【インタビュー】K、新しいところに足を踏み入れて見たことのない景色を見たい「Touchdown feat.VILLSHANA」

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■「No!」って言わないようにしているんです
■それはプライベートも含めて何事に関しても


――そういうKさんの姿をすごく感じる今回の曲は、サウンドも非常にかっこいいです。

K:DJ RYOW さんのトラックチーム(Space Dust Club)のトラックが10くらいあった中、「これで行きたいです」というのが最初から僕の中でありました。メロディもすぐに出てきましたし、リリックを書くのも早かったです。

――ミステリアスなムードが漂いつつ、ビートはすごく力強いんですよね。

K:そうですね。今、アメリカでも流行っている、ちょっとローファイな80年代の楽曲のニュアンスを感じます。僕もこういうのが好きで、歌ものせやすかったです。

――DJ RYOWさんとは、制作の過程でどのようなことを話しました?

K:「僕のメディアを通じてのイメージとか、検索すると出てくるようなことはまず置いて、僕の声でやってみたいことをやってみましょう」というお話を最初にしました。「K」というイメージだとR&Bのバラードとかがあるのかなと思ったので、そういうものを一旦置いて作っていただきたかったんです。

――トークボックスも効果的な味わいになっていますね。

K:逃げ道はそれしかないというか(笑)。

――そんなことはないでしょう(笑)。トークボックスの使い方が上手いというのは、Kさんの音楽の魅力の1つになっていますから。

K:ありがとうございます。トラックを聴いた段階で、トークボックスが合う気がしていたんです。マニアックなお話をすると、この曲はキーがCmで、A♭M7thから始まるんです。これはトークボックスで一番美味しいところなんですよ。「このキーはトークボックスいただきました!」という感じでしたね。

――トークボックスによる《I can see the light》が、すごくグッときます。

K:嬉しいです。トークボックスは、実は発音が綺麗にできるワード、センテンスが結構あるんです。それを並べてから歌詞をつける作り方を僕はします。それがこの曲にもマッチして良かったです。今はオートチューンが流行りだったりもしますし、この曲でも使っていますけど、トークボックスはそれとはまた別の魅力があるのかなと思っています。


――機材としては1970年代辺りによく使われていましたよね?

K:そうですね。でも、最近でもブルーノ・マーズが使ったりしていますし、僕はすごく魅力を感じています。

――Kさんはデジタルサウンドに対する探求心もすごく持っていらっしゃいますよね?

K:はい。それも今まで自分がやってきたものを大事にしつつ、新しい世界に踏み込んでいくっていうことなんですよね。そういう音楽を作るからこそ、アコースティックの音、ハーモニーを大事にするというのを経験してきて良かったなと思っています。こういうサウンドの曲を作る時も感覚的にやるのではなく、敢えて計算してハモりを入れて、それによってサウンドを引き立てることができるので。

――Kさんにとってやはりずっと大きい存在なのはピアノですよね?

K:そうですね。僕はどんな音楽を聴いても、まずはピアノで頭の中で分析するので。そこはずっと変わらないところです。僕はチャーリー・プースというアーティストがすごく好きなんですけど、彼はもともとクラシック、ジャズをやっていて、ピアノがとんでもなく上手いんです。でも、電子音というか、流行のサウンドに自分を寄せながらも敢えてピアノを弾かない曲も結構あるんです。「ピアノを弾ける人が敢えて弾かないけど、その発想で作る音楽」っていうのは広がりがあって、すごく面白いんですよ。スネア1つに関しても音階がいっぱいあって、ピアノを弾ける人だからこその発想があって、そういうのが楽しいんです。

――音楽の歴史は長いですけど、新しい切り口は生まれ続けているということですね。

K:そうなんです。音楽はプロじゃなくても十分楽しめますし、だからこそ難しい部分もあるんですけど。

――今はアプリとかを使って手軽に音楽を作れるようになっていますからね。

K:そうですね。でも、そういうのはバランスだと僕は思っていて。今は誰もがすぐにメロディをのせられるトラックを購入できる文化もあって、それはそれで面白くて、だからこそ生まれるものもあると思うんです。そういうことと「自分の個性を出す」ということのバランスを僕はとっていきたいです。僕もそういう人に惹かれますし、自分でもそういう音楽をどんどん作っていきたいです。

――技術の進歩は、今までだったら考えられなかったことを可能にしていますよね? 例えばAIが曲を作ったり。

K:ね? あと、メロディを弾くと勝手にコードをのせてくれるのが出てきた時、僕はすごくびっくりしたんです。今はメロを作ってくれるアプリとかも出てきていますからね。でも、そういうものが作った曲を人間が歌うから面白いんだと思います。同じトラックを使っても全く別の曲が生まれますし、人の感性によっていろいろ広がるっていうことですね。

――シンセも含めた電子楽器の音色も広がり続けていますし、それを人間が活用することによって様々な音楽が生まれていくんでしょうね。


K:そうなんだと思います。ちょっとマニアックな話をしていいですか?

――ぜひ。

K:今って、パソコンでシンセサイザーを使えるようになっているじゃないですか。

――ソフトシンセですね。

K:はい。それと昔からある実機の差っていうのもあったりして、そういう面白さもあるんですよね。

――音楽は新しい楽器や機材類の登場と、人間の感性の相乗効果で進化してきた面がありますから、今後もそうなっていくんだと思います。

K:音楽に正解はないですからね。それは映画や小説とかもそうですけど。人によって好みは幅広いですし、様々な可能性がありますから。

――そもそもピアノも画期的な発明だったわけですからね。それまではチェンバロだったのに、強弱が出せる鍵盤楽器として登場したのがピアノでしたから。

K:そうなんですよね。ピアノって変な楽器なんです。弦を叩いて音を鳴らすんですから、「なんて効率の悪い」っていう楽器(笑)。でも、だからこそ生まれる奥行き感だったりがあるんです。そういう楽器を発明してくれた先祖に感謝しないと(笑)。

――(笑)サウンドについていろいろお聞かせいただいたので、今回の曲のリリックについてもお伺いさせてください。VILLSHANAさんとは、直接会ってお話をする機会はあったんですか?

K:楽曲の制作の過程ではLINEのやり取りだけだったんです。MV撮影の時に初めてお会いして、すごく音楽に対して真面目な方でした。

――この曲のリリックは、2人の中にある強い意志が共鳴し合っている様が伝わってきます。

K:僕は今の自分のパーソナルな部分を描いていたんですけど、彼はもっと広い視点から描いて広げてくれました。彼が書いたリリックの中に《touchdown》という言葉があったので、この曲のタイトルが生まれたんです。ラップだからこそ書ける言葉とか表現ってありますね。言葉をたくさん盛り込めるのが羨ましいとか思ったりもするんですけど(笑)。この曲のリリックを書く時、「ラップのように書きたい」というのもあって。それはここ最近ずっと考えていることでもあります。

――「韻によって言葉がいろいろ思い浮かんで、それがリリック全体の意味、ストーリー、発想を牽引する」っていう話をラッパーから聞いたことがあります。そういうのもラップの面白いところですよね。

K:そうですね。ラップって、すごく魅力があります。あと、VILLSHANAくんに「誰が一番好きなの?」って訊いて、ラッパーを挙げるのかと思っていたら、「スピッツ」って言ったんですよ。それも面白かったです。

――好きなものを下地にしたアウトプットのスタイルは、人それぞれということですね。

K:そうなんです。あと、韻に関して思い出したことがあるんですけど。アメリカのドラマを観ていたら、言い争っている言葉が韻を踏んでいて、すごく言葉が入ってくる感じだったんです。それはアジアの言葉にはないものですよね。自分の意見を押し込むところで韻を踏んだりする遊び心が生活の一部になっているんだなと思いました。

――韓国語の詩も韻は踏みますよね?

K:踏みます。わりと日本に近い部分があると思います。でも、ラップが流行り出してからそういう文化がより広まった感じですね。

――言語によって音の響きは異なるから、その国独特なフロウみたいなのが生まれるのも面白いです。

K:韻を踏みやすい言葉もあったりしますからね。


――Kさんは、そういう視点に関しても柔軟で広いものを持っていらっしゃいますから、これからもフレッシュな気持ちのまま音楽を生み続けるでしょうね。

K:ありがとうございます。これで終わりじゃなくて、どんどん攻めて行きたいと思います。実はこの後も考えているプロジェクトがあるので。

――コラボをしたいアーティストも、たくさんいるんですか?

K:います。日本人だけではなくて、海外の方々だったり。韓国のラッパーで一緒にやってみたい人もいますし。

――国境を越えたコラボは、音楽業界全体で今後、さらに増えるでしょうね。

K:1曲の中で日本語、英語だけじゃないものもどんどん出てきていますからね。自分でできることだったら、ハングルとかで歌ってみたいって思ったりもしています。

――今回のインタビューは音楽に関してじっくりとお聞きできたので、柔らかいタイプのお話もしましょうか。近況に関しては、何か面白いことはありました?

K:面白いことですか? これも音楽に沿った話かもしれないですけど、先日、ライブの後にツアーメンバーと部屋飲みをしたんですよ。スティーヴン・ビショップの曲がかかっていて、すごく良かったから「アナログのLP盤買うわ」ってその場でネットで調べたら中古しかなくて。3千円くらいだったので、その場でポチっと購入ボタンを押しました。でも、普通だったらすぐに購入確認のメールが来るのに、次の日に来たんです。ちゃんと見たら送料が4千円くらい。ドイツから発送するということで、「まじか……」って(笑)。

――すごい展開(笑)。

K:しかもドイツから来るけどUK盤(笑)。「これはお土産だ。思い出にしよう」と思って、そのまま買いました。高い買い物でしたけど、めちゃめちゃ楽しんでいます。

――記憶に残る買い物ですね。

K:そうなんです。もう1回サイトを見たら僕が見たところの下に日本盤の3千円くらいのものがいっぱいあったんですけど。送料の方が高かったのは、ちゃんと説明を読まなかった僕のミスです。「酔ってポチっとするのはやめよう」と思いました(笑)。

――教訓を含んだエピソードをありがとうございます(笑)。今、ツアー中ですよね。この記事がアップされるタイミングでは11月29日の福岡・Gate's7公演を残すのみだと思いますが、どのようなツアーになっていますか?

K:『STUDIO PURSUIT』というタイトルで、クリエイティブな部分を感じていただきたいツアーなんです。ライブのためのアレンジを濃くやっているので、楽曲の雰囲気ががらっと変わっていたりするのをお客さんに楽しんでいただけていると思います。

――“PURSUIT”ですから“追求”がテーマ?

K:そうなんです。通常だったら同期を流す楽曲も、一からリアレンジしています。

――ライブでも新しいものを求め続けているんですね。

K:はい。僕はまず「No!」って言わないようにしているんです。それはプライベートも含めて何事に関しても。「まずはやってみる」っていう。そういうことの良さを改めて感じながらやっていますね。

取材・文:田中大

リリース情報

2021年 NEWプロジェクト第二弾
Digital Single
「Touchdown feat.VILLSHANA」
2021.11.17 Release

ライブ・イベント情報

<K style 2021 ~STUDIO PURSUIT~>
11/29(月) 福岡・Gate's7

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