【インタビュー】fuzzy knot、始動から2年半の来歴と最新曲に込めたメッセージを語る「作品は時間を超えていく」
■天才ですけど努力の幅のほうがデカい人
■僕自身、田澤に背中を押してもらえた
── 一方の「ブルースカイ」は、「時の旅人」とは全く異なる明るい曲調で、爽快なロックナンバーですね。
Shinji:先につくったのはこっちのほうなんです。
田澤:Shinjiからは4月下旬にデモが送られてきましたね。「時の旅人」はその後、5月に入ってからでした。
Shinji:fuzzy knotもぼちぼち20曲ぐらいになるんですけど、まだまだ曲数としてライブでの選択肢がない中で。やっぱりライブで盛り上がる曲を中心につくっていきたくて。あと、ちょっとギターがテクニカルな曲が多いなと思っているので、この曲はシンプルにいけたらなと。ギターもザクザク弾いていますし、ソロもめちゃくちゃ難しいとかではなくて、ライブで爽快に弾けたらいいなというのをすごく意識して、この曲をつくりました。
──田澤さんは最初に「ブルースカイ」の原曲を聴かれた時、どういう印象を受けましたか?
田澤:突き抜けるような楽曲だなと思いましたね。さっき話したような“みんなSNSで喧嘩するなよ”とか、わりとネガティヴなニュースが飛び込んできていたのもあって、精神的に疲弊していたタイミングだったんですよ。そこに“明るい曲がきてもうたな”みたいな(笑)。“歌詞を乗せるのにどうしよう?”と思って。ひたすらデモを聴きながら散歩していたちょうどその時、めっちゃ天気が良くて、逆に泣けてきたんです。雲一つない青い空と、自分の疲れた心…元気な時はそういう空を見ると“俺も頑張ろう”みたいな気持ちになれるんですけど、ほんまにしんどい時は逆に泣けてくんねやみたいな。“じゃあ、それを歌にしよう”と思って書いた歌詞です。
▲Shinji (G)
──苦しさの中で生まれた歌詞だったんですね。
田澤:しんどいことはあるけど、晴れやかに立ち向かいたいなという歌ではあるんですけどね。やっぱりコロナが明けて…まぁ、明けてはいないんで、これはめっちゃ難しい表現なんですけど。一つ問題は終わったと。空は晴れた、夜は明けたはずなのに、別の戦いや問題がそこにはあって、すごくしんどいなと思い始めていた時期だったので。それを落とし込んでいこうかなという感じでしたね。嵐の前の静けさというか、これからまた絶対に苦悩は訪れる。だからこそ凛としていようじゃん、みたいな感じですかね。
──“越えたくない壁の ひとつやふたつ あったっていいじゃない?”というフレーズに救われる人もいるのではないでしょうか?
田澤:自分がしんどい時に言って欲しかった言葉かもしれないですね。発想を逆転して、“じゃあ、こういうふうに言ってあげたら、誰かのことを助けられるかな”みたいな。fuzzy knotに「Before Daybreak」という、夜明けを待っている曲があるんですけど、コロナ禍真っ只中の歌なんですね。僕の中で「ブルースカイ」はその続きであり、繋がっている歌なんです。夜明け前がいちばん暗いって言うから、“この暗さやしんどさを乗り越えようぜ!”と言ってやっと明けたけど、別の困難がそこには待っていて、という。
──それが現実ですよね。
田澤:そうなんです。やっぱりいろいろな正義がそこにはあって。シンプルに、マスクを取る/取らない、ワクチンを打つ/打たないみたいな。正義がクッキリすればするほど隔たりが大きく濃くなっていくので疲弊もするし。でも、自分らが複雑にしているだけで、本来はもっと全然シンプルやのになとも思ったり。
──ただ明るいだけの曲に終わらない、リアリティーと含蓄があります。
田澤:でも「ブルースカイ」という語感からくる印象や、ストレートで力強い曲調から、明るい曲だと思っていただくのも絶対に正解で。「海でありたい」と僕はよく言うんですが、浅瀬で遊ぶのが好きな人は全然それでいいし、そこでは小さい子らも遊べる。でも本格的にダイビングする人は、深く潜ってくれたら、そこにしかない景色が見えるはず。いろいろな楽しみ方をしてもらえたらなと思います。
Shinji:僕も歌詞にすごく共感できますね。たとえば10代の頃とか、女の子にフラレた時の青空って、もうどうしようもない気持ちになりますもんね。
田澤:まだ土砂降りのほうが“濡れて帰ったる!”って開き直れるんですけど、晴れられるとキツいよね。
Shinji:コロナが明けても“なんかね…”というのは、僕もすごく思っていて。これは長嶋一茂さんが言っていたんですけど、コロナで仕事がなくなって、いざ明けてもそんなに仕事が増えないと、“これって自分が悪いだけじゃないの?”と考えてしまうと。言い訳に聞こえてしまうかもしれないけど、音楽業界もコロナでCDがどんどん売れなくなって、明けたからといって前の形に戻ったわけでもないんです。
──たしかにそうですね。
Shinji:もちろん、逆にコロナによっていいこともあったなとは思いますけど。たとえば、観客の声援がすごく大事だってことに改めて気付けたのはそうですよね。慣れてしまうと分からなくなるので。そういったことをいろいろと考えさせられていたから、僕自身すごく共感した歌詞でした。タイトルだけ見たらものすごく爽やかな曲なのかなと思うけど。
田澤:うん。自分節と言えば自分節かもしれないです。やっぱ暗いんかい!みたいな(笑)。
──でも、闇の部分は大事ですよ。
田澤:歌詞に出てくる“真昼の月”って「Before Daybreak」の“月”なんですよ。ただ、皮肉にも、昼間やから明るくて見えへん。でも絶対にそこに月はいる。だから、たとえ見えなくとも、希望の光も絶対にそこにあるからっていう。
Shinji:なるほどね。
──“二度とない時を 美しく そして 大胆に 生きたい”という歌詞には鼓舞されました。
田澤:我ながらよう言うたなぁ(笑)。自分の死が射程圏内というか、年齢的にも切り離せないものになってきて。音楽家としての話でもありますけど、自分が終わる日がくるんだということを、どうしても見なきゃいけなくなってきている。そこへ向けてと考えると、やっぱり思い切りやりたいですね。雷も「せやな」って言うてます(※取材日は豪雨で、特大の雷鳴がこのタイミングで響き渡る)。
Shinji:アーティスト写真的にはこっち(※『BLACK SWAN』の資料を指して)のほうが、今日は似合うね(笑)。
▲田澤孝介 (Vo)
──ここからは少し過去を振り返りたいのですが、fuzzy knotの始動は2021年4月。Shinjiさんにはシドがあり、田澤さんにはRayflowerやWaiveなど別の活動がありますが、“それと違うものをやろう”ということではなく、“あくまでもやりたいことをやろう、いい曲をつくろう”というシンプルな動機でスタートしたんですよね。2年半が経とうとしている今、そこはブレない軸ですか?
田澤:そこだけはブレずにきているし、この先もブレない。形とか見た目が変わったとしても、そこには変わらぬ信念があって、根っこはブレないですね。
──作品ごとにヴィジュアルイメージを次々と変えてきたユニットでもあります。デビュー曲「こころさがし」(2021年4月発表)からミニアルバム『BLACK SWAN』(2022年7月発表)まで飛距離が凄まじいですし、今作「時の旅人」でもまた新たな扉を開けた感があります。この大胆な変遷は、結成時の計画通りなんでしょうか?
Shinji:いや、こんなつもりじゃなかったです(笑)。ただ、“二人がちゃんとやりたいことを楽しくやろう”というところから始まって、やりたい音楽を振り切ってやっていたら、“ヴィジュアル面でも振り切ろう”という話になったという感じですね。最初からこういう計画だったわけではないです。
田澤:でも、こうやって振り返って見ると、シングル「Set The Fire !」(2022年1月発表)は、あのミュージックビデオのヴィジュアルで絶対写真を撮っとくべきやったな。
Shinji:そう。ちょっと守りに入ってた(笑)。
田澤:行き当たりバッタリに見えるかもしれないですけど、“その時、いちばんおもろいと思うことをやろうや”という感覚は常にあります。だから『BLACK SWAN』でハジけたのかも。普通なら、アイデアとして出ても“今までのイメージが…”とかを考えて引っ込めるところ、逆にスタッフが背中を押してくれた気がするんですよ。「シンプルに、見て“カッコいい!”でいいじゃないですか。それを具現化するべきですよ」と言ってくれて、「じゃあやってみるわ」となったので。今後はどうします? やっていきます?
Shinji:『仮装大賞』みたいにはならないほうがいいと思うけど、その時々の曲に合わせたいですね。アレンジとかと一緒。やだなってことは絶対にやらないし、やりたいと思うのであればやる。
──では、Shinjiさんから見て、田澤さんのヴォーカリストとしての魅力は何でしょうか?
Shinji:何も知らずに傍から見ていた時は、ただの天才だと思ってたんですよ。でも、実際にこうやって一緒にやってみると、天才は天才ですけど、努力の幅のほうがデカい人なんだなと分かって、なるほどと。たとえば、ギタリストの僕がYouTubeとかを観ると、死ぬほどギターが上手い人っていっぱいいるんですよ。“この人、なんでめちゃくちゃ上手いんだろうな”とか思ってしまうんですけど、“なんで?”じゃないんです。めちゃくちゃ練習しているから上手いわけで。“あ、そこだ”と気付いたんですよ。忙しいとなかなかギターの練習ができなくて、レコーディングの時に弾くことが練習みたいな感じになってしまうんですけど、fuzzy knotを始めてからは、それじゃいかんなと思って。つまらないと感じるような運指やピッキングの練習もちゃんと取り入れるようにしたし、そこは僕自身、田澤に背中を押してもらえたところです。
──田澤さんから見たギタリストShinjiの魅力は?
田澤:僕もShinjiに対して同じことを思ってるんですよ。この人の探求心に自分と近いものを感じている。努力を努力だと別に本人は思ってないだろうし、僕もそう。歌の練習をしたくない時もありますけど、でも、せなあかんというか、したいからするのであって。好きなことをただ突き詰めていってるだけなんです。“俺、上手いっしょ?”というギタープレイをしてないだけで、めっちゃ上手くないと弾けないギターしか弾いてない。しかもめっちゃいい音で弾くから。“これだけのものを積み上げてくるのって、やっぱり努力したからやんな”という感動を味わっているんですよね、隣で。だから、今、Shinjiが言ってくれたのと同じように僕も、“自分も頑張らないとな”と思っているんです。
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