【インタビュー】フリースタイルピアニスト“けいちゃん”、1年半ぶり2ndアルバム完成「ピアノって本当に王様なんです」

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■ピアノは鍵盤弦打楽器と言われていて
■ピアノでできる音は全部やりたい

──では、それぞれの曲についてお聞かせください。まず「Edo」は、デジタルとアナログ、未来感と昔っぽい要素が融合しているのが印象的です。

けいちゃん:この曲では同じメロディを繰り返すことによって、トランス状態みたいな感じを出したいと思っていました。メロディを繰り返すけどサウンドは変わっていくし、急に場面も変わる。だから輪廻みたいな感じというか。そういう中にジャズの要素も入っていて、テクノっぽい感じもある曲に仕上げました。

──ループによってトランス状態が醸し出される感じは、ダンスミュージック的なアプローチですよね。

けいちゃん:特に後半にかけてはダンスミュージックを意識しています。ビートの感じもクラブサウンドの感じですね。


──ループで昂揚感が生まれることも含めて、音って面白いですね。たとえばメジャーコード構成音のうち3度の音が短3度になるだけでマイナーコードになる。これも音楽の不思議さですよね。

けいちゃん:たしかに明るい響きのドミソがあって、そのミが“ミ♭”になったら暗いって、そう教わるじゃないですか。だけど、決まっているわけではないですからね。でもやっぱり、聴くと暗い印象なんです。これって理論じゃないんですよ…そこを深堀りして話すと1日じゃ足りないくらいです(笑)。でも、知識がなくてもそういうことを楽しめるのが音楽なんです。今回のアルバムは、実は音楽的に複雑なことをやっている曲だらけで。でも、そういうことは隠し味にして、聴く人の潜在意識下でスパイスとして利くようにしています。とにかく音楽を聴いて、みなさんそれぞれが感じられるものがあったら、それでいいっていう感じです。

──なるほど。2曲目の「Lv.OFF」は、“レベルオフ”という読み方で正しいですか?

けいちゃん:はい。この“OFF”は“なくす/取っ払う”という意味です。だから“限界を取っ払う” “疾走感”みたいな意味ですね。この曲もまさに展開が多いです。疾走感の中にいろいろ盛り込んだので。

──「Lv.OFF」は様々な音色が重ねられていて、多彩な雰囲気が醸し出されているのも心地よかったです。

けいちゃん:この曲はピアノの音だけでも3種類使っています。そこはこだわりましたね。ちょっとピッチが下がっただけで音の印象が変わったり、気温や湿度の変化だけで音が柔らかくなったりするんです。そういうのも面白いんですよ。

──家でピアノを弾くと、外の天気がわかったりします?

けいちゃん:僕の家のピアノは、かなり限界を迎えているんで、雨とか関係ないんですね。“かわいそうに、いつでも限界だね”という感じになっています(笑)。



──(笑)。「Lv.OFF」は情熱的な演奏も思いきり発揮されていて、ピアノのパーカッション的な側面も体感できる曲です。ピアノフォルテの略称がピアノですから、強弱のニュアンスが出せるのもピアノの魅力ですよね。

けいちゃん:ピアノが誕生する前のチェンバロは、強弱がつけられなかったんですよ。ピアノは“鍵盤弦打楽器”って言われるくらいですから、ピアノでできる音は全部やりたいんです。

──表現できるニュアンスの幅広さも、ピアノが歌うように奏でられる楽器である理由ですね。

けいちゃん:でも、ピアノと歌では、明確に違うところもあるんです。ピアノは一回音が鳴ったら減衰していくんですよ。伸ばすことができない。それが歌や他の楽器と違うところです。でも、それはそれで美しい。減衰する美しさがあるからこそ、ピアノでしか表現できないこともあって、そういう点でも唯一無二の楽器だと思っています。いろんな楽器に馴染めて、主役になることもできますし、伴奏にもなれる。ピアノって本当に王様なんです。本当にピアノがこの世にあってくれて良かったと思っています。

──『聴十戯画』は、“ピアノに対する愛情を表現しまくったアルバム”と言うこともできるのかもしれないですね。

けいちゃん:ピアノは大好きです。ピアノに対する感謝の気持ちを込めて作りました。


──「人間失格」も、ピアノの繊細なニュアンスが発揮されていますね。

けいちゃん:これは太宰治の小説を題材にした映画を観て、インスピレーションが湧いたんです。「恥の多い生涯を送って来ました」って、こんなことを言えるのがカッコいいなと思って。人間は否定的な部分を隠したい生き物なのに、堂々と公に言ってしまう素直な人間臭さが、映画を観終わった後に頭から離れなかったです。その時点で僕の頭の中で曲が出来上がっていて、すぐにピアノに向かって弾いて録音しました。短時間で完成しちゃった感じでしたね。

──人生の様々な局面を感じる曲です。穏やかな時もあれば、激しく昂る場面もある印象ですから。悲劇的な結末を迎えますよね?

けいちゃん:中間で、水の流れをイメージしたりもしましたし、最後は心中のイメージで書きました。

──先ほど「曲にストーリー性を持たせることが多い」とおっしゃってましたが、曲を書く時は、明確なストーリーや風景があるんですか?

けいちゃん:明確なストーリーや風景が浮かんだ曲は、このアルバムに関して言えば「人間失格」と「かげおくり」だけです。その他に関しては風景とかをあまりイメージせず、曲を書いてから、それに付随したイメージが湧く感じでした。僕の場合、後者が多いですね。

──「Freestyle Piano Etude」は、音ゲーみたいなイメージですよね。クラシックやジャズとか、ステージ毎の課題をクリアしていく感じ?

けいちゃん:はい。ゲームみたいな感覚で、自己紹介みたいな曲にもしたくて書きました。最後の即興でゲームオーバーになっちゃうんです。上手く弾けないとゲームオーバーになるんですよ(笑)。

──ゲームは好きなんですか?

けいちゃん:今、『Apex』にハマっています。でも、僕はパソコンじゃなくてモバイルなんです。タブレットでやるほうにハマっています。

──「Freestyle Piano Etude」もそうですけど、発想が豊かですね。曲それぞれのアイディアの斬新さも、このアルバムを聴く楽しさだと思います。

けいちゃん:想像力はわりと豊かなほうなので、アイディアは常に貯め込んでいますね。

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