【コラム】Ado、オリヴィア・ロドリゴ…歌姫Z世代の躍進
「歌姫」の時代が再びやってきた。
インターネットを通して多大な影響力を持つことができる現在、アーティストのあり方も変化し続けている。特に「デジタルネイティブ世代」とくくられることもある2000年以降生まれのアーティストは、SNSを主戦場に従来では考えられかったアプローチで存在感を示している。しかし、その一方で「歌唱力」の重要性も再評価されているのではないだろうか。
本稿では、その中でもAdo、オリヴィア・ロドリゴといった圧倒的な歌唱力を武器とする女性シンガー…言うならば「Z世代の歌姫」と呼べるアーティストにフォーカスを当て、その躍進の理由を紐解いていく。
■新世代の歌姫たちが息吹く場所
そもそも、若き歌姫が台頭するようになった背景として、動画プラットフォームの存在は欠かせない。その代表が、中高生を中心に若者の娯楽ツールとして人気を誇るTikTokだ。視聴だけでなく投稿も気軽に行える場として支持を集めるTikTokでは、アーティストの有名・無名に関わらず、ユーザー自身が共鳴できる楽曲が動画に使われることが多い。
ここで注目したいのが「バズを狙って作られている楽曲がバズっているとは限らない」という事実だ。TikTokでは、まずユーザーの中心層である10代~20代の感性に刺さる楽曲が動画での利用頻度を伸ばし、それを起点に曲自体の知名度を伸ばしてヒットに至る。だからこそ、ユーザーの心情に寄り添うような楽曲…とりわけ年代が近い者が作った楽曲が注目される傾向にあると言っていいだろう。
その中でも決してバズ狙いではない、自身のありのままの感情を豊かな歌唱力で表現することに長けた歌姫たちの楽曲が、リスナーから支持を集めるようになったのではないだろうか。
加えて、TikTokに限らずYouTubeなどによって個人が気軽に発信しやすい土壌が形成されている今、年齢や居住地域などによる活動制限はなくなり、真に実力のあるアーティストは以前よりも格段とリスナーに発見されやすくなっている。
つまり「純粋に本人の力で勝負できる環境」と「評価に結びつきやすい環境」が整った時代になったからこそ、多くの歌姫たちが台頭できるようになったのだ。
■国内における新世代の歌姫たち
国内で最近注目された歌姫といえば、真っ先に挙がるのがAdoだろう。2002年生まれの彼女は、迫力のある中性的な歌声で以前から「歌い手の新星」として注目を集めていたが、その存在を世間に知らしめたのが、2020年10月にリリースされた「うっせぇわ」。
syudouによって書かれた、キャッチーかつ毒のある歌詞が魅力のひとつである同曲だが、がなりや複数の声色を利用して歌い上げたAdoの表現力があってこその大ヒットだったと言えるだろう。
続いて、2021年2月にリリースされた「ギラギラ」は、彼女が培ってきた表現力の集大成的な楽曲だ。歌詞内容に沿って細かくつけられた抑揚は、サビでピークを迎える。ミドルテンポの楽曲であるがゆえ感情の機微を細かく聴きとることができ、Adoの歌唱力の高さを際立たせているのがわかるはずだ。
Giga、TeddyLoid、DECO*27の共作である最新曲「踊」でも、韻を踏んだ詞を軽やかかつ表情豊かに歌い上げている。今後さらにボーカリストとしての評価を高めていくに違いない。
2000年生まれ、YOASOBIのikuraも現代の音楽シーンを担う女性シンガーのひとりだ。Instagramで弾き語りを投稿していたところ、歌い手を探していたAyaseの目にとまり、ユニットを組むに至ったというYOASOBI。先述のように、「実力があれば発見される時代」ということを裏付ける結成エピソードだ。
ikuraの透明感のある歌声は「小説を歌にする」というコンセプトにマッチし、多くのリスナーが感情移入できるゆえ、無数のカバー動画を生み出すに至っている。Adoとは全く違ったカラーを持ちながら、彼女も圧倒的な実力を備えた歌姫であることは言うまでもない。
■海外における正統派歌姫、オリヴィア・ロドリゴの躍動
国外のZ世代の歌姫にも目を向けてみよう。その筆頭はやはりビリー・アイリッシュだろう。ビリーといえばウィスパーボイスが印象的だが、もちろん彼女の持ち合わせるボーカリストとしての魅力はそれだけではない。「Everything I Wanted」や新曲の「Your Power」で聴かせる澄んだ歌声には、聴く者を魅了する力がある。
そんなビリーに続く、18歳の若き歌姫がいる。2003年生まれのオリヴィア・ロドリゴだ。彼女のデビュー曲「drivers license」では滑らかで繊細、悲壮感を感じつつも芯のある歌声で失恋が描かれる。明確な別れの瞬間が描かれているわけではなく、心情にフォーカスされている点が切なさをより誘うソングライティングも、彼女が高く評価されている理由だろう。
デジャヴの現象を取り上げた2ndシングルの「deja vu」も失恋をテーマにした楽曲だが、こちらはただ悲しく苦しいだけではない、どこか強気な雰囲気を帯びている。中でも、楽曲サビで繰り返される「Do you get deja vu?」という言い回しが、楽曲最後では「I know you get deja vu」になるといった、胸を締め付けるような切なさを増幅させる絶妙なニュアンスの変化は、 ボーカリストとしての彼女の表現力が感じられる同曲のハイライトだ。
シンガーとしてのデビュー以前から「ハイスクール・ミュージカル:ザ・ミュージカル」の主役を務めるなど、ディズニーファンを中心に人気を築き上げ、確かな実力を磨いてきたオリヴィア。2021年1月に歌手デビューすると、「drivers license」がSpotify、AppleMusicのデイリーチャートの複数国・地域で1位を記録し、TikTokでは「drivers license」を使用した動画が200万本近く投稿されるなど、一大ブームとなっている。5月21日はデビューアルバム『Sour』を発売することも決まっており、今後の活躍に注目したい存在である。
▲オリヴィア・ロドリゴ
■歌姫と聞き手が作り出すムーブメント
音楽界に新たな風を吹かせる若き歌姫たち。同世代を中心に指示を集める彼女たちに共通することは、その圧倒的な歌唱力はもちろん、感情の扱い方に優れているということだ。時に彼女たちは、想いを歌に乗せることでリスナーに共感を誘い、時に意図的に感情を乗せないことで、リスナーが自由に感情移入できるよう導いてくれるのである。
動画プラットフォームを通して、国内外で次々と姿を表すZ世代の歌姫たち。今後、ひとつのムーブメントとしても、更なる広がりが期待される。
文◎村上麗奈
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