【インタビュー】ミック・ジャガー「デイヴ・グロール?まあ、ウマが合う感じ」

ポスト

photo by Bryan Adams

4月14日未明、ミック・ジャガーが「イージー・スレージー」を公開した。ミック・ジャガーとデイヴ・グロールによるサプライズ・シングルだ。

デビューから50余年を過ぎた今もなおシーンの最前線を走り続けているミック・ジャガーは、史上最強のロックンロール・バンド:ザ・ローリング・ストーンズのフロントマンであるとともに、そのときどきの時代の空気を俊敏に読み取りながら、音楽シーンをはじめとしたさまざまな分野においても多大なる影響を与えてきた。

ワンアンドオンリーでナンバーワンのヴォーカリスト兼ソングライター/パフォーマーであり、個性的な俳優でもあり、有能なプロデューサー、優秀なビジネスマンという多彩な顔を持つミック・ジャガーが、デイヴ・グロールと作り上げた「イージー・スレージー」という作品はどういうものなのか。ミック・ジャガーから直接話を聞いた。


──デイヴ・グロールとのコラボレーションは、どのような経緯だったんですか?

ミック・ジャガー:「イージー・スレージー」はとても早くできあがってね。ギターは全部スタジオ・ライヴで録って、ヴォーカルをパッと入れてから、デイヴに頼んだんだ。デイヴが自宅からリモートでいろいろやっているのは知っていたからね。彼とはしばらく喋ってなかったけど、フー・ファイターズがアルバムをリリースしたことは知っていたし、彼がロサンゼルスにいることも人づてに聞いたから、それで電話してみたら、即答だった。「ああ、すごくやりたいよ。退屈していて、仕事したいんだ」ってね。デイヴが「バッキング・トラックを送ってほしい」と言ってきて、それから2日後には彼のレコーディングは終わっていたよ。

──どのような作品を作ろうと?

ミック・ジャガー:時間も本当にかからなかったから、「曲はいい感じだから、パッとレコーディングして、あまりいじくりまわさないでおこう」って思った。デイヴが気に入ってくれたのは「すごくロックっぽい曲だったから」だと思う。フー・ファイターズのアルバムにはいろんなタイプの曲がたくさん入っていて、本当にハードなノリの曲もある。でもデイヴはこういうタイプの曲が好きだから気に入ってくれたんじゃないかな。

──素早くリリースしたのは、新型コロナウイルスの流行にともなうロックダウンがテーマの曲だから、ですか?

ミック・ジャガー:作ってから3週間経っているけど、曲のテーマはまさしくその通り。歌詞で触れたようなことすべてから抜け出したいというのが一番のテーマだった。そこから抜け出して、上手くいけばもっと楽観的な心境になれるというわけ。歌詞のヴァースの部分では、ロックダウン中の経験をかなり皮肉っぽく振り返っている。そしてサビのところでは、上手くいけばまた外に出られるかもしれないという期待感を歌っているんだ。でも住んでる場所が違うと事情も少し変わってくるだろうな。俺たちはたいていイギリスのことを考えているけど、世界中どこでもイギリスみたいなわけじゃないからね。

──世の状況はシリアスですが、歌詞の中ではかなり遊んでいる部分もありますね。

ミック・ジャガー:そう、これはかなりコミカルな曲だね。真面目に受け取ってもらっちゃ困る。最後のヴァースは陰謀論に病的なくらい執着する人たちが主役になっているけど、これもまあ単なるジョークのつもりだからさ。

──ミック・ジャガーが台所を掃除しているというイメージは、聞く人に楽しんでもらえるんじゃないでしょうか。

ミック・ジャガー:台所の掃除はあまり好きじゃないけど、時にはやらなきゃいけないからね。

──その他にも、ロックダウンをイメージさせるものがたくさん出てきますね。


ミック・ジャガー:サンバのオンライン・レッスンとかバーチャル・プレミアとか。バーチャル・プレミアはなかなかいいもんだね。誰にでも出演依頼が来るわけじゃないから、俺はとても幸運だよ。でも、こういう状況だと、ありとあらゆることをやらなきゃいけないだろ?可愛いマスクをつけた可愛い女の子を見たり、ワクチン接種済みの人数とか患者数のグラフとかああいうやつとか、サッカーの無観客試合の中継に被さる偽物の歓声とかさ。「俺の仰々しい本棚を見てごらん(See my poncey books)」って歌詞は、つまりZoomの画面に出てくるやつは、みんな必ずズラリと並んだ蔵書の前に座っているだろ?自分の後ろにはガラクタじゃなくて何か頭が良さそうなものを置きたくなる。そんな感じさ。歌詞は即席で作り出したものなんだ。

──ヴォーカル録りもスムーズでしたか?

ミック・ジャガー:作り始めたときはラップとヴォーカルが半々だったんけど、演っているうちにヴォーカルの割合をもっと増やすことにした。最初はかなりコックニー訛り(ロンドンの下町訛り)のラップだったけど、曲作りを進めるうちにその割合がどんどん減っていったんだ。でもデイヴがパンクみたいな感じを加えてくれたと思うよ。ある人から「ちょっとザ・クラッシュみたいな感じに聞こえる」と言われたけど、実際に聞けばザ・クラッシュよりもヘヴィだね。デイヴのドラムスは本当にヘヴィだけど、往年のパンク・ドラマーの演奏よりもずっと洗練されている。そういう組み合わせなわけ。

──そもそもデイヴ・グロールとは古くからの知り合いなんですよね?

ミック・ジャガー:そこまでの知り合いじゃないけど、何度か一緒に共演しているし一緒のときはいつも楽しく過ごしてきた。とても熱心なやつだし本当にいいミュージシャンだよ。ドラムス、ギター、ベース、何でもうまい。一緒にやるときはいつも手早く仕事が済むしイライラもない。エゴのぶつかり合いもない。まあ、ウマが合う感じ。この曲にも本当に熱心に取り組んでくれたよ。

──素晴らしい。

ミック・ジャガー:他の人に参加してもらう場合、声をかけてもゴニョゴニョ煮え切らない態度をとる人もいる。別にそういう人を責めたりはしないけど、そういう場合もあるってことを考えておかなきゃいけないんだ。デイヴの場合は全然違う。向こうが「明日やる」って言ってくれたから、こちらも「OK」ってなって、Zoomミーティングのあとにいきなり録音した。それからもう一度スタジオ入りしてギター・パートも録音した。デイヴが「俺のギターも入れる?」と言うから「ああ、ギターも弾いてほしい」と返したわけ。それでデイヴがギターを弾いてくれた。あのソロはすごく気に入っているんだ。すごくいいソロだと思う。シンプルなソロで、これ見よがしな感じが全くない。それでいてちょっととんがっているだろ?曲にすごく合っているよ。ヴァースのメロディをちょっとなぞっている感じ。あのギターが入ってくると本当に効果的だ。デイヴはすごく熱心な仕事のパートナーって感じ。一緒に楽しくやったよ。

──デイヴ・グロールとはTV番組『サタデー・ナイト・ライブ』でも共演したことがありましたよね。

ミック・ジャガー:『サタデー・ナイト・ライブ』でも共演したし、ザ・ローリング・ストーンズのツアーでも共演したことがある。『サタデー・ナイト・ライブ』出演後の打ち上げパーティをロックフェラー・プラザで朝の4時ぐらいに一緒にやったこともあるよ。あのときは役所からライヴをやる許可をもらってなくてね…だからものすごい大騒ぎになって…何というか、つまり、どれだけうるさかったか想像つくかな(笑)。朝の4時だったからね。パーティーを中止させるために警察が来たんだけど、結局何もせず、そのまま演奏させてくれたよ。警察はクールな対応をしてくれたね。

──そんなふたりが絡み合った「イージー・スレージー」には、檻にエネルギーが閉じ込められている実感がこもっていますね。

ミック・ジャガー:ああ、そういう気分の曲なんだよ。曲から伝わってくるのはそういう気分だ。この曲を作ったときの俺もそういう気分だった。これを曲にして出してやろうと思ったんだ。手元に取っておくような曲じゃないだろ?

──とはいえ、未来は明るいというトーンが心地よいです。

ミック・ジャガー:かなり多くの地域で、楽観的な見方ができるだけの余裕が出てきたと思う。ワクチンの接種率が高くなって、明らかにイギリスとアメリカでは功を奏している。でもワクチン接種率が低い国もたくさんあって、そういう国ではまだひどい状況が変わってない。まだこれからもしばらくは、ずっと耐え忍ばなきゃいけないな。

──ミュージック・ビデオの撮影はどうでしたか?

ミック・ジャガー:これはスタジオで撮影したんだ。デイヴも俺もそれぞれ自分のスタジオで撮っている。小さなカメラを使ってね。俺が自分のパートを最初に撮影して、それをデイヴに見せて「そっちでも似たようなのを撮影できないかな。それからお互いのビデオを合わせてみるのはどうだろう」って持ちかけた。そして両方の色調を合わせて階調も少し調整してみた。即席ビデオの豪華版ってところかな。そこに歌詞の字幕を加えたんだけど、自家製の手作り動画みたいなもんだよ。

「これはロックダウンから抜け出すことについて書いた曲で、切実に明るさを求めたものだ。ドラム、ベース、ギターと大活躍してくれたデイヴ・グロールのおかげで、とても楽しい時間を過ごすことができた。みんなが「イージー・スレージー」を楽しんでくれることを願ってるよ」──ミック・ジャガー

「サー・ミックと一緒にこの曲をレコーディングすることが、僕にとって何を意味するのかを言葉で表現するのは難しい。夢がかなった、どころじゃない。人生、これ以上クレイジーなことなんてありえないと思っていた瞬間、こんなことになるなんて。これは間違いなく、この夏一番の曲になるよ」──デイヴ・グロール

◆ミック・ジャガー日本レーベル公式サイト
この記事をポスト

この記事の関連情報