【速レポ】＜中津川ソーラー＞いとうせいこう is the poet、ダブポエトリーユニットが限界突破のお祭り騒ぎ「風に揺れろ」

昨年2022年に引き続き、RESPECT STAGEを解放と幸福で満たしてくれたのが、いとうせいこう is the poet (以下、ITP)だった。

◆ライブ写真

ITPはジャパニーズラップの第一人者でもあるいとうせいこう(words)が、ミュージシャンが奏でる卓越した即興音楽と共に自身の小説や詩、演説を読み上げ、リアルタイムでダブ処理を施すダブポエトリーユニット…と書くと小難しく感じるかもしれないが、楽しみ方は至ってシンプル。飛び込んでくる言葉と音に身を任せ、自由に踊ればいいだけだ。





夕方に差し掛かり、気持ち良い風も吹く中、ゆったりとメンバーが登場し、各々が足元を確かめた後、いとうせいこうの「OK! ITP!」という掛け声から幕を開ける「Jazterpeace」が鳴らされていったが、深く響き、グワッと持ち上げるグルーヴの響き渡り方がとにかく凄まじい。加えて、Watusi(B)と佐野康夫(Dr)によるリズム隊、折り重なる會田茂一(G)のフレーズにコバヤシケン(Sax)と大山渉(Tp)によるホーン隊の調べも美しい。さらには龍山一平(Key)の存在感も抜群だ。

“血が流れているんだ”や“怒りに打ち勝つ”といった強烈な言葉もいとうせいこうの口から放たれ、胸の奥に火が灯されるようなエネルギーを受け取り、観るものすべての体温がグッと上昇していく。




タイトルコールから優しいキーボードの音色が響き、“音の振動で解放しろ”といとうせいこうが促す「Dub is」は、たとえ身構えて聴いていたとしてもその心を溶かすような心地よさ。そのスケール感は素晴らしく、近づき難いような、距離をとってしまうようなニュアンスは一切ない。誰かと共有したくてたまらない感覚に観客たちは酔いしれた。その即興性がゆえ、同じ場所、同じ時間、同じメンバーで演奏したとしても、また違うモノになるIPTの音楽は、刹那的とも言えるが、いつまでも抱きしめられる確かな感触を与えてくれるのだ。

そして少しトーンを落として「conquerer 〜 Waiting in Vain」へ。ゆったりと大きなグルーヴの中、語りかけるように言葉を紡いでいたいとうせいこうが、ハリのある歌声を披露した瞬間こそハイライトのひとつと言っていいだろう。オーディエンスは思わず大きな歓声を上げ、あちらこちらから喝采が送られる。龍山一平のコーラス、會田茂一のカッティングも絶妙な彩りを加え、より豊かな音として広がっていった。



そして、終盤は＜中津川 THE SOLAR BUDOKAN＞だからこそのマジックの連続だった。

「おめでたい日なので、ゲストをいろいろ呼んじゃおうか」──いとうせいこうの呼びかけから、＜中津川 THE SOLAR BUDOKAN＞の首謀者である佐藤タイジが登場、新曲「一本の樹木は森である」のセッションへ。本能を呼び起こすリズム、いとうせいこうがヒートアップすれば瞬時に呼応する楽器隊の連動、そして巧みなタイジのギタープレイも加わってRESPECT STAGEを包み込んだ前半の流れも秀逸だったが、後半へ進むにつれて、ひとつの生命体のようなうねりがバンド全体に生まれて圧倒的。メンバー個々がお互いを感じながら高みを目指し、いとうせいこうの「風に揺れろ！」という絶叫に無数の観客が両手を突き上げた瞬間は、本当に堪らなかった。

ラストは残り15分という時間を存分に有効活用すべく、「1曲を15分やります」といういとうせいこうの宣言から「DEAR A」を多面的に展開した。



佐藤タイジもそのまま残り、スペシャルな編成で締めくくりかと思いきや、そこから拡声器を持った社長(SOIL&“PIMP” SESSIONS)、タンバリン片手に探りを入れながら姿を現したうじきつよし、上裸でハンマーを持ったTOSHI-LOW (BRAHMAN / OAU)も加わるという誰も予測できない状況。楽しすぎたのだろう、佐野康夫が大笑いしてしまうシーンもあったほどだった。

もちろん、観客も大興奮の連続で限界突破するお祭り騒ぎ。リアルタイムで進化を遂げるITPは、この日もそれまでのハイライトをしっかりと更新してくれた。

取材・文◎ヤコウリュウジ
撮影◎三浦麻旅子