【コラム】<フジロック'22>出演アーティストの見どころ〜初日編〜
遂に、<FUJI ROCK FESTIVAL'22>の開催が1ヶ月後に迫ってきた。「いつものフジロック」を掲げる今年は、超待望の海外アーティストが多数出演するということもあり、ラインナップは入念に把握しておきたいところ。広大な会場内に点在するステージに次々と世界レベルのアーティストが登場するフジロックは、参加者の数だけタイムテーブルが存在するという夢のような音楽フェスだが、同時に、絶対に観たいアーティストばかりで嬉しい悲鳴が上がるのも事実だ。そこで、初日、2日目、最終日と日別で出演アーティストを紹介する今回の企画が、今年のフジロックをさらに楽しむヒントになれば幸いである。
本稿は、初日7月29日(金)の出演アーティストについて。まずは、4年ぶりにヘッドライナーとして再登場するヴァンパイア・ウィークエンド。2018年はブレインのひとりだったロスタム・バトマングリが脱退した新体制として初めてのフジロック出演であったが、7人編成でカバー曲を披露したりと、新しい姿で魅せてくれた。その翌年に発表したグラミー受賞アルバム『Father of the Bride』の収録曲「2021」では、細野晴臣の楽曲「TALKING」をサンプリングしたことも記憶に新しく、昨年は遂に「2021」と「TALKING」コラボレーション12inchシングル「Watering a flower 2021」がリリースされた。久々の来日を心待ちにしているファン以外にとっても必見のタイミングだ。
▲ヴァンパイア・ウィークエンド
この日、同じくGREEN STAGEに登場するブラック・ピューマズもはずせない。2019年にデビュー・アルバム『Black Pumas』をリリースした二人は、その豊潤なサイケデリック・ソウルが第62回グラミー賞「ベスト・ニュー・アーテイスト」にもノミネートされており、加えてライブの評価も高く全米ではソールド・アウトを連発している。<FUJI ROCK FESTIVAL'20>への出演も発表されていただけに、期待が高まっている出演者だ。一方、2019年にハイエイタス・カイヨーテがGREEN STAGEから放ったフューチャー・ソウルに、オーディエンスが無心で体を揺らせていた景色は、また観たいシーンの一つ。ナオミ“ネイ・パーム”ザールフェルト(g、vo)がポケモンの「プリン」をモチーフにしたブーツを履いていたのも印象深い。フライング・ロータス主宰のBrainfeederから6年ぶりの最新作『Mood Valiant』をリリースしたばかりなので、バンドの最新モードも味わいたいところだ。モンゴルからやってくるのは、トラディショナル・メタル・バンド、ザ・フー(THE HU)。<コーチェラ・フェスティバル>、<ロラパルーザ>、<ダウンロード・フェスティバル>にも出演しており、実力は折り紙付き。まさに世界の音楽を知るフジロックを体感できるブッキングだ。
そんな盛りだくさんの海外勢とともに初日のGREEN STAGEに出演するのは、YOASOBI。もちろん初出演。出演発表時には「意外!」という声も多かったようだが、「夜に駆ける」から軒並みヒット作を世に送り出し続けているポップスターが、25年にわたって音楽シーンを反映し続けてきたフジロックに新たな1ページを刻むのが心から楽しみ。対してこの日は、昨年デビュー30周年を迎えたOriginal Loveが登場するのだから、振れ幅のあるラインナップは今年も健在だ。
初日は、WHITE STAGEで浴びるボノボの音像を心待ちにしている人も多いだろう。まだタイムテーブルは発表されていないが、夜の闇に包まれたWHITE STAGEとのマッチングはこの上ない。そして、筆者にとって今年アツいアクトの一つが、ヒップホップシーンの奇才、ジェイペグマフィア。ライブパフォーマンスもかなりエモいようなので、伝説のステージになりそうな予感だ。コロナ禍の鬱憤を一瞬で吹き飛ばしてくれそうなジョナス・ブルー、さらに解散から10年の時を経て再結成したDOPING PANDAも、この日のWHITE STAGEに登場する。
2022年の音楽シーンを席巻しているAwichのステージは、絶対に目撃しておいて欲しい。5月に幕張メッセで開催されたヒップホップフェス<POP YOURS>で披露した歌もラップもMCも、“クイーン”の称号にふさわしかった。加えて、この日のRED MARQUEEがとても濃厚な1日になりそうなのは、ジ・インターネットの中心人物であるシド、Night Tempoら多彩なアーティストの出演に加えて、深夜のアクトが復活することにある。同日WHITE STAGEにも登場するD.A.N.のDJ SETや、ユニークな食品まつり a.k.a foodmanのパフォーマンスを、朝5時まで営業する「OASIS」でおいしいフェスごはんとアルコールを補給しながら、今年こそは時間を忘れて楽しみたい。
初日は、FIELD OF HEAVENにぴったりのラインナップも光る。踊ってばかりの国、幾何学模様といったサイケデリック・ロック〜フォークのステージは、特にこの2、3年渇望していた自由なフィーリングやライブの陶酔感を与えてくれるに違いない。しかも、<ボナルー・フェスティバル>など世界的フェスへの出演経験もありながら今年をもって無期限活動中止する幾何学模様は、<グラストンベリー・フェスティバル>を含む最後のアメリカ、ヨーロッパツアー帰りという貴重なステージだ。
ここまで述べてきた主要4ステージ以外のステージにも目移りするのがフジロックの醍醐味。天才ドラマー石若駿率いるSMTKや、<コーチェラ・フェスティバル>にも出演したおとぼけビ〜バ〜の演奏を間近で観られる名物ステージ「苗場食堂」でも、3年越しの「いつものフジロック」を体感したい。また、Candle JUNEプロデュースによるPYRAMID GARDENは、ツアーバス利用者専用キャンプサイト内のステージながら、加藤登紀子や清春やおお雨(おおはた雄一+坂本美雨)が登場。さらに、日本最長のゴンドラ「ドラゴンドラ」で行くDAY DREAMINには若手ラッパー愛染 eyezenがパフォーマンスするというのだから、フジロックは会場の隅々までブッキングが充実している。
そして、社会や世界と地続きにある「音楽」の祭典としての側面を表しているステージが、「Gypsy Avalon」。フィールド全体の電力をバイオディーゼル、太陽光などのソフトエネルギーを使って奏でられるオーガニックなステージであり、80年代から継承される反核・脱原発イベント「アトミック・カフェ」にこのステージの一部を提供している。今年の「アトミック・カフェ」初日のテーマは「戦争と平和」。「戦争と平和・ウクライナ」をテーマに、ダースレイダー&プチ鹿島がトーク、THE BASSONSがライブを行う。さらに1972年の沖縄返還から50年という節目の年でもあることから「戦争と平和・オキナワ」をテーマに、ジョー横溝とORANGE RANGEのベーシストYOHを迎えトークを、そしてORANGE RANGEがアコースティックセットでライブを行う。ちなみに、昨年から「Gypsy Avalon」は会場の最奥地に移設されたため、じっくりトークとライブに耳を傾けられるのもいい。
今年も行かずにいれられないという、まさに「いつものフジロック」らしいブッキングだ。加えて、全長4kmに及ぶ広大な会場を気の向くままに散策して、ぜひ未知の音楽ともたくさん出会って欲しい。
文:堺 涼子
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