【ライヴレポート】MORRIE、弾き語り<SOLITUDE>100回記念公演は4時間超え全20曲
MORRIEの弾き語り公演<SOLITUDE>が100回目の開催を迎えるのを記念して、ホームグラウンドの一つである東京キネマ倶楽部にて、<100 Anniversary MORRIE the UNIVERSE “GRAND SOLITUDE” Episode 100:彼方からの声 Voice from the Beyond>が11月3日に行われた。
◆MORRIE 画像
定刻の17時に場内が暗転し、MORRIEはステージ中央に立った。そして手にした白いテレキャスターでクリーンサウンドのストロークを奏で始める。「Melancholia III」だ。コードの響きにファルセットを交えた歌を重ねていく、シンプルながら曲名のようにメランコリックな旋律が際立つ。聴き手を自身の世界へとじっくりと誘う、イントロダクションの役割も果たす曲だ。そのままゆったりと「Sign」へ。歌のみならず、アルペジオとコードストロークをスムーズにつなぎながら、それぞれ異なる場面を描き出す。独特の空気感は、やはりMORRIEの存在そのものが醸し出すものだろう。
「<SOLITUDE>がついに100回目を迎えまして」と話し始めた最初のMCでは、まず2015年4月に<SOLITUDE>を始めることになった経緯を語り始めた。彼がギタリストとしても相応の高いレベルにあることは知られているが、2012年にソロバンドでの活動を再開してから、「いずれは弾き語りをしなければならないだろう」との予感があったのだという。ただ、100回という大台に乗せるに至っても、「(1日に)2回公演も多いので感慨もない」と言い切ってしまうところもまたMORRIEらしい。それはこの日のセットリストにも表れていたと見ていいだろう。
そして、「翌年2016年からカバーをやるようになった」と次の「Lilac Wine」に対する思いを話す。MORRIEが採り上げているのは、アメリカのシンガーソングライター、ジェフ・バックリーのバージョンだが、実は共通の知人も多く、自身が住んでいるニューヨークでよく公演を行っていたことを知ったのは、彼が亡くなった後だったとのエピソードも披露された。もし、この二人が親交を深める機会があったならば、双方にとって、以降の音楽活動はまた違ったものになっていたのかもしれない。純粋に歌声や楽曲に惹かれたMORRIEの歌う「Lilac Wine」には、そんな人生の不思議な儚さをも感じ取ることになった。
『ロマンティックな、余りにロマンティックな』(1992年)からセレクトされた「完璧な空」も、当然、原曲の軽快さとは印象がかなり異なる。リズム楽器の躍動感に左右されない分、言葉がより前面に押し出され、その意味をオーディエンスに改めて想像させる。他のマテリアルにも言えることではあるが、<SOLITUDE>の場で耳にしたことで、楽曲に新たな発見をしたり、自分なりの捉え方が深まったという人は少なくないはずだ。すかさずアッパーなリフから、MORRIEらしいストロークを挟んで“君に恋し”と歌い始めた「Unchained」。不穏な響きのコードを交えながら進む展開ながら、自らリズムを操り、シンプルな音像で形作られていく。スタジオ音源にある楽曲の核心が、より凝縮された表現と言ってもいいのかもしれない。
ここでアコースティックギターに持ち替えると、長い語りの時間に入った。主に話されたのは、ウィトゲンシュタイン、デカルト、永井均、埴谷雄高といった哲学者、思想家の名も挙げながら、MORRIEの実践する真理の探究についてのもの。ファンにはお馴染みのテーマだが、一般的には難解に思える内容でもある。「存在が存在することに震撼している」「この私はなぜこの私なのか」といった発言だけを切り取れば、それこそ理解できないかもしれないが、それが彼の表現に直結していることも事実なのだ。だからこそ、一つ一つの概念が興味深く感じられる。
続いて披露された新曲「夢幻族」もそういったフィルターを通ったものだと言明している。3拍子で進んでいくアルペジオとストローク。音源化された際には、歌詞も深く紐解いてみたい。「聖ドッペルゲンガー」も新曲だ。自分の姿を自ら目にする幻覚が聖なるものとはいかなる意味なのか。耳に飛び込んできたのは、メランコリアという言葉である。この日のオープニングは「Melancholia III」であり、「Unchained」の歌詞にも用いられている。この連関は単なる偶然ではないだろう。
次にストラトキャスターを手にしたMORRIEは、カナダのシンガーソングライター、ジョニ・ミッチェルの「Woodstock」をカヴァーすることを伝える。過去の『SOLITUDE』でも耳にしているが、彼女はアネット・ピーコック、佐井好子と並び、自身にとっての“三大ミューズ”なのだと明かす。エレクトリックピアノによる伴奏の原曲をギターを再構築しながら歌うMORRIE。固有のコード感も魅了される要素の一つのようだ。
そして、CREATURE CREATUREの「Vanishing」へ。マイナー調のメロディながら、MORRIE作品の中ではポップサイドに位置するような感覚にもなる。これが「あとは野となれ山となれ」へと結ばれたのは、無に帰するといった双方の歌詞に共通するテーマを意識してのものだろう。それぞれ2010年、1992年の作品だが、MORRIEというアーティストの内面が時間経過の中でどう変化したのか、あるいは変わらなかったのか、改めて聴き比べたことで興味深さは増した。
20分ほどのインターバルを経て、後半は新曲「黄泉女」でスタートした。一聴した限りでは、MORRIEらしいコードワークがわかりやすいマテリアルと言えるかもしれない。綴られているのは、ある種の死の考察か。アコースティックギターが用いられていたが、レコーディングする際にはまた別の形へと変貌しているかもしれない。そのまま、この日、『影の饗宴』(1995年)から唯一セレクトされた「あの人にあう」へ。牧歌的な伴奏には軽快さもあり、多少体を動かしながら楽しんでいる人もいるが、多くはじっくりと歌を体内で反芻するようにMORRIEを見つめている。
<SOLITUDE>で演奏されることも多い「Disquieting Muse」は、序盤こそ原曲に準じるところがあるが、『HARD CORE REVERIE』(2014年)におけるバンド編成での実演とは違った寂寥感が味わえる。明確なメロディとコードの響きは変わらずとはいえ、単音フレーズの用い方やウィスパーなどのアレンジを通して、逆説的に一大長編としての真髄が受け止められるのが面白い。聴衆からの拍手も一際大きかった印象だ。
「全曲をカバーしてもいいぐらい好き」だという佐井好子の楽曲が聴けるのも、近年の<SOLITUDE>の特色の一つ。この日は『密航』(1976年)に収録されていた「春」が選ばれた。同時代のフォークソングとは異なる感触。「あまりの才能に(当時は)みんな嫉妬の嵐だったのではないか」とMORRIEは推測するが、それは音楽家としてのみならず、詩人としての個性も踏まえてのものだ。憧憬の念を抱きつつ、紡がれた“死”への欲動を、彼は自身の声で描いていった。歌い手にも聴き手にも、それぞれ感じ取るものがあったことだろう。その後、佐井好子の楽曲のみをレパートリーにするライヴを行いたい考えを示すと、観客からはかなり好意的な反応が示されたことも記しておきたい。
デヴィッド・ボウイに始まり、JAPANから土屋昌巳へとつながり、最近、初めて金子マリと出会ったときの驚愕エピソードも明かされたMCを経て演奏されたのは、2年前から披露されてきた「Nostalgia」だった。力強いギターストロークとアグレッシヴな歌唱。その一方で静穏たるパートも訪れる。これはバンド編成で取り組んだ際の光景も見えてくる面白さがある。そのままブルージーなギターを弾き始めて「ムーンライト・ベイビー」へ。展開部などに強くパーソナリティが現れるが、ロックンロールのテイストが心地よく体を揺らす。
語りの時間も多い<SOLITUDE>では、しばしばちょっとしたインサイドストーリーも登場する。もともとはイギリスの音楽が好きだったMORRIEが、アメリカのものに惹かれるようになり、ニューヨークに居を構えたこと、1stソロアルバム『ignorance』(1990年)で起用するプロデューサーにロリ・モシマンと並んでピーター・シェラーも候補だったこと、数年前に実家に戻った際に(DEAD ENDの)「Replica」のソノシートが大量に保管されていたことなど、今回のMCで初めて耳にしたファンもいたことだろう。
ここから曲は9月7日にリリースされた『Ballad D』にも収録されていたDEAD ENDの「Sleep In The Sky」と「Heaven」へ。<SOLITUDE>で長らく歌われてきたマテリアルであり、その経緯もなければ、『Ballad D』は生まれなかった可能性がある。亡き足立祐二への追悼の気持ちも含めて、誰もが特別な思いでこの2曲に耳を傾けたに違いない。余談になるが、個人的には幻聴のようなものも自覚した時間帯だった。それは錯覚だったのか、機材の微細な不調があったのか、別の現象が作用したのか、いまだに理由はわからない。
「善と悪と自由」という話もあった。その一つが「己の善を選択するのが自由」ではあるが、「ある種、この選択は厳しい」ものであるとの論である。確かに頷ける。ただ、表面的な理解ではなく、視点を変えて熟考してみることで本質に辿り着く命題でもあるのだろう。最後に演奏された「Phamtom Lake」を体感しながら、様々な形而上学的観念が頭の中を巡っていた。
『光る曠野』(2019年)のジャケットのアートワークのごとく、ハットをかぶったMORRIEがアンコールで選んだのは、詩人・粕谷栄市の詩に着想を得たタイトルトラック「光る曠野」だった。12弦ギターの響きの中で情景が見えてくる、それでいてMORRIEの歌う“真理”にも近づけるような楽曲である。歌の締め括りとなる“光と夢に死す”とは何なのか。余韻も含めて、4時間超に及んだ<SOLITUDE>エンディングに相応しいものだった。
100回記念とはいえ、これまでを回想したり、集約するようなライヴではなかった。むしろ、未来に向けたものと言ったほうがいいだろう。今回の副題として冠されていた<彼方からの声 Voice from the Beyond>なる言葉の意味が説明されることもなかった。無論、尋ねれば相応の答えも返ってくるはずだが、解釈を観客に委ねるのもMORRIEの表現者としての在り方である。
この12月24日には『Ballad D』のアナログ盤(LP)が発売されることになったが、2023年には新たなソロアルバムのリリースも計画しているようだ。もちろん、最も極上の瞬間が得られるのはステージであるとする彼にとって、ライヴも断続的に行われていくだろう。事実、将来的には“47都道府県ツアー”のような、ライフワークである<SOLITUDE>の大規模な展開も考えていることも明言していた。ニューヨークで行われた弦楽カルテットとの公演など、新たな試みのライヴが実現することも充分にあり得る。旺盛な創造意欲がどのように具現化されていくのか、詳報を楽しみに待ちたい。
取材・文◎土屋京輔
撮影◎森好弘
■<100 Anniversary MORRIE the UNIVERSE “GRAND SOLITUDE” Episode 100:彼方からの声 Voice from the Beyond>2022年11月3日@東京キネマ倶楽部 SETLIST
02. Sign
03. Lilac Wine
04. 完璧な空
05. Unchained
06. 夢幻族
07. 聖ドッペルゲンガー
08. Woodstock
09. Vanishing
10. あとは野となれ山となれ
〜INTERMISSION〜
11. 黄泉女
12. あの人にあう
13. Disquieting Muse
14. 春
15. Nostalgia
16. ムーンライト・ベイビー
17. Sleep In The Sky
18. Heaven
19. Phantom Lake
encore
20. 光る曠野
■アナログ盤『Ballad D』
【生産限定アナログ盤 / 180グラム重量盤(2LP)】
LHMV-2001-2 5,000円(税抜) / 5,500円(税込)
仕様:ダブルジャケット・4P解説(歌詞・ライナーノーツ)
■<MORRIE “Sail Your Soul”>
open16:30 / start17:00
▼Member
Vocal & Guitar:MORRIE
Guitar:黒木真司
Bass:FIRE
Drums:エノマサフミ
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