【インタビュー】大柴広己、6部作の最終章に8年間の足跡と新たな始まり「僕は一生音楽をやりたいんですよ」
大柴広己が2023年1月4日、ニューアルバム『LOOP 8(ループエイト)』をリリースする。1年のうちの1/3をギターを片手に旅するシンガーソングライターは、作詞家、作曲家、ディレクター、プロデューサー、レーベル主宰者、フェス主宰者など異なる顔も併せ持つ。Da-iCEのシングル「FAKESHOW」や、チャート1位を獲得した丘みどりのシングル「明⽇へのメロディ」の作詞者としての手腕は広く認知されているところだろう。
◆大柴広己 動画 / 画像
DIY精神を貫く独立系シンガーソングライターの雄、大柴広己が1年半ぶりに放つニューアルバム『LOOP 8』。それは変化し続ける時代と環境の中で、自ら歩んできた足跡を確かめ直すような、力強くたくましいアルバムだ。そしてそれは、2014年のアルバム『それを愛と呼べる日が来るとは思わなかったよ』から始まった、6部作の完結編。8年間に及ぶ壮大なサーガの終わりと、新たな始まりに臨む、ブレない男のメッセージに耳を傾けよう。
◆ ◆ ◆
■人間関係に必要な三つの“L”を探したら
■結局愛に戻って、ループしていく
──お久しぶりです。お元気ですか。
大柴:元気です。最近引っ越したんですよ。東京から離れて。
──あ、そうなんですね、それはやっぱり、家で大きな音を出したいとか。
大柴:それもあるし、たぶんこの2年間、丘みどりさんの曲(「明日へのメロディ」作詞担当)でキングレコードのスタジオに行った以外は、制作の仕事が全部リモートになっちゃって、“どこにいてもできんじゃね?”と思ったので。家を探してたら、すごくいい不動産屋さんに出会って、勧められたんですよ。言うても住宅街なんで、防音しないといけないんだけど、ここならやれるなと思ったんで。土地がめちゃくちゃ広くて、庭にもう一個家が建つくらいで、天井も5mぐらいある。“なんだこの家?”と思ったら、そこの住宅街を作る時に最初に建った家で、いわゆるモデルハウスだったんですよね。そこに引っ越して、生活が180度変わりました。それが2022年9月です。
──それは大変化ですね。
大柴:この間、人生で初めて、自分の家で配信イベントをやったんですよ。で、終わって、ガチャッと扉を開けたらもうリビングじゃないですか。そこで、すぐに打ち上げできるんですよ。これはなんていいシステムなんだ!と(笑)。有料チケットにしたんですけど、カフェでライブをやったら普通に満員になるくらいの人が買ってくれて、終わったらミュージシャンに「おつかれさん」って打ち上げして、「またねー」って送り出して、これはこれで面白いなって思いました。海が近いから魚もうまいし、でっかいハマチの切り身が180円とかで買えるし、意味わかんないですよ。大根とかキャベツとか、買わなくても道端に落ちてますから(笑)。「すげー! おもしれー!」って感じです。今はそういう生活ですね。
──それは、今後作る曲にも影響してくるかもしれないですね。
大柴:でもね、生活は変わったはずなんですけど、ラジオの収録があるから週イチでこっちに来てるし、車移動の時間は増えつつも、感覚はそんなに変わらないまま。いい感じに拠点を移せたなと思います。
──なるほど。
大柴:それはそれとして、こうやって外に出て、いろんな人と会って仕事してという、両方の感覚が新鮮になったのは良かったですね。今日も下北沢のホテルに泊まって、朝になって、散歩して、コーヒーでも飲んでると、そこには自分の知らない人たちの生活があって、“みんなこういう感じで生きてるんだなあ”とか、あらためて思ったりして。ずっと下北沢に住んでたくせに、そんな朝の早い時間には家にいなかったから。知ってたはずの東京が違う色を放ち始めているという、まさに今日そんなことを考えていて、それが面白かったですね。
──そんな変化の時期の中で、1年半ぶりに届いたニューアルバム。タイトルが『LOOP 8』です。
大柴:このアルバムに至るまで、ずっとストーリーが繋がってて、6部作の最後のアルバムという形になるんですね。8年前、2014年の『それを愛と呼べる日が来るとは思わなかったよ』が“LOVE”で、『Mr.LIFE』(2016年)が“LIFE”で、『モジャモジャライブコレクション vol.2』(2017年)というライブアルバムが“LIVE”で。“LOVE”と“LIFE”と“LIVE”の三つを揃えた『人間関係』(2018年)があって。その4部作があった上で、人間関係はいつか失われるから“LOST”して、『光失えどその先へ』(2021年)が“LIGHT”で、その“LIGHT=光は何か?”というと、それは愛だなと思ったので、“じゃあ次はLOVEなのか?”と思ったけど、それは次ではなくて、戻ったんだと。“LOOP”だなと。
──おおー。なるほど。
大柴:人間関係に必要な三つのL (LOVE, LIFE, LIVE)を探していったら、結局愛に戻って、ループしていく。だから全部で今お話した6部作になるんです。
──実は前回の『光失えどその先へ』取材の時にも、「次のアルバムは『LOOP』になります」とはっきり言ってたんですよね。その時点では“ネタバレはどうかな?”と思ったんで、原稿には書きませんでしたけど。そして“8”というマークも実は、前作のジャケットにすでに描かれていたという。
大柴:そう。だから『LOOP 8』です。8年前にループして戻るという。拡大したら、そこまで描いてあるんですよ。でもね、今回、自分でも気づかなかったんですけど、ちゃんと作ることの大切さというか…遡ると、15年前にメジャーの事務所をやめたあと、今の制作チームができて、“なんでも作っていいよ”という状況になったんですね。メジャーの会社にいた頃は、世の中で売れているものに対してコミットしていくという、接続部分を探していく作業をするじゃないですか。それが“何でもやっていいですよ”という状況になって、“じゃあ何を作っていくか?”を考えた時に、自分が人間として生きていく時に必要なものは何か?と考えたら、やっぱり愛しかないなと思ったから、まずそれに対して真剣に取り組んでみようと。それで愛について調べていくと、愛は究極のテーマだと自分は思ってたんですけど、愛はテーマじゃなくて、“愛を持ってどう生きるか”という、ただの手段に取って変わったんですね。
──はい。なるほど。
大柴:そこで、“LOVEを持ってLIFEを生きる(LIVE)”というテーマが出て来て、過去ではなく、未来を見据えて今を生きたいなと思った時に、それは人間関係を良くすることが大事な手段だったんだなと。自分一人じゃなく、周りの人がいないと無理だから、そういう素敵な人間関係を構築するために、“LOVEとLIFEとLIVEが必要だ”というテーマを持って『人間関係』というアルバムを作って…でもそれって、やっぱり失われるんですね。実際、そんなことを望んでなくても、コロナ禍になって、みんなが生活を失ったりしたわけで。
──そうですね。
大柴:でも、その先に光を求めていきたいなと思った時に、それは愛でしかないなと。そこであらためて、“愛って何だろう?”って考えたんですよ。そもそも8年前に「それを愛と呼べる日が来るとは思わなかったよ」という曲を作った時は、飲み屋で知り合ったおっさんに「愛とは何ですか」と聞いてみたら、「愛は健康だ」と。「健康じゃないと人なんか愛せないでしょ」と言われて、“この人は健康を愛だと言ってる。それすらも愛と呼ぶのか!”と思って、だとしたら、自分の中でいろんなものを愛に置き換えられるぞと思って、それが衝撃だったんですよね。その感覚で言うならば、“愛とは何だ?”と考えた時に、僕がこの8年間でやってきたことは、すべて必然性のあることだったんですね。やらなきゃいけないことをやってたし、意味があることをやろうと思って生きてきたし。でもふと振り返ると、合理的ではあるけど、それって本当に幸せなのかな?と。
◆インタビュー【2】へ
この記事の関連情報
谷口貴洋、新曲「キレカケ」リリース+MV公開+大柴広己がレビュー
【インタビュー】旅するシンガーソングライター大柴広己は、旅が許されないこの時代に何を語り掛ける?
【対談】丘みどり x コモリタミノル、「明日へのメロディ」が生まれたことで開き始めた新たな扉
【インタビュー】Plane、磨きをかけたバンドサウンドとみずみずしい言葉のニューアルバム『2020 TOKYO』
【インタビュー】幡野友暉、シニカルで繊細、表現力に富んだボーカルがインパクトの強い一作『鬱屈を、沸々と。』
【インタビュー】大柴広己、愛を歌い人生を歌い友を歌い夢を歌う 包容力に満ちたアルバム『人間関係』
【イベントレポート】大柴広己、前代未聞の42.195kmの弾き語りフルマラソン完走
旅するシンガーソングライター大柴広己、珍企画「弾き語りフルマラソン」を決行
大柴広己「音楽で繋がった縁は死ぬまで大事にしていこう」