【インタビュー】デヴィッド・ボウイ、ジギー・スターダスト誕生の物語『スターダスト』監督が語る、「ボウイの音楽を使用できなかったことで、結果的に彼の人間性を表すのに良い方向に働いた」
音楽史にその名を刻む偉大なアイコン“デヴィッド・ボウイ”の若き日の姿と“ジギー・スターダスト”誕生を描いた映画『スターダスト』が2021年10月8日(金)よりTOHOシネマズシャンテほかにて公開。監督のガブリエル・レンジに話を聞くことができた。
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■ミュージシャンとしてのアイデンティティを確立する前
■この時期が最も興味深いと思った
──そもそもなぜデヴィッド・ボウイを主題としたのでしょうか?
ガブリエル・レンジ(以下、レンジ) 子供のときに彼のアルバムを聴いてミュージシャンとしてのボウイを好きになりました。大人になってからは彼の伝記を読むようになり、人としての彼に興味を持つようになりました。そんな中で今回の企画を進めていたプロデューサーに声をかけられ、彼がミュージシャンとしてのアイデンティティを確立する前の時期を描けるということに魅力を感じ参加しました。
──ボウイといえば、『スペース・オデティ』に代表されるデビュー時期、グラム・ロック時代、『ダイアモンド・ドッグ』などのアメリカ時代、ブライアン・イーノとのベルリン時代、ナイル・ロジャーズとの『レッツ・ダンス』などポップ時代、『地球に落ちて来た男』など役者として、などさまざまな時期があります。『ジギー・スターダスト』を一番取り上げたかった理由を教えてください。
レンジ 彼がミュージシャンとしてのアイデンティティを確立する前であったということが、この時期が最も興味深いと思った理由です。また、彼が自分の家系が精神的な病を冒す傾向があることを恐れていたことは「世界を売った男」によく表されていて、それはその後ジギー・スターダストなどの分身を生み出すきっかけになったと思います。そして私たちは忘れがちですが、彼ほどの成功している人にもコンサートで人が集まらない時期があったという事実もまた面白いと思いました。
──ボウイを演じるジョニーフリンが着る衣装にもこだわりが見えました。フレディ・バレッティがデザインした衣装(アルバム「The Man Who Sold The World」)が特に印象的でしたが、衣装へのこだわりを教えてください。
レンジ デヴィッドはとても鋭いファッションスタイルをもっていました。衣装で楽しかったのは、彼が初めてアメリカに到着したとき、彼のスタイルは3年遅れていて……時代遅れだったわけです。フェミニンなイギリス・ロックのファッションの時代は既に終わっていたんですね。彼が着ていたドレスなどは、ミック・ジャガーなども着ていて、それらの衣装は昔のデヴィッドを表現するのに非常に重要でした。そこからジギー・スターダストのような過激な衣装に激変させるのは、衣装デザイナーのジュリア・パクトスにとってはとても楽しい仕事だったと思います。
──劇中では、フリンが作った曲を使っています。彼と楽曲について話し合いなどはしたのでしょうか?実際に曲を聞いていかがでしたか?
レンジ ジョニーと一緒に話し合いました。当時のデヴィッドはルー・リードの大ファン。幾つかの曲もルー・リードを意識して書いています。だから映画のなかでは、ルー・リードになろうとしているデヴィッドになろうとしているジョニーが見られます。だからジョニーが映画で演奏した曲はヴェルヴェット・アンダーグラウンドのような響きがあるわけなんです。
──兄・テリーとのエピソードが印象深く描かれています。どのような存在として描こうとしたのでしょうか。
■劇中の音楽は、彼がいろんな帽子を試しているように
■音楽性を模索していた時期を表現しようとした
レンジ テリーはデヴィッドの影のような存在です。テリーは実際はとても美しい歌声を持ってました。ケインヒル病院でテリーと一緒に過ごした患者たちは、テリーの歌声はシナトラのようだったと説明してくらいです。デヴィッドとテリーには明確な違いがあります。ただ、少しでも何かが違っていたらテリーがスターになり、デヴィッドが病院送りになっていた可能性もあります。だから影としての存在のテリーにはとても興味があるんです。デヴィッドが辿っていたかもしれない悲劇的な影として。
──あなたははこの映画のことを「スペキュレイティブ・フィクション」と話をされていますが、「フィクション」と「ノンフィクション」についてどのような考えをお持ちですか?
レンジ フィクションとノンフィクションとの違いはとても曖昧だと思います。曖昧だから面白いんです。この映画の場合、大事だったのはデヴィッド・ボウイにとっての真実を描くということ。すべての事実の辻褄があっていることがその人にとっての真実だとも限らないと思います。その人物の内面の真実を表現できるかが重要だと思うんです。デヴィッド・ボウイにとってそのような作品になっていれば嬉しく思いますね。
──この映画にはあなたの音楽的思考がどれくらい反映されていると言えますか?
レンジ いい質問ですね。私の音楽的思考というわけではありませんが、劇中の音楽はシャンソン歌手のジャック・ブレルの曲を歌ったり、ルー・リードなど初期のロックをカバーしたり、ボウイが当時まるでいろんな帽子を取っ替え引っ替え試しているように、自分の音楽性を模索していた時期を表現しようとしています。また、スコアは「世界を売った男」の親戚のような世界観を表現しようとしました。ボウイの音楽を使用できなかったことで、結果的に彼の人間性を表すのに良い方向に働いたと思っています。
──ほかの描いてみたいアーティストはいますか? それはどのように描きたいですか?
レンジ 難しい質問ですね……ボウイとは時代の違う全く別のアーティストを描いてみたいと思っています。また、ベルリン時代のボウイを描くことにも興味があります。
──あなた(監督)自身はどんな音楽やアーティストが好きですか?
レンジ パンクからエレクトロミュージックまで何でも聴きます。毎年ウェールズで行われるミュージックフェスティバルでは毎年欠かさず行っています。日本のバンドだとBo Ningenも聴きます。この映画で描かれるボウイのような、若くて新しいアーティストが好きで聴いています。
──最後に、日本で映画の公開を楽しみにしているファンに向けてのメッセージをお願いします。
レンジ この時代はデヴィッドの人生にとても重要なチャプターです。有名になる前、みんなが知っている曲が世に出る前の話しなのに、です。彼のキャリアにとって重要なターニングポイントのひとつでした。名声を手に入れる前、さまざまなマスクや人格を作り上げる前のデヴィッドが見れる貴重なチャンスと言えます。誰もが知る大スターの内面をとても親密に描いた映画が出来上がったと思います。
『スターダスト』
監督:ガブリエル・レンジ プロデューサー:ポール・ヴァン・カーター、ニック・タウシグ、マット・コード 脚本:クリストファー・ベル、ガブリエル・レンジ
CAST:ジョニー・フリン/ジェナ・マローン/デレク・モラン/アーロン・プール/マーク・マロン
2020年|イギリス/カナダ|109分|原題:STARDUST|PG12 (C)COPYRIGHT 2019 SALON BOWIE LIMITED, WILD WONDERLAND FILMS LLC
提供:カルチュア・パブリッシャーズ/リージェンツ 配給:リージェンツ 宣伝:ビーズインターナショナル
◆『スターダスト』 オフィシャルサイト
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