【コラム】映画『ミラベルと魔法だらけの家』から、「秘密のブルーノ」大ヒットの不思議

ポスト

©Disney

なんと、あの『アナと雪の女王』の「レット・イット・ゴー」も、『アラジン』の「ホール・ニュー・ワールド」も、すでに超えてしまっていた。

2021年11月より日本でも公開されている、ディズニーによるミュージカル・アニメーション映画『ミラベルと魔法だらけの家』(原題は『ENCANTO』)の挿入歌「秘密のブルーノ」(原題は「We Don't Talk About Bruno」)のことだ。


©Disney

「秘密のブルーノ」は、ピーボ・ブライソン&レジーナ・ベルが歌った「ホール・ニュー・ワールド」以来、ディズニー・アニメーション映画の楽曲として29年ぶりとなる全米チャート1位を記録(イディナ・メンゼル「レット・イット・ゴー」は5位が最高位)。本稿執筆時点では3週連続1位で、2週以上にわたる1位獲得は、史上初の快挙だ。さらには全英チャート1位という、ディズニー・ソング初の快挙も達成している。映画のサウンドトラックも全米1位に輝いており、大きなミラベル旋風が巻き起こっている。ニッキー・ミナージュ(feat. リル・ベイビー)、アデル、グラス・アニマルズといったメインストリームに居並ぶ人気アーティスト勢を抑えての1位ということを考えても、その強さは驚異的だ。

『ミラベルと魔法だらけの家』のミュージカル音楽を担当したのは、『モアナと伝説の海』に続いて起用されたリン=マニュエル・ミランダなる人物。「秘密のブルーノ」については、電話で監督と話している時にリンが瞬間的にフレーズを思いつき、ピアノで即興で演奏したというエピソードが公開されている。その作風はラテン音楽をベースにしたミドル・テンポのポップで、映画のキャラクターたちが入れ替わり立ち替わり、マイク・リレーをしながら歌っていく。『ミラベルと魔法だらけの家』版「ウィ・アー・ザ・ワールド」といったところだろうか。


南米コロンビアの奥地を舞台にしたミュージカル映画ということもあり、ラテン音楽というのは頷ける。だが「秘密のブルーノ」は、陽気で情熱的な、いわゆるラテン音楽とは明らかに違う。それどころか、全編にどこか不穏で不吉なムードが漂っている。とにかく、ディズニー生まれの大ヒット曲と聞いて一般的にイメージされるような、壮大なスケール感もロマンもファンタジーもない楽曲なのだ。確かに、ポップではある。ポップではあるが、決してキャッチーではない。大衆性という意味では、いくら洋楽好きの日本人でも、「レット・イット・ゴー」や「ホール・ニュー・ワールド」のようにカラオケで歌う人が急増することなどは、ちょっと考えにくい。

しかも、原題のタイトル・フレーズである“We Don't Talk About Bruno”、つまり“ブルーノのことは話すな”という警告から始まるこの楽曲の歌詞では、ブルーノのよろしくないエピソードが井戸端会議的に次々と明かされていくのだ。このようにネガティヴ要素が少なくない、しかもメイン・テーマではない挿入歌が、ディズニー・アニメ映画史上最高のヒットを叩き出したという事実。もしかしたら、人々はブラックなディズニー・ソングをタブー視するどころか、待ちわびていたのだろうか。

背景には、多民族国家ということがあるのかもしれない。サンタナからロス・ロンリー・ボーイズ、カミラ・カベロに至るまで、アメリカではラテン系アーティストが当たり前のように支持されるし、イギリスにはレゲエやダブ、スカなどの音楽もしっかりと根づいている。

また、歌詞の語感やフレーズとしてのインパクトが、英語圏リスナーの耳には大きいという可能性も考えられる。いずれにしても、「♪触れちゃダメ、ブルーノ~」と歌われる日本語ヴァージョンの動向に注視していきたい。

文◎鈴木宏和



『ミラベルと魔法だらけの家』日本版オリジナル・サウンドトラック

2021年12月17日(金)発売
Walt Disney Records UWCD-1107 ¥2,500+税
※歌詞・対訳・英文コメント訳・ナオト・インティライミ インタビューノート付き
海外版オリジナル・サウンドトラック(デジタル・アルバム)配信日:2021年11月19日(金)
日本版オリジナル・サウンドトラック(デジタル・アルバム)配信日:2021年11月25日(木)
『ズートピア』『アナと雪の女王』のディズニーが贈る、待望のミュージカル・ファンタジー。ミュージカルの楽曲を手掛けたのは、舞台「ハミルトン」や「イン・ザ・ハイツ」でトニー賞やグラミー賞などを多数受賞し、『モアナと伝説の海』でアカデミー賞にノミネートされたリン=マニュエル・ミランダ。スコアはジャーメイン・フランコ(『リメンバー・ミー』)。日本版オリジナル・サウンドトラック(CD/デジタル)にはナオト・インティライミによる日本版エンドソング「マリーポーサ ~羽ばたく未来へ~」収録。CDのブックレットには歌詞・対訳・英文コメント訳の他にナオト・インティライミによるインタビューノートを掲載。
1.ふしぎなマドリガル家
歌:斎藤瑠希/中尾ミエ&Cast
2.奇跡を夢みて
歌:斎藤瑠希
3.増していくプレッシャー
歌:ゆめっち(3時のヒロイン)
4.秘密のブルーノ
歌:藤田朋子/勝矢/大平あひる/畠中祐/平野綾/斎藤瑠希&Cast
5.本当のわたし
歌:平野綾/斎藤瑠希
6.2匹のオルギータス
歌:セバスチャン・ヤトラ
7.奇跡はここに
歌:斎藤瑠希/中尾ミエ/中井和哉/大平あひる/武内駿輔&Cast
8.カシータ
9.愛するコロンビア エンドソング
歌:カルロス・ビべス
10.マリーポーサ ~羽ばたく未来へ~ 日本版エンドソング 
日本語詞/歌:ナオト・インティライミ 
11.目を開けて
12.わたしの家族
13.そばにいて
14.アントニオの声
15.マドリガルのダンス
16.亀裂が走る
17.めげないミラベル
18.朝食で質問を
19.ブルーノの塔
20.ミラベルの発見
21.機能不全のタンゴ
22.過去を追いかけて
23.結ばれる家族
24.究極のビジョン
25.完璧なイサベラ
26.姉妹の戦い
27.家は知っている
28.奇跡のロウソク
29.川
30.悪いのはボク
31.ミラベルの道
32.ミラベルのクンビア
※Track 8, 11-32:スコア
◆『ミラベルと魔法だらけの家』日本版オリジナル・サウンドトラック試聴/購入
◆『ミラベルと魔法だらけの家』海外版オリジナル・サウンドトラック試聴/購入


©Disney

映画『ミラベルと魔法だらけの家』

「ズートピア」「アナと雪の女王」のディズニーが贈る、待望のミュージカル・ファンタジー。魔法の力に包まれた、不思議な家に暮らすマドリガル家。家族全員が家から与えられた“魔法の才能(ギフト)”を持つ中で、少女ミラベルだけ何の魔法も使えなかった。ある日、彼女は家に大きな”亀裂”があることに気づく──それは世界から魔法の力が失われていく前兆だった。残された希望は、魔法のギフトを持たないミラベルただひとり。なぜ、彼女だけ魔法が使えないのか? そして、魔法だらけの家に隠された驚くべき秘密とは…?
公式サイト:https://www.disney.co.jp/movie/mirabel.html
(C) 2021 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

この記事をポスト

この記事の関連情報