【詳細レポート】河村隆一<NRS Showcase Live 2022>、「すごいやつらなので、かわいがってやってください」

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声帯にできた静脈瘤除去手術を2月に無事終え、去る5月20日、52歳のバースデートーク&ライヴで復活を遂げた河村隆一。復帰早々、6月19日を皮切りに21、23、25日の計4日間にわたり<Ryuichi Kawamura Live2022 at COTTON CLUB>を開催、ジャズクラブCOTTON CLUBで連日ステージに立った。

◆<Ryuichi Kawamura Presents NRS Showcase Live 2022> 画像

<Ryuichi Kawamura Presents NRS Showcase Live 2022 COTTON CLUB>とは6月24日に同会場で行なわれたもので、河村がプロデュースを手掛けるOffshoreとhkrという若き2組の才能のお披露目。タイトルにある“NRS”とは、日々刻々と変貌する時代において常に不変な“ホンモノ”をマネージメントするクリエイティブ集団の名であり、プロジェクトリーダー&プロデューサーを務める河村を筆頭にエキスパートが結集、NRS株式会社という会社を新規に立ち上げて取り組むプロジェクトだ。24日のショーケースは、そのキックオフを宣言する大切な場。1日2ステージを繰り広げたうち、レポートするのは1st、正真正銘初公演の模様である。





▲Offshore

大きなシャンデリアが飾られ、華やかながら落ち着いたムードのウッディな内装。飲み物や食事を楽しむことができる客席エリア後方から、テーブルの間を縫うようにして歩きステージに上ったのは、Offshoreのメンバーと葉山拓亮(サポートKey)である。葉山はTourbillon (LUNA SEAのINORANと共に、河村との3人で活動するバンド)のメンバーであり、河村のソロ楽曲においても欠かせないパートナーとして知られる。Offshoreとは、ミュージカルでも活躍するArata(Vo,G)を中心とした次世代ロックバンドで、KAI(G) 、佐倉なる(Dr) 、優月.(B/ Support)が緊張した面持ちで位置についた。1曲目の「このまま遠くまで」はメロディアスなポップナンバーで、アコースティックギターで跳ねたリズムを刻みながらパフォーマンスするArataの歌声は艶がありつつ軽やか。心地良い響きでありながら、流れて行ってしまうことなく、心を惹き付ける強い魅力がある。“僕らの物語はまだ 始まってすらない”との歌詞が耳に残り、このショーケース幕開けにふさわしい選曲に思えた。

ステージと客席との段差は低く、距離も間近で見つめるオーディエンスに向けて、「皆さん、初めまして。Offshoreと言います。本日はようこそお越しくださいました」とAtaraは笑顔で挨拶した。2曲目の「色彩」ではエレキギターに持ち替えたArata。完成度の高いシティポップで、短い間奏のアンサンブルからもメンバーの呼吸感がピッタリ合っていること、グルーヴを感じながら演奏していることも窺える。KAIのギターソロはエモーショナルで激しく、若さに似合わないほどの渋みも湛えていた。再びアコギに持ち替えたArataは、「早くも次の曲で僕たち最後の曲なんですけど、この後、hkrさんと河村隆一さんのバックを務めるという大役があり、メンバーの頭はそれでいっぱい(笑)。気が気でないです」とフレッシュなコメント。葉山のピアノからスタートした「We are meant to be together」はゆったりとしたバラードで、紫やブルー系の仄暗いライトが美しく、客席に灯っていたキャンドルの存在を浮き彫りにした。ファルセットを駆使しながらドラマティックに歌唱し、時には手を前へ伸ばしながら想いを全身で届けるようにパフォーマンスしたArata。メンバーのコーラスも熱い。「皆さん、心の声で口ずさんでください!」(Arata)という呼び掛けで、コロナ禍で禁止となっている発声を控えながら、観客はリズムに乗せて身体を揺らし、手拍子で応えた。



▲hkr

大きな拍手の中で曲を終え、「続いてお迎えするのは、素晴らしい女性シンガーhkrさんです、どうぞ!」と呼び込むと、Offshoreと同様客席後方から深紅のドレスの裾をゆらめかせながら登場したhkr。ArataはKAIと優月.の間に移動してアコースティックギターを担当。マイクスタンドの前に佇み、ピアノイントロに続いて「Let It Be」を歌い始めたhkrの歌声はパワフルで圧倒的。ソウルフルでファンキー、ゴスペルのフィーリングを宿した魂のヴォーカリスト、といった第一印象だ。言わずと知れたビートルズの超有名曲だが、リズムの取り方が独特なアレサ・フランクリン・バージョンで披露。hkrは堂々とした立ち姿で、深く歌に集中している様子だった。続く「Eleanor Rigby」もビートルズのアレサ・バージョンカバー。マイナーからメジャーキーへと調を変え、リズムは8ビートで躍動的に。緊張はほぐれたようで、大きなハンドモーションや笑顔も見られる生き生きとしたパフォーマンスを展開。場の空気を掴んでリラックスしたかのように、高音と低音を自在に行き来する彼女の歌声は生命力に満ちていた。

hkrは挨拶の言葉の中で、河村にプロデュースされることを「信じられないほどの幸運」と表現し、感謝を述べた。3曲目は「ソウルのバラード」と紹介し、こちらもジョニー・エースのアレサ・バージョンカバーである「My Song」を披露。2ビートのゆったりとしたテンポ感に身を委ね、深く艶やかな歌声でドラマティックなメロディーを歌い届ける。赤く染められていく照明の中に赤いドレスが一体化し、溶け込んでいったのも印象的。夕陽のような光の中で歌い終え、ホッとしたような表情を浮かべて自身の出番を終えたhkrは、「続いてのステージは、河村隆一さんです」と紹介。やはり客席後方から姿を現した河村は、hkrとOffshore、葉山にも大きな拍手を送って立ち位置へ。


▲河村隆一

「皆さんこんばんは、河村隆一です」との第一声に続き、来場者へ感謝を述べると、まずはOffshoreとの出会いを語り始め、「LUNA SEAのエンジニアをしている小松さんから音源を聴かせてもらって、“え!? 彼ら大学生なの?”と驚いた」というファーストインプレッションを回想。「音源のグルーヴ、重厚感を感じて。“お手伝いしたいです”とお答えした」のだという。バンドとして「これからいろんなストーリーを描いてほしい。アルバムもつくるし、チェックしてください」とOffshoreに期待を寄せ、観客に呼び掛ける。hkrについては、「容姿も何も知らず、声を聴いたら、“この人と音楽をしたいな”と思った」と振り返り、彼女を担当するエンジニアが知人であったことも判明、“繋がれていく縁”を感じたという。河村曰く、時代の変化の中でマイクのチョイスの仕方などが変わってことも影響してか、若い世代に対し“いい歌を歌うな” “凄いな”と感じる機会が減っていたそうだが、Arataやhkrには「いいヴォーカリストだな」と直感したと語った。加えて、旧知の仲である葉山を、リスという愛称で呼んでいるエピソードも飛び出して、馴染のファンからは笑いが起きる中、「何故こんなに冒頭からしゃべっているかと言うと、時間が余っているんです(笑)」と思わぬネタバラし。Offshoreとhkrが、おそらく緊張のためだろうか、ほとんどMCも無く予定より前倒しで出番を終えたそうで、時間調整を河村が務めた、というわけだ。それもまたお披露目ステージらしい初々しさを感じさせ、微笑ましいエピソードだった。

「じゃあ、歌ってみますか」との言葉から、「見上げてごらん夜の星を」のカバーをまずは披露。目を閉じて身体を葉山のほうへ向け、ピアノの音色に全身で浸りながら、しっとりと歌い始めた河村。術後の声帯は完全体へと向かう途上にあり、ときおり声が掠れることもありながら、持ち前の規格外の声量と、身体全体を楽器として響かせる豊かなヴォカリゼーションで圧倒。間奏では笑顔を見せ、フェイクを交えながらバンドアンサンブルを味わう河村。心地良さそうに丁寧に歌を紡ぎ、披露し終えると客席からは大きな拍手が起きた。

本イベントについて河村は、「いろいろな会場で開催することを考えたんですけど、せっかく1週間(COTTON CLUBでの自身のライヴ期間を)いただいているので、音が良い会場でできるといいなと。将来、仮にホールやアリーナでできるようになったとしても、こういう音の良い、声の抜ける会場に帰って来て、“ただいま”じゃないけど、是非やってほしい」と、バックバンドを務めていたOffshoreのメンバーにアイコンタクト。音楽家としての本質を見失わず、“ホンモノ”として大きく育ってほしい、という想いをここでも述べていた。

続いて届けたのは「ムーンリバー」のカバー。たっぷりとタメを利かせた、温かで深いヴェルヴェットヴォイス。間奏では朗らかな口笛を響かせ、足で小刻みにリズムを取りながら、優しく時に荒々しくメリハリの効いた歌唱で惹き込んだ。歌い終えると天に向かって投げキッス。「今夜は皆さん、いらしていただいて本当にありがとうございました」と深くお辞儀して、「本当にすごいやつらなので、かわいがってやってください」と観客に呼び掛けた河村は、「皆、緊張するの?」とOffshoreに語り掛けると、「手に汗をかいた」など異口同音に話し始めるメンバーたち。ドラムやアコースティックギターなど、Offshoreが使用している楽器の一部は河村の個人所蔵ヴィンテージ機材だと明かし、「自分が過去出会ってきた最高の楽器をいつでも貸しますから」と笑顔。こんなこところにも、自身のキャリアを若い世代に継承し、音楽シーンを盛り立てていこうとする河村の姿勢が表れているように思える。

本編ラストには「ゴッドファーザー ~愛のテーマ~」をチョイス。真っ赤なライトに照らされて、葉山のピアノだけの伴奏でまずは独唱。オーディエンスは身じろぎせずに集中。転調を機にOffshoreの演奏も加わり、河村の歌唱はますますエモーショナルに。身体を折り曲げるようにして、観客に切々と語り掛けるように、同時に、表現の世界に没入してそこではないどこかを見つめるような眼差しで、昂っていく歌声。河村がこの日選んだカバー曲は、自身のソロライブのレパートリーとしてかねてから知られるが、「ゴッドファーザー ~愛のテーマ~」のような激烈な歌唱を必要とする選曲は意外だった。新しい声帯を意欲的に育んで、完全体を手にしようとする強い想いの表れだと感じられた。


▲Offshore

アンコールでは、まずはOffshoreがステージへ。「アンコールありがとうございます。皆さんの心の声を代弁すると、“え?! 隆一さんだと思ったのに……”ですよね(笑)」と謙虚に語り始めたArata。4曲のセットリストを提出したところ、河村から「(この後披露することとなる)「青の約束」をアンコール1曲目にしてはどうか?と提案された」という。実際に聴くと、切なさを含みながらも明るいメロディーと、疾走感溢れるバンドアンサンブルが小気味よい瑞々しいロックナンバーで、河村のレコメンドに納得。息の合った歌と演奏で会場に爽やかな風を吹き込み、しっかりとアンコールトップバッターを務め終えた。

hkrと共にステージに合流した河村は、「皆さん、楽しんでいただけましたか? なかなかいいんじゃないですかね? 滑り出しとして」と手応えを語りつつOffshore、hkrを労った。「これからいろいろな展開を考えていて、2組には(自身はプロデューサーとして)いいアルバムをつくりたいと思うし、つくってほしいと思うし、ライヴも充実させていけたらいいなと思っていますので、ひとつ応援をよろしくお願いします」とプロジェクトの展望を語った。

「今は紛争もあるし戦争もあるし、コロナもまだ、出口は見えているけど完全に脱したわけじゃない。どうしても閉塞感のある、“どこに向かってったらいいんだろう?”という時代を僕らは今生きています。「上を向いて歩こう」という曲を選んだんですけども、皆さんに少しでも元気というか、光というか、温もりというか。お伝えできたらいいなと思います」との語りから、葉山のピアノに続いて佐倉のハイハットが鳴り、坂本九の不朽の名曲を全員でセッション。Arataの溌剌とした歌声に始まり、続くhkrは英詞でまろやかに、やがて声を合わせ2人のハーモニーも聴かせた。ピアノソロを挟んで河村が切々と歌唱、やがてヴォーカリスト3人で合唱。大拍手の中で曲を届け終えてショーケースは終幕。“ホンモノ”の音楽が持つ底知れぬパワーを体感できる、1時間10分の豊かな時だった。

河村が声帯手術を受けるため、2月から活動休止期間に突入していたLUNA SEAも、8月26日および27日の日本武道館公演を機に復活することが発表されている。このショーケースでは、河村の声のコンディションの最新の状況を把握することができ、まずは大きな安堵があった。そして、河村が自分自身のことだけでなく、次世代を思って活動していること、バトンを渡して行く音楽人としての使命感、コロナ禍でダメージを負った音楽業界全体を牽引していこうとする気概に触れることができたのも喜びだった。これからのNRSの展開は勢いを増して行くことになりそうだ。

取材・文◎大前多恵
撮影◎山下深礼

■<Ryuichi Kawamura Presents NRS Showcase Live 2022>06.24@COTTON CLUB セットリスト

【Offshore】
01. このまま遠くまで
02. 色彩
03. We are meant to be together
【hkr】
01. Let It Be
02. Eleanor Rigby
03. My Song
【河村隆一】
01. 見上げてごらん夜の星を
02. ムーンリバー
03. ゴッドファーザー 〜愛のテーマ〜
▼encore
en1. 青の約束 (Offshor)
en2. 上を向いて歩こう(セッション)



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