【ライブレポート】Ken Yokoyama、<4Wheels 9Lives Tour>完遂「俺、このライブやって楽しいと思ったから」
Ken Yokoyamaが7月、<4Wheels 9Lives Tour>と題した東名阪ツアーを開催した。同公演はそのタイトル通りアルバム『4Wheels 9Lives』を掲げて行われた約2年ぶりのツアーとなる。<4Wheels 9Lives Tour>より7月12日に開催されたZepp Haneda (TOKYO)公演のレポートをお届けしたい。
◆Ken Yokoyama 画像
2年ぶりとなるまさに待望のツアーにふさわしい見どころ盛り沢山のライブだった。もちろん、『4Wheels 9Lives』をひっさげ、大阪、東京、名古屋と回る<4Wheels 9Lives Tour>の東京公演の話である。もっとも、盛り沢山と言っても、Ken Bandはパンクロックバンドだ。何か演出を交えていたとか、そういうことではない。言ってしまえば、4人の男たちが機材しかないステージに立ち、ダベりながら、ただパンクロックを演奏しただけ。それでも見どころ盛り沢山となるところが横山 健(Vo/G)を含めたKen Bandの人間力なのだと思う。
もちろん、ロックコンサートなのだから、音楽ありきではあるのだけれど、パンクロックはそれを演奏している人間の感情が剥き出しになった生身の音楽だ。いかに音楽ありきだとしても、そこに演奏している人間そのものが滲み出なければ、どんなにじょうずな演奏を見せられたとしても観ているこちらの気持ちは動かない。Ken Yokoyamaが今年5月にリリースした『4Wheels 9Lives』を聴き、彼が作る音楽の魅力に改めて感動させられたが、ライブに足を運んでそれだけだったら、きっとちょっと物足りなかっただろう。前置きを長々と書いてしまったが、そういう意味で、この日のライブは見応えがありすぎるくらいあったのだと、まずは記しておきたい。
「<4Wheels 9Lives Tour>へようこそ。足元が悪い中、お越しいただきありがとうございます。見ての通りわかると思うけど、今日はイスがあって、ガイドラインの中でライブをやるので、やっちゃいけないこととか、やるべきではないこととか、みなさんわかっていると思うのね。その中で自由に楽しんでください」──横山健
そう観客に語りかけ、ギターでコードを鳴らしながら、歌い始めた横山を観客の手拍子が迎える。1曲目は「I Go Alone Again」。“Made my choice so I go alone”と歌うサビの歌詞が何やら新たな決意を思わせる。バンドインとともに演奏がテンポアップ。手拍子していた観客が一斉に拳を挙げる。Jun Gray (B)のハイキックにKen Bandがライブに戻ってきたと感じた観客も少なくなかったはずだ。そして、アウトロで横山がジャンプ!
「2年ぶりに跳んだよ。見た? 腰にガーンと来るね(笑)」と笑った横山はさらに観客に語りかける。「この空気に戸惑っている人もいるかもしれないけど、徐々に慣れていくから大丈夫だよ」。あぁ、久しぶりのライブだった<SATANIC CARNIVAL 2021>ではまだ“この空気”に戸惑っていた横山からそんな言葉が聞けるなんて。<SATANIC CARNIVAL 2021>から今回のツアーの大阪公演を経て、彼が確信を掴み始めていることが窺える。だからこその「I Go Alone Again」なのか。
「よし! ニュー・アルバムからやるよ」と横山。これぞメロディックパンクな「I’m Going Now, I Love You」「4Wheels 9Lives」をたたみかける。Ken Bandの今を歌った「4Wheels 9Lives」で、4人が一丸となって鳴らしたギターソロ直前のキメが、バンドの絆がさらに強いものになったことを印象づける。
「久しぶりに東京のライブハウスのステージに立ててうれしいです」──横山健
「東京って2年以上前の恵比寿(19年4月2日のLIQUIDROOM公演)ぶりじゃないの?」──Jun Gray
突然、MCに割り込んできた絶妙のタイミングに客席からくすくす笑いが起こる。
「Junさんって、なんで喋るだけで笑われるの?」──横山健
「知るかっ! あんまり喋らないクールな奴だと思われてるからじゃないの。前から言ってるけど、どっちかって言うと、俺は(バンドの)The Birthday側じゃん」──Jun Gray
「そう思ったことはないけどね」──横山健
「次の曲は、ほら(と説明し始める)」──Jun Gray
「えっ、今日、Junさんが仕切る日なの(笑)?」──南英紀(G)
ジョークを言い合う横山とJun Gray。そしてそんな2人を冷静に見ながら、すかさず突っ込みを入れる南。そして、それを後ろから見守るEKKUN (Dr)。そんな曲間のバンドの様子からも現在のKen Bandが持つ、いい感じのグルーヴが感じられた。
「そう、次の曲は何年ぶりにやるかって曲をやろうか。こういう時期だからセットリストに入れてみようと思った曲で、楽しんでもらえたらいいな」と横山。1stアルバム『The Cost Of My Freedom』からメタルの影響が窺える「The Story Of The Fallin' Sleet」、そして再び『4Wheels 9Lives』から「Forever Yours」を披露したところで、横山はぐっと拳を握る。1曲1曲、前述した確信を掴んでいっているようだ。
「初めてガイドライン下のライブを経験した人は、“えぇ、これって何⁉”と思っていると思うんだけど、今はこれが精一杯だからさ、この中でやっていこう。(お客さんが声を出せないから)拍手の大きさでお客さんの反応をジャッジしているんだけど、シモネタは大体滑るね(笑)」──横山健
そこでスイッチが入ったのか、シモネタを喋り続ける横山に「今日はJunさんに喋ってもらいましょう」と南、「俺はそういうキャラじゃないから。(絡んでくる横山に)おまえな!」とJun Gray、メンバーも半ば呆れ気味だ。しかし、横山の饒舌ぶりからは観客とコミュケーションが取れない中、取れないなりにペースを掴んだのか、掴もうとしているのかちょっとわからないところはあるものの、彼が前向きにステージに取り組んでいることが感じられはしないか。そんなことを考えていると、「今のこのライブ、けっこう心地いいんですよ」と突然、横山は真理をズバッと突くから油断できない。
「なんでかって言うと、(コロナ禍以前にあった)バンド間の盛り上げ合戦とか、いいこと言う合戦とかに参加しなくていいのかなって気がして、俺的には気が楽なんだよね。他の人たちがやってると言うつもりはないよ。まぁ、盛り上げ合戦はやってるか。いいこと言う合戦は……みんな、いい奴らだからいいことを言うんだけど、俺はそんないい奴じゃないから、いいことを言えなくて。そういうところに参加しなくてもいいと思うとさ。いや、盛り上げ合戦は参加しなくても、いいこと言う合戦は参加しなきゃな。今、はっと気づいた」──横山健
つまり、コロナ禍以降、従来通りのライブができなくなったことで、これまでのライブシーンはある意味画一化していたんじゃないかということに気づいたという話なのだが、「それ自体がいいことを言っているふうに聞こえちゃいますよ。シモネタを言ってればいいんじゃないですか」という南の冷静な突っ込みによって話がひと段落したところで、「Cry Baby」から演奏が再開。長めのトークで緩んだ空気を今一度ぐっと引き締めると、「まだ序盤だけど、Zepp Haneda食らってくれ!」(横山)と「Punk Rock Dream」を投下。そして、「Helpless Romantic」「Let The Beat Carry On」と繋げ、一気に盛り上げると、そこから一転、今度は今日がライブ初披露というメランコリックな「Without You」、メンバーたちが美しいハーモニーを重ねたポップソングの「Angel」といった変化球も織り交ぜる。
Twitterを使って、その場で募ったリクエストに応えるという新たな試みからも、バンドがこの状況をなんとか好転させようと挑戦していることが伝わってきた。この日は横山がHawaiian6に提供した「Tiny Soul」に加え、幾つか寄せられた中からEKKUNが選んだ「Walk」の2曲を披露。Ken Bandバージョンが存在しない「Tiny Soul」は明らかにムチャぶりだったと思うのだが、弾き語りでフルコーラスを披露した横山に「(準備していたわけじゃないのに)すごいですよね」と南が驚きが入り混じった感嘆の声を上げると、「ものが違う」と横山は冗談なのか、本気なのか、ちゃめっけたっぷりに自画自賛する。
リクエストコーナーに続けて、「Ken Bandには珍しいゆっくりした曲をやろう」(横山)と演奏したシャッフルの跳ねるリズムが印象的な「Yellow Trash Blues」では、横山が指パッチンを観客にリクエスト。ジャジーな曲調に合わせ、観客全員が指を鳴らして、声を出さずとも一体感を作れることを証明する。そして、ギターのコードをジャーンと鳴らしただけで起こった大きな拍手に横山が顔を輝かせた「I Won’t Turn Off My Radio」。そこには確かに声や言葉に頼らない対話があった。観客の盛り上がりは言うまでもない。横山は満足そうにサムズアップ。それは彼の中で確信がさらに大きなものになった瞬間だったはず。
「いろいろなしがらみがあるから、勇気が要ったと思うけど、そんな中、来てくれてありがとうございます。もうちょっとしたらぐちゃぐちゃなライブに戻れるかもしれない。それまで待ってりゃいいじゃん。でも、不自由な思いをしてもバンドを観たい、生の音の現場に行きたい、体験したいって思ってくれる人が俺らにとっては一番ありがたい。目の前にこれだけの人がいると、今日は1,000人来てるんだけど、やっていきたいって気になるよ。勇気が湧くよ。Ken Bandは激しいライブで有名です。でも、こういうライブをしてみると、それだけじゃなくてもいいなと思うようになってさ。寂しい気持ちもあるよ。パンクロックなんて日頃の鬱憤を晴らす場でいいんだけど、こういうライブしてみて、そんな日があってもいいと思うんだよね。コロナが明けたら君たちに任せるよ。暴れたければ暴れてもいい。でも、Ken Yokoyamaを観るんだったら暴れなきゃいけないってことはない。俺、このライブやって楽しいと思ったから、今後、どうしようかメンバーと喋るつもりだけど、なんとかやっていこうと思う。この形の中でも。人前に出ることをなるべくやっていこうと思う」──横山健
その言葉を聞けただけでうれしかった。<SATANIC CARNIVAL 2021>の時点では、観客とコミュニケーションが取れない状況でライブすることに確信が持てず、その気持ちをそのまま言葉にしながら手探りでライブしていた横山が葛藤を乗り越え、再びライブに意欲を燃やし始めた。
「いつもはみんなにマイクを預けるけど、今日は俺が行くよ!」と横山。ラストスパートを掛けるように演奏した「Believer」では、心の声を聴かせてくれと言うように途中から自分のマイクを客席に向け、横山はJun Grayのマイクで歌う。この日、横山は「Believer」を観客に歌っていたのか、それとも自分自身に歌っていたのか。横山がギターソロを弾き始める直前、横山のギターアンプのボリュームを上げた南のファインプレイに今一度、『4Wheels 9Lives』と掲げたバンドの絆を見た気がした。
そして、「Still I Got To Fight」「While I’m Still Around」と駆け抜けるようにメロディックパンクナンバーをたたみかけると、横山が深々と頭を下げ、本編は終了。もちろん、アンコールを求める拍手は止まらない。サブライムの「サンテリア」が流れる中、ステージに戻ってきたKen Bandは、「アンコールってわけじゃないけど、感謝の気持ちを込めてこれをやるね」(横山)と「While I’m Still Around」だけでは伝えきれないと思ったのか、ダメ押しで「I Love」を演奏した。観客全員が曲が持つピースフルなバイブと跳ねるリズムに合わせ、心地よさそうに体を揺らしたのだった。
「楽しかったです。クセになる。これはこれで」──横山健
いくつもの気づきがあった今回のツアーがKen Bandの新たなスタートになることはまちがいない。完全復活のドキュメント。そんな印象もあった2時間の熱演だった。
取材・文◎山口智男
撮影◎岸田哲平
■<Ken Yokoyama『4Wheels 9Lives Tour』>2021年7月12日(月)@Zepp Haneda (TOKYO)セットリスト
02. I’m Going Now, I Love You
03. 4Wheels 9Lives
04. The Story Of The Fallin' Sleet
05. Forever Yours
06. Cry Baby
07. Punk Rock Dream
08. Helpless Romantic
09. Let The Beat Carry On
10. Without You
11. Angel
12. Tiny Soul
13. Walk
14. Yellow Trash Blues
15. I Won’t Turn Off My Radio
16. Believer
17. Still I Got To Fight
18. While I’m Still Around
19. I Love
7月05日(月) 大阪・Zepp Osaka Bayside
7月12日(月) 東京・Zepp Haneda
7月15日(木) 名古屋・Zepp Nagoya
open17:00 / start18:00
チケット ¥4,800
※全公演共通
■7thフルアルバム『4Wheels 9Lives』
【CD+DVD】PZCA-91 ¥3,500(without tax)
【CD】PZCA-92 ¥2,500(without tax)
01. I'm Going Now , I Love You
02. 4Wheels 9Lives
03. Spark Of My Heart
04. Have Hope
05. Helpless Romantic
06. Cry Baby
07. MyParadise
08. Angel
09. Forever Yours
10. On The Sunny Side Of The Street
11. Without You
12. While I'm Still Around
▼DVD『Shot at OPPA-LA』
01. I'm Going Now , I Love You
02. Cry Baby
03. Out Alone
04. Still I Got To Fight
05. Angel
06. Forever Yours
07. Woh Oh
08. Helpless Romantic
09. While I'm Still Around
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