【インタビュー】村田隆行、楽器ブランド立ち上げ「ベース本来の“鳴り”をローコストで伝えるということ」
■僕が知っている限りでJJは2人くらい
■でも良い結果が得られるのは間違いない
──嬉しい仕様ですね。続いて、ピックアップや回線についてうかがいたいのですが、ボディー形状はプレシジョンベースをモチーフにしていながら、ピックアップはJJを採用しているところが特徴的です。プレベタイプのボディにPJというピックアップ配列はよく見かけますが、JJというのはなかなかないのでは?
村田:そうなんです。ピックアップがJJ仕様のプレベタイプは、ものすごくマニアックな工房系のもので何本か見たことがあるけど、ほとんどないですよね。ただね、僕の中で行き着いた答えがJJなんです。
──そのあたりを詳しく説明していただけますか?
村田:僕は元々、ジャズベースで十分という考え方だったんですよ。“プレシジョンベースってなにがいいの? よくわかんない”と。ところが、音楽を追及していく中で、プレベの重要さに気づくことになる。どういうことかというと、僕は昔からジャズベを弾くときに、リアピックアップのボリュームを少し絞っていたんですね。自分のサウンド的な好みとして、JJの両方をフルにすると、少し音がアンサンブルの中に沈むという印象があってあまり好きじゃない。それよりも、リアを少し絞って若干低域を抜けた感じにした音が好きだったんです。であれば、1ピックアップ仕様のプレベは好みなんじゃないかなと思って弾いたら、案の定ハマったんです。
▲アルダーボディにメイプルネックを使用。オリジナルデザインが施されたヘッドのトップに、ボディと同様のカラーが塗装されたマッチングヘッドを採用。ボディーとネックのジョイントは4点止め。アクティヴサーキットを搭載しているため、電池ボックスも。
▲ピックアップやプリアンプはタウラムオリジナル。プレベタイプのボディーに搭載されたジャズベタイプのピックアップは、ルックスはもちろんサウンド面でも独創的で「ずっしりとした低音と、倍音豊かで鋭いアタックも持っている」とのことだ(※ピックアップフェンスは製品に付属しない)。コントロールは2ボリューム、ベース、ミドル、トレブル、アクティヴとパッシヴの切り替えも可能。
──サウンドとしてはプレシジョンベースのどんなキャラクターに惹かれたんでしょう?
村田:プレベって、これぞリアピックアップ、みたいなタイトさのないトーンキャラクターじゃないですか。しかもドラムのキックよりも上のほうが定位になるから、バンド全体のアンサンブルの真ん中でつなぎ役としてしっかりとベースを存在させることができる。それは素晴らしいことですよね。ただ、僕みたいなスタイルとか、幅広くあらゆるジャンルに対応させたいとなると、プレベ1本では難しい。そこで、プレベにリアピックアップのタイトさを加えるために、PJが誕生したと思うんです。だけど僕にとってPJは全然いいと感じられないというか。PとJ、それぞれの良い部分を殺し合って、どっちつかずになってしまうような印象がある。事実、ほぼほぼ全ブランド一致して、PJは両方をフルテンにすると音量が下がるんです。
──それはなぜなんでしょうか?
村田:理論的な解説は省きますが、それを解消する方法を例に挙げますね。僕は楽器店で面白いベースを見つけると必ず試奏しちゃうクセがあって(笑)。1970年代のプレシジョンベースをPJに改造したモデルがあったので試奏してみたんです。これまで、PJ仕様のプレベタイプは何本も試奏しているんですけど、そのプレベだけはダントツで良かった。ほかのPJとなにが違うかというと、リアのJピックアップがブリッジすれすれの位置に取り付けられていたんですね。
──取り付け位置の問題ですか?
村田:そうです。ただ、ブリッジに近すぎるので、見た目がめちゃめちゃカッコ悪いんですよ(笑)。僕はそもそも、PJは見た目が好きじゃないし、そんな位置にピックアップを搭載するなんて自分のブランドではできないなと。結果的に、そのプレベがすごくヒントになってMulatto Bassが誕生するんです。
──プレベタイプのボディにJJを搭載すれば、PJのように個性を潰し合うことがないと。
村田:ベーシストのウィル・リーが1960年代のキャンディーアップルレッドのプレシジョンベースを弾いているんですけど、ジャズベのような、プレベのような、絶妙なトーンを出しているんです。ウィルさんはとても大きなピックアップフェンスを取り付けていたから、一見しただけではわからなかったけど、実はそのベースがJJのピックアップ配列であることが後に判明して。おそらく当時は良いアンプがなかったから、その中で行き着いたアイディアだったんじゃないかなと思います。それに、マイク・スターンとかマイケル・ブレッカーとかで弾いていたジェフ・アンドリュースさんもJJです。僕が知っている限りではその2人くらいですけど、良い結果が得られるのは間違いないと思ってMulatto BassはJJにしました。
▲Fender Precision Bass+Jazz Bass
「最初に1978年製ジャズベースの状態の良いネックを見つけて、次に1974年製プレシジョンベースのアッシュボディーを入手して、パーツを集めながら4~5年かけて組み上げたベースです。ピックアップにはフェンダーカスタムショップのジャズベース用をフロントとリアにつけて、リアの一つはダミー。ルックスを考えた結果です。TCTのアクティヴサーキットを搭載しているほか、コントロールは各ピックアップのボリューム、ベース、トレブルの2連ポッド。Mulatto Bassのコンセプトの母体になったベースですね」(村田)。ピックアップフェンスは、「そこに右手を当ててスラップをすることで、通常のフィンガーピッキングとの音質差をなくせるんです」とのこと。
──JJにしたのは、あまり他の人がやっていないという個性狙いではなく、実用性を重視した結果なんですね。
村田:もちろんそうです。ここが絶対的に重要な部分で。ピックアップや回路などのエレクトリックパーツが高品位であれば、たいてい良い音が出るというのが今風の考え方ですけど、僕はそれとは真逆で。ピックアップはマイクじゃないですか。いろんな考え方があると思いますが、ピックアップそのものよりも、楽器本体の鳴りやトーンを僕は大事にしたいんです。どういった音楽にどういった楽器が合うか?という部分が一番重要ではありますが、スタンダードなところを考えるなら、電気関係はなるべくシンプルでナチュラルなものが良いと思っています。
──エレクトリックギター/ベースですし、信号をアンプで増幅させるわけですから、電気系が重要という考え方もあるでしょうね。ところが村田さんは違うと。
村田:僕が初めて持ったギターにしても、最初に買った1977年製のジャズベースにしても、楽器本体の鳴りがすごかったんですよ、そこに感動があった。だから、まだそんなにベースを知らない人には、ぜひ鳴る楽器を知ってほしいんですね。それがTAURAMのコンセプトの大きな柱のひとつ。Mulatto Bassは本体が鳴るから、フロントピックアップだけにしたとき、ジャズベのリアピックアップを少し絞ったときよりも、もっとプレベらしい音がするんです。JJ配列なので結構タイトで洗練された音なんですけど、チェンバード構造のボディーと、プレベタイプのボディー形状、肉厚のネックということで、無骨でもある。つまり、無骨なジャズベ。それがMulatto Bassが目指していたところで、イメージどおりに仕上がりました。
──そうすると、Mulatto Bassはアクティヴサーキットを搭載していますが、アクティヴで音を作るというイメージではないと。
村田:楽器自体のトーンを補足するというアクティヴサーキット本来の在り方を追求したので、パッシヴでも元気な音が出ます。ある時、もう少しローを足そうとEQをイジったところ効かなかったので、“あれっ?”と。そうしたらアクティヴがオフになっていた……つまりアクティヴの音だと思ってたら、パッシヴだったという。Mulatto Bassは作った僕自身が間違えてしまうくらいです(笑)。アクティヴサーキットありきで作られたベースってパッシヴにしたときに、カスカスの音になっちゃうことがほとんどじゃないですか? 僕が良いと思うベースって、アクティヴEQをフラットでオンにしたときに、パッシヴよりもちょっと音が小さくなるんですよ。たとえばマーカス・ミラーさんのベースがそうなんです。Mulatto Bassもそこを目指しました。
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