【コラム】カーリングシトーンズ、“本気”で音楽を携えて遊ぶ

カーリングシトーンズの最新ライブ＜またか！いい加減にシトーンズ！～Live at 東京ガーデンシアター2021.03.16～＞を収録した映像作品が12月29日（水）にリリースされる。

◆ライブ画像

寺岡シトーン（寺岡呼人）、奥田シトーン（奧田民生）、斉藤シトーン（斉藤和義）、浜崎シトーン（浜崎貴司）、キングシトーン（YO KING）、トータスシトーン（トータス松本）。それぞれフロントマンで活躍するベテラン6人が結集し、ラモーンズに倣って名前を揃えて（ただしこちらはファーストネーム）、往年のグループサウンズ風の貴公子姿で躍動したカーリングシトーンズの2本目の映像作品である。

タイトルにある通り、2021年3月16日に開催されたライブの模様を一切つままず（アンコール前の手拍子タイムも）まるまる収録。彼らにとって初の生配信、2020年1月以来の有観客公演は2時間以上の長丁場だが、さすがに経験豊富なライブ巧者揃い、飽きさせずに楽しませてくれる。

楽しみのひとつがパートのシャッフルだ。冒頭の「パンのうた（仮）」から奥田がドラムス、寺岡がキーボードで、斉藤がベース、浜崎とキングがアコギ、トータスがエレキという編成。「俺たちのトラベリン」でトータスはロジャー・マッギンもかくやという12弦ギターのソロを披露し、「タイムテーブル」では浜崎がボンゴを叩き、「キャラバン」では斉藤がメロトロンを弾く。ドラムスは奥田、斉藤、トータスが持ち回りだ。ユニコーンもよくやっているが、パートのシャッフルは上手下手を問わず楽しい空気をもたらす。6人組のメリットが生きた演出といえよう。


ライブ中盤で披露された「Road to 老後 CM王への道のやつ」コーナーは、全員がシンガーでありソングライターという強みを発揮した好企画。奥田のYouTubeチャンネル発で、イントロ、Aメロ、Bメロ、サビ、大サビ、エンディングの6パートを分担し、その場でCMソングを作るという趣向だ。過去作として「そこのけサイクリング」（自転車屋）と「あなたの手」（ホームセンター）を演奏し、新曲「大サビエブリデイ」（すし屋）も即興で制作した。なお、ボーナストラックとして前日公演の同コーナーの模様も収録している。それぞれ圧倒的な個性を持ち主役を張っている歌手の彼らが共作をし、リードボーカルをリレーし、ときにはハモりに回って支える姿には、パートのシャッフルと同様、問答無用でグッとくるものだ。

もともとLINEグループから始まったという仲よし6人組だけに、ゆるいながらも息の合ったMCもファンにはたまらないだろう。トータスが歌っている間に奥田と寺岡が私語をして笑わせたり、奥田とトータスのやりとりに「おい！　二人で漫談してんじゃないんだから」と突っ込んだ浜崎が「でね」と話を引き取って突っ込まれたり、ドラムセットに座ったトータスが「ここからの景色はドラマーの醍醐味やね」と言って奥田が「そうなんだよ」と肯ったり。斉藤の声の小ささは終始いじられ続け、客席に静かな笑い（声を出せないため）を生んでいた。アンコールは『おちょやん』でダメ親父のテルヲを演じたトータスが主役で、他の5人は思い思いの千代に扮して寸劇を繰り広げた。


すでに功成り名を遂げた大御所6人が、まるで学生時代のノリで歌い、じゃれ合うようにふざける姿は、それだけで「尊い」ものだ。「オイ！」（もちろん「老い」を含意している）の加齢あるあるを俟たずとも、「ゆるさ」の魅力は随所に発揮される。「出会いたい」や「Oh! Shirry」などのスケベ歌も、このメンバーが歌うと哀愁と愛嬌が滲むというものだ。

ロックンロールを軸に、ブルース、フォーク、ラテン、ハードロック、ポップと、音楽的にはなんでもござれ。言葉遊びが効いた「AB/CD」、ボブ・ディランか忌野清志郎かといった趣の「マホーのペン」、バンドのテーマソング「スベり知らずシラズ」に6人が楽器を持たず軽快なダンスを披露する「涙はふかない」、CMソングコーナーから空気を引き締めた「キャラバン」など、おもしろ曲の合間にきっちり名曲を繰り出してくるのはさすが。才能と経験に支えられたバランス感覚、まさにベテランの味と言える。

とりわけ僕が感服したのは「B地区」である。ザ・バンドがファンクをやったみたいな曲で、ABCを性交渉の発展段階になぞらえる80年代文脈（沖田浩之「E気持」参照）をもじりながら、ミスもきちんと音楽的に回収し、アドリブで合いの手を入れたり途中にジャムをはさんだりキングが心のコール＆レスポンスを展開したりと、遊びを盛り込んで音楽のスケールを自然に拡大する。最後は斉藤がビシッとギターソロを決めて、銅鑼でエンディング。シリアスとコミカルの皮膜を行ったり来たりする姿は実に楽しそうで、見ているこちらも楽しくなった。

寺岡シトーンは「『僕等が本気で楽しめば、それだけでみんな笑顔になれる』僕等が1番楽しんでるのだが、本気で音楽を携えて遊んでるので、なんというか今までに観たことないような音楽ステージをやってる気がします」とコメントしているが、さすが名プロデューサー。人は楽しそうにしている人を見るだけで楽しくなるし、逆もまた真なのだ。「その通り！」としか言いようがないし、やっている本人たちがそこまで見えているのだから、これはもう間違いないのである。

文◎高岡洋詞