【インタビュー】高瀬統也、イメージからどんどん逃げていって皆さんを翻弄させられるアーティストでいたい
2020年の香港でのバイラルヒットを機に、国内外で活動を広げるシンガーソングライター高瀬統也。キャッチーなメロディとワードセンス、それらをより艶やかかつ力強く彩るミックスボイスでその後もヒットを重ね、2022年1月にリリースした「どうして feat. 野田愛実」は日本でも多くの支持を集めている。2019年より現在の名義で音楽活動を再スタートさせてから、様々な音楽性へと果敢にチャレンジし続ける高瀬は、どんな信念のもと音楽制作を行っているのだろうか。これまでの軌跡をたどりながら、最新シングル「MINT」の制作秘話、彼の目指す景色を探っていった。
■高瀬統也として活動するなら好きなものなんでもやっていい
■高瀬統也というジャンルでいけばいいんだ
――高瀬さんはお祖母様がボイストレーナーさんだそうですね。どんな少年時代を送っていましたか?
高瀬統也:歌うことが身近だったので、よくカラオケには行ったりしていました。小学校6年間はクラシックピアノを習ったりもしてたんですけど、母親がスポーツ選手だったので僕もスポーツに傾倒していたんです。“ピアノの教室に行ってきます”と言って、泥んこになって帰ってくるという小学生でした(笑)。中学も部活に打ち込んでいました。
――そんな高瀬さんが音楽を始めたきっかけは、高校1年生の音楽の授業だそうで。
高瀬:そうなんです。高校1年生のときに初めて授業でギターを触ったんですけど、びっくりするほどセンスがなかったんです(笑)。隣の女の子のほうがうまくて、とにかく悔しくて。絶対うまくなってやる!という反骨精神から練習に励みました。あんなにがむしゃらに打ち込んだのは、ギターが初めてで。そこからどんどんのめり込んでいきました。暇があればすぐ弾いていましたね。
――そこから程なくしてプロの道を目指されたのでしょうか?
高瀬:決め手は高校時代に地元でやっていた路上ライブです。最初のうちは人がまったくいなかったので周辺に迷惑をかけることもなかったんですけど、半年ぐらい続けたあたりで、父親に頼んで焼いてもらったデモCDを配るとSNSで発信したんです。そしたら当時のクラスの友達とか近所の学生が一気に集まってきちゃって……なんやかんや150人くらいになって。
――あら、それは大変。
高瀬:さらに警察官の人も学校の先生も来て、その場がどんどんカオスになってしまって。それで先生に呼び出されて、“ライブをやるならもっと違う場所にしたほうがいいし、文化祭もあるぞ”と学祭の出し物のエントリー用紙を渡されて。そこでちゃんと人前で歌う経験をしたんですよね。それからプロを目指すためにオーディションを受けるようになって、たまたま賞を獲ることができて。そこでレコード会社さんのお世話になるようになるんです。
――それが前の名義でのお話ですよね。順調に進んでいるなか、2018年にレコード会社を離れます。
高瀬:当時21歳だったんですけど、うつを患ってしまったんですよね。大人になったばかりでまだまだ出来上がっていない状態のなか、自分は何をしたいのかが定まらないまま情報だけがいろいろと入ってきて、どんどん自分のなかにギャップが生まれた瞬間があって。
――ギャップ?
高瀬:自分がやっているアコースティックの音楽と、自分がいつも聴いているイヤホンの中の音楽、やりたいのはどっちなんだ? と言ったらやっぱり後者が刺激的で。でも自分がステージに立って歌っているのは自分で作ったアコースティックの楽曲なんですよね。そこにメンタルがやられてたみたいで、うつと診断されたことを機に、すべての環境を変えよう、1年くらい休もうと思ってたんです。
――でも2019年3月には「I can't stop loving you feat.大知正紘」のMVを公開なさっていますよね。実際には半年ほどで高瀬統也として動き出している。
高瀬:お世話になっていたラジオ局の人に“せっかく20代前半という人間的に勢いがあるなかで止まるのはもったいないから、自分に嘘を一切つかない曲を出してみたら?”と言われて。その人はずっと僕に“絶対結果が出るから”と声を掛けてくれた人なんです。疑問に感じたことをぶつけるとちゃんと答えてくれて、会ったのは数回なんですけどその1回1回が濃くて。
――だからその人の言葉を受け止められたのかもしれませんね。
高瀬:言葉に説得力がある人だったんですよね。それで“自分に嘘をつかないってなんだろうな”と考えて出てきたのが名前だなと思ったんです。それで活動するなら本名名義だなと思って、そしたら“高瀬統也として活動するなら、もう自分が好きなものなんでもやっていいじゃん。高瀬統也というジャンルでいけばいいんだ”というモードに切り替わったんですよね。それで出したのが「I can't stop loving you feat.大知正紘」なんですけど、このMVはベッドで女性が相手の目玉をなめるシーンから始まるっていう。
――そうですね。
高瀬:前の名義では地元で活動していたり、アコースティックの音楽をやっていたのもあって、それまで僕の音楽を聴いてくれた人には引かれてしまったり、子どもに見せられないというご意見もいただいて。だから高瀬統也としての活動は、ほんとゼロからのスタートという感覚でしたね。
――前の名義からのファンの方が去ってしまっても、ご自分のやりたい音楽を追求したかったと。
高瀬:当時はジョナス・ブルーとかゼッドとか、<ULTRA JAPAN>に出ているようなアーティストをずっと聴いていて、オートチューンがかかったようなパキッとした声に惹かれていたんですよね。自分はずっと生声でやってきて、バラードが似合う声なのはわかっていたけれど、自分が自分の夢中になっている音楽をやったときの自分を知りたかったんです。「I can't stop loving you」は大知正紘さんに協力していただいて共同制作して、1st EPの『Now the Won』からはトラックメーカーのRINZOさんにトラックを作ってもらっています。
――高瀬さんは歌詞とメロディを手掛けているということですね。
高瀬:僕、全然DTMできないんです。高瀬統也として再スタートするにあたって、自分に嘘をつかない、見栄を張らないと決めて。だから自分ができないことははっきりできないと言うようにしいたんです。自分でソングライティングしたものをRINZOさんに投げてトラックをつけてもらったり、ふたりでいるときにイメージを伝えながらビートを作ってもらったりしてます。DTMはできないけどそれを使った楽曲はたくさん聴いてきているので、拍の置き方とかグルーヴ感とかのアイデアは生まれてくるんですよね。
――高瀬統也名義で活動し始めて2年目で『Now the Won』「備忘録 Self Cover Ver」などがヒットしますが、その要因をどう考えていらっしゃいますか?
高瀬:全然わかんなくて(笑)。たまたまだと思うんですよね。当時80'sが流行っていたので、それを意識した楽曲を作ったんですけど、それをTikTokで有名なイラストレーターさんが動画で使ってくださって、それがたまたまなぜか香港でポンッと数字が上がったんです。もともと昔から、占いとかを見てみると“海外で仕事をすると運が良くなる”と書いてあることが多かったので、海外のことは気になっていたんですよね。でも英語も喋れないしなあ、とずっと思っていたところに香港から反応がたくさんあって。これをたまたまで終わらせるべきではないと思い「備忘録」ではYouTubeに広東語の字幕をつけて、香港の音楽シーンでどんなものが流行っているのか、自分の楽曲のリスナーはどんな人たちなのかもリサーチしました。
――たまたま転がってきたチャンスをどんどん次につなげていったと。ビジネスマン的な戦略ですね。
高瀬:今年の4月から会社も経営していますしね(笑)。チャンスを次につないでいくと、視野も広がっていくんです。“日本で売れないから俺はダメなんだ”と考えてしまう人も多いかもしれないけど、海外でヒットすれば逆輸入のチャンスもあるし、日本でも逆輸入アーティストというポジションを面白がってもらえるんじゃないかなって。せっかく香港に聴いてくれる人がたくさんいるなら香港へのアプローチを極めようと決めたら、広東語も覚えたし、英語も楽しくなってきたんです。
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