【コラム】The Burning Deadwoodsにみる“オルタナティブ”R&Bの行方
2016年、それはR&Bにとって史上最も幸福な年のひとつである。ビヨンセの『Lemonade』やフランク・オーシャンの『Blonde』を筆頭に、ブラッド・オレンジやアンダーソン・パーク、チャイルディッシュ・ガンビーノらがこぞって傑作をリリースした。ポップミュージックのフォーマットを保ちながら、各々がエッジの効いたオルタナティブなサウンドを鳴らしていた。これは前年のメインストリームの影響も大きいと思われる。ジャスティン・ビーバーやカーリー・レイ・ジェプセンらがEDMやポップスを飲み込みながら、偏屈な批評家たちも唸る快作を世に放っていた。
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現在ではすっかりジャンルやシーンの境界(アンダーグラウンドかオーヴァーグラウンドか)が曖昧だが、決定的にこのボーダーが崩れたのは2010年代の中盤だったように感じる。当時日本からその流れに呼応していたのが、MATTONが所属していたPAELLASであり、inuiが所属するYOUR ROMANCEである。EDMに接近しながら独自のJ-POPを構築していたという意味では、E-girlsやFAKY、Reolも特筆すべきだ。
東京発のトラックメイカーによる2人組バンド・The Burning Deadwoodsがデビューアルバム『T.B.D.』で提示するのは、2010年代から続く“オルタナティブ”である。MATTONとinuiが参加した「Mystic」では甘美なファルセットとコーラスワークを響かせ、FAKYのAKINAが参加した「Everlasting Eternity」ではトラップのマナーを引き継ぎながらメロウでジャジーな鳴りを聴かせてくれる。Reolが作詞で参加し、伶(鷲尾伶菜のソロプロジェクト)がヴォーカルをとった「Labyrinth」はスムースなハウスミュージックを下敷きに制作された。
つまり、2016年のR&Bがそうであったように、“オルタナティブR&B”とは特定の音像を指す言葉ではない。画期的な内容でR&Bの要素が足されていれば、それはもうオルタナティブR&Bなのだ。要するにテクスチャーで考えれば“何でもアリ”なのである。自由で制約のない、素晴らしきR&B。
ここで今一度2010年代の日本のポップミュージックシーンに話を戻そう。とりわけ“自由で制約のない場所”が、日本の音楽シーンには残されていた。それがインターネットだ。テレビを筆頭としたオールドメディアが形骸化する中、若い才能がインターネットを介してどんどん出てくる。特にニコニコ動画の功績は大きく、ボカロPとして名をはせたプロデューサーがメインストリームで活躍するのはもはや珍しくはない。「Behind」に参加した春野も、実際にそういった経歴の持ち主だ。この曲ではLo-Fiなビートに乗せて、多国籍なルーツを持つ気鋭のシンガーソングライター・Sincereがシルキーなヴォーカルを響かせる。Lo-Fiビートは春野にとって重要なリファレンスであり、それがまた本作における“文脈”の存在を実感させる。明らかに、インターネットにもベクトルは向いているだろう。
しかし2010年代と比較して決定的に異なる点がひとつある。それが“シティポップ”のメインストリーム化だ。PAELLASらが中央集権的にアメリカ、もしくはUKのR&Bを追っていた頃とは違い、あちら側からこちらへ眼差しが向かっている。泰葉の「フライディ・チャイナタウン」(1981年)を、LAの2000人が熱唱する時代に我々は生きているのだ。何度か“シティポップ”という言葉が日本の音楽シーンで流通し、商業的なラベリングのために使われることはあったが、今はより具体的にヴァイラル・ヒットが起きている実感がある。80年代的なシンセワークの影響が感じられる、kiki vivi lilyが参加した「Turn Me On」、Salaがヴォーカルをとった「Moon In Shadow」はその文脈の上にあるのではないだろうか。
さらに本作には、あのMotown Recordsの元プロデューサー・George Jacksonを父に持つKona Roseが参加している。2010年代から続くオルタナティブR&Bを継承しながら、現行シティポップを通過し、グローバルな視点をも提示している。
定型がない“オルタナティブ”を、日本側の視点で継承する『T.B.D.』。本作もまた何らかの形で紡がれてゆくだろうが、その行方には大いに期待したい。できるだけ広く、遠く、届いてほしい。
文◎川崎ゆうき
配信アルバム『T.B.D.』
M1. Introduction
M2. Turn Me On feat. kiki vivi lily
M3. Everlasting Eternity feat. AKINA
M4. Labyrinth feat. 伶
M5. Moon In Shadow feat. Sala
M6. Undone
M7. Mystic feat. MATTON & inui from PEARL CENTER
M8. Fantasy feat. Kona Rose
M9. Behind feat. 春野 & Sincere
https://lnk.to/_tbd
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