【インタビュー】GLASGOW、2nd EPに求めた積極果敢な変化「これこそが今のロックなんだよって」
■ロックバンドに対する憧れを詰め込んでいた
■これからは憧れられる存在にならないと
──今回のEPは全6曲中、アラタニさんと藤本さんがそれぞれに作曲した曲が3曲ずつ収録されていますが、歌詞は全曲、藤本さんが書いています。曲作りは結成した時からそのスタイルだったんですか?
藤本:最初からそうでした。
アラタニ:僕はボーカルなので、歌メロ先行と言うか、自分の中で気持ちがアガるメロディをまず作って、コードに乗せてって感じなんですけど、藤本は全員のアレンジを考えてから、メロディを乗せることもあって。
藤本:弾き語りとデモの違いみたいなことですかね。
──デモはけっこう作り込むんですか?
藤本:いえ、ざっくりですね。曲のイメージを伝えられるぐらいのクオリティはあるのかな。
アラタニ:それを聴いた上で、全員で「せーの」でやってみるっていう。
──アラタニさんは弾き語りで?
アラタニ:はい、メロディがほぼできた状態で聴いてもらいます。ただ、アレンジはみんなの意見を聞きたいというか、歌メロを立たせてくれるアレンジという意味では、2人に任せれば間違いないと思っているので。「ここはこれで」みたいなことはほとんど言わずに、「このメロディでやりたいんだけど、みんなはどう思う?」という作り方が多いですね。
──一般的に歌詞はボーカリストが書くことが多いと思うのですが。
アラタニ:そうかもしれないですね。ただ、「こういう歌詞を書いてくれ」とは、いつも藤本に言うんですよ。たとえば、「Your song」は、「いろいろな考え方があるだろうけど、とにかく明るい歌詞にしてくれ」と言いました。それから、できた歌詞をもらって、「ここはちょっと」とか「この歌詞はさ」みたいに詰めていくんです。藤本と僕が高校からの付き合いってこともあって、それぞれが作ってきたものに対して、お互いに“おまえの中の、あの要素を出したんだな”みたいなことがなんとなくわかるんですよ。たとえば、“あの時の元カノの話だね”みたいに(笑)。どう? 当たってるでしょ。
藤本:……そうだね。確かに「FLASHBACK」の“エマ・ストーンが歌って 泣いた僕を見て笑う仕草を”というくだりは、実際に元カノとの間にそういうことがあったんですけど、それはアラタニも知っているので。
アラタニ:“あぁ、映画を見に行った時の、あの話ね”とか、“この歌詞は、あの時のあれか”とか。藤本の日記を読んでいる感覚に陥ることが多い。だから、藤本の経験だけじゃなく、「こういうことも言ってほしい」とたまにオーダーというか、相談するんでするんです。
──「Your song」は、“優しい歌は涙が乾くように速くしよう 君を待ってたよ”という歌詞がパンチラインなんじゃないかと思うのですが。これはGLASGOWがリスナーに音楽を届ける時の基本姿勢なんでしょうか?
アラタニ:この曲は最初、アンセムじゃないですけど、ライブの最後にやったとき、お客さんがずっと手を上げられるような曲にしたいということと、ファルセットを使わずに自分の地声でどこまで叫べるかってことを考えて作ったんです。なので、自分達の中で希望に満ちた曲にしたいなとはなんとなく思っていて。なおかつ、この曲ができたのは昨年の年末から今年の年始にかけてだったから、今年からがんばるぞって気持ちもありつつ、みんな、制作に追われてかなり疲れていたってこともあって、自分達を奮い立たせるような曲にしたいということを藤本と詰めていったんです。それが結果的にお客さんに対しても奮い立たせるような歌詞になってくれたので、今回、一番気に入っています。
▲長谷川翔(Dr)
──藤本さんの書く歌詞は、具体的な景色や心情を言葉にしながらも、決して説明過多にならずに含みを持たせつつ、曲のシチュエーションや、そこに込めた思いが浮かび上がるように書かれていると思うのですが、歌詞を書く時のポリシーみたいなものはあるんでしょうか?
藤本:そのまま言いたくないっていうのはありますね。以前、スピッツの考察記事みたいなのを読んだら、“スピッツの歌詞って謎めいているにもかかわらず、伝わるところがすごい。それとは反対にスピッツの人気が盛り上がってきた1990年代後半以降のJ-POPは、「好きだー」という表現が覇権を取ることが多かった。でも「好きだー」って言えるんだったら、曲にする必要はないだろう”みたいなことが書かれていたんですけど、その通りだと思って。せっかく音楽をやるんだから、奥ゆかしさみたいなものがあったほうがいいと僕も思っていて。わざわざ音楽を作って、歌う理由って、恥ずかしくて言えないからだと思うんですよ。だから、“僕はこう思います。こうだ。こうだ”って答えを出してしまうのはなんか違うなという気がして。
アラタニ:要するに“愛している”と言うよりも、“月がきれいですね”と言いたい派なんでしょ(笑)?
藤本:ひと言で言ったね。そういうことなんですけど(笑)。
アラタニ:たぶん藤本の中で、今言った“愛している”みたいな照れ臭い言葉を、僕が歌うことを想像して書いてくれてるところもあると思うんですよ。
藤本:それはありますね。アラタニはめっちゃシャイなんですよ。だから、アラタニが絶対言わないことを歌詞にしても、絶対、気持ちは乗らないなって思うんですよ。
アラタニ:そうですね。“愛してるぜー”と僕が高らかに歌うことはまずないですからね(笑)。
長谷川:確かにね。
──「Trooper」には、“最近は言葉にすること 恥ずかしくないと思えたよ”という歌詞がありますが、ちょっと心境が変わってきたんですか?
藤本:日々暮らしている中で、自分が思っていることや感じていることを正直に人に話すことに対して、前よりも前向きに思えるようになったというのもありますし、歌詞も以前に比べたら、よりイメージしやすいものになってきたと思います。“自分の中だけでわかってればいい”という哲学が、年齢を重ねたせいなのか、“そうでもないのかも”と思えるようになったところはありますね。考えてみると、尖った芸術に感銘を受ける一方では、しっかりマスに向けたものに対しても、他のみんなと同じように“わー、すげえ”と感動したこともあったので。自分が発信する側になったとき、あまり恥ずかしがりすぎるのも違うかなって思うようになったところもありますね。
──歌詞の話をもう少し聞かせてください。「ラウド・クワイエット・ラウド」に“こんなに寂しい日々を なぜ僕らは生き続けるか 泣き続けるか知らない”という歌詞があるのですが、なぜそんなに寂しいのか、そして泣き続けるのかちょっと気になりました。
アラタニ:藤本っぽいよね(笑)。
藤本:コロナ禍で作った歌詞なんですよ。普通につつがなく日常生活を行えるぐらいの社会性はあるんですけど、それでもやっぱり“楽しい!”とか“最高!”とかってなるのは、音楽だったり、それを通してのお客さんとのコミュニケーションだったりするんです。それが自分とっての生き甲斐だし、表現の方法だしって、この3〜4年ぐらい感じていて。それがコロナ禍によって、完全に断たれてしまったわけですよ。もちろん、コロナ禍の歌として作ったわけではないんですけど、そのことが大きかったですね。“メロディがただやまない夜があって 笑いあったり抱き合ったりしてたっけか”という歌詞のおさまりも良かったので、流れでそういう表現になりましたね。
──他に、今回こんな新しいことを試してみたという曲はありますか?
アラタニ:それを言ったら、「lostmusic」かな。
長谷川:今までとは違うよね。
──長谷川さんは「J-POPの要素が一番強いと感じた」とおっしゃっていましたね。
藤本:フレーズはポップスとして一番まとまっていると思います。ギターだけ浮いてますけど、いい意味で。いや、俺はいい意味でと思っているけど(笑)。
長谷川:めちゃめちゃいいと思うよ。
アラタニ:全員オアシスも好きで、オアシスががっつり作る泣きのバラードってあるじゃないですか。僕らはそういう曲が得意だと思っていたんですけど、最近は泣かせすぎる曲よりもさらっと切ない曲が流行っているというのが、僕の中でなんとなくあったので。「lostmusic」ではさらっと口ずさめて、なおかつ「いいメロディだよね」って言ってもらえるものを目指したってところでは挑戦だったと思います。
藤本:そんな邪(よこしま)なことを話しちゃって大丈夫なの? 流行りの音楽みたいなことを(笑)。
アラタニ:いや、チャレンジだから。口ずさんでほしいってことを考えたんですよ。これもめっちゃ邪ですけど(笑)、TikTokで流行っている曲の中に、つい口ずさんでしまう曲ってあるじゃないですか。そういう位置づけの曲ですね。カラオケで歌ってほしい。そういうイメージです。
──全然邪じゃないと思いますよ。音楽を作る人として、そういうところに挑戦したいという気持ちはあって当然ですよね。
アラタニ:僕は最近、それが強いなと思います。
──楽器隊のアプローチについても聞かせてください。
長谷川:繰り返しになっちゃいますけど、これまで以上にメロディと歌詞をより際立たせるってところにかなりフォーカスしました。それは全曲を通して言えると思います。たとえば、普通サビって、ライドシンバルを鳴らしたり、ハイハットをオープンにしてっていうのがセオリーだと思うんですけど、「Trooper」のサビは敢えてハイハットも閉じたまま、タイトな8ビートに徹しました。三声のコーラスを聴かせたいと思ったから、ドラムは後ろに下がることを意識して、逆にギターソロに入るところで爆発する。歌が入っているところは歌を聴かせて、歌が入っていないところは、自分がやりたいことやバンドのカッコいいところを見せるという考え方ですね。オルタナって部分を残したかったから、そこをどうおもしろく聴かせられるかは、2人が持ってきたフレーズと自分のドラムを照らし合わせて、せめぎあいながら作っていきました。
藤本:逆にギターは好きなことをやらせてもらいました。ギターの音って、良くも悪くも、みんなそこまでみんな気にしていないから、めっちゃ好きな音を出せると思うんですよ。ある程度、強い個性が出ていても、それによって拒絶されることはそんなにないと思うので、フレーズは考えましたけど、音は本当に、“そんなにリバーブが要るかな?”ってところも、思いどおりに掛けさせてもらいました。「ラウド・クワイエット・ラウド」もリバーブとファズがガーッと鳴っている…フレーズと言っていいのかわからないようなセクションがある中で、すごくキャッチーなメロディが乗っているっていうのが、やっぱりこのバンドのおもしろさなんだと思います。それを考えると、自分のギターはそんなに変わってないのかな。
──さて、バンドが転機を迎えたことも含め、GLASGOWの今を詰め込んだ『FOOLISH AS THEY MAY SEEM.』をステップにGLASGOWの音楽はこれからどんなところに向かっていきそうですか?
アラタニ:今回のEPまでは、僕らのロックバンドに対する憧れを詰め込んでいたんですよ。自分達がいろいろな音楽を聴きながら、吸収して消化したものをどう栄養にするか、みたいなことを考えていたんです。だけど、これからは憧れているだけじゃなくて、ちゃんと憧れられる存在にならないといけないとすごく感じています。これまでは、自分達が好きなものを、どう好きなのか表現していたんですけど、これからはこういうのが今はカッコいいんだよって自信を持って言えないとなって。GLASGOWのお客さんが認めてくれているGLASGOWの良さを、これこそが今のロックなんだよって言えるようになれたらいいですね。それが一番カッコいいし、より上に行くってことなんだろうなって思っています。
取材・文◎山口智男
■2nd EP『FOOLISH AS THEY MAY SEEM.』
1. Your song
2. Trooper
3. FLASHBACK
4. vvaves
5. lostmusic
6. ラウド・クワイエット・ラウド
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