【インタビュー】Aoi Mizuno、異色のクラシカルDJが作り上げた力強いメッセージを秘めたアルバム『ミレニアルズ』
クラシカルDJ=Aoi Mizunoが、ドイツ・グラモフォン創立120周年を記念してクラシック・ミックスCD『MILLENNIALS(ミレニアルズ) -WE WILL CLASSIC YOU-』をリリースした。ドイツ・グラモフォンは世界最古の音楽レーベル。そこからのミックスCDリリースというのは前代未聞だ。これまで誰も体験したことのない、クラシック音楽の新しい楽しみ方が詰まったCDを作った、1994年生まれのミレニアル世代の指揮者であり史上初のクラシカルDJ“Aoi Mizuno”とは何者なのか。彼のキャリアと音楽にかける情熱に肉薄し、クラシック界を震撼させたこのCDの魅力を赤裸々に語ってもらった。
■クラシックの醍醐味は作曲家が全身全霊を込めて作ったメッセージ
■爆音で聴くドビュッシーはなかなかシビれますよ
──Mizunoさんのこれまでの経歴がすごく波乱万丈ですね。そもそもクラシックのアーティストを目指されたキッカケなどから話してもらえますでしょうか。
Aoi Mizuno:実は英才教育を受けて純然とクラシック・アーティストを目指していたわけではないんです。ピアノは5歳からやっていましたが、楽譜は一切読まない、バイエルなどの教則も一切やらないという子供だったんです。でもモーツァルトやベートーベンはちゃんと弾きたかったので、小学生時代は必死で曲を聴き込むことと、さらに先生の手を見て真似て1曲のソナタを1年かけて弾くということをやっていました(笑)。その頃は音楽家になるつもりは全くありませんでしたね。音楽家を目指すという想いが芽生えたのは、中学生時代にヴァイオリンに出会ったことです。そこから週一回のレッスンを始めて楽しかった。ヴァイオリンは自ら触って弦をこすって音を出します。音と人間の距離が近いんですよね。指で音を作るっていう感覚です。それが楽しくて。父親が音楽関係の仕事だったので、レコードやCDの数が膨大にあったので、ひたすら家にある音源を聴き漁りました。それがクラシックの入り口だったかな。
──そこからはクラシックにドップリという感じですか?
Aoi Mizuno:それがそうじゃなくて、同時にロックバンドのクイーンが大好きになって、ブリティッシュロックにもハマリ出したんです。父親の影響でプログレッシヴロックにも走りました。だから、いろんな音楽に接するなかで、クラシックを選んだということですね。
──音楽で身を立てると考え出したんですね。
Aoi Mizuno:とりあえずヴァイオリニストになりたかったんですが、先生に“今からじゃ遅すぎるから諦めなさい”と即答されて(笑)。それから壮大さ、音の多彩さ、表現力の幅の広さがあるオーケストラに惹かれて、でもその中のパーツにはなりたくないと思って、指揮者を目指すことになったんです。中学校の合唱コンクールで指揮者をやったときに、自分が手を振って音を操っているという快感を知ったのが大きかったですね。
──高校時代からは指揮者に一直線ですか?
Aoi Mizuno:ジュニアオーケストラに入りながら、井上道義先生の講習会に行って、そこで指揮のすべてを教わりました。力量はなかったので、先生の一言一句を聞き漏らすまいと勉強しました。でも一方で高校ではバンドもやっていたんですよ。
──音大時代はどうだったんですか?
Aoi Mizuno:指揮科に入ったんですが、自分は英才教育も受けていないし周りの生徒とのギャップもあって、ここは自分の居場所じゃないと疎外感を感じて、思い切ってやめることにしました。そこから海外を目指して突き進みました。バイトをしながらドイツ語を勉強して、音楽学校を受験したんです。それでザルツブルクのオーストリア国立モーツァルテウム大学に合格することができて、合唱・指揮の両方を専攻することができました。
──そこではどういう生活をされていたんですか?
Aoi Mizuno:小さい街なので、本当に音楽以外のことは何もないんです。徒歩5分のところに大学があって、その途中にスーパーやカフェがあるので、一日が狭い圏内だけで終わっちゃう。だから邪念なく勉強に集中できました。でも少し足を伸ばせばウィーンやミュンヘンにも行けるし、あちらは学生ならすごく安い値段で世界最高峰のオーケストラやオペラを見ることができるんです。演奏だけではなくて、劇場が人々の生活に根付いているんです。当たり前のように存在しているんですね。また午前中からクラシックコンサートがあって満員になるんですよ。小さな街なのに。そういう生活を体験できたのも大きなことでした。残念ながら、日本では劇場の文化というのは生活に浸透していませんからね。
──そこからはいろいろなオーケストラで指揮をするようになって。
Aoi Mizuno:ご縁があって、バートライヒェンハル管弦楽団、南ボヘミア室内管弦楽団、ハンガリー国立ブダペスト歌劇場管弦楽団などのプロオーケストラを指揮させていただきました。それと、アマチュアオーケストラのリハを毎週末やらせていただいて、それがすごく大きな財産になったんです。ドイツ語でのコミュニケーションでリハをして、一つのオーケストラをステージに立てるようにするという、すごく責任は重いけれどやりがいのあることで勉強になり、自分のスキルが伸びたことが実感できましたね。
──では日本での活躍の話に入りましょう。ライブハウスで大音量で楽しむピアノリサイタル「東京ピアノ爆団」をプロデュースされたり、若手室内オーケストラ、「O.E.T(オーケストラ・アンサンブル・東京)」を立ち上げたり。
Aoi Mizuno:「東京ピアノ爆団」は、僕としては奇をてらったつもりではないんです。生の音でクラシックを楽しむのはもちろん素晴らしいことなんですが、いまPAをはじめとしてサウンド関連の技術なども優れているのに、なぜそれを取り入れたことをしないのか、と考えたことから始まりました。だったらライブハウスでやればいいと思って。だから、場所をコンサートホールからライブハウスに移しただけなんです。オーケストラがライブハウスで演奏するのは大変なので、ピアノでやることにしました。それでライブハウスに直談判しに行ったら、えらく気に入ってくれて。仲の良いピアニストを呼んで、自分がクラシック楽曲のDJをやればいいじゃん、ということで「東京ピアノ爆団」が始まりました。最初はDJの機材もないので、iPadと数百円のアプリでやっていたんですよ。いままで3回やっているんですが、DJの内容も変えていって、少しでも芸術性の面でも高めるように試行錯誤しています。参加してくれている三人のピアニストは、三者三様のスキルと個性を持った人たちですし、演奏をして終わりというのではなくて、MCを入れてパフォーマンスとしてお客さんを楽しませるような工夫もしています。
──爆音というのがいいですね。
Aoi Mizuno:カジュアルなクラシックのイベントだと、簡単で有名なショートピースを数曲演奏すだけというものが多いんですが、僕はそれだとクラシックの良さが伝わらないと思っているんです。クラシックの醍醐味って、作曲家が全身全霊を込めて作ったメッセージに宿っていると思っているので、「東京ピアノ爆団」では大き目の曲を弾いてもらって、なおかつ爆音で聴いて気持ちよいものを演奏するということを目指しています。爆音で聴くドビュッシーなんか、なかなかシビれますよ。
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