【ライヴレポート】MORRIE、アルバム『Ballad D』発売記念コンサートが導いた崇高な空間
MORRIEが9月10日、SHIBUYA PLEASURE PLEASUREにて<『Ballad D』発売記念コンサート>を開催した。同公演おオフィシャルレポートをお届けしたい。
◆MORRIE 画像
多くのアーティストに影響を及ぼしてきたMORRIEが、DEAD ENDの名曲をセルフカバーしたアルバム『Ballad D』を9月7日にリリース。その発売記念となるコンサートを東京・渋谷PLEASURE PLEASUREで行った。チケットはソールドアウトとなっていたものの、どのような内容のステージとなるのか、事前情報は一切明かされていなかったため、MORRIEが一人で弾き語るのか、何らかのバンド編成となるのか、会場に集ったオーディエンスも想像は膨らむばかりだったことだろう。
定刻通りに場内が暗転すると、舞台に登場したのは4人のミュージシャン。DEAD ENDの作品群と同じく『Ballad D』のプロデュースを務めた岡野ハジメ(B)、同作のアレンジや演奏を担当した平田崇(G)と森永浩之(G)、そしてMORRIE関連の作品にエンジニアとして参加してきた田本雅浩(manipulator)である。彼らが定位置につき、森永がスパニッシュなギターを奏で始めると、次第に他のメンバーも音を重ねていく。この即興は5分ぐらい続いただろうか。おそらく誰もが予想していなかった幕開けだった。
そのまま流れるように「Embryo Burning」のイントロが導かれ、ようやくMORRIEもステージに現れると、曲調通りのフラメンコよろしくリズムに合わせてパルマ(手拍子)を行いながら、歌の世界へと観客を誘っていった。今回の公演は、基本的に『Ballad D』で生まれ変わった楽曲を、MORRIE曰く「完全再現」する意図の下に構成したようだが、サウンドもヴィジュアルも音源以上の新鮮さで映える。
1曲ごとにメンバーそれぞれと会話しながら次の曲へという流れ。張り詰めた緊張感の演奏と和やかなMCという組み合わせは、結果的にライヴに効果的な起伏を生んでいた。とはいえ、そのMCも興味を引き付けられるものばかりで、DEAD ENDと縁の深い岡野が口にした、過去のレコーディング時のエピソードなどは特に貴重な内容だった。
躍動する魂を表現したかのようなMORRIEの身振り手振りにも惹きつけられた「I’m In A Coma」、中盤に挿入された語りが深遠さを増し、時空を超えた物語として帰結した「Luna Madness」。MORRIEが亡き足立“YOU”祐二のソロライヴで共演したこともある「Heaven」では、岡野が『shambara』(1988年発表)のレコーディング時に使用したというスリットドラムを持ち込む場面も。アルバムと同じく客演したHeather Paauwe(Vn)のヴァイオリンの音色が歌と並立しながら融合する様にも魅了された。
再始動後のDEAD ENDのライヴでは演奏されることのなかった「Skeleton Circus」のラテンテイストのアレンジに対して、MORRIEは「非常に驚いた」と口にしたが、原曲とはまた異なる味わいで堪能できる。新たに付加された言葉は、最初からそこにあったかのようにも、実演の場が生むインプロヴァイズならではのものとも感じられた。「夢鬼歌」もオリジナルとは違ったバッキングで進むが、歌の個性、存在感の強さがより際立って響く。
ここで岡野、森永、平田が一旦袖へと下がり、咲人(G/NIGHTMARE)が呼び込まれた。もちろん、曲は彼がアレンジを手掛けた「Promised Land」だ。原曲のパーカッシヴなリズムを踏襲した多彩な音。MORRIEはそのギターのニュアンスにロバート・ワイアットの「Sea Song」を思い起こしたと話したが、そこが咲人らしいセンスの一つなのかもしれない。ライヴの場でもアコースティックギターをアクティヴに奏で、コーラスも担当しながら盛り上げる。ギターソロパートで客席に背を向けて踊るMORRIEの姿も印象的だ。
森永と平田がステージに戻り、演奏が始まったのは「Sleep In The Sky」。弾き語り公演『SOLITUDE』のときとも、『Ballad D』の音源とも異なる歌に聞こえてくるのは、実演を通して触れているゆえか。声の微妙な震えや息遣いもよりわかる。続く「I Can Hear The Rain」でも似たようなニュアンスを感じたが、ポジティヴな意味での軽やかさをもって、雨の景色が描かれていく。オリジナルの旋律をアルペジオに置き換えたエンディングも奥深い余韻をもたらした。
そして1stアルバム『DEAD LINE』(1986年)から唯一セレクトされた「Beyond The Reincarnation」が、個人的には想定外の衝動を覚えることになった。
オリジナル音源と同じく打ち込みリズムを用いたアレンジゆえに原曲との近さを感じる面もあるが、MORRIEがステージを右へ左へと動きながら歌い、それまで座っていた平田も立ち上がってギターソロを奏でる、ある種のロックバンド然とした見え方が、瞬時に往時のDEAD ENDの姿を呼び起こしたのである。寂寥感が自身の記憶と同調し、それでいて歓喜に似た感情も付随する。その現実との対峙は本編最後の大作「冥合」にも引き継がれていった。YOUが逝去したことで新たな意味合いを持つことになった名曲を歌い上げるMORRIE。“あなたを抱きしめ 光はここに在る” “あなたに抱かれて 私は闇に成る”──歌詞の端々にある描写が観客それぞれの内面へと浸透し、崇高な空間へと導いていった。
アンコールでは開演当初の4人の奏者が再び揃い、ゲストにSUGIZO(G/LUNA SEA)も登場。彼は、YOUはもちろん、MORRIEとも結びつきの強い青木裕(G/downy)の名前も挙げながら、先に逝った仲間たちとつなげる役目こそ、自たちが音楽を奏でる「使命」であるといった旨の話をする。このステージに立つに当たっての意思でもあったのだろう。音源にはなかった、まさにレクイエムであるかのようなSUGIZOのギターによるイントロダクションから「Serafine」は始まった。DEAD ENDが1989年の日比谷野外大音楽堂公演で披露したライヴヴァージョンをベーシックにしたという狙いも頷けるダイナミズムを感じさせつつ、繊細にフレーズを届けていくSUGIZO。その傍らに立ち、魅惑的に声を響かせていくMORRIEにも、この瞬間だからこそ湧き上がる思いもあったはずである。
現状では『Ballad D』の発表に伴う次のコンサートはスケジューリングされていないが、気づけば2時間半にも及んだこの日の充実した公演を終えて、MORRIEも再演をいち早く実現したい思いに駆られたことだろう。また、今回は取り上げられなかった「Song Of A Lunatic」や「Replica」を始めとするマテリアルを第二弾作品としてレコーディングしたい気持ちを抱いているのも、MCやインタビュー等での発言からも明らかだ。無論、それはファンも同じように待望する願いでもあるに違いない。
DEAD ENDで活動を共にしてきたYOUへの追悼という性格も有する『Ballad D』は、MORRIEにとっての新たなライフワークの一つになった。
取材・文◎土屋京輔
撮影◎Eisuke Asaoka
■<『Ballad D』発売記念コンサート>2022年9月10日@SHIBUYA PLEASURE PLEASUREセットリスト
01. Embryo Burning
02. I’m In A Coma
03. Luna Madness
04. Heaven
05. Skeleton Circus
06. 夢鬼歌
07. Promised Land
08. Sleep In The Sky
09. I Can Hear The Rain
10. Beyond The Reincarnation
11. 冥合
encore
12. Serafine
■ライヴスケジュール
2022年10月9日 東京・大塚Deepa
・一部:open13:30 / start14:00
・二部:open17:30 / start18:00
▼<100 Anniversary MORRIE the UNIVERSE “GRAND SOLITUDE”>
2022年11月3日 東京キネマ倶楽部
open17:30 / start18:00
■DEAD ENDセルフカバーアルバム『Ballad D』
【Special Edition ※初回限定盤 (CD+DVD+フォトブック)】LHMH-2020 ¥10,780(税込)
※くるみ三方背ハードBOX
▼特典内容
・DVD:「Serafine」Music Video & 特典映像(MVメイキング、MORRIEインタビュー)
・フォトブック(7インチサイズ):40ページ撮り下し写真、歌詞、ライナーノーツ
【Regular Edition (CD)】LHMH-2019 ¥3,500(税込)
発売元:littleHEARTS.Music/販売元:HAPPINET CORPORATION
▼CD収録曲
01. Serafine
02. Embryo Burning
03. Luna Madness
04. Heaven
05. I’m In A Coma
06. Promised Land
07. 夢鬼歌
08. Sleep In The Sky
09. Skelton Circus
10. Beyond The Reincarnation
11. I Can Hear The Rain
12. 冥合
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