【楽器人インタビュー】町屋(和楽器バンド)「和楽器バンドのアレンジに必要なのはオーケストレーション」
──和楽器バンドならではのノウハウですね。他の楽器はいかがですか?
町屋:箏に関しては、25弦の箏をメインで使っているので、チューニングがクロマチックで並んでるんですよ。クロマチックというかダイアトニック(全音階)中心で、あとは曲の中で転調があるとかセカンダリードミナントとかモーダルインターチェンジがどれだけ含まれるかによってチューニングは変えますけど、基本的にはドレミファソラシドがあって、半音階は「押し」っていうんですけど、ギターでいうブリッジみたいな柱(じ)の反対側の糸を押すことで音が上がるんです。
──ギターで言うチョーキングみたいな?
町屋:チョーキングです。それで半音上げてシャープ系フラット系に対応するのが基本なんですけど、彼(いぶくろ聖志)はそもそも五線譜が読めるしコード譜も読めるし、モードとかスケールにも理解があってそのへんの理論にも強いので、普通にアンサンブルを組む上では一番融通が効く楽器になります。ただ、普通にやると意外と箏っぽく聞こえないんですね。
──そのまま、ただ演るだけじゃだめ?
町屋:はい。あえて箏っぽく聴こえる奏法とか旋律や和音を使っていかないと、箏の音色ってハープみたいに聴こえちゃうんです。実はハープとかクラシックギターとかの音色に近くて。
──もっとアタックがあるクセの強い個性的な音だと思ってました。
町屋:使う爪の素材と厚さでも音はぜんぜん変わるんですけど、ボディの容積が大きいので、よっぽどピッキングに近いところでマイキングしない限り、けっこうローがふくよかなんです。逆にミドルは出ない楽器で、どこで音を拾うかで全然音も変わるので、マイキングもすごくやりがいがあるんです。箏っぽさという点では、2度でぶつかる音って、意外と箏っぽさだったりするんですよ。
──ほお。
町屋:同じ音をギターで弾いてもこないんですけど、これを箏で弾くと箏っぽさが凄く出てくる。この2度のぶつかりとかが意外と箏っぽさだったりするので、このあたりも西洋の音楽理論とはちょっと違うところにいるおもしろい点ですよね。
──ギタリストが2度でぶつけようっていう発想は普通ないですもんね。
町屋:現代音楽やコンテンポラリージャズ、Djent(ジェント)でない限りはたぶん2度でぶつけてこない。
──そういう違いも、これまで和楽器が西洋楽器に溶け込んでこれなかった要因のひとつなんでしょうか。
町屋:いや、そんなことはないと思うんですけど、箏の文化自体がけっこう閉鎖的で、割と箏の人たちだけでクラシックの現代音楽みたいな複雑なことをやろうとするような傾向があるんです。だから、他の楽器と一緒に箏が入っていってアンサンブルをすることが割と少ないです。
──逆に、楽器としての伸び代もまだまだ凄くありそう。
町屋:和楽器の面白いところって、日本に入ってきた状態で進化を止めてしまっているところだと思うんです。そこから楽器を改変させないことに職人さんたちがこだわった。だから、すごく不器用なんだけど、オンリーワンの音色がある。元々中国から入ってきた楽器ですけど、使いづらい点…例えば三味線の糸巻きが巻き戻ってしまうから機械式ペグに変えていったり、音量的・音色的な問題で鉄弦に変わったものとかって中国では起こっていて、他の国でもパーツが改良されていたりしてすごく使いやすくはなっている…んですけどね。
──なるほど。便利にしたことで失うものもあるのか。
町屋:そういうところが、和楽器に共通した日本の伝統楽器の特徴的なポイントかなと思います。
──尺八に関しても、神永さんは「穴を増やさなかった結果、他の楽器とは違う圧倒的な自由度が残った」と言ってました。楽器としての使いやすさを向上させる気遣いがゼロだから(笑)。
町屋:ゼロですね。だって、昔はもともと修行の道具でしたから。他の国ではエンターテインメントの道具に改造していったわけですけど、そのまま無理やり音楽というカテゴリの中に当てはめたっていうのが、日本の独特な国民性と思いますね。
──そんな楽器が集まってのアンサンブルですから、やりがいや面白さも格別でしょうね。
町屋:でももう、大体わかったかな(笑)。ただ最近は、和楽器バンドでもデジタルの音を全面に出したりもするので、ダンスミュージックっぽいトリガーの音とかとの両立という課題では、まだ楽しむ余地はあるかな。実験の余地はいろいろ残っている感じです。
──それにしても、和楽器バンドにおける町屋というミュージシャンは、ギタリストとしての主義主張を全く見せませんね。
町屋:そうですね。でも多分、このバンドのギタリストは僕じゃなかったら難しかったとは思います。
──それはどういう意味ですか?
町屋:レコーディングでは、ドラム、和太鼓、ベース、三味線、箏、尺八、そしてボーカルを入れて、最後にギターを入れるんです。三味線・箏・尺八って、どうしても不器用な部分が出てくるんですけど、そういう不器用な部分を補えるのって、結局はわりかし万能なギターしかいないんですね。だからドあたまのドラムのピッチを決めるところから立ち会って一貫してディレクションしながら、「ここはこういうピッチと音圧の感じで」…と進めていく。和声で言うと、頭の中に五線譜を出して「ここのコードはこれだけど、3度に行ってる人が少ないから、ここはギターで補正してあげなきゃいけないな」とか。これはディレクター兼ギタリストで、かつ周りの足りない部分を補いながらも自分っぽさをそこに見出せる人じゃないとなかなか務まらないと思うので、そういう人は少ないかな…と思います。
──なるほど。ボーカル録りをして最後にギターですか?
町屋:最後にギターです。
──そんなバンド、聞いたことないな。
町屋:やっぱり歌のテンションとかでも、サビの盛り上がり方って変わるので、そこでギターがもう1本必要なのか必要じゃないのか、それは歌を録ってみての判断ですね。
──そうか。
町屋:例えば、サビで盛り上げようとしてLCR(レフト&センター&ライト)でギターを録った場合に、そこに歌がすごいテンションで乗っかってきたら、ミックスのときに「これ、もしかしたらセンターいらなかったかもね」とか、歪み具合の問題で「レスポールのハムバッカーよりはミニハムだったかも」とか、その辺りのバランスを取るために音色を一番コントロールできるのはギターなので、歌も全部録り終えてからのほうが効率がいいんです。
──求められているものを、ギターでさっと実現させるという作業か。
町屋:細かいフレーズは考えますけど、どの楽器を使うか、弦は何ミリの弦を張るか、ピックは何ミリのどんな素材を使うかまでは大体決まってくるので。
──え?楽曲とかフレーズとかサウンドによって、ピックも使い分けるんですか?
町屋:ピック…使い分けますね。
──そんなギタリスト、見たことないな。町屋さんの周りにはいっぱいいるんですか?
町屋:あんまりいないですけど、例えば10万円のストラトと100万円のストラトって、パッと聞きでは音の違いなんてわからないじゃないですか。でも、ジェフベックが10万円のギター弾くのと、初心者が100万円のギター弾くのでは、10万円のギターをジェフベックが弾いた方がすごいですよね。
──そこは圧倒的に違うでしょうね。
町屋:そういうところの違いって、楽器そのものを変えるよりも、結局ピックを当てる角度をコンマいくつ調整するとか、自分の奏法を変える方が音色の変化って大きいんです。僕は基本は1.2ミリのセルのピックを使っているんですけど、でも0.7ミリのナイロンピックを使う僕もいる。自分の中にいくつかのギタリストのタイプを分けていて、それぞれが出す音色が違うんで、今日は誰にどのギターを弾いてもらおうかっていうのは、だいたい自分の中で決まっているんです。
──そういう弾き分けを自分の中で確立させているギタリストって、やっぱ見たことない。
町屋:たぶんそれって、僕がディレクター目線がすごく強いからだと思います。「こういうギタリストを雇いたい」っていう僕の目線があるんですけど、でもギタリストって僕だから、ディレクターが求める理想のギタリストに僕がなるんです。
──大変だ。今のところギタリストとして合格?
町屋:僕より速く弾ける人もたくさんいるし、ミスが少ない人もたくさんいるし、パフォーマンスが僕よりも動ける人もたくさんいる…いろんなタイプのギタリストがいる中で、ギタリストとしての僕のアイデンティティって、万能性だと思っているので。いろんなタイプのギタリストに化けたり、いろんな奏法が新旧問わずできたり、ジャンルも問わずに現場で使えるクオリティでそれぞれできるところが僕の売りなので、そういう万能性においては今後も磨きをかけていきたいところです。
ライブ写真◎KEIKO TANABE
──知られざる和楽器バンドの秘密がわかった気がします。ライブもますます楽しみになりました。
町屋:2020年に出した『TOKYO SINGING』というアルバムが、情勢によってツアーが東名阪しか回れなかったりしたんです。でも、真面目に作ったいいアルバムなので、<8th Anniversary Japan Tour ∞ - Infinity ->では、そこに加えて新作『Starlight』EPや、新しいサウンドにも挑戦しているところも加えて楽しんでほしいです。個別のセクションも必ず設けているので、今まで培ってきたものや今やっている最新の我々のサウンドをみんなに広めていくライブなのかな。
──これからの活躍、進化も楽しみにしています。
町屋:過去にオーケストラとコラボしている曲が数曲あるんですけど、オーケストラとのコラボレーションって和楽器バンドとすごく合っているんです。減退の早い撥弦楽器ばっかりで、コードを支える楽器がギターしかいないから、そこをぐっと支えてくれるオーケストラって僕たちにとってはすごく心強いんですね。これまでは僕らがレコーディングした後に、それに合わせたオーケストレーションを組んでダビングしていたんですけど、最初からオーケストラのスコアの中に我々のパートも組み込んで、全パートの譜面を書いていきたいんですよ。
──それはおもしろそう。聞いたことのないアンサンブルが楽しめそうで。
町屋:なんなら僕、指揮を振りたいんですけど。
──各楽器の個性がより際立つようにアレンジするでしょうから、味わったことのない音楽が生まれそうですね。
町屋:それにプラスして、シンセサイザーとかリズムループ系とかDJみたいなパートも僕は欲しいので、今考えられる可能性のすべてを、その場でノリで重ねていったケミストリーではなく、どこで誰が出てどこで誰がうまく支えるか全部計算し尽くして作りたい。僕は「楽譜は設計図」だと思ってるので、設計図をうまく作って、それに合わせて超大作をつくれたらいいなっていう夢はあります。
──夢じゃなくて現実になるのも時間の問題でしょう?
町屋:その構成って、劇伴とかもできると思うので、そういうところまで発展していけたらと思っています。5~6年前、当時上の人に「グラミー狙ってがんばれ」みたいなことも言われていましたけど、こういうアプローチは楽しいですよね。夢は大きい方が楽しいので、なるべく大きな夢を描いて、頑張りたいと思っています。
取材・文◎烏丸哲也(JMN統括編集長)
楽器撮影◎堀 清英
■<和楽器バンド 8th Anniversary Japan Tour ∞ - Infinity ->
2021年
10月7日(木)広島・ふくやま芸術文化ホール リーデンローズ
17:30 / 18:30[問]キャンディー・プロモーション 082-249-8334
10月8日(金)兵庫・神戸国際会館 こくさいホール
17:30 / 18:30グリーンズコーポレーション 06-6882-1224
10月11日(月)京都・ロームシアター京都 メインホール
17:30 / 18:30[問]グリーンズコーポレーション06-6882-1224
10月12日(火)香川・サンポートホール高松
17:30 / 18:30[問]デューク高松 087-822-2520
10月16日(土)静岡・静岡市民文化会館 大ホール
16:15 / 17:00[問]ズームエンタープライズ 052-290-0909
10月17日(日)岡山・倉敷市民会館
16:00 / 17:00[問]キャンディー・プロモーション 082-249-8334
10月23日(土)山梨・YCC県民文化ホール
16:30 / 17:00[問]ディスクガレージ 050-5533-0888
10月24日(日)東京・TACHIKAWA STAGE GARDEN
16:30 / 17:00[問]ディスクガレージ 050-5533-0888
10月28日(木)大阪・梅田芸術劇場メインホール
17:30 / 18:30[問]グリーンズコーポレーション06-6882-1224
11月5日(金)熊本・市民会館シアーズホーム夢ホール (熊本市民会館)
17:30 / 18:30[問]BASE CAMP092-406-7737
11月7日(日)福岡・福岡サンパレス
16:00 / 17:00[問]BASE CAMP092-406-7737
11月13日(土)広島文化学園HBGホール
16:00 / 17:00[問]キャンディー・プロモーション 082-249-8334
11月14日(日)島根・島根県民会館
16:00 / 17:00[問]キャンディー・プロモーション 082-249-8334
11月20日(土)北海道・カナモトホール (札幌市民ホール)
16:00 / 17:00[問]ウエス 011-614-9999
11月23日(火・祝)新潟・新潟テルサ
16:00 / 17:00[問]FOB新潟 025-229-5000
11月28日(日)茨城・ザ・ヒロサワ・シティ会館 大ホール
16:30 / 17:00 [問]ディスクガレージ 050-5533-0888
【一般指定席/着席指定席】
チケット料金:前売¥10,000(消費税込み)/当日¥11,000(消費税込み)
席種詳細:※着席指定席は、小さなお子様、ご年配のお客様、ファミリー、その他ライブを着席してご覧になりたいという皆様の為にご用意させていただく「着席観覧」用のお席です。※ライブ中は必ず着席して頂きます様お願い致します。※ステージからの近さを保証する座席ではございません。
※予定枚数に達し次第、終了となります。
チケット購入リンク:https://wgb.lnk.to/Tour2021
ツアーに関する詳細は、和楽器バンド 公式サイト:https://wagakkiband.com/まで。
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