【インタビュー】ゆきみ、言葉やメロディーの奥深くにまで手を伸ばしたくなる「ノーマル」
■誰かにとっての普通は私にとっての普通じゃないし
■誰かが普通と言ったものが私にとっては特別だったりする
──ではアレンジの面についても聞かせてください。
ゆきみ:今回の楽曲も加藤俊一さんにお願いしたんですが、「芸術的にしてください」というひと言で渡したんです。自分の中にMVのビジョンがあったり、この曲が作品の中の何曲目に来るだとか、その曲の立ち位置というか見せ方、こういう風に聴いてほしいというのがなんとなくある場合は、その思いも一緒に伝えるんですね。でも今回は、ずっと練りに練ってきて、どういう形であっても正解だと思っていたので、加藤さんの思う芸術をやってくださいってお願いしたんです。加藤さんもTwitterで、この曲について「実験的なサウンド」って表現されていましたけど。
──芸術的、そしてまさに実験的という表現がピッタリですよね。冒頭の部分なんて、リズムを刻んでいるだけなのにどうしてこんなに不安になるんだろうと思いました。
ゆきみ:そう、私も思いました。最初に聴いた時、異空間に飛ばされたような感覚だったんですよね。知らない場所、初めての場所って不安とか怖いみたいな印象になると思うけど、たぶんそれに近い感じなのかなとも思ったりして。
──でもそれが、聴き進めると自分の心拍数のように感じたり、歩幅に合ったりして、最終的にはあぁ生きてる!という実感みたいな晴れやかさを感じるんです。
ゆきみ:めちゃくちゃわかります。最初は不安な印象を受けたんだけど、曲が進むにつれてだんだんそれが体に馴染んでいくというか、「あぁ、ここにいて良かったんだ」ってちょっとずつ安心に変わっていくみたいな感じがありますよね。
──駅のホームのくだりからは、人のざわめきのようなものが音でも表現されていて。サックスの音色はとても意外だなと思いましたが、その一つ一つが、新しい景色の広がりを感じさせてくれる気がしました。
ゆきみ:それこそこの曲が出来上がってリリースする前にいろいろな人に聴いてもらったんですが、ほとんどの人から「新しい」、「斬新」みたいな言葉をいただきました。サックスは、あの温かさみたいなところがこの曲にすごく合っていると思います。景色の広がりみたいな部分は、ミックスの力も大きいと思いますね。
──今回のアレンジに関しては、ゆきみさんがものすごい笑顔で「芸術的にお願いします!」と豪速球を投げ、加藤さんが真顔で受け止めるみたいな勝手なイメージがあって(笑)。信頼と実績、そしてお互いに対するリスペクトの上で成り立っているんだろうなと思いました。
ゆきみ:そのイメージ、わかります(笑)。でもたしかにお互いに対するリスペクトの上で成り立っているし、どちらかが妥協したらお互いにとって失礼ですからね。今後の音楽が、今みたいに楽しく作れなくなるかもしれない。そういうところはすごくあると思います。
──今回のジャケットは、何かが見えそうで見えない感じになっていますね。
ゆきみ:今回は自分でカメラを持って、外に繰り出しました。私の思う普通というか、身の回りに溢れているものを何枚か撮って、気に入ったものを全部重ねた写真なんです。人によっては空に見えるかもしれないし、木に見えるかもしれない。実は、電柱とか地面の写真なんかも入っているんですよ。
──何が見えるかではなく、自分が何を見たいかによっても解釈が変わる気がします。
ゆきみ:そうですね。人にもよるし、その時の状況にもよるでしょうし。
──そう考えると「普通」の捉え方も人それぞれですよね。永遠のテーマだなと思います。
ゆきみ:いや本当に、「普通」って永遠のテーマですよね。誰かにとっての普通は私にとっての普通じゃないし、誰かが普通と言ったものが私にとっては特別だったりする。私は羨ましいと思っても、その人にとってはいらないものだったりもする。普通って、定義立てられるものじゃないなって思います。でも、聴く人それぞれに普通はある。確かにあるんですよ、普通は。それをね、この曲を聴きながら感じてもらえたら、これを何年もかけて形にした意味が、もしかしたらその瞬間に生まれるかもしれないなと思います。
──完成したこの曲のタイトルを、「普通」ではなく「ノーマル」にしたのはどうしてだったんですか?
ゆきみ:この曲をどういう方向性にもっていくか、どういう形にするか全く見えなかったけど、「普通を抱きしめていたい」っていうテーマはある。これだけは言いたいっていうその「普通」を、単純に「ノーマル」と言い換えて仮タイトルにしていたんです。それが数ヶ月くらいならまた違ったんでしょうけど、(完成までが)長すぎてもう今さら変えられないみたいな気持ちだったんですよね(笑)。猫を最初に見た時「あ、なんかこんな名前の感じがするな」と思ってつけた名前だから変えるに変えられない、みたいな感じ(笑)。
──そんな経緯があったんですね(笑)。さて、歌詞の中に「明日から4月」というワードもありますが、ゆきみさんはこの春から初夏にかけてどんな風に過ごしたいですか?
ゆきみ:今日、ベランダに出てマニキュアを塗ったんです。いつもは匂いが気になるから換気扇の下で塗っているんですが(笑)、ようやく外でゆっくり塗りたいと思うくらいの気候になりましたよね。これを暇というのかもしれませんが、最近は暇と呼べるような時間を全然作れていなかったから、ちょっと散歩しようとか、映画館に行ってみようとか、この春はちょっとひと呼吸つけるくらいの時間を努力して作りたいなと思っています。
──最後に、4月11日のリリースパーティーについても聞かせてください。
ゆきみ:「ノーマル」は、このまま誰にも聴かれず、形になっていなかったかもしれないような曲。でも、聴いてもらえる機会を作りたいと思えるような形にすることができました。この日のライブのタイトルは「ふつう記念日」。普通だけど特別な日にしようと思っています。
取材・文:山田邦子
ライブ・イベント情報
4月11日(火) 下北沢SHELTER
出演: ゆきみ / Pulplant / 國 / 果歩
時間: 開場18:50 / 開演19:20
料金: 前売¥2,400 / 当日¥2,900
http://t.livepocket.jp/e/7y20v
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