【ライブレポート】中嶋ユキノ、<アコ旅2023~新しい空の下で~>に20年の音楽人生で培ってきた信念とぬくもり

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シンガーソングライター・中嶋ユキノによるアコースティックライブのツアーシリーズ<アコ旅>。最新作『新しい空の下で』を携えた<アコ旅2023~新しい空の下で~>では、パーカッション・若森さちこ、ギター・⾨⾺由哉、ベース・⼩川悠⽃、のサポートメンバーと共に全国9ヶ所を回った。ファイナルの東京・SHIBUYA PLEASURE PLEASURE公演は、彼女が20年の音楽人生で培ってきた信念をじっくりと味わえる、非常にぬくもり溢れる時間となった。

観客のクラップに乗せてバンドメンバーが音を重ね、新作の1曲目である「はじまりの鐘」でライヴがスタート。ポップかつエネルギッシュなサウンドスケープのなかで、地に足のついた堂々たるヴォーカルが高らかに響く。中嶋が最新作の収録曲だけでなく過去の楽曲も4人編成でリアレンジしながら披露する旨を明かすと、続いて披露したのは2017年にリリースした2ndフルアルバム『空色のゆめ』の収録曲「伝わんないと意味がない」。きらめきに満ちたピアノとキレのあるバンドの演奏も、歌詞に綴られたメッセージをまっすぐ伝える。すると間髪入れずにR&B的なグルーヴが心地よい「All or Nothing」へ。中嶋の遊び心が伝わる歌声もギミックになっていた。







ツアーの各公演で、各地の方言を用いてメンバー紹介をしていたと話すと彼女は、ファイナルの東京では総集編として仙台弁、広島弁、富山弁でそれぞれのメンバーを紹介。和気あいあいとした空気でトークを繰り広げる。そんな空気感は、この日の演奏にも生きていた。「虹」はアコギやカホン、パーカッションなどのアコースティック色の強い楽器を用い、星空の下のような静けさと穏やかさを表現する。サポートメンバーという立ち位置ではあるものの、この4人で音を出すこと自体を楽しんでいるように見えた。そして3人が奏でる音と向き合い時に寄り添うように歌う中嶋の声は、とても可憐で優しい。

「誰かにそっと」では包容力のあるコントラバスの音色と、ドラマチックに展開するパーカッションがヴォーカルを支え、「好きで好きで」はラテンとピアノポップが融合した大胆なアレンジが楽曲の新しい魅力を生み出していた。間奏では情熱的なパーカッションプレイで会場も湧き、中嶋の芯のある歌声は躍動感のあるサウンドスケープと好相性であることを再確認した。



ツアーのエピソードトークに花を咲かせた中嶋は、エレアコの演奏に乗せてハンドマイクで1stフルアルバム『N.Y.』の収録曲「時計の針」を歌唱。歌詞に綴られた心情を瑞々しく表現する彼女の歌声は、ただただ真摯だ。だからこそ聴き手の我々は、安心して楽曲の世界に入り込み、身を任せることができる。切なさが描かれた楽曲に身を埋めながら、切なさの向こう側にある想いを見つめながら歌う彼女。その熱のこもった視線の先を想像しながら、一言一言を心のなかで噛み締めた。

場内の観客がどの都道府県から訪れてきたのかを尋ねたコーナーの後は、自身で歌唱しながら、慣れ親しんだという『みんなのうた』と『おかあさんといっしょ』の楽曲の話題に花を咲かせる。そして『みんなのうた』の楽曲の書き下ろしに憧れを抱いていたことを明かすと、2021年に同番組へ起用された「ギターケースの中の僕」と、同番組を意識して書き下ろしたものの起用には至らなかったという「お・ふくろうママの歌」の2曲を披露した。特にファンタジーを主体にした後者の歌詞は、中嶋のリアルな熱が封じ込まれることで“違う生まれ同士でも、分け合いながら寄り添いながら過ごしていこう”というピースフルな願いとして、力強く切実に響いた。







さらに彼女は、日本武道館近くの小料理屋でアルバイトをしていた頃の話を始めた。当時有線で唯一リクエストできた自身の楽曲「桜ひとひら」を店内に流すも、なかなか客が強い関心を示してくれず、悔しい思いを重ねていたという。そして帰り道、日本武道館の前でアカペラで同曲を口ずさみ、“きっと必ずこの曲を武道館で歌うんだ”と願掛けをしていたことを明かした。“今でもその夢を追いかけ続けています”と告げて歌い出した同曲は、彼女が今まで歩んできた人生やその中で感じてきた様々な思いが歌声に滲む。その中心にあるのは、音楽への絶え間ない愛情だったのだろう。どこまでも純粋に音楽と向き合う彼女に、目を離すことができなかった。

自分がインタビューで予期せぬダジャレを発してしまったというエピソードと、プロデューサーを務める浜田省吾とメールで交わした会話に関する小話を挟むと、観客へ“ここからは一緒に(座席から)立ち上がって楽しんでいただければと思います!”と呼び掛け、ライヴは終盤戦へ。「夏のせい」はバンドサウンドと多重コーラスで潮風のような爽やかさを呼び起こし、メンバーのソロ回しで勢いをつけて、中嶋がアコギを構えポップソング「HAPPINESS」になだれ込んだ。ギターの⾨⾺と背中合わせになりギターをプレイするなど、彼女自身もバンドのグルーヴを存分に楽しんでいた。「なんでなの!?」では観客にシンガロングを求め、さらに会場の一体感を強める。彼女の“多くの人を巻き込む力”を目の当たりにする一幕だった。











そんな彼女の人間力が発揮された熱演に、客席からはなかなか拍手がなりやまない。彼女は笑顔を見せながら、久しぶりに一緒に歌えたことの喜びと感謝を告げた。本編ラストはアルバムの表題曲「新しい空の下で」。《乾いた大地にも 凛と咲く野花のように 強い私でありたい》という歌詞の一節を体現するような、非常に気高い佇まいだった。





「斜め45度」で幕を開けたアンコールは、続いての「ALL FOR ONE」で観客が興奮冷めやらぬといった様子で次々と座席から立ち上がり、そのシンガロングはゴスペル並みの迫力と多幸感で満ち溢れた。その光景に“泣いちゃうよ!”と感動を示した中嶋は、“皆さんの歌声を聴けて本っ当にうれしいです”と客席に賛辞を贈り、この日の締めくくりとしてライヴ後の心境と音楽活動の幸せを綴ったミドルナンバー「時がたっても」を届ける。心に生まれた不安を認めながらも前向きな気持ちを忘れず、自然体であたたかい。そんな歌声とサウンドは、中嶋ユキノというアーティストの真骨頂にも感じられた。バンドメンバーやスタッフと力を合わせ、音楽を通して観客と思いを通わせた今回のツアーは、彼女にとってかけがえのないものになったのではないだろうか。これまで、様々な喜怒哀楽を歌い続けてきた彼女だからこそ迎えられた、幸せに満ちた時間だった。



取材・文◎沖さやこ
写真 ©︎Road & Sky

  ◆  ◆  ◆

<アコ旅2023~新しい空の下で~>@東京・SHIBUYA PLEASURE PLEASURE

■バンドメンバー
中嶋ユキノ (Vo/Key/Gt)
若森さちこ(Per/Cho)
門馬由哉(Gt/Cho)
小川悠斗(Ba/Cho)

■セットリスト
01.はじまりの鐘
02.伝わんないと意味がない
03.All or Nothing
04.虹
05.誰かにそっと
06.好きで好きで
07.時計の針
08.ギターケースの中の僕
09.お・ふくろうママの歌
10.桜ひとひら
11.夏のせい
12.HAPPINESS
13.なんでなの!?
14.新しい空の下で

EN1.斜め45度
EN2.ALL FOR ONE
EN3.時がたっても

ミニアルバム『新しい空の下で』

2023.3.15 Release
SECL-2689/¥1,980- (税込)・¥1,800- (税別)

[収録曲]
01. はじまりの鐘
02. なんでなの!?
03. 誰かにそっと
04. 虹
05. All or Nothing
06. 新しい空の下で

<中嶋ユキノ アコ旅2023 〜新しい空の下で〜

2023年3月19日(日) 仙台 darwin
時間:開場 16:30 / 開演 17:00

2023年3月25日(土) 福岡 ROOMS
時間:開場 16:30 / 開演 17:00

2023年4月2日(日) 札幌 cube garden
時間:開場 16:30 / 開演 17:00

2023年4月8日(土) 大阪梅田 BANANA HALL
時間:開場 16:30 / 開演 17:00

2023年4月9日(日) 愛知名古屋 BL cafe
時間:開場 16:30 / 開演 17:00

2023年4月15日(土) 富山 富山県民小劇場 ORBIS
時間:開場 16:30 / 開演 17:00

2023年4月22日(土) 広島 Live space Reed
時間:開場 16:30 / 開演 17:00

2023年4月23日(日) 岡山 MO:GLA
時間:開場 16:30 / 開演 17:00

2023年4月27日(木) 東京 SHIBUYA PLEASURE PLEASURE
時間:開場 18:30 / 開演 19:00


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