【インタビュー】村田隆行、楽器ブランド立ち上げ「ベース本来の“鳴り”をローコストで伝えるということ」

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ベーシストの村田隆行が開発段階から製作に参加している楽器ブランドが“TAURAM”だ。ヴィンテージベースや最新ベースの数々を弾き込んで培った知識と経験、もともとの楽器好きと旺盛な探究心が、監修の枠を超えて、自身のブランド設立にまで至ったという。

◆村田隆行 画像

コンセプトは、10万円を下回る低価格ながらヴィンテージに肉薄する楽器本来の“鳴り”が楽しめるベース。一方で、チェンバード構造やアクティヴサーキット搭載、21フレット採用など、ヴィンテージとコンテンポラリーを融合させたスタイルは実用性が高い。さらに、プレベタイプのボディーシェイプにJJピックアップを搭載した革新性には、村田隆行というベースプレイヤーならではのこだわりが宿る。

ブランド立ち上げの経緯や第一弾モデルMulatto Bassの特色、ベーシスト仲間からの反応などについてじっくりと語ってもらったロングインタビューをお届けしたい。なお、初ソロアルバム『THE SMILING MUSIC』(インタビューはこちら)のレコーディングで活躍した愛用ベースも紹介する。

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■イメージしたのはロックベーシストが
■プレシジョンベースを弾き出した1970年代

──まずはTAURAMという楽器ブランドとの関わりからご説明いただけますか。

村田:いろいろな楽器の開発やメーカーの代理店などを行っている方がいて、数年前にひょんなところで知り合いになってから、楽器のいろいろな話をしているうちに仲良くなりまして。その方から「ミュージシャンが考える楽器を作って販売することが夢のひとつなんです。村田さんやりませんか?」と言われたのがきっかけです。

──村田さんはプレイに関してはもちろんですが、楽器に対しても広く深い知識をお持ちですし。

村田:たぶん普通の楽器好きミュージシャンよりも、わりと細かいところまで知っている部類だと思うんです。だからこそ、楽器に対してずっと考えていたことがあって。要するに、製造コストを抑えたとしても、ここだけ押さえておけばヴィンテージベースのような“鳴る”サウンドになるポイントがあって。そこはわりと確信している部分なので、実際にその理論に基づいたハイコストパフォーマンスなベースを作ってみたかったんですよ。


──ということは、資料には“監修”という言葉が使われていますが、村田さん自身が立ち上げたブランドといえそうですね。

村田:はい。監修ではありますが実際には、設計から最終チェックまで全て僕自身がやっていて。たとえば、ナットからペグポストまでの距離が指定とは1.5ミリ違うとか(笑)。TAURAMとは、そういうブランドなんです。

──プロミュージシャンのシグネチャーモデルはよくありますが、自身がブランドを立ち上げるという事例は日本ではあまりないかもしれません。

村田:そうですよね。試作品をダーティー・ループスのヘンリック君(I.T.Rのアルバムにも参加)に弾いてもらったら「いいね」と言ってくれたし、クリス・ペプラーさんもベーシストなんですけど、すごく気に入ってくれたんですよ。そのほかにもいろいろな方が気にかけてくれていまして。それが自信につながった部分もありました。

──プレイヤー側からすると、身近なベーシストが楽器ブランドを立ち上げるってワクワクするでしょうし。

村田:その感覚は僕もわかるんです。そんなふうにみなさんから意見をいただいたりしつつ、最終的にブランド名はTAURAMにしました。意味は、雄牛の猛々しさを思わせる低域の“Taurus”と、子羊の包み込むような倍音の“Lamb”を併せ持った音色という意味を込めた造語です。ジャンルに関係なく“このベースいいね”って使ってくれる人のためのベースであって、僕のシグネチャーモデルでは決してないので、村田隆行を連想するような言葉はブランド名に入れないことにしました。

──純粋にクオリティーで勝負したいんですね。そして、記念すべきTAURAMの第一弾モデルがMulatto Bassです。

村田:プレシジョンベースとジャズベースのスペックを融合させたモデルなので、モデル名をMulatto Bassにしました。オバマ元大統領とかウィル・スミスとか、白人と黒人のハーフの人達は“ムラート”と呼ばれているんですよ。なので、プレベタイプとジャズベタイプの混血ベースに、この名前は最適だと思ったんです。


▲TAURAM Mulatto Bass
 ヴィンテージのプレシジョンベースをモチーフに、現代楽器の利点が細部に至るまで詰め込まれた村田監修モデル。伝統性と、アクティヴサーキットや21フレット仕様といったモダンスペックの数々の融合が、独自の魅力を創出している。ボディー(チェンバード構造)&ネックの豊かな鳴りが生む芳醇なローと、現代ベースにふさわしいクッキリしたハイを兼ね備えた広いレンジのトーンは上質。リーズナブルでいながら上位機種に迫るクオリティーを誇っていることも注目だ。村田曰く、「僕の好みを注ぎ込みつつ、幅広いジャンルやスタイルに対応できる汎用性を持たせた自信作です」とのこと。

──いい名前です。Mulatto Bassは注目ポイントが満載で。まずボディは内部に空洞を設けたチェンバード構造だそうですね。

村田:これまで様々なタイプのベースを弾いてきた中で、ディンキーシェイプのチェンバード構造がすごくよかった。Mulatto Bassにチェンバード構造を採用したのはそれが大きいですね。ただ、僕はボディーよりも、ネックのほうが重要だと思っているんです。

──と言いますと?

村田:国産ギターやベースはある時期、薄くて幅広いネック形状が多くなったんですね。おそらく日本人の手にはそのほうが弾きやすいからという理由だと思うんです。ところが、海外などの古いベースのネックは基本的に肉厚なので、その形状では鳴りと安定感のあるトーンは出ない。だから、試行錯誤を繰り返しつつ、プロトタイプはかなりネックを太くしてみたところ、やっぱり良い結果が得られた。市販品は厚みを残しつつ、シエイプアップしようと思っています。

──ジャズベースのグリップに近い形でしょうか?

村田:ジャズベのネック幅は伝統的にスリムで、プレベは幅広い。だからはプレベは弾きづらいという人が結構多いじゃないですか。それは横幅の問題で、厚みがあるからではないんです。僕がイメージしたのは1970年代。ロックベーシストがプレベを弾き出した時代であり、もっと握りこんでかき鳴らしていたので、1970年代半ばのプレベのネックは肉厚だけど横幅はジャズベと同じなんですよ。なのでTAURAMはそこにすごくこだわって何回も作り直しました。僕個人は、やり過ぎた感のある極太ネックの試作品が結構好きなんですけどね(笑)。

──個人的な好みよりも万人にフィットするネックことを重視されたことがわかります。それに、ギターやベースの音色を決めるうえで、ネックがとても大きな要素になることに気づかれたのは経験の賜物でしょうし。

村田:あとは、ラディアス(指板R)ですね。9.5Rにしたんですけど、本当は7.25Rにしたかったんです。つまり指板は平らではなく曲線を大きくしようと。でも、幅広い層のベーシストに弾いてほしいと考えたときに、ヴィンテージにこだわり過ぎるのはマニアックかなと思ったし、音的なことを考えれば、ネックを肉厚にしたことで、ラディアスを7.25Rにしなくても狙っているゴールへ辿り着けることがわかったんです。ただ、最近の安価な楽器は10Rとか12Rといった真っ平らなタイプが多いけど、それだけは避けようと。

──9.5Rは平均的な曲線ですから、十分弾きやすいと思います。さらに、Mulatto Bassは21フレット仕様ですね。

村田:フェンダー系のヴィンテージベースは20フレットが一般的ですけど、今のミュージックシーンを考えると、さすがに21フレットは必要だろうと。かといって、22フレット仕様となればネックエンドがボディーの内側に入り込む形になるから、距離的にオーソドックスなスラップスタイルはやりづらいんですよ。たった1フレットですけど、僕も含めてハイポジションを多用するプレイヤーにとって、その違いは大きいんですね。それに、あと1フレットあれば、と思うようなキーの問題も結構あるから。

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