【インタビュー】Hilcrhyme、10thアルバムに軌跡と意思表示「成功して、1回立ち止まって、再出発。この15年でほぼ全てを経験した」

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■新潟でTOCの名前を出すとボトルが出てくる?
■どの店にもキープボトルがあって出てきます

──例えば「TEST」も、そういう曲ですね。先ほど“自分を奮い立たせる”とおっしゃっていましたが、この曲はリスナーに向けてメッセージを届ける描き方なのが印象的です。

TOC:昔、「ルーズリーフ」という曲をリリースした時に、教師の立場から生徒たちに語るという形で書いたんです。それは学園もののドラマのタイアップだったからなんですが、そういうものを久々に作ってみたくて。でも、説教にはなってはいけないというのが、難しいところなんですよね。背中を押す感じでいたいから、そこはじっくり考えました。

──ラップの音の心地よさを楽しみながら、“私の生き方はどうなんだろう?”と自然に自問自答できる曲だと感じました。

TOC:こういうのは、日頃やってきたことによっても左右されるんだと思います。例えば、僕はスタジオを地元の新潟に作ったんですけど、最初の頃は“なんだ、あの建物は? 騒音がすごいんじゃないか?”という見られ方だったんですよ。でも、この10年くらいの間で自治会の活動にちゃんと出席して、班長もやったり、しっかり人としてのことをやり続けていたら、みんなの僕を見る目が変わっていったんです。そういうのと同じことなんだと思います。だから曲では綺麗事を歌いつつ、私生活をものすごくしっかりしていきたいんですよね。


──描いている理想に説得力を持たせるためには、それ相応の覚悟が必要ということですね。その人がちゃんとしていないと、“あいつはあんなこと言っていたのに”ということになるじゃないですか。

TOC:そうなんです。それって嫌ですし、ダサいじゃないですか。だから「East Area -戒-」の中で“どの店でもキープボトル TOCの名前出して飲め 死ぬほど”っていうのもマジですからね。

──ええっ⁉

TOC:どの店にもTOCのボトルがあります。これを書いてから速攻でいろんな店にボトルキープしたというのもあるんですけど(笑)。この曲を聴いた人が、“本当に新潟でTOCの名前出せばボトル出てくるのかな?”って実際にやってみたら、本当に出てきます。そこは頑張りました。

──素晴らしい実行力です(笑)。「East Area -戒-」は新潟を拠点として活動をしていることへの想いを描いている曲ですが、「East Area」という曲がもともとありますよね?

TOC:はい。“東日本、新潟から俺たちは攻め込んでいくんだ”っていう曲だったんですけど、そこから10年経ったバージョンとして作りました。

──ヒップホップカルチャーにもともとあるセルフボースティングのスタイルが、とても粋な形で発揮されていますね。サクセスの誇示が非常に清々しいです。

TOC:こういうので大事なのは、恥ずかしがらないこと。ちゃんとアートになっていれば、聴いた人に受け入れてもらえると思うんです。でも、そこが微妙だとジャイアンになってしまう(笑)。そして、今までにやってきたことも説得力になっていくんですよね。幸運にもそういうことをやってこられたので、こういうことを描けました。“過去の栄光は何も持たねぇ awardの盾も金も全て親へ”って言っていますけど、本当にレコード大賞の盾とかは親にあげていますから。

──ユーモアも、こういう表現には必要な要素なのかもしれないです。

TOC:そうですね。あと、韻から来るとんでもない発想も大きいです。韻を追いかけていくと、思ってもみなかった面白さが出るので。そういう点でもこのアルバムは楽しめるかもしれないです。「East Area -戒-」に関しては“クラクション”と“区役所”で韻を踏んでいるのが、自分の中でも気持ちいいです(笑)。

──韻がないと、“クラクション”と“区役所”は、なかなか並ばない単語でしょうし。

TOC:はい。この曲じゃないと成り立たない韻ですけど、僕が住んでいる区の人は特にイメージしやすいのかも(笑)。自分にしか書けない歌詞だと思います。


▲『FRONTIER』通常盤

──言葉の意味だけに着目しているとなかなか出てこない発想ですね。こういうのは、僕らのような文章の仕事とはまた別のやり方なんですよ。記事の文章で韻を踏むと、ふざけている感じになってしまうというのもあるんですけど。

TOC:韻を踏んでいる記事って新しいかもしれない(笑)。ラップに関しては韻を重視する人もいる一方で、そうではないラッパーもいるんですけど。例えばCreepy NutsのR-指定は、ものすごく緻密に韻を組み上げているラッパーですよね。彼とは仲が良くて、曲ができるとDJ 松永が送ってくれたり、僕からも送り返したりして、「ここはこうだよね」とかいろいろ話をしているんです。R-指定のラップは何回も聴いてじっくり紐解いていける面白さがあって、僕のラップは一回聴いて全てをわかって欲しいタイプ。そういう違いがあるのも楽しいですね。ほんと、“ みんなちがって、みんないい。”なんだなって思います。

──相川七瀬さんの曲を独自のスタイルで表現した「夢見る少女じゃいられない ~夢見ル少年~」も、ラップの可能性と面白さを感じさせてくれる曲です。

TOC:Hilcrhymeにとってのフロンティアをアルバムの2曲目で早速示したかったんです。だから1曲目の「FRONTIER」と曲間0秒で始まるんですよ。

──相川さんの「夢見る少女じゃいられない」は、特別な思い入れがある曲のようですね。

TOC:はい。僕が中学生の頃にヒットしてて、大好きな曲でもあったんですけど、男性の歌にして作ってみたかったんです。カラオケでこの曲を歌いたかったけど、キーが高くて歌えなかったんですよ。だから自分で作っちゃおうっていう発想です。J-POPのラップカバーは昔からすごくやってみたくて、インディーズの頃によくやっていたんです。でも、メジャーに来てからは著作権クリアランスとかスケジュールの関係で、なかなか作れなくて。今回、ようやくじっくりと作ることができました。すごく気に入っています。

──リリックは、十代の頃のことを描いています。

TOC:はい。学生時代に部活で寮生活をしていて、そこから夜中にチャリンコで脱走したことがあるんです。その時に感じた夜風、大人に対して感じていた不公平感、自由への渇望が、この曲のテーマでした。

──剣道部でしたよね?

TOC:そうです。超きつい寮生活だったので、みんな一回は脱走するんですよ。その決行の日をそれぞれ選んで(笑)。みんなで“脱走”って言っていたんですけど。

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