【インタビュー】なきごと、“幸せとは?”を大きなテーマに感性豊かな楽曲で彩られたミニアルバム『パトローネの内側で』
なきごとが12月1日に3rdミニアルバム『パトローネの内側で』をリリース。ライブの動員が増える中、もっと多くの人になきごとの曲を届けたいという想いのもと制作されたのが本作。コロナが明けたら、みんなで声を出して一緒に歌いたいという切なる気持ちで作った楽曲も収録されている。5曲を通じて、水上えみり(Vo.&G.)が提示したのは“幸せとは?”という大きなテーマ。水上の作る感性豊かな楽曲を彩る岡田安未(G.)とのコンビネーションも結成4年目を迎え、ますます自由度を増している。節目を迎えているという2人の意識の変化、全5曲が生まれた背景について話を聞いた。
■シンプルに削ぎ落として大事なところを際立たせたことで
■バランス良くシンプルであることを意識していました
──前回の取材ではコロナ禍で一緒に音を出すのも難しい中、二人で曲を作ったり音を出すことがいかに大事か再確認したという話をしてもらいましたが、その後、有観客でのツアーを経て、感じたことや心境の変化はありましたか?
水上えみり(以下、水上):ツアーでいろいろな場所を廻らせてもらって、緊急事態宣言が解除されていない箇所もある中、不安を感じながらもライブに来てくれる人たちのありがたみをすごく感じました。そこでライブに対する向き合い方についても考えて、みんなでいろいろ話し合いましたね。
──どう向き合おうと思ったんですか?
水上:音源を聴いてきた上で来てくれる方が増えたなと思ったツアーだったので、ライブでしか聴けないアレンジの曲があったら楽しいかなとか、そういうことも考えるようになりました。
岡田安未(以下、岡田):そうですね。変化としては今までは“なきごと”の2人でライブの作り方を考えていたんですが、サポートメンバーとも話し合うようになりました。
▲水上えみり
──よりバンドに近い形態で音を鳴らすというか?
水上:みんなで作ろうって。「この曲はこういうアレンジにするのはどうですか?」っていう自分たちの提案を基軸に「もっと楽しんでもらうためにこうした方がいいかもね」とか、意見を出し合いながら。
──その体験は3rdミニアルバム『パトローネの内側で』に反映されているんでしょうか?
水上:今はまだライブで声を出せないですけど、だからこそコロナ禍が明けた時にみんなで歌えるような曲を作りたいと思うようになって、「ひとり暮らし」という曲ではそういう箇所を作りました。「コロナが明けたらゴハン行こうね」って常套句のような約束が増えたような気がしていて。コロナ禍でした数々の約束の中でこれだけは果たせるような約束を…と思い、作りたいと思っていたんです。今、ライブ会場でも言ってるんですけど、「みんなで声出せるようになったら歌いたいね」って。もともと、一緒に歌うようなタイプのバンドじゃないなと思っていたので、ライブで感じたことが反映された楽しんでもらえる曲だと思います。
──アルバムタイトルも気になりますが、2人で共有したことはありますか?
水上:タイトルは後付けなんですよ。今回は先に曲があって、5曲を並べてみてギリギリまで悩んで決めました。“パトローネ”はカメラのフィルムに光が入らないようにする遮光板のことなんですけど、パトローネの内側は光が入っていないまっさらなフィルムなので、そこに写真をどんどん写していくみたいにCDに入っている曲を聴いてくれた人が自分なりの解釈で幸せについて考えて投影してほしいなって。“幸せとは何か?”ということを提示している5曲なので、そういう想いもあります。
──染みてくる曲もあるし、ジャズテイストの曲もあるし、オルタナティブで怒りが炸裂している曲もありますが、制作時に特に印象に残っている曲はありますか?
水上:去年の12月に姉が入籍したんですが、「Hanamuke」(先行配信デジタルシングル)は「結婚するんだよね」って言われた時にきっと結婚式に呼ばれて弾き語りをさせられると思ったので(笑)、その時のために作った曲です。コロナの関係でまだ式は挙げてないんですが、先に餞別として贈らせてもらった曲です。
──お姉さんにはすぐ聴いてもらったんですか?
水上:はい。泣いて喜んでました。2デイズのリリースパーティにも見に来てくれて泣きながら見ていました。
──号泣されたんじゃないですか?
水上:号泣してました。いつもライブで泣いてるんですよ。
──お姉さまのことは岡田さんもよくご存知なんですか?
岡田:存じ上げています(笑)。SNSでよくメッセージをくれるので、電波上のお付き合いですが。
──この曲にはギターが歌と寄り添っている印象を受けました。水上さんの歌と一緒にギターで歌っているような。
水上:(岡田に)そういうことは意識したんですか?
岡田:そうですね。なんせハッピーな曲なので明るく楽しく行こうかなと思って。
水上:タンバリンも入っているんですけど、結婚式でアコースティックセットでみんなでわちゃわちゃやっているイメージがあった曲なので、その雰囲気は綺麗に表現できてるなと思います。
──お姉さんとの思い出も入っているノンフィクションの曲なんですね。
水上:そういう解釈もできるし、幼なじみとか仲が良かった友達に重ねて聴くと違う解釈が生まれると思うので、聴く人によっていろいろな受け取り方ができるような曲にしました。
──ミュージックビデオもこれまでと違う開放感のある映像ですね。
水上:そうですね。姉との思い出がある一緒によく遊んでいた公園や二人でよく通った帰り道の景色が映っています。
──お姉さん、再び号泣ですね。
水上:(笑)「懐かしいっ!」ってすごく喜んでいました。
──1曲目の「ひとり暮らし」は染みてきました。“あぁ、嫌だなぁ”っていうフレーズがメロディや歌とあいまって日常生活あるあるで共感するというか、情景が浮かんでくるんですよね。
水上:聴く人に重ねられる部分だったり、日常の中にある気づきをモチーフに膨らませて書いた曲なんですけど、今、言ってもらったみたいに嫌なことっていっぱいあると思うので、“あぁ、嫌だなぁ”ってライブでみんなで声を出して歌って、ちょっとスッキリできたらいいなと。
──なきごとらしい曲だなと感じました。
水上:私は今までのなきごとのカラーを増長させた感じだと思っています。あとは速いテンポ感でこういう歌詞の曲は意外と少なかったので、新しい挑戦でもありました。
▲岡田安未
──岡田さんはどうですか?
岡田:さっき生活が浮かんできたっておっしゃってくれましたが、私も全く同じことを思って、“期限切れの牛乳も”っていう歌詞もつい先日やっちゃったばっかりなんです(笑)。
──ありますよね。冷蔵庫から出したら賞味期限過ぎてたって。
岡田:大きい牛乳を買うと飲みきれないから、キャップがついてる小さいサイズを買うんですよ。それすらも期限を切らしちゃって。だから、自分の生活も浮かんでくるし、歌詞の世界観を想像しやすい曲だなと思いました。なきごとの歌詞って聴く人に寄り添っているって言われるんですけど、この曲はより一層生活の中の身近な言葉を使っているので、また別の寄り添い方だなって。これは制作者ではなく、リスナーとして思ったことですね。
──“アイロンかかったスーツネクタイ”という歌詞が出てくるので、ひとり暮らしに戻った女子の気持ちを歌った曲なのかなって。
水上:まさにそうで、2人で暮らしていたり、家族と暮らしている時間があったからこそのひとり。それって誰かがいるからこその自分になってくるんですけど、好きな人と同棲してたり、友達とルームシェアしていても牛乳が気づいたらなくなっていたり、リモコンの位置が変わっていたり、物が増えたり、失くなっていたり、勝手に変わっていることが当たり前になってくるんですよね。ひとりで暮らすようになってシャンプーボトルの減りが遅くなったりとか。
岡田:ものを失くした時に人のせいにできないよね(笑)。
水上:そう、そう。誰かがいたからこそ、自分は今ひとりなんだっていうことをモチーフにした曲ですね。
──「ひとり暮らし」に限らず、今作はサウンド面で音の押し引きって意識されたんでしょうか?
水上:確かにダイナミクスというか、静かな部分と壮大な部分のコントラストがすごいなって。
──シンプルに削ぎ落としているセクションと厚みのある音のセクションのメリハリがあるのが前と違うなと感じたんですよね。
水上:それは的を得てるなと思います。これまでは音で埋めるようにというか、サポートメンバーも含めて技術的に難しいことをしてカッコよくするスタンスだったと思うんですね。コピーしようと思ったら、かなりハードルの高い曲が多かったんですけど、今回はシンプルに削ぎ落とすことによって大事なところを際立たせたのでバランスがよくなったなと思っていて、シンプルであることはみんな意識していましたね。
──それはライブを積み重ねて生まれた変化ですか?
水上:3年間バンドをやってきて、4年目はいろんな人にどんどん、なきごとを聴いてもらいたいと思っているんです。今まで“複雑にしすぎていて、何をどう聴いていいか分からなくなっていたかも”、“歌詞もちょっと隠しすぎていて何を伝えたいのか分からなかったな”って。そういうことをサポートメンバーを含む“なきごとチーム”で話した上で制作したので、かなり挑戦したアルバムだと思っています。
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