【インタビュー】ナッシングスの村松拓を擁するABSTRACT MASH、13年ぶりアルバムの精度を高めた魔法の言葉「いかに楽しくやるか」
■『SIGNALS』というタイトルに込めた
■ひとつひとつの物語を昇華させたいという想い
──アルバムの全体的なイメージは?
小林:ジャケットイメージとも近いんですけど、幻想的で、響きや空間を大事にするようなサウンド作りというか…時代の流れというより、そもそもそういう音楽が好きというのもあるんですが…平坦になりがちなバンドサウンドを、奥行きを持たせて幻想的なものにしたいと思っていて。
──雄剛さんの頭の中には、楽曲のイメージが視覚的にあるんでしょうか?
小林:景色は結構ありますね。あとは哀しい感情や怒りの感情で曲を作ったり。例えば4曲目の「Crash a Moment」は怒りの感情で作ったのかな。感覚から作ることが多いですね。
──音源作りにおいて、サウンドアプローチを変えるというところに焦点を当てたということは、レコーディングの音作りもかなり重要だったと想像するんですが。
梨本:そうですね。レコーディングは雄剛が前から「お願いしたい」と言っていたNewspeakのSteven McNairにエンジニアとして入ってもらったんですけど、めちゃくちゃ楽しかったんです。
村松:楽しかったね。この4人でのレコーディングは…それこそ13年ぶりくらいか(笑)。
小林:エンジニアもそうだし、久しぶりということもレコーディングが楽しい要因のひとつだったんですよね。やっぱりみんな変わってたんです。上手くなっていたし、それぞれ経験値を積んで成長していたから。
榊巻:でもリズム隊の録りの時点では、僕もなっしー(梨本)も完成形を知らないんですよね。その時の完成形は雄剛の頭の中にしかない。だから僕らリズム隊はしっかりとやることに集中して。
小林:リズム隊の2人は決して技術が高いタイプではないんですけど、音に感情を乗せるようなプレイが魅力なんですよね。(榊巻)雄太は音に明るさがあって、なっしーは何より8ビートの良さを持っている。
村松:うん。そこが大事だよね。
▲梨本恒平(B)
小林:だからリズム隊のレコーディングはあえて何も言わずに、“自分たちが持っている良さをそのまま出してくれ”っていう感じでお願いして。さっき雄太が「完成形は知らなかった」と言ってましたけど、完成形が僕の頭の中にあったわけじゃなくて。2人のリズムからインスパイアされて、さらにボーカルを録った後にアレンジを膨らませていったというか。もともと、そういう作り方ができたらいいなとは思っていたんですけど、結果的にできて良かったです。今回、シンセとギターはプライベートスタジオで録ったんですけど、そういう環境も含めて、難しいかな?と思っていたことが全部実現できたんです。
村松:だから、理に適ってたってことだよね。
梨本:その方法にStevenが賛同してくれたのも良かったし。
小林:そうそう。Stevenは「そのほうが絶対にいいよ」と言ってくれて、わかってくれてるな!と思った(笑)。だから環境も録り方も、いろんな意味で今回のレコーディングは良かったです。
──作りたい音がかなり理想に近い形で実現できたと。
小林:作りたい音と、作り上げたい工程ですね。アレンジも生き物だと思うので、作りながら柔軟に変えていけるような工程が、結果的にすごく良かったです。
▲榊巻雄太(Dr)
──“時代に左右されないエバーグリーンな空気感とエモーショナルなサウンドに乗せて、ケセラセラを歌う”というのがABSTRACT MASHの音楽に対する印象だったんですが、その個性に加えて、今作では奥行きと繊細さが加わったと感じていて。
榊巻:うんうん。
──さらにバンドが持っていた“青春感”がもっと洗練されたというか。そういう変化は、日本語詞がメインというところも大きいのかなと。
小林:そこは大きいと思います。(村松)拓から「日本語詞でいきたい」という話があって、ちょうどみんなも同じ意見で。
村松:6曲目の「アスピリ - Alternate Version -」はライブで歌っていた日本語詞から書き直して、7曲目の「Finder」はデモのときに付けていた歌詞から書き直したんです。
小林:前の日本語詞とは全然違うからね。前は前で良さがあったけど、でも今の歌詞はもっとわかりやすくなったし、響きも良くなった。
村松:さっきABSTRACT MASHに対する印象として「ケセラセラを歌う」と言ってくれたじゃないですか。その話を聞いて、前からそうだったのかもな?と思ったんですよね。
──というと?
村松:『SIGNALS』というタイトルを付けたのも、ひとつひとつのストーリーをちゃんと昇華させていきたいという想いがあったからなんですよ。2019年にやったライブで、曲間のMCだったと思うんですが、「すべてを受け入れていきましょう」的なことを言った覚えがあるんです。言い方はもうちょっと違っていたと思うんですけど、「良いも悪いもあるけど、プラスもマイナスもあるけど、全部含めて人生だし、あーだこーだ言わずにこれを善しとして生きていこうぜ」みたいなことを言った覚えがあるんです。それがずっと頭の中に残っていて。そういうライブをしたときにメンバーから「いいライブだったね」みたいな反応があって、“こういうことを伝えたいバンドなんだな”ってすごく思ったんですよね。
──あ、なるほど。
村松:その辺から具体的に、例えば各々の人生のワンシーンとか、例えば一粒の涙とか、例えば何でもない日常とか…ABSTRACT MASHではそういうことをひとつひとつ肯定して、祝福していくような言葉を書けたらいいなって思うようになったんです。それがきっかけとして大きくて、“だったら日本語詞のほうがいいよな”って思うようになって、今回の制作でみんなに相談して。音源目線もそうだけど、ライブ目線にも立って、鳴りと意味がちゃんと合わさったものにしたいという想いがあったのかもしれないですね。
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