【インタビュー】fuzzy knot、始動から2年半の来歴と最新曲に込めたメッセージを語る「作品は時間を超えていく」
■「歌に合わせてギターを引っ込めるね」って
■そういうことが自然にできる人なんです
──今回のシングル「時の旅人」レコーディングはどのように進みましたか?
田澤:いつもバラバラなんですよ。Shinjiにはギターとベースとプログラミング、要はトラック全部を仕上げてもらいつつ、僕は僕で歌を録る。でも歌録りの時は必ずディレクションしに来てくれます。
──ディレクションではどんなことを心掛けましたか?
Shinji:毎回そうなんですけど、ツルッと頭から終わりまで通して歌ってますよね。田澤もいろいろな現場があるので、何回も歌わせると良くないことが多いかなと。
田澤:プロデューサー目線や(笑)。
Shinji:だから、たとえば“3テイクで終わり”と決めるとすると、田澤が歌っている最中に僕は、“ここはテイク1を活かす”とか“この部分はテイク2を”とか、採用するテイクを譜面に記しておくんです。
──録ると同時にOKテイクの選択もなさっているんですね。
Shinji:そうですね。「ここはめちゃくちゃ音程が良かった」とか「ここはニュアンスが良かった」とか「こういうのもあるよ」みたいな感じで、別テイクを田澤に聴かせてあげたり。そんな感じですね。
田澤:確固たるイメージを持って、というよりは、その場でいいのを拾ってくれてる、みたいな感覚なのかな。
Shinji:うん。事前に何も伝えないですし、今のところまだ、「この歌い回しを直して」とかいう場面に出会っていないんですよ。
▲田澤孝介 (Vo)
田澤:ほんまに。言われたことがあるのは音符の長さぐらいですね。僕の解釈で、小節の頭で切ったときに、「あ、そこは長く伸ばして歌ってくれていいんだけど」ってディレクションしてくれたり。
Shinji:その前に仮歌を録ってもらうので、もし“違うな”と思う部分があった時は、本番レコーディング前にLINEとかで「ここはこういうふうに歌ってほしいんだけど」って伝えてありますし。
田澤:そうそう。事前にすごくしっかりとつくり込ませてもらえるんですよ。デモが到着して、僕が仮歌詞で仮歌を歌って。コーラスワークもShinjiが入れてくれたもの以外に、僕が思い付いたものがあればそれを入れてみて。それを聴いたShinjiが「実際に歌ってもらったら、こっちのほうがいいと思う」ってメロディを変えてくる時もありますし。だから、土壇場でバタバタすることがないし、本番の歌録り自体は本当に早くてめっちゃ助かってます。
──田澤さんはもともと多彩な声色を持つヴォーカリストですが、fuzzy knotにおいては楽曲ごとに異なる主人公を演じ分けているような印象を受けます。「時の旅人」はどんな意識で歌われたのでしょうか?
田澤:自分本位、自分主体ですかね。弱っている部分は弱い自分で、怒っている部分は怒っている自分で。ギターソロ前とかは咆えるような感じで歌いました。別のキャラクターを演じる感覚ではなくて、自分の感情に重ねるだけなので。自分の怒り、自分の悲しみを演じる、なぞるという感じですね。
──歌詞の内容もそうですし、田澤さん自身が強く投影された曲、ということになりますか?
田澤:そうなるのかな。か細いところは、弱さの象徴として小鳥がさえずるようなイメージで歌っています。あとは、笛みたいに歌ってみたり。“ここは誰々みたいな発声の仕方”というのも試みたり。まぁ、誰の真似をしても結果的に発しているのは僕やから、僕の歌になるので。
Shinji:そう言えば、たしか“♪ひとつの叫びで”のところは、仮歌を聴いたときに田澤の歌にパンチがあり過ぎて。直後のギターソロがその音程と当たってたから、ソロをつくり直したんです。ピアノで弾いた歌メロだとそれが分からなかったんですよね。結果、ギターソロの入り方は、逆に落ち着いたものに修正しました。僕のギターも泣きで入ってきたら、二人とも泣いてて“うるせえ!”みたいになっちゃうから。
田澤:そこで僕の歌い方に対して、「少し抑えて」と指示することもできるし、その権利もあるのに、「田澤の歌に合わせてギターを引っ込めるね」ということが自然にできる人なんですよね、Shinjiは。仮歌詞時点の言葉はデタラメなんですけど、音の響きはそこで決まるし、それは曲を聴いた印象から生まれてきたもので。ソロ前は、叫びたくなるような音使いだったんですよね。どんどん迫ってくるような、鼓動が早まっていくようなあのアプローチは、デモの段階でできていましたから。
──ミュージックビデオも拝見しました。森に分け入っていくお二人の姿が神秘的で印象深い作品でした。
田澤:今回は僕の中に具体的なイメージがあった気がします。浮かんだ画は森というか、雨が降る湿っぽい屋久島みたいな場所で。
──序盤と最後に出てくる時計が意味深で心に残りました。
田澤:“時の”という言葉から、“時空を感じるギミックを一つ入れてほしい”というオーダーに至った気がします。地図も出てきますから、分かりやす過ぎるかなと思いつつ、でもパッと見て印象が結び付くことも必要やろうということで。
Shinji:映像監督と僕らとの打ち合わせの段階では、もっといろいろなシチュエーション案が出たんですけど、引き算することが多かったですね。「衣装や、ギターを持っている感じと合わないんじゃない?」ということで削ったアイデアもあったし。僕のなかでは、時計が指す時刻が“なんで12時5分なんだよ?”みたいなのも含め、少し意味深で、最後まで“何だったんだろう感”を残しながら謎めいて終わりたい、というのはありました。
──海で田澤さんが手を合わせる場面は、もう会えなくなった誰か、喪った他者への想いを表しているのかなと想像しました。
田澤:作品とか生み出したものを擬人化して捉えると、それもまた正解なんですよ、このシーンは。図らずも消えていってしまったものとか、自分が打ち出したかったようには打ち出せず、無念にも消えていってしまったものに対する弔いの気持ちもあって手を合わせているので。
──アーティストにとって、自ら生み出した作品はやはり命であり、それほど大切ということですね。
田澤:それが全てだし、それで評価を受けますしね。“ちゃんと伝わってほしいな”という気持ちもありながら、でも全てを伝えることが無理なことにも気づいているし、常にジレンマです。“伝わってほしいという気持ちを持つことさえも間違ってるのか”なんて感じる日もあります。
──お二人とも長いキャリアをお持ちのアーティストですが、聴き手との距離感や関わり方は伝える側としてどんな形が望ましいですか?
田澤:作品は受け取った人のものなので、自由に解釈してくださって結構です…と最近は表立って言うんですけど、意外と受け取る人たちは、「伝わってほしいことの“本当”を知りたい」とも言ってくれるので。であれば語ろうと。こういうインタビューの中で掘り下げていくことから、自分自身見えてくることもありますしね。
▲Shinji (G)
──Shinjiさんのスタンスはいかがですか?
Shinji:こうやって取材していただけるのはうれしいことなんです。ただつくっている段階のスタンスとしては、説明しなくても伝わる曲をつくりたい、というのがやっぱり根本にあって。単純に“あぁ、いい曲だよね”って伝わってくれたらいちばんうれしいですし、いつもそう願っています。
──「時の旅人」の歌詞のテーマのように、作品を受け取った人たちがSNSに感想を書き、そこから投稿者間にやり取りが生まれてハレーションが起きる時代ですよね。それについてはどうお考えですか?
Shinji:僕らはまだ動き出したばっかりだからそうでもないですけど、いろいろな人に僕らの音を聴いてもらうほどに、必ずアンチは多くなるだろうし。逆にそういう人が多くなればなるほど、成功していることの証なんだろうとも僕は思っています。“100人中100人が好き”という曲はなかなか…しかもロックで万人受けするのは難しいことも知ってるし。でも、そのなかの3人ぐらいが「めっちゃ好き!」というほうが、意外と強い曲だったりするんですよ。自分自身の経験としても、万人受けを目指してつくるより、振り切った曲のほうがたくさんの人に伝わったことが多くて。正解は分からないけど、深く考え過ぎない、というのが今のところの僕のやり方ですかね。
──SNS上で取り沙汰されることは気にはならないですか?
Shinji:僕、Twitter (現X)とかあまり見てないんですよ。
田澤:いい生き方!
Shinji:大きな理由として、野球の結果を意図せず知ってしまうのが嫌で(笑)。だから、巨人のアカウントをフォローしておきながらもミュートしてるんですよ。
田澤:ジレンマやな~(笑)。
Shinji:僕最近、Twitterで余計なことを一切書いていなくて。やっぱり文章が増えれば増えるほどアンチの人から“なんだお前”みたいな感じで叩かれやすいわけですよ。始めた頃はうれしくてたくさん書いてましたけど、あんまり好きじゃないなってことに自分自身気付いて。そこで戦うつもりもないですしね。今は宣伝でしかTwitterに現れないので、そのたびに300人ずつ減っていくみたいな、もったいない使い方をしています(笑)。
田澤:考察が作品を輝かせることって往々にしてあるから、SNSでのそれも全然いいんです。だけど、喧嘩すんなよっていう。“そういう考えもあるんやね”でいいのに、“それは違う!”とか、正解を知らない人たちが言い合ってるのが滑稽にうつってしまう。みんな仲良くすればいいのに、とは思いますね。
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