【インタビュー】ティアーズ・フォー・フィアーズ「僕らは本来、得意なことをすればいい」

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一瞬で心を掴むポップネス、巧みで繊細な歌詞と印象的なギターフレーズ、そしてニューウェーブの革新性が融合した他に類を見ないバンドとして成功を収めたティアーズ・フォー・フィアーズが、17年振りとなるアルバム『ザ・ティッピング・ポイント』を2022年2月25日にリリースする。元妻の死、自らの健康問題など過去17年間にふたりが直面した個人的な出来事からアーティストとしての転機、そして今の世界を反映した楽曲を収録された作品だ。

「このアルバムがうまく行くには、一旦全てにおいて間違わなければならず、その為に何年もかかった。ふたりで力を合わせて、何とか完成させる事ができた。私たちは一心同体なバランスを手に入れ、それがとてもうまく機能している」──ローランド・オーザバル

「ティアーズ・フォー・フィアーズのアルバムでは、このバランスがうまくいかないと、全体がうまくいかない。簡単に言えば、ティアーズ・フォー・フィアーズの作品、そして人々がティアーズ・フォー・フィアーズのサウンドだと認識しているものは、私たちふたりが同意してできたもの」──カート・スミス

新アルバム制作にあたり、ヒット・ソングライターたちとチームを作り制作を始めたものの、「結局、そのプレッシャーと緊張感が、マネージメントだけでなく、お互いを分断してしまった」(ローランド・オーザバル
)と、プロジェクトは空中分解、最終的にティアーズ・フォー・フィアーズの長年のコラボレーターであるチャールトン・ペタスとプロデューサー兼ソングライターのサシャ・スカーベック、フロリアン・ロイターが参加することとなった。そこには家族のような絆が存在するという。

信頼と絆を取り戻し、完全復活を遂げたティアーズ・フォー・フィアーズは、そのような作品を生み出したのか。二人に話を聞いた。


──新作『ザ・ティッピング・ポイント』は、ティアーズ・フォー・フィアーズらしさと冒険的で新鮮さがうまくバランスした作品となりましたね。

ローランド・オーザバル:とても素晴らしい気分だよ。長い時間の末、ようやく、徐々に…というのもまずはシングルの「The Tipping Point」を出したわけだが、このアルバムの全容をあらわにする上でふさわしい曲だったと今、思えている。数日前に「No Small Thing」のビデオ制作を終えたところだが、この曲にもとても満足しているんだ。歳をとったせいなのか今の世界状況のせいなのか分からないけど、今、人はより政治的になっているように感じる。単に今の状況を誰もが心配しているからなのかもしれない。これほど長い年月、多くの苦難や起伏を経て、もしかすると永遠に完成しないのではないかと思える日もあったアルバムだということを考えると、世界の現状とこれほど呼応しあっていることに、自分でも驚かされるんだ。


カート・スミス:確かに完成には長くかかったが、それは自分たちの主張が込められたアルバムを作る方法を見つける時間だった。長いこと、自分たちの本意ではない、これはTFFと呼べる曲じゃないと思える曲を作っていた。自分たちでもやり方を忘れてしまっていたんだと思う。でも本当にしたいことはなんなのか、そのことを話し合った結果、突然腑に落ちた気がした。忘れるべきは、今何が世間で流行ってヒットしているかであって、僕らは本来得意なことをすればいい。つまり、広い意味のポップミュージックに乗せて、自分たちの大胆な主張を声にすればいい。その間もずっと曲は書けていた。それは問題なかった。ただ、その曲の奥にあるべき意味みたいなものがわからず、それを探し続けていたんだと思う。

──ふたりで曲を作り始め、そこでできた5曲が新作への大きな足がかりになったとのことですが、その5曲とはどの曲ですか?

ローランド・オーザバル:「No Small Thing」「Break The Man」「Please Be Happy」「Rivers of Mercy」「Master Plan」だ。

──ローランドにとって、元奥様のご病気と死、自身の体調不良はアルバムの制作や内容にどんな影響を与えましたか?

ローランド・オーザバル:キャロラインの状況は実に大変で…僕は彼女の介護をしていたんだ。酒しか飲まず、食べ物は受け付けないので、僕が一日中、流動食を食べさせていた。スタジオに行かねばならない時、買い物に出る時は、介護サービスのケアワーカーに来てもらう。そんなことをしながら、曲を書こうとした。ポップソングをね。ある時、チャールストン・ぺタスから送られてきた、美しいオーケストラの入ったバッキングトラックがベースになって「The Tipping Point」は生まれた。いわゆるポップスの工場を離れ、ひとりきりで曲作りに取り掛かることで、僕自身キャロラインがかつての姿から亡霊になってしまうのを見ながら感じていた思いを、表現できる機会を得ることができたんだ。それが「Please Be Happy」にもつながった。と同時に、自分の人生にそれだけのことが起きていると、仕事に100%集中することはどうしてもできなくなる。あの頃の僕にはキャロラインとのことで解決できない怒りがたくさんあり、カートとの関係にも影響を及ぼしていた。彼は寛容にも許してくれたけれどね。

カート・スミス:(苦笑)僕は寛容な人間なのさ。と言ってもローランドに限ってだよ。大抵はそうじゃない。

ローランド・オーザバル:そんなわけで僕の心は100%アルバムに集中できず、流れに身を任せている部分があった。だから、その時点でアルバムを発表するには至らず、Greatest Hitsに2曲だけを入れ、残りはもう少しじっくりと熟考しようということになったのは、運命だったとも言えるし、ラッキーだったのだとも言える。実際、そうなってラッキーだったよ。


──ふたりの間でも、ひとつの曲に対してそれぞれ違う解釈が生まれているのでしょうか?

カート・スミス:良い曲、良いソングライティングというのは、いく通りもの解釈がリスナーによってできるものを指すのだと思う。もちろん僕もローランドもそれぞれにどういう意味があるのかはわかっているけど、聴かれる時は全く違うものになるかもしれない。それで全然構わないんだ。何かを感じてもらえる限りは。

──結成して40年、ふたりとも60歳になりましたが、色々ありながらも今もバンドを続けていられる最大の理由はなんでしょう?

ローランド・オーザバル:一定の間隔…かな。仕事をする時は会うが、大抵の場合、住んでいる国も違う。ただ、ツアーに出るとストレスも多く、互いにイラつき、相手のせいにして揉め始める。結婚生活と一緒だね。何かがあると夫は妻を、妻は夫を責める。僕とカートのどっちが夫で妻なのかは言わないし、それはどうでもいいことだけど。でも長く続けてこれたことの素晴らしい要因のひとつに、カートがビジネス・パートナーだったことが挙げられると思う。

──どういう意味ですか?

ローランド・オーザバル:音楽業界の色々な人間と付き合ってきたが、カートは単なるミュージシャンではなく、業界内の政治的なことにも対処できる人間なんだ。サメの大群の中でも臆することなく立ち回れる。でも僕はそういうタイプじゃない。人に干渉し、議論をして、何かに取り組むというよりは、家でこもって怒っているタイプだ。あとは信頼だね。40年以上にわたってカートと仕事をしてきて、カートのことは信頼している。常に意見が合うわけではないけど、それでいいんだ。僕らはふたりの個人なのだから、意見はあわなくていいものだ。でもふたりが「これはいい、これをやるぞ」と決めた途端、それまで以上にパワフルな何かが生まれる。僕らふたりで遂げた成功の歴史があるというのも幸運の要素だけど、今回のアルバムでは、1980年代半ば以来ちょっと失っていた最高のバランスを取り戻すことができたのだと思う。

──アルバム・タイトルでもある「The Tipping Point(転換点)」といえるのはどのタイミングでしたか?

ローランド・オーザバル:僕個人的には「No Small Thing」を書いたことだと思っている。

カート・スミス:僕も同感だね。


── 「No Small Thing」はフォーキーなイントロに始まり、次第にあなた方らしい展開になって、最後はカオスになって終わる冒険的な曲ですね。

カート・スミス:ああ、そこが僕も一番気に入っている。スタジオで生まれたものをローランドがイギリスに持ち帰り、そこから彼が作り上げたのは、それまでと全く違うものだった。それまで僕らがやるようにと背中を押されていたこととは真逆。より音楽的にも、歌詞にも深いものになっていた。4分間のポップシングルではなくてね。

──だからこそ、これを1曲目に持ってきたかった?

ローランド・オーザバル:そうだよ。

──ちょっと前の話ですが、アーケイド・ファイアの「Ready to Start」、ホット・チップの「And I Was a Boy from School」、アニマル・コレクティヴの「My Girls」という3曲のカヴァーを発表していますよね。過去にもいくつかカヴァーは発表していますが、こういう若いアーティストの曲を取り上げるのは珍しく意外でしたが、なぜこのようなセレクトを?

ローランド・オーザバル:当時、契約した新しいマネージメント(TAO)のギャリー・ガーシュが、僕らを若い子たちの世界に引っ張り入れようとして考えたことなんだよ。それに、僕らに対する不信感。もう僕らにはいい新しい音楽が作る力がない、と思ってたんだろう。しばらく活動もしてなかったので、ネット上で話題になるのを狙って、カヴァーをやらされた形なんだ。でも、その時点で既に予兆はあったということだよ。アルバムを作るにあたってのギャリーの判断…つまり外部の人間とやらせようという判断は、自分たちではなく、他人の音楽を僕らに作らせようとしていたことと一緒だからね。

──なるほど。

ローランド・オーザバル:でも「Ready to Start」は気に入っているよ。ライヴでもやっているし。


カート・スミス:実際なかなかいいヴァージョンに仕上がってる。決して、若いオーディエンスに受けたくてやったことではないんだ。1番の問題は、若いオーディエンスはもう僕らのことなんて好きじゃないという誤った思い込みだと思っている、普段からネットを利用していれば、若い子の中にもTFFが好きだというファンは大勢いることがわかる。その彼らに迎合するのではなく、自分たちらしいことをすべきなんだよ。

──最新の音楽事情で、興味を惹かれたのは誰ですか?

ローランド・オーザバル:ウェット・レッグ。

カート・スミス:ウェット・レッグはいいね。ローランドがメールで彼女たちがいいって言ってきたんだけど、僕はその何ヶ月前に聴いてすでに夢中だった。我々にはそれぞれ子供がいるから、若い子の音楽も聴いているよ。娘のSpotifyプレイリストがきっかけで知るものも多い。The 1975、フィービー・ブリジャーズ…もう新しくはないけどボン・イヴェールのプロダクションには僕自身大きな影響を受けたよ。ジャスティンはソングライターとしてはめちゃくちゃすごいわけじゃないんだが、プロダクションには目を見張るものがあるよね。

ローランド・オーザバル:ニュージーランドのQuarterboy(クォーターボーイ)っていうバンドがすごくいいよ。

──クォーターボーイですね…チェックします。

ローランド・オーザバル:(小さな声で)僕の息子さ...(笑)。

インタビュー◎小野島大
通訳・翻訳◎丸山京子
編集◎BARKS編集部


ティアーズ・フォー・フィアーズ『ザ・ティッピング・ポイント』

2022年2月25日(金)世界同時発売
UICB-10006 3,300円(税込)
※日本盤はボーナストラック2曲、歌詞対訳、解説付
1.No Small Thing /ノー・スモール・シング
2.The Tipping Point / ザ・ティッピング・ポイント
3.Long, Long, Long Time / ロング、ロング、ロング・タイム
4.Break The Man / ブレイク・ザ・マン
5.My Demons / マイ・デーモンズ
6.Rivers Of Mercy / リヴァーズ・オブ・マーシー
7.Please Be Happy / プリーズ・ビー・ハッピー
8.Master Plan / マスター・プラン
9.End Of Night / エンド・オブ・ナイト
10.Stay / ステイ
11.Let It All Evolve / レット・イット・オール・エヴォルブ *ボーナストラック
12.Shame(Cry Heaven) / シェイム(クライ・ヘヴン) *ボーナストラック

◆ティアーズ・フォー・フィアーズ・レーベルサイト
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