【インタビュー】高瀬統也、イメージからどんどん逃げていって皆さんを翻弄させられるアーティストでいたい

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■失恋ソングは実体験3割とフィクション7割で作るのが共感してもらえる
■3:7の割合ってリアルでもリアルすぎない異空間を作るのに適してるんです


――今年1月にリリースした「どうして (feat. 野田愛実)」がヒットを続けています。この楽曲はどういう経緯で野田さんとタッグを組むことになったのでしょう?

高瀬:まず普通に自分だけで歌うつもりで作ってた曲なんです。僕は自分のハイトーンが好きなので、ハイトーンにオクターブ下のヴォーカルを重ねることが多くて。「どうして」もそのつもりだったんですけど、なんだか雰囲気が出ないし、今までと同じような印象があって。それで“野田愛実が歌ってくれたら絶対合う!”と思ったんです。彼女とは以前から仲が良くて、デモを送ったらすごく歌いやすいと言ってくれたんですよね。それでいざ録ろうとなったんですけど、レコーディングの3日前まで曲が完成していなくて。



――えっ、そうだったんですか。

高瀬:この曲を作ったのは2021年だったので、僕が海外にフォーカスしすぎてた時期なんですよ。だから英語の歌詞がすごく多くなっちゃって。でも野田愛実は日本で活動しているし、K-POPのカヴァー動画をよくアップしているので、どこに着地させたらいいんだろう?と悩んで。でも結局“お互い日本人だし、日本で売れたいよね”と話して日本語詞に決めてから書き直したんです。それがもうとにかく難しくて。

――英語で気持ちの良い譜割りができていたから、そこにどう日本語を乗せるかに苦労したということですか?

高瀬:まさしくそうです。あと、ちゃんと女性とフィーチャリングするのも初めてだったし、とにかくJ-POPを目指したので、そういうもの全部込みの難しさですね。それでぎりぎり曲が完成してレコーディングに入ったんですけど、野田愛実は歌がうますぎて。3通りのテイクのどれもが良かったので、その3テイクから楽曲の世界観により合う箇所を引っ張ってきました。僕はただただ彼女の素材の邪魔をしないような歌い方を心がけました。彼女ありきの「どうして」ですね。

――その制作背景を伺う限り、日本でのヒットはホームランを打ったような感覚でしょうか?

高瀬:んー、そういう感じでもないですね。「どうして」もすぐには数字が出なかったし、『13月1日』を制作していくなかで、結果を出すよりも信頼するプロフェッショナルな仲間が“いい曲だね”と喜んでくれることに価値を見出すようになっていたんです。ひとりの人間として、ずっと誇りを持っていられる楽曲を作っていたいと思うようになった。そしたら「どうして」が6月にばーんと跳ねたんですよね。それで周りも急にあたふたし始めて……だからホームランを打てた!というのではなく、どうした!? なんかしたっけ!? って感じで(笑)。

――それが世間から受け入れられるというのは、感慨深いのではないでしょうか。

高瀬:自分のやりたいことと世間のニーズが合ったんだと思いますね。“高瀬統也の曲って歌うのむずいよね”と言われていたので、「どうして」はみんなが歌ってくれる曲、カラオケで歌いやすい曲を作りたかったんですよ。あとTikTokでも使われやすいのは哀愁がある楽曲だし、わかりやすく韻を踏んでいて、なおかつ朗読したときに恥ずかしくない歌詞で、ちゃんと意味を持たせたかったんです。

――みんなが楽しんでくれる音楽を作りたいということ?

高瀬:そうですね。いまはそういう感情で曲を作っているし、『13月1日』はそう思えるようになれたきっかけの作品です。やっぱり共感されるって大事なことだと思うんです。自分のやりたいことをとことん追求するのが高瀬統也で、その自分のやりたいことが“共感を得たい”になったのはかなりターニングポイントですね。

――その理想と“売れたい。結果を出したい”という欲がイコールにならないということですね。

高瀬:結果にはこだわらなくなりましたね。“自分はこういう曲を作りました、よかったら聴いてね”みたいな感覚で出したので、チャートインしているのも不思議な感覚ですし、これを結果が出たと受け止めていいのかはまだわからないんです。でもいろんな人から共感したと言ってもらえるようになってきたので、さらにワンステップ、ツーステップ頑張らないとなと思っているところです。


――そのタイミングでリリースされたのが「MINT」ということですね。この曲は音にこだわり、高瀬さんがいま最もやりたい音楽ジャンルを詰め込んだとのことです。なぜローファイビートが生きたエモチルサウンドを目指されたのでしょう?

高瀬:自分を癒したかったのかな。自分が歌っていて、さらに聴いていてループして流せるものをクリエイトしたかったんです。僕はいつもピアノアレンジのジブリ音楽をかけて寝ているんですけど、それが唯一延々と聴いていられる音楽なんですよね。自分の曲にもそういう役割になれるものあったらいいなと思ったのがきっかけで。ヴォーカルの入っている楽曲で、いろんな場面に当てはまる音楽を考えていった結果、ローファイビートでチルっぽい感じにしたんです。



――ほっと一息できる場面以外にもフィットする楽曲ということですね。

高瀬:癒される側面もあれば、夜のドライブにも合う曲にできました。人の会話を邪魔しないぐらいのビート感にしたいし、人の会話を邪魔できるぐらいのヴォーカルでありたいんです。環境に溶け込むのではなく存在感は出したくて。

――BGMにちょうどいいようでいて、BGMになってくれないというか。コーラスが華やかなので、リラックス×ゴージャスが実現している楽曲だと思います。

高瀬:コーラスは僕とマネージャーでやっています。マネージャーも音楽活動をしていて。女性の声が入るとよりレンジが広がるから壮大かつマイルドになるので、聴きやすくなるんじゃないかなと思ったんです。有線とかラジオ、プレイリストで流れたときに“この曲良くない?”と引っ掛かってくれる、「MINT」はそのちょうどいい塩梅のものが作れたかなと思っています。

――『13月1日』の楽曲同様、「MINT」も失恋がテーマです。なぜ高瀬さんは失恋ソングをお書きになるのでしょう?

高瀬:書きやすいんですよね。というのも、失恋ソングはお酒の割合で作るのがいいんです。

――お酒の割合?

高瀬:アルコールとソフトドリンクを3:7で割るように、自分の実体験3割とフィクション7割で作るのがいちばん共感されやすい。お酒は濃すぎると飲めない人もいるし、薄すぎるとお酒っぽくないから飲まない人もいる。だからみんなが気持ちよく酔える3:7で作ると思うんです。それはたぶん音楽も一緒なのかなと思っていて。でもそれがハマるのは失恋ソングであって、ストレートにポジティブなことを歌う楽曲はその割合だとしっくりこない。それは自分にはあまり向いていないのかなと思っていて。たくさん恋愛もしてきたし、だから相対的に失恋の曲が書きやすいです。3:7の割合っていうのは、リアルでもリアルすぎない異空間を作るのに適してるんですよね。


――ちなみにタイトルにもなっている《ミントのガム》はリアルなアイテムなんですか?

高瀬:この《キスはミントのガムを噛まなきゃしてくれない》は、僕的にはギャグのつもりで入れたんですよ。そんなに口臭いんかい!っていう(笑)。

――あははは。おしゃれなサウンドのおかげで、とても切ないワンシーンに映っていました(笑)。

高瀬:誰にもツッコまれなかったです(笑)。僕がお酒を飲んだ後とかのニオイを気にするタイプなので、そういうのも影響していますね。全体的に1行ずつ独立させられる、切り取りやすい歌詞に仕上げています。だから聴きやすい曲に振り切った曲でもあるので、自分っぽいけど自分っぽくないな感じがするのが不思議で面白くて。それが「MINT」の良いところなのかなと思います。

――お話を聞いていて、ご自分の理想を追求する一方で、どういうふうにしたらリスナーに刺さるのかをリサーチするのもお好きなのかなと思いました。

高瀬:めっちゃ好きですね。僕めっちゃミーハーなんですよ。世界の流行っている音楽を聴いて、これはなんで流行ってるんだろう? なんでこの音色なんだろう? と考えるのが好きなんですよね。実際それを現地で確認したいくらい。それで自分がいいな、やってみたいなと思ったものを自分なりに取り込んでいます。それができるのも、自分の音楽が確立してきたからかもしれない。自分の声に合わせる素材をとにかく増やしたい。だからいろんなところに出向いてたくさん曲を聴いてみたい。そういう意味でミーハーなんですよね。

――化学反応を求め続けるのが、高瀬統也のクリエイティブなのかもしれませんね。

高瀬:僕は飽き性なので、面白くなくなっちゃったらすぐ辞めちゃうんですよ。だからいろんなジャンルをつまみ食いしています。だからひとつのジャンルに落ち着いちゃうと高瀬統也ではなくなるんですよね。ヒップホップを取り入れるにしても、自分という存在を保ちながらヒップホップの要素持ってくるからこそ、高瀬統也の音楽になるんだと思っています。“これヒップホップじゃねえじゃん”とたまに言われるんですけど、それに対するアンサーは“自分はヒップホップをやっているわけじゃなくて、ヒップホップの雰囲気を取ってきただけだよ”ですね。だから高瀬統也はジャンルレスなんです。

――いろんなものに挑戦するなかで“高瀬統也としてこれだけは守りたい”というものはどんなものなのでしょう?

高瀬:自分の身近にいるクリエイティブな人たちがずっと面白いと言ってくれるものを発信していきたいですね。音楽だけでなく、自分の出したアンサー、悩む姿、行動一つひとつ、全部面白いと思ってほしい。そうでないとやる意味がないと思っているんです。たとえば自分が面白くないと思っていても、自分の信頼する人が面白いと言ってくれたら、面白い気がしてくるんです。

――やはりそこも化学反応が重要なんですね。

高瀬:僕はすぐに自分の自我で頭のなかが凝り固まっちゃうんです。自分の凝り固まった自我をほぐしてくれるクリエイティブな人が周りにいっぱいいるので、そのエッセンスをどんどん取り入れたい。でも取り入れても僕がその人になるということではなく、新しい高瀬統也が増えるという考え方なんですよね。みんながいてこその今の僕があるし、みんながいなかったら今後もないと思うので、すごく感謝しているんです。

――何がやりたいのかわからなかった時期を経て、濃い自我をお持ちだからこそ、余裕を持っていろんな意見を面白がれるのかもしれません。

高瀬:そうですね。世の中すべてに裏と表があって、「どうして」は表の面が出た曲になったと思います。でも同じくらい裏の面を好きになってくれる人も楽しんでもらいたい。だから現時点でデモができている新曲も、今までと全然ちゃうやんけ!みたいな感じです(笑)。高瀬統也が好きと言ってくれてる人にも“高瀬統也ようわからん!”って言わせたいなあ。“高瀬統也ってこういう人だよね”とは言わせない、イメージからどんどん逃げていきたい。そんなふうに皆さんを翻弄させられるアーティストでいたいですね。

取材・文:沖さやこ

リリース情報

8th Single「MINT」
https://linkco.re/v40gqU2S?lang=ja

ライブ・イベント情報

<TAKASE TOYA LIVE 2022『Road to 香港』>
10月16日(日)渋谷eggman
11月1日(火)阿倍野RockTown
11月26日(土)名古屋E.L.L
12月24日(土)香港・Music Zone @ E-Max
12月25日(日)香港・Music Zone @ E-Max

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