【インタビュー】村田隆行、凄腕18名参加の初ソロアルバムに「テクニカルながら、そうとは聴こえないポップなベース」
ベーシストの村田隆行が自身初のソロアルバム『THE SMILING MUSIC』をリリースした。The Choppers RevolutionやI.T.Rをはじめとするリーダーユニットやアーティストプロデュースなど、ベース演奏に留まることなく幅広い活動を続ける彼が、“影響を受けた音楽”に向き合い、約1年の時間をかけて制作したセルフプロデュースによるフルオリジナルアルバムが『THE SMILING MUSIC』だ。
◆村田隆行 画像
アルバムには是永巧一(G)や梁邦彦(Pf)など、総勢18名の著名ミュージシャンが参加。しかし、いわゆる超絶テクニックをメインに据えたインストゥルメンタルではなく、楽曲としてのキャッチーさや聴きやすさを持ち合わせているのは、村田本来の作曲センスとプロデュース能力の高さの賜物だ。
IKUOとのユニットI.T.Rの1stアルバム『「Bass Life Goes On」~今こそI.T革命~』をリリースしたばかりであり、このコロナ禍に全てリモートレコーディングで制作された『THE SMILING MUSIC』には、2021年現在の村田隆行の勢いと自身のルーツが封じ込められた。その制作過程と各曲についてじっくりと訊いたロングインタビューをお届けしたい。なお、村田隆行自身のベースブランドTAURAMについて語ってもらった楽器インタビューも同時公開でお届けする。
◆ ◆ ◆
■インストですが歌詞を想定しつつ
■その世界観を意識して音を構築した
──ソロアルバムの制作は、いつ頃から始められたのでしょう?
村田:1年半くらい前ですね。それまでも何度かソロアルバムを作ろうかなという気持ちはありました。ただ、そのときは明確なヴィジョンがあったわけではなくて、キャリア的にもまだまとめきれないなと思ったり。でも2年ほど前から自分ひとりで完結できるくらいのトラックを制作してみようという感覚でソロアルバムのひな形のようなものを作り出していました。他の作業の合間を見ては、自分で弾いたトラックを聴き直して手直ししたり、ということを繰り返していて。その後、コロナの影響が日本全国に広がって緊急事態宣言が発出され、自粛期間に入ったんです。
──そこで一旦作業が止まってしまったわけですか?
村田:そういう状況の中で、是永巧一(G)さんと梁邦彦(Pf)さんと電話でかなり交流していたんです。そのときに、「こういう時だからこそ、僕達は音楽で人々に元気や笑顔を与えたい」という熱い思いを話し合ったり、「村田君も作品を残さないとダメだよ」と言っていただいたり。そうだよなと思って、ソロアルバム作りに向けて、まずは予算繰りから。
──えっ!? そこからですか?
村田:はい(笑)。今回のアルバムはセルフプロデュースと銘打ってますが、サウンドのみならず、本当の意味でプロデュースを自分自身が行っているんです。つまり、お金集めからスケジューリング、セッションアーティストのブッキングなどなど、全て(笑)。こういうご時世ですし、システムが発達した時代でもあるので、レコーディングは全てリモートで行いました。だけど、やっぱりドラムは生で録りたくなるんですよね。そうするとスタジオ代が必要になるので、再びそのための資金繰りをして、みたいな(笑)。それら全てを引っくるめると、結局、制作に1年以上かかってしまった。僕は他のアーティストの作品プロデュースを含めて、制作に1年以上かけたことはなかったんですよ。昔のミュージシャンは制作に2~3年かけることも普通にありましたけど、今はまず、そこまで時間を割くなんて、いろいろな意味で無理じゃないですか。そういう意味では、自分のペースで時間を気にせずにできたことは、すごくよかったと思います。
──そこも本来の意味でのセルフプロデュースのメリットですね。
村田:本当に。コロナ禍という状況だからこそ、この1年間のうちに自分の考え方をシェイプアップすることもできたし。そういう意味でも、コンセプトはアルバム制作を進めていく中で出来上がったんです。それは、自分が好きになって追いかけてきた音楽やプレイヤーから得たものを今の自分のキャリアと表現力で素直にアウトプットするということで。具体的な例を挙げると、「Life Goes On」は元々オシャレなR&Bっぽいバラードナンバーを作っていたんですね。でも、なにか違うなと思って。僕が好きで聴いているバラードとはどういうものかな?と考えたときに、アメリカの音楽も大好きだし、影響も受けている。だけど、素直に心へ入ってくるのは日本の音楽なんですよ。子供の頃から好きだった小田和正さんだったり。なので、一回素直に自分がやりたいと思っているものに立ち返り、そこにフィットするメロディーを作ったりして肉づけしていくことにしたんです。そういうふうに考え方を整理できる1年間だったので、『The Smiling Music』は現在の僕として、全く悔いのないアルバムに仕上がりました。
──自身のルーツが表現されていることは『The Smiling Music』を聴くとよくわかります。ベーシストのソロアルバムというと、ベースを前面に押し出した作品をイメージするかもしれませんが、『The Smiling Music』はキャッチーな楽曲が揃った良質なフュージョンアルバムという印象です。
村田:今回は歌を乗せるとどうなるかな?ということを考えて作った楽曲が多いんですよ。一言一句考えたわけではないですけど、歌詞を想定しつつ、その世界観を意識して音を構築したので、聴きやすい作品になっていると思います。自分とはどういうものか?ということを考えたときに、もちろんテクニカルなベースは大好きだけど、テクニカルながらそれを駆使しているように聴こえないベースなんですよね。「だったら、チョパレボ (THE CHOPPERS REVOLUTION:鳴瀬喜博、IKUO、村田隆行によるベースユニット)とか、I.T.R (IKUOと村田隆行のベースユニット)はどうなんだよ?」という話になるかもしれませんが、それはテクニックをエンターテインメントに魅せるという世界を目指したんですよ。あと、凄腕ベーシストの中で自分がどう立ち回れるかという楽しみ方がある。
──インストと言えども、聴きやすいという意味で共通してますし。
村田:はい。IKUOさんにしても、ナルチョ(鳴瀬喜博)さんにしてもテクニカルだけど、すごくポップですからね。僕が『The Smiling Music』に参加してもらった全ミュージシャンに言えることは、すごく上手い人であり、それに加えて、みなさんポップなんです。僕はそういう方々が好きだし、僕自身もそうありたいと思っている。だから、キャッチーなインストアルバムに仕上げることができたんだと思います。
──たしかに、『The Smiling Music』はインストゥルメンタルが苦手なリスナーも楽しめるアルバムになっています。
村田:さっき話したコンセプトの中には柱があって、僕が影響を受けたのは1990年代前後の音楽なんですよ。中学生くらいから楽器を持った僕は、カシオペアにまずハマって、そこからいろんな音楽を聴き始めたんですね。当時からいまだに聴く音楽は、たとえばパット・メセニー・グループが初めてサンプリングビートを採り入れたアルバム『ウィ・リヴ・ヒア』(1995年発表)だったり、マーカス・ミラーが初めて作ったストイックなベースアルバム『キング・イズ・ゴーン』(1993年発表)だったり、ハービーハンコックのアルバム『ディス・イズ・ダ・ドラム』(1994年発表)だったり。邦楽では、小田和正さんがオフコース解散後の1990年に出したアルバム『Far East Cafe』とか、米米CLUBの『GO FUNK』(1988年)といった辺りになる。
──なるほど。1980年代後半から1990年代前半ですね。
村田:あの頃の音楽は、全ジャンルがキラキラしているじゃないですか。景気の良さも関係してると思うのですが。たとえばサンプリングビートとかが使われはじめて、1980年代から始まったデジタルサウンドのひとつめの集大成みたいな時期だったと思うんですよね。当時の音楽って、ボリュームをガッと上げると、現代の音楽よりも抜群に音が良かったりするんですよ。
──いわゆるハイファイというか鮮明ということでしょうか?
村田:音楽的にもレコーディング技術的にも、すごく挑戦していた時代というか。僕はそこに影響を受けた世代なので、今回のアルバムにもそういうエッセンスはあるんじゃないかなと思う。それも、親しみやすさにつながっている気がしますね。「PUNKADEMIC」のギターは是永さんなんですけど、“これぞ是永巧一!”という感じがしませんか? 僕が大好きな是永さんはこれなんです!”っていう(笑)。是永さんのギターに限らず、1990年代が香るものを入れていきたいというコンセプトがあったんです。
──1990年代テイストが古さにつながっていないことからは、真に良きものは色褪せないということを感じます。「PUNKADEMIC」は楽曲の華やかさに加えて、ベースやオルガン、サックスなどのソロ回しがフィーチャーされていることもポイントです。
村田:地味に長いという(笑)。
──でも、それがいいと思います。
村田:ありがとうございます。僕の中では自然なことだったんですよね。今年6月にリリースしたI.T.Rのアルバム『Bass Life Goes On』はIKUOさんと白井アキト君というco producer的な存在がいてくれて、楽曲のサイズもなるべく短くしたりとか、とにかく今風に寄せたんです。でも、今回のアルバム『The Smiling Music』は、「PUNKADEMIC」のソロ回しはじめ、すごくえげつないことになっている(笑)。参加してくれた18人はみんな元気で熱い人で、それが伝わってくる演奏をしてくれましたね。
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