【インタビュー】ハイダンシークドロシー、コロナ禍のバンド始動がもたらした功罪と「ヴィジュアル系を歌うということ」
結成はコロナ禍の2020年7月。ex.⽝神サアカス團の情次2号(G)とジン(B)、ex.Kraの靖乃(Dr)という強者楽器隊に、女装モデルやタレントとしても活動する谷琢磨(Vo)を加えた4ピースが、ハイダンシークドロシーだ。2020年夏から現在まで4作のデジタルシングルと2作のシングル、さらに2作のフルアルバムを発表しているなど、活動歴2年ながら、実に多作でハイペースなリリース速度は圧巻だ。「コロナ禍におけるバンド活動状況がそうさせている」とは情次2号の弁だが、キャリアを持った百戦錬磨揃いだからこそ成せる業であることは間違いない。
◆ハイダンシークドロシー 動画 / 画像
サウンドは、そのルックスが示すように妖しさと華やかさを併せ持つ。クラシックな肌触りや、メロディアスながら転調を厭わない主旋律、そして1990年代ヴィジュアル系の王道を感じさせるアプローチなど、個々のスキルの高さに裏打ちされたアンサンブルが現代を鳴らす。そのサウンドに乗って、ファンタジーサイドとダークサイドを行き来する谷のハイトーンボイスが、時に光を注ぎ、時に深淵と孤高を描く。
結成から現在までの足跡、コロナ禍のバンド事情、2ndフルアルバム『夢寐の花』についてじっくりとメンバー4人に話を訊いたロングインタビューをお届けしたい。
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■楽曲の大人びた雰囲気とは
■真逆なものを描きたいと思った
──バンド結成の経緯から教えてください。
情次2号:2020年2月にアットワークスプロジェクトの主催イベントがあって。谷(Vo)くんのセッションバンドのメンバーとして、この4人が集められたんですよ。もともと僕とジン(B)は同じバンド(⽝神サアカス團)のメンバーでしたし、谷くんとも接点があったんです。靖乃(Dr)くんとは、その時が初めましてでしたね。実は、アットワークスプロジェクトとしてはこの4人でバンドを結成させたいと思ってたみたいで。まんまとその策にハマった形でございます(笑)。
──Kraの靖乃さんと接点がなかったのは意外です。
靖乃:お互い足掛け20年ぐらいのキャリアがあるんですけどね。そのセッションバンドで全員女装することになり、「女装するにはウィッグが必要だね」ってことで、池袋の“いけふくろう”の前に谷くん以外の3人が初集合して買いに行ったという(笑)。
▲谷琢磨(Vo)
──セッションバンドではカバーを演奏されたそうですが、手応えも感じました?
ジン:ライブ後に会場で、アットワークスプロジェクト設立者のひとりであるYURAサマから、「このメンバーで正式にバンドを結成しませんか?」と言われたんですよ。それを踏まえて、僕ら4人でごはんを食べに行ったとき、「あんなこと言ってくれたけど、どうしようね?」「背中を押してくれる人がいるなら、やってみるのもいいよね」みたいな話になったんです。
──結成という決断に至ったポイントは?
ジン:その後、セッションイベントの打ち上げという名目で4人がまた集められて。そこで豪勢な刺身を振る舞われながら、改めて「バンドやりませんか?」と言われて、今に至ります(笑)。
──豪勢なお刺身に釣られた、と聞こえますが(笑)。
靖乃:ははは。バンドって最終的には音楽性だけじゃないんですよ。人として素晴らしい、そんな人たちがこんなにも揃いますかね?っていう。この4人だったら絶対に面白いバンドになると思いましたから。
谷:個人的には、イベントのときにとても歌いやすかったんです、さすが皆さまベテランさん!と感じました。それにお客様の反応もすごく良かったんですね。「この1回だけで終わっちゃうのはもったいなさ過ぎます」みたいな言葉をいただいたり。ですから「4人でバンドを組みませんか?」という話があったときは、「いいですね」っていう気持ちで引き受けました。でも、ちょうどその頃から世の中がコロナ禍に突入してしまったんです。
──公式資料によると、結成は2020年7月。翌8月には1stデジタルシングル「メーズ」をリリースしています。7月以前より、水面下での制作活動があったということですね。
情次2号:刺身を振る舞われたのが2月だったので、まだ緊急事態宣言が発出される前だったんですよ。その場で9月に初ワンマンライブ開催と1stフルアルバム発売という流れを決めたんです。そこまでに最低でも10曲は必要だし、曲を作るうえで、各メンバーの個性や得意分野を把握するためのリハーサルをしましょうと計画を立てたんですけど、矢先に緊急事態宣言が発出されてしまったんです。だから、メンバーの持ち味もわからないし、コンセプトも未確定のまま、とにかく曲を書き進めて、形になったらメンバーのグループLINEに投げるっていう日々でしたね。
──7月にバンド始動を告げるトレーラー映像とともに、“大人のヴィジュアル系”というキーワードがアナウンスされました。曲作りのときからテーマとしてあった言葉ですか?
情次2号:明確にそういう言葉を掲げてたかは覚えてないですけど、大人っぽい感じのほうがいいかなって意識して作ってたと思います。それに、セッションのときにやった中森明菜や椎名林檎とかのカバーのようなテイストのオリジナルがあればいいんじゃないかっていう話もあったかな。
谷:結果として、曲が出来上がったときに、このバンドのヴィジョンが見えてきたところがありました。
──サウンドとしては、クラシックな肌触りやワルツのリズム、妖しさと華やかさを併せ持ちつつ、メロディアスだけど転調も厭わないスタイル、とりわけ谷さんのハイトーンボイスが特徴的です。谷さん自身、歌詞を含めて、このバンドでどんな世界観を描いていこうと思われたんですか?
谷:自分が描きやすい世界プラス、新しいものって考えたときに、楽曲の大人びた雰囲気とかイメージとは真逆なものを描きたいと思ったんです。そこで、“ハイダンシーク(hide-and-seek)=かくれんぼ”、“ドロシー(Dorothy)=女の子の名前”、つまり“ドロシーのかくれんぼ”という閃きがあって。バンド名に掲げたその世界を1stデジタルシングル「メーズ」に当てはめて書いた感じですね。
──そして2020年9月、2ndデジタルシングル「ページェント」と、1stフルアルバム『ヒトリランド』が連続リリースされました。メンバー全員で集まることもままならないコロナ禍でのレコーディングはどのように?
情次2号:各々の個性とか得手不得手をきっちり把握しないまま作曲したので、初期衝動に近いものはあったのかな。同時にそれは、僕がイメージするメンバー像を全面に押し出した曲作りでもあって。それら楽曲で構成したのが『ヒトリランド』なんです。
ジン:最近はみなさんそうだと思うんですけど、まずスタジオでドラムを録って、ギターとベースは宅録。ボーカルも宅録でした。
──つまり、ライブで楽曲の下地を固めるような工程を踏まずに制作されたということですよね?
ジン:それぞれにキャリアがあるので、そういうレコーディングの仕方でもクオリティの高いものが作れたと思います。すごく満足しましたから。
情次2号:そういう意味では、メンバーの個性をいろいろ知れた中で作ることができた作品が、2ndアルバム『夢寐の花』になるんです。
──『ヒトリランド』を経て制作された『夢寐の花』ですが、こちらはコンセプトを立てて作られたんですか?
靖乃:いや、なかったですね。ただ、『ヒトリランド』収録曲と、その後にリリースした3rdデジタルシングル「エルドラド / オモイデオルゴール」(2020年11月発表)を踏まえて、例えば「ワンマンライブのセットリストを組み立てるときに、もうちょっとこんな曲調が増えたらいいね」みたいなところは意識していたと思います。
情次2号:『ヒトリランド』を作ったときはコロナ禍でライブができない状況だったし、とにかくいい曲を作りたいということが先に立っていたんですね。でも、配信を中心としたライブを続けていく中で、テンポが速くて盛り上げられる曲が欲しいと思っていたので、『夢寐の花』はそういう曲を中心に作っていきましたね。
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