【コラム】人生やバンド観が丁寧に重なりあうOfficial髭男dismの音楽
『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争2021』の主題歌「Universe」に続き、テレビアニメ『東京リベンジャーズ』オープニング主題歌として書き下ろしたニューシングル「Cry Baby」を配信リリースしたOfficial髭男dism(以下、ヒゲダン)。
これまでドラマ、映画、CMとさまざまな作品のタイアップを手掛けてきたヒゲダンだが、熱いヤンキー漫画×タイムリープサスペンスというアグレッシブなテイストの作品との組み合わせは正直意外だった。
そして生まれた「Cry Baby」は、グルーヴィーなベースラインとピアノが牽引するミドルチューンで、アニメの初回放送時は「こう来たか!」と舌を巻いた。アニメサイズの90秒だけでもその異常さが伝わる転調の連続に加え、フルサイズではさらなる複雑な展開。それをこれだけキャッチーな歌メロでまとめあげるとは、ヒゲダンの楽曲のなかでもかなり癖の強い1曲と言っていい。意外な組み合わせのなかで、アニメソングとしても、ヒゲダンとしても新たな扉を見事に開いている。
さらに、その歌い出しは“胸ぐらを掴まれて 強烈なパンチを食らってよろけて/肩を並べうずくまった”と、かなりハードモード。人生唯一の彼女・橘日向の命を救うためにタイムリープを繰り返す主人公・花垣武道をヒーローと捉え、その成長&リベンジ物語として爽快な方向に振り切ることもできたはずだが、ヒゲダンはそうはしない。むしろ「ダメだった過去の自分」と闘う武道の後悔と葛藤に向き合っている。いや、武道だけではない。生きていくうえで、悔しくて泣いたことがない人間なんていないだろう。ヒゲダンが描いたのは、きっと彼ら自身も含めて、そんな想いを抱えたことのある人々すべての血と汗と涙だ。
ヒゲダンのタイアップ曲が名曲揃いなのは、ただ作品のためだけの楽曲を書き下ろしているわけではないからだ。彼らは、作品のテーマや主人公の境遇などを、必ず自分たちの人生やバンド観と丁寧に丁寧に重ね合わせる。
先日、音楽配信サービスなどでの累計再生回数が5億回を突破した「Pretender」も、始まりは映画『コンフィデンスマンJP ロマンス編』への書き下ろしだった。嘘と真実が入り交じる詐欺師たちのドラマに対して、近づけそうで近づけない儚さと一途に焦がれる切なさを描いてみせた。それは誰しもが共感し得る普遍的な感情であり、それゆえに“たったひとつ確かなことがあるとするのならば/「とても綺麗だ」”というキラーフレーズが多くの人の心を掴んだのだ。5億回という驚異的な数字が証明するように、今では「大ヒット映画の主題歌」というイメージを遥かに越えて、Official髭男dismの代表曲となっている。
さらに言えば、ヒゲダンの普遍性は、歌詞と楽曲の両方に宿っている。先日オンラインで開催されたファンクラブ限定ライヴ<Official髭男dism FC Tour Vol.2 - The Blooming Universe ONLINE ->でも、ファンやメンバー自身のリクエストにより5、6年前の楽曲が演奏されていたが、まったく古く感じないことに驚かされた。ブラック・ミュージックをルーツに持つグルーヴの豊かさ、そこに乗るメロディのポップさ。時代の流行り廃りに関係なく、ヒゲダンが自身のグッド・ミュージックを追求してきた証左だ。
そして、「What's Going On?」の“僕らはもう生き抜いてやろうよ/イヤホンつけたら1人じゃないから”の一節のように、まるで今現在のために書かれたかのように感じて胸に刺さる歌詞も多かった(ちなみに2016年リリースの楽曲である)。音楽を生み出すことに対する彼らの真摯なスタンスがまったくブレていないからこそ、そのメッセージは軽々と時代を超えてしまう。
「Cry Baby」もまた、しっかりと作品に沿いながら、自身の音楽的な挑戦と、自身から生まれる感情を表現し切っている。先述した転調を繰り返すドラマチックな展開や、ダークなエフェクトとともに“どうして どうして”と叫び歌う中盤などは、ライヴで演奏された時にどんな光景を描くか、今から楽しみでならない。きっと演奏される時代や、聴く人の心によって表情を変えるだろうと思うとぞくぞくしてくる。この楽曲がテレビアニメ『東京リベンジャーズ』の世界を盛り上げるのはもちろん、ヒゲダンの新たな名曲として長く愛され、進化していくのは間違いない。
文◎後藤寛子
Digital Single「Cry Baby」
https://hgdn.lnk.to/CryBaby
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