【特別鼎談】水野蒼生 x 三船雅也(ROTH BART BARON) x 君島大空、それぞれのフィールドで“ヤバイ奴”と認め合う3人が思う“クラシック”とは?

ポスト

■ちゃんとみんなが生活できる環境としてのクラシックというか
■毎日使っている建物としての「クラシック」なんじゃないかな


――アルバム全体の印象で言うと、普通のポップス・リスナーの耳からすると、ここにあるのは、クラシックを素材にした、エレクトロニカとか、チルアウトとか、そういったイメージが浮かぶんですね。ジャンルを決めてくれ、という意味ではないですけど、率直に、ここにある音楽は何だと思いますか。

三船:何だろうな? ある種の、オルタナティブですよね。癒しか?と言われると、ちょっとわからないけど、何かを変えようとする情熱があって、広義の意味で「現代のクラシック・ミュージック」と言っちゃったほうがいいのかな?と。今はクラシックと言うと、形骸化してステレオタイプになっちゃってるけど、形をなくしてしまった、がらんどうな建物ではない意味での、ちゃんとみんなが生活できる環境としてのクラシックというか。無人駅じゃなくて、ちゃんと毎日使っている建物としての「クラシック」なんじゃないかな?と思います。

――その例え、わかりやすいです。

三船:ちゃんと今の価値観が入っていて、「車いすでも入れるよね」とか、ちゃんと考えられている。聴いていてそんな感じがしました。人がアクセスしやすいところにあるものだと思います。そういう意味では、アクセスできるということは、ポップだと思うんですね。現代に生きるものとして、「今のクラシック」という感じがすごくします。


▲水野蒼生

――水野さん、そのことは、ずっと言ってますよね。「昔の作曲家が現代に生きていたら、絶対に最新の機材や手法を使ったはずだ」と。

水野:そうです。それが自分のライフワークでもあるんですけど、今回のアルバムで試みたことは、「じゃあクラシック音楽って何なの?」って、みんなに疑問を投げかけたかったんです。だからこそ、100年前、200年前の音楽を現代的なサウンドに拡張して、それでいて2020年に作った自分のオリジナル曲は、あえてクラシカルなサウンドで作っている。「どっちが時代的に新しいですか?」って、何も知らない人に聞いたら、たぶんわかんないと思うんですよ。そういうふうに、みんなにわからなくなってほしかったんですね。そこからいろんな答えを、人それぞれが見つけていってほしい。欲を言えば、そこからオリジナルの曲に触れてもらって、クラシックのリスナーになってくれたら、自分としてはとてもうれしいことではあるんですけど、そういうことを取っ払っても、一つの作品としてクラシックという守り盾がなくても作品として成り立ったんじゃないかな?というふうには思ってます。

――良い意味で「これは何だ!」と思って、なんとかこれを名付けたいな、というふうに思うんですよね。

水野:自分でも、ジャンルを名付けるのは難しいですね。だから、真の意味での「ポスト・クラシカル」なのかな?とは思っています。マックス・リヒターが提唱した言葉ですけど、あれはある意味、アイロニーを持って、「ポスト・クラシカルとでも言っておけ」みたいな意味合いで付けた言葉が広まって、クラシカルなサウンドを持ちながら、アンビエントでミニマルという音楽が「ポスト・クラシカル」というところに分けられるようになったけど、じゃあそれが本当に、ポスト(=以後)のクラシカルしてるか?というと、してないんですよ。本当の文脈とは、ちょっとずれたところにある。でも今回のアルバムは、本当に「ポスト・クラシカル」した気がしてます。

――その解説は腑に落ちます。その通りだと思います。君島さんは、この作品に何を感じましたか。

君島:めちゃくちゃ、散らかってるなと思いました。

水野:あはは。最高。

君島:めちゃくちゃ散らかっていて、でも、めちゃくちゃポップで、変な意味じゃなく、聴きやすい音楽。初めて通して聴いた時に、「うわ、めちゃくちゃだな」と思ったんですけど、彼の気持ちが貫いている部分が、すごく大きいアルバムだから、散らかってるけど安心してずっと聴けて、最後に彼が歌っている曲が全てを抱きしめて綺麗に幕が閉じる感覚があって、非常に痺れました。本当に素晴らしいと思う。


▲三船雅也(ROTH BART BARON)

水野:ありがたい。たぶん、その「散らかってる」というのは、やっぱりクイーンの影響が元になってる気がする。クラシックに出会うのとほぼ同時に、クイーンに出会ったこともあって、自分を形成してきたものの一つだと思うんですけど、今回サブタイトルが「An Awakening At The Opera」という、それもクイーンの『A Night At The Opera』から来てはいるんですけど。別にクイーン的なアルバムを作ろうとしたわけではなく、結果的にこうなったというのは、たぶんそういうことなんだと思います。あとは「A面、B面」という構成も、CDですけど意識をしています。「Nessun Dorma」でA面が終わるんですよ。そういう、全体の構築というものは、かなりこだわりましたね。

君島:だから、通して聴きたくなる。

水野:それと、自分は群像劇というものがすごく好きで、そういったストーリー性を持ちながら、いろんな要素がどんどん入ってきて、うねっていって、一つのエンディングを迎えるという流れがすごく好きなんですね。それをアルバムの中でやってやろうと思って、最後に「Ave Maria」という、大聖堂的な終着点みたいなものを作ったんです。その中に、それまでの曲に参加してくれたみなさんのボーカルのサンプリングを入れさせてもらって、そこに全員が集結して物語が閉じる。で、そのあとのエンドロールとして、「VOICE Op.1」がある。というふうに、自分の中ではイメージしています。


▲君島大空

――壮大な、コンセプトアルバムですね。

水野:コンセプトアルバムが大好きなんですよ。コンセプトが一本ないと、作品としての強度が弱くなってしまう。今はプレイリスト文化だから、なおさら、アルバム1枚を通しての作品性というものが出にくい時代じゃないですか。でも、ただの曲集には絶対にしたくなかったんです。今の時代だからこそ、アルバムとしての強度を強くしようと思って作りました。

――本当に、どこからでもアクセスしやすい音楽。これはCD棚のどこに置いてもいいので、ショップのみなさん、よろしくお願いしますね。

水野:そうなんですよ。正直、クラシックの棚には置いてほしくないんですよ。だって、クラシックリスナーにこれを聴かせると、原曲との比較で終わってしまうところを懸念していて、そうじゃなくて、「何だこれは!」と思ってもらって、「こういう音楽があるのか」というふうに、クラシックにアクセスしていってほしいから。自分の、アーティストとしての活動のコンセプトは、常にクラシックの入口でありたいということなので、クラシックの棚に置いても意味がないのかな、という気はちょっとしています。

三船:まあ、でも、クラシックにもロックにも両方置いてあったら、どっちもアクセスできていいんじゃない?

水野:あ、そうか。逆にクラシックリスナーに、君島大空やROTH BART BARONを知ってもらう、それも面白い。

三船:「今までクラシックコーナーに一度も行ったことがないんです」という人が、行ってくれる可能性もあるし。そこに、蒼生くんが目指している、入口があるかもしれない。

水野:じゃあ、本当に、どこに置いてもいいんだ。ついでに、クラシックコーナーに、君島さんとROTH BART BARONのアルバムが並んで置かれたら、めっちゃ面白くないですか。

三船:すごいソリッドなレコードバイヤーさんだね。担当の方、この記事を見ていたら、お願いします(笑)。

水野:お願いします!

取材・文:宮本英夫


リリース情報

『VOICE - An Awakening At The Opera -』
2021年3月31日発売
CD:UCCG-1882/定価¥2,500+税
◆https://umj.lnk.to/AoiM_voicesSO
収録曲
1.Marine
2.My Mistress Eyes feat. 小田朋美
3.Bustle
4.Habanera feat. Louis Perrier(CHAILD)
5.Nessun Dorma feat. 三船雅也(ROTH BART BARON)
6.An Awakening At The Opera
7.献呈 feat. 君島大空
8.Ave Maria feat. Chami
9.VOICE Op.1 feat. 角野隼斗

水野蒼生 feat. 三船雅也(ROTH BART BARON)「Nessun Dorma」Teaser
◆https://youtu.be/h_KtJg6TZdU

ライブ・イベント情報

日医工 presents
<葉加瀬太郎 30th Anniversaryオーケストラコンサート2021~ The Symphonic Sessions ~>
※指揮者として参加
2021年4月10日(土)埼玉 川口リリア・メインホール
2021年4月17日(土)北海道 札幌文化芸術劇場 hitaru
2021年4月25日(日)富山 富山オーバード・ホール
2021年4月28日(水)福岡 福岡サンパレス
2021年4月29日(木・祝)熊本 熊本城ホール メインホール
2021年5月2日(日)大阪 フェスティバルホール
2021年5月3日(月・祝)大阪 フェスティバルホール
2021年5月5日(水・祝)愛知 愛知県芸術劇場・大ホール
2021年5月6日(木)京都 ロームシアター京都 メインホール(旧京都会館)
2021年5月7日(金)兵庫 神戸国際会館こくさいホール
2021年5月9日(日)広島 広島文化学園HBGホール
2021年5月15日(土)東京 東京国際フォーラム・ホールA
2021年5月16日(日)東京 東京国際フォーラム・ホールA

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