【インタビュー】ゆきみ、言葉の奥にある体温や感触までもが伝わってきそうな新曲「真夏の行方」
■自分がいま前だと思う方向に半歩でも歩みを進められるんだったら
■別に絶対その行き着くゴールが決まっていなきゃいけないわけじゃない
──その歌詞の中で、今回一番印象に残ったのが最後に出てくる「今より少し前という場所へ」という表現でした。
ゆきみ:先ほどちょっとお話ししましたが、みんなには何か目的があって、でも主人公の「僕」は自分だけ置いて行かれたような感覚になっていて。私も、そういう感覚になる時がすごくあるんですね。同世代の人たちや関わっている人たちはしっかりと地に足をつけて歩いているように見えるけど「あれ?私ってどこを目指して歩いてたんだっけ?」とか「本当は何がしたかったんだっけ?」とか。そういう、見失ってしまう瞬間ってすごく焦るんですよね。自分だけ、やばい、このままじゃ良くない!って。でもそういう時でも、自分がいま前だと思う方向に半歩でもいいから歩みを進められるんだったら、別に絶対その行き着くゴールが決まっていなきゃいけないってわけじゃないんじゃないかなっていうのが、この「今より少し前という場所へ」という表現の中に込められていたらいいなと思うんです。
──なるほど!私は「今より少し前」、つまりちょっとだけ過去だと捉えていました。
ゆきみ:時間軸ってことですね。そういう受け取り方もあるんだって、今知りました(笑)。
──時間軸で捉えると、見失って焦っているなら未来ばかりを目指さなくていいんだよ、ちょっとだけ前の自分からやり直してもいいんじゃないっていう、自分自身をケアするような感じ。でもおっしゃったように進行方向でいう前と捉えると、途端にエネルギーを感じますよね。主人公の背中がポジティブに見えるというか。
ゆきみ:あぁ、確かに。もしかしたら、人によってはそっちの方がヒントを得る可能性があるかもしれないですよね。少し前の自分だったらどうしたかなとか、そこに立ち返ることによって今度は未来の方向としての「前」を見出す可能性もあると思うから。私は全然意図していなかったところですが、確かに人によって「前」って全然違うと思うので、自分が思う「前」も、自分がいま前だと思うものも、人それぞれでいいんだよなって思います。
──結果的には、自分が進む方向が見えるわけですからね。
ゆきみ:めちゃくちゃ面白い(笑)。面白いところに気づいていただいてありがとうございます(笑)。本当に国語の授業みたいになってきましたね(笑)。
──(笑)。ゆきみさんはこれまでにも1フレーズ12文字で揃えて歌詞を作ったりもされていましたが(「アーモンドとチョコレート」)、表現としてのチャレンジであり、遊び心であり、ひょっとしたら自己満足みたいなものも組み込みながら作品として完成させていらっしゃいますね。今回の作品もそうですが、きっとたくさんの方がいろんな解釈で楽しまれるんじゃないかなと思います。
ゆきみ:であれば本望です。嬉しいです。
──あと今回もアートワークが本当に素敵なので、そちらも注目していただきたいですね。
ゆきみ:はい。加藤さんと同じくセピア色にしたくないということは伝えていたんですが、今きらめいている光をああいうふうにひとつの写真で表現してくれていて、データをいただいた時に鳥肌が立ちました。フォトグラファーは、いつもジャケットなどを手掛けてくれている安藤未優ちゃん。ネイルなどで使うホログラムを撮影に使ったと聞きました。
──光が生きている感じがしますね。
ゆきみ:私はオーダーするときに、毎回抽象的なオーダーをするんですね。今回もこの曲が色褪せないものであって欲しいという願いとともに、「色」というのをテーマにしてジャケットを作って欲しいということを伝えたんです。彼女の「色」はこうしてこの曲にぴったりの、これしかないっていうくらいの作品に仕上がったので、ぜひじっくり見ていただきたいです。タイトルの文字は私が入れたんですが、「行方」という言葉の中にちゃんと向かう方向を作っておきたいなと思って、ああいう形にしました。今回もお気に入りのジャケットであり、アートワークです。
──春の3部作から夏の楽曲というふうにリリースが続くと、ひょっとしたらこの先も季節感がテーマになるのかなと想像しますが、今後のビジョンはすでにお持ちなんですか?
ゆきみ:序盤でもお話しましたが、今回の楽曲は思いつきに近い形でのリリースだったんですね。春の3作品を出した後は、年内にもうひとつ作品を作って、年末あたり、秋冬くらいにはというビジョンだったんです。そこ目がけて作っていこうかなと思っていたら、いや今出したい!となって急遽この夏の作品をリリースしました。でも後々見てみたら、あれ?春、夏と来てしまったなって(笑)。それくらい思いつきでやっているものなので、今後の流れは私にもわからないです(笑)。今回みたいにもしかしたらまた思いつきで何かやるかもしれないし、練りに練って大きな作品にしてくのかもしれない。良くも悪くもなのか、今は本当に自分のペースで音楽をやっているので、私にもちょっとわからないくらい“その時、その時”なんだなって今作で結構思いました(笑)。
──本来の意味での<マイペース>で作品が作れるのは正しいような気がします(笑)。
ゆきみ:はい、私の場合はすごくそれが合っていると思います。
──今後のリリース、ライブなど引き続き楽しみにしています。最後に何か、伝えたいことはありますか?
ゆきみ:こんなにも思いつきで音楽をリリースして、それを受け取ってくれる方がいるということに、私は本当にありがとうっていう気持ちでいっぱいです。さっき言われた言葉の中にもありましたが“自己満足”っていうところも、自分が音楽をやっている中ですごく大きいんですね。それを楽しみにしてくれる人がいるって、こんな幸せなことはないなと思っているので、あらためて、曲を聴いてくれる人、受け取ってくれる人にありがとうという気持ちを最後に伝えておきたいと思います。
取材・文:山田邦子
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