【インタビュー】KIRA、アルバム『Birthday』は「ポップに振り切りました」
■世の中、病んでる人も多いと思うんですよ
■「生まれ変われるよ」と言ってあげたい
——その頃はどんなアーティストになろうと思ってたんですか?
KIRA:それもいろいろ変化してるんですよね。最初はR&Bシンガー、それこそSUGARSOULのaicoさんみたいになりたいと思ってたんですど、マカオで歌ったことで、歌謡曲の歌い方も覚えて。親の影響で中島みゆきさんとかも好きだし、そういうルーツも自分のなかにあったんですよね。曲自体は、ずっと作ってたんですよ。洋楽のインストに歌を乗せるところから始めて、クラブで出会った同世代のビートメイカーにトラックを作ってもらったり。ただ、歌詞を書くのがめちゃくちゃ苦手だったんです。恋愛のことでムカついたり、「別れたいのに別れられへん」みたいなことは書けたんですけど、自分自身が本当に思っていること、「こういうふうに生きていきたい」という歌詞は難しくて……。あと、2014年にメジャーデビュー契約した後は、「リスナーを楽しませる歌詞にしたい」と思って、「こういうふうに書くと需要があるんじゃないか」という感じになってしまって。歌詞についてはずっと悩んでましたね。
——試行錯誤を続けてきた、と。
KIRA:そうですね。実はプレッシャーにめちゃくちゃ弱いタイプだったんですよ。デビューして音楽でごはんを食べれるようになっていた後、「商品として完成度を高めるにはどうしたらいいんだろう?」みたいになって。だいぶ落ち込んだ時期もありました。
——スランプを抜けるきっかけはなんだったんですか?
KIRA:けっこう最近なんですよ、じつは。2021年にビートジャック(既存の曲のビートにオリジナルのラップや歌を乗せるスタイル)をやったんです。自分の相方みたいな存在の下拓くん(プロデューサー/DJ)とYouTubeの企画で始めたんですけど、どんどん歌詞を書かなくちゃいけないから、「余計なことを考えるのをやめよう」みたいになって。たとえば目の前にあるペットボトルの飲み物のこととか(笑)、履いてるスニーカーのこととかを歌詞にしていくうちに、書くのがラクになってきたんです。その前の数年はメンタルも良くなかったし、体調を崩したこともあったんですけど、ちょっとずつ復活してきて。ビートジャックをやったのは本当に良かったと思いますね。
——アルバム『Birthday』は、メンタルもフィジカルも上がっていた状態で制作できた?
KIRA:そうですね!今回のアルバムに関しては、2015年のファーストアルバム(『LISTENER KILLER』)以来のポップアルバムにしたかったんです。もともと私はポップアーティストだと思うし、「いろんなジャンルの曲を歌って、服もめっちゃド派手」みたいな感じが合ってると思っていて。でも、一時期はちょっとクールなブランディングをやろうとしていて、MVを白黒の映像にしたこともあったんですよ。その頃はお客さんともちょっと距離があった気がしていて。このタイミングでもう一度ポップアルバムを作って、ちょっと離れていた方々にも聴いてもらいたいなと。よく「ファーストアルバムは越えられない」なんて言いますけど、自分的には今回のアルバムが一番ヤバいと思っています。
——タイトルを『Birthday』にしたのはどうしてなんですか?
KIRA:今回のアルバムは曲の作り方も変えて、年中セッションしてたんです。ワンコーラス分のデモをたくさん作って、「この中から選んで、アルバムにしましょう」という話になって。3月のリリースになりそうだったので、だったら誕生日(3月23日)がいいなと。あとはやっぱり、ここ数年のスランプですね。落ち込んでしまった時期を抜けて、生まれ変わったとうのかな。そういうバイブスで仕上げたアルバムなので、『Birthday』というタイトルが一番いいなと。今もそうですけど、世の中、病んでる人も多いと思うんですよ。「みんな一緒じゃなきゃいけない」という雰囲気だったり、縛られる感じもしんどいし、自信を失くしている人が多い気がして。そういう人にも、自分と同じような人にも「生まれ変われるよ」と言ってあげたいなという気持ちもありました。
——自己肯定感が上がりまくるアルバムですからね!楽曲についても聞かせてください。まずは先行配信された「Birthday Cake feat. BLOOM VASE」。アルバムを象徴する超ポップなナンバーですね。
KIRA:ポップアーティストだってことを証明しよう、自分でももう1回認めようと思って作った曲ですね。R&B、ヒップホップの界隈には「ポップはダサい」っていう感じがあるような気がするんですけど、正直、私はコアなアーティストになろうと思ってなくて。ファーストアルバムに入っていた「JEALOUSY」という曲を作ってくださったプロデューサーのRYUJAくんに連絡して、「また一緒にやりませんか?」と伝えて。ポップで明るいキラキラした曲なんですけど、2023年のKIRAのイメージを表していると思います。
——「たからもの」の歌詞も印象的でした。《あきらめたら負け》《誰かの為なら 乗り越えるよ》という生々しいワードがちりばめられていて。
KIRA:下拓くんのスタジオでプリプロしているときに、「とりあえず歌詞をハメますね」ってパパパパって書いた歌詞なんですよ。独り言みたいな感じというか、そのときに思っていたことがそのまま出ていて、「どうしようかな」と思ったんですけど、ほぼ直さず歌詞にしてます。キャリアが長くなると、やっぱり苦しいときもあると思うんですよ。でも、辞めるということはないし、とにかくがんばっていかないと。それまでの書き方だったら、「あなたはひとりじゃないよ」というメッセージを込めたと思うんですが、「たからもの」はそうじゃなくて、私のことを包み隠さず“ちょっと恥ずかしい感じも含めて”歌っていて。この曲に関してはそれでいいと思ったんですよね。
——なるほど。「Hedo」にも強烈なフレーズが並んでいて。冒頭が《あークソつまらん他人の評価》っていう。
KIRA:この曲は説明が難しいんですけど(笑)、アーティストとして活動してきて、関わってくれる人たちとの距離の取り方がわからない時期があったんです。いちばんひどいときは、メジャーレーベルの担当の方に「あなたは会社員で、仕事だからやってるんですよね?」みたいなことを思ったり。本当にひどいヤツだったなと思うんですけど、経験を重ねる中で、「関わってくれた人たちは、みんな私を応援してくれてたんだな」と気付いて。活動をサポートしてくれる方もそうですし、もちろん曲を聴いてくれる方、チケットを買ってライブに来てくれる方に対しても、すごいリスペクトがあるんですよね、今は。「Hedo」は「付き合い方を間違えちゃダメ」って自分に言ってるような楽曲でもありますね。
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