【インタビュー】アジカン、15年越し『サーフ ブンガク カマクラ (完全版)』に成長と“らしさ”「やっと清書できたわ！みたいな」

■ 前回、実際に聴きながら
■江ノ電に乗る人が多かったんですよ

──そうなんですね。そして最後の新曲は、アルバム全体では14曲目になる「和田塚ワンダーズ」。これはグッと来る曲ですね。

後藤：そうですね、僕もすごく好きです。自分でデモ作ってて、泣いちゃいました。普通に。

──なにせ唄いだしから＜派手に泣いて良いぜ＞ですしね。

後藤：そうです。これは最初の2行で「書けた！」と思いました。すごくいい唄いだしになったな。

──このセンチメンタルな感じは、15曲のアルバムで言うと最後の「鎌倉グッドバイ」につながる流れになりますよね。そして＜それはだって命の在処だよ＞という歌詞は、シリアスであり、アジカンらしいなと感じました。そこも込みで、ちょっと大人な感じがします。前回の31歳当時の『サーフ』ではちょっと書かなかっただろうなと。

後藤：たしかに。コードの運び方とかもずいぶん洗練されたなという感じが、自分たちでもします。ブリッジへの行き方も、帰ってき方とかも、強引さがなくていいなぁと。

──そうですね。まあ若い頃は、その強引さがまたいいんだけど。

後藤：そうそう。やってみたい！で乗り越えてくのも、すごく良くて。でも今はそれと違ってて良かったなとも思うし。昔と同じ手法を取っちゃうと、それを合わせてわざとやるのはセルフパロディになっちゃうというか。そういうのじゃなくて新しい方向に行きつつ、みたいなところですね。だから「和田塚ワンダーズ」もそうだけど、新しく作った曲にはセブンスコードとかめちゃくちゃ出てきますからね。

──聴き比べると、前回の『サーフ』は一発録りだったため、仕上がりがラフだったり、一気に演奏したままのサウンドだったけど。今回は音色もアレンジも詰められていて、それをしっかりと広げながら録音してますよね。

後藤：はい。コーラスワークも、ちゃんと盛り上がっていくように段階踏んでく、みたいに作りましたし。

──そこでは喜多くんのハイトーンも大活躍で。

喜多：そうですね。新しく唄ったところもあるし、コーラスもちょっと増えたし。前作はほんとにアンプ置いてる部屋を開けっ放しにして演奏して、ハウりまくってる曲とかあったから、今回はそのへんをどうしようかな？というのはありましたけど。でも臨場感良く録れたかなと思います。ちょうどいい塩梅で。「由比ヶ浜カイト」「鵠沼サーフ」とかは、とくに。

──それにあの頃は変拍子を入れたりするのを「さあ、ここだ！」みたいな感じでやってたけど、今はそれもバンドとして当たり前のものとして演奏してますよね。

喜多：（笑）あの時は、ほんとにやってみたくてやってましたから。

──その血気盛んなところもいいんだけどね。

後藤：「変拍子なんて偉くないぞ！」と言ってやりたいよね。誰だってできるんだから、そこで7数えればいいんだから、って。

伊地知：まあ、あの時はみんなでそういうモードだったんですよ。

喜多：そうそう。ちょっとヘンなことやってやろう、というね。

伊地知：前回はそのあとのツアーで演奏して、かなり洗練されたところもあったんですよ。今回はそこからアレンジは変えずに録ってるので。そこは成長してますね。

後藤：サウンド的にもめちゃくちゃ手ごたえありますね。昔出したのはデモ集で、今回やっと清書できたわ！みたいな。

──うん、だいぶ大人になってからの清書だけど、それだけのものになっていると思います。で、今回の初回限定盤には楽曲解説と「お散歩MAP」というものが付くんですね。

伊地知：「お散歩MAP」は僕が書いてます。

喜多：そう、潔の監修みたいな感じなんです。地元民が勧めるスポットを15駅分付けたら面白いんじゃない？というゴッチの案で。それで潔が頑張ってくれて。

山田：実際に、聴きながら江ノ電に乗る人が多かったんですよ。前回のアルバムを出したあとは。

喜多：そうそう。そうやって巡ってくれる方が多かったんで。

後藤：だから旅のしおりを作ろうか、みたいな。ほんとは「お散歩MAP」で潔の自宅に星を打ちたかったんですけど、それはちょっと却下ということで。

伊地知：当たり前でしょ！

──（笑）ともかくこれをツアーで聴けるのが楽しみです。何たって4人だけだから、ロック・バンドとして素のままのアジカンが堪能できそうですね。

喜多：うん。ツアーは、ひさびさに4人だけで廻ろうということと、たぶん『サーフ』は全曲やると思います。そのぐらいしか決まってないですね。あとは、どの曲を足すかですね。

後藤：そうですね。もしかしたらオープニングのSEが反町隆史の「Forever」かもしれない。

喜多：（笑）ドラマの『ビーチボーイズ』（1997年）の主題歌のね。サーフ感を出そうとして……。

山田：もう、いろんなサーフ感が混ざっちゃってる（笑）。ウィーザーなのか何なのか、わかんないよ。

後藤：俺たち、今回のアーティスト写真で縦じまのシャツを着てるのはビーチ・ボーイズ（アメリカのサーフロック・バンド）へのオマージュなんですよ。だけど……反町を流したら、「そっちのビーチボーイズじゃないよ！」って言われちゃうよね（笑）。ともかく、いいツアーにしようと思ってます！

取材・文◎青木 優
撮影◎大橋祐希