるよ。嫌な気持ちになるんだったら、ちょっと離れてね”と伝えることだけなのかなと。あとは“みなさんが見ているのは、緑仙の数ある顔のうちの一つ。僕自身のすべてを知っているわけでないですよ”ということかなって。今回のミニアルバムは“できる限り、僕のいろんな面を見てもらえたらいいな”という作品でもあるんです。
──なるほど。ミニアルバムの1曲目「WE ARE YOU」は、ベガルタ仙台応援ソング。緑仙さんがずっと応援し続けているベガルタ仙台の応援ソングとはすごいですね!
緑仙:メジャーデビューが決まって、いちばん最初の段階から「ベガルタ仙台と何かやれたらいいですね」と提案していただいたんです。そのときは現実感がなくて、「え、もちろんサポーターですけど……」みたいな感じ(笑)。応援ソングを歌わせてもらうことになったときも、“サポーターだからこそ作れる曲にしたい”という気持ちでした。
──確かにサポーター目線の曲ですよね。
緑仙:そうですね。Jリーグのチームのタイアップ曲はたくさんあって。前向きな楽曲が多いなか、「WE ARE YOU」は明るいなかに卑屈さみたいな部分も入ってるんですよ。そういう人間らしさはVTuber特有だと思っていて。どんなに取り繕って配信していても、どうしても出てくる感情はあるし、その部分を曲にも入れたかったんです。6月の1stライブで初披露したときは、“めちゃくちゃポップで明るい曲だ! 緑仙のくせに”という反応が多かったんですが、“じっくり歌詞を見たら……あれ?”みたいになってて。“いいぞいいぞ”と思いながら、みなさんの感想を見てました(笑)。
──「アイムリドミ」は、ケンカイヨシさんの書き下ろしによる楽曲。
緑仙:ケンカイヨシさんは以前から知り合いで。僕のオリジナル曲「イツライ」を聴いてくれて、「すごくいい曲だね」ってDMを送ってくださったんです。「イツライ」「ジョークス」を作ってくれたぼっちぼろまるさんと3人でやり取りすることもあって。「アイムリドミ」の制作のときも、「こういうことを伝えたい」ということだけをお話して、あとはお任せしました。
──“これを聴けば緑仙さんがわかる”と言っても過言ではない曲なのかな、と。
緑仙:ケンカイヨシさんはVTuberの文化に詳しいし、僕自身の性格だったり、どんな活動をしているかもすごく理解してくれてるんですよ。僕がやりたいことを本当に汲んでくれているし、ケンカイヨシ節もめっちゃ出ていて。“これ歌える?”みたいな挑戦を感じて、レコーディングのときは気合いが入りましたね。実際、バチバチに難しくて。冒頭のコールはケンカイヨシさんが歌ってくれたんですけど、「みんなが歌ってくれてるところが見えてくるね。ライブ楽しみだなー」って一人で盛り上がってたんですよ。僕はその横で“本当にライブで歌えるのか?”って思ってました(笑)。
──そして「天誅」はポルカドットスティングレイとのコラボ曲。めちゃくちゃポルカっぽい曲ですね!
緑仙:そうなんですよ。僕もポルカはずっと大好きで、配信やライブでもカバーさせてもらっていて。最初はプロデューサーさんを通して雫さん(Vo, G / ポルカドットスティングレイ)とやり取りさせてもらったんですが、その後、直接お話できる機会があったんです。僕は「映画で言えば、〇〇〇のあのシーンの感じで」みたいなことを言いがちなんですけど、雫さんは「わかるわかる」という感じでどんどん進めてくれて。歌録りのときもブースのすぐ横に座って、「上手いね! いいね!」って盛り上げてくださったんですよ。
──貴重な経験ですね、それは。歌詞に関してはどんな印象がありますか?
緑仙:僕自身の感情ではなくて、“こういう人っているよね”という感じで作っていったんですよ。雫さんと「この女の人、何を考えてんだろうね(笑)」とか言いながら、楽しく制作させてもらって。自分もスキルアップできたと思うし、配信の活動にも還元できることがあるだろうなって思ってます。それでリスナーのみなさんに喜んでもらえるんだったら、嬉しいことしかないですよね。VTuberは基本的に同業者としか関わっていないし、バーチャルという縛りがあるので、どうしても視野が狭くなりがちなんですよ。なのでポルカのみなさんと一緒に音楽を作れたことは、本当にいい経験になったと思います。
──「ヒロイン」(MBS/TBSドラマイズム『灰色の乙女』エンディング主題歌)はロックバラード調の楽曲。このテイストも緑仙さんのルーツですよね。
緑仙:そうですね。「ヒロイン」は、僕のルーツのひとつでもある“ヴィジュアル系の雰囲気があるバラードをやってみたい”というところからスタートしたんです。ボーカルにもかなり満足してますね。最近「高い音がいいね」と言ってもらえることが増えてるんですけど、もともとは“低音売り”というか、低い音が僕の良さだなと思っていて。「ヒロイン」はゆっくりしたテンポの曲なので、ボーカル的にもやりたいことができたし、“歌が上手い緑仙”が出てると思います。
──ディープな恋愛を描いた歌詞も印象的でした。これも緑仙さんの感情ではなく、架空のキャラクターを描いている?
緑仙:そうですね。自分の恋愛観はあっさりし過ぎてるので(笑)、歌詞に出てくる子の気持ちを考えるところから始まって。最初は被害者みたいな気持ちで歌ってるんだけど、だんだんと憎悪や理不尽な恨みが出てくるっていう。自分とは全然違うからこそ、歌ってて楽しかったです。
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