【特別鼎談】水野蒼生 x 三船雅也(ROTH BART BARON) x 君島大空、それぞれのフィールドで“ヤバイ奴”と認め合う3人が思う“クラシック”とは?

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これは、クラシックを利用した実験ではない。クラシックの本質そのものにまっすぐに切り込む挑戦だ。ミレニアル世代を代表する若き才能、指揮者にしてクラシカルDJでもある水野蒼生の最新作『VOICE-An Awakening At The Opera-』は、その名の通り“声”をテーマに編み上げた壮大なコンセプトアルバム。プッチーニ、ビゼー、シューマン、シューベルトなど、クラシック作曲家たちの楽曲を大胆にリアレンジした上に、小田朋美、角野隼斗(かてぃん)、chami、Louis Perrier(CHAILD)ら、彼が認める先鋭的なロック/ポップスのアーティストたちの歌声を乗せ、クラシカルな歌曲やオペラを現代的にアップデート。そこにオリジナル曲を加えて作り上げた“クラシック”の定義そのものを問い直す、大胆にして痛快、かつ愉快な作品だ。BARKSではこの作品のリリースを記念して、アルバムに参加した三船雅也(ROTH BART BARON)、君島大空、水野蒼生の鼎談を企画。互いの音楽をリスペクトしあい、それぞれのフィールドで“ヤバイ奴”と認め合う3人が思う“クラシック”とは? 3人の言葉の向こうに見えてくる、真の意味での温故知新の音楽の喜びを、ゆったりと味わってほしい。

■サウンドを拡張して2021年にフィットする形にしてあげると
■また新しいクラシックの形が見えてくるんじゃないか?


――たぶん、この3人の名前だけ並べると“ジャンル違うじゃん”と思う人もいると思うんですね。そこは水野さんに語ってほしいんですけど、どういう理由や、直感や、そういうものがあって、二人に声をかけたわけですか。

水野蒼生(以下、水野):僕が、今回の客演アーティストの方々にオファーをかけさせてもらった理由は、単純に「僕が大好きな声の持ち主と一緒に音楽を作りたい」という、本当に純粋な気持ちでした。クラシック音楽だからオペラ歌手に頼まなきゃいけないとか、そういうことはまるで思っていなくて、とにかく、オペラ的発声というものから脱却をしなきゃいけないと思っていたので。あの発声方法は、マイクがない時代だからこそ生まれたものというか、馬鹿でかいオペラ座の一番遠い席まで、どうやったら歌声を響かすことができるか?という、逆算で生まれた発声法なんですね。だけど今はマイクがあって、どんなウィスパーも、東京ドームでもどこでも響かすことができる。当時の作曲家が今生きていたとしたら、(オペラ的発声を)強要はしなかったと思うし、むしろ歌詞を聴き取るという意味では、オペラ的発声ではちょっと難しいところもあるので、「だったら別に(オペラ的発声でなくとも)良くない?」という考え方から生まれたアルバムでもあるので。

――なるほど。

水野:それプラス、いろんなジャンルですでに活躍している人たちに歌ってもらったら、より、いろんな角度から広がりがあるんじゃないか?と。音楽的にも、聴いてくれる人にも、広がりが出てほしいなと思った、というのもあります。

――三船さん、最初にオファーを受けた時は、どんなふうに誘われたんですか。

三船雅也(以下、三船):まさに、今みたいなことを言われました。電話がかかってきて、「今アルバムを作っていて、1曲歌ってもらいたいです」と。そして「オペラの発声から脱却したい」ということで、「そうじゃない声の出し方をする人で、作品を作りたい」と言われて、面白そうだと思って、「うん、わかった」と。そこからですね。ただ、「三船さん、イタリア語なんですけど、いいですか?」って(笑)。


▲三船雅也(ROTH BART BARON)

水野:いや、「日本語の歌詞、用意しますよ」と言ったんですよ。そしたら「俺はイタリア語でいい」という返事が来た。

三船:だって、水野くんが難しい方向に舵を切ってるなら、俺も行くべきだなと思ったから。

水野:イタリア語は自分も学んできたから、ディレクションできると思って。

三船:そうそう。水野くんがいたから大丈夫だと言った気がする。ほかの環境だったら、やらなかったと思う。水野くんの描いたデザインに乗っかるというか、自分が参加すれば化学反応が起きるなという予感はありました。

――君島さんは、どんなオファーのされかただったんですか。

君島大空(以下、君島):メールでオファーをいただいて、最初の打ち合わせの時に、そういう話をしていただいた覚えがあります。でも、僕に歌のオファーをしてくるということは、「そういうことだろうな」というか、オペラの発声とか、そもそもバンドサウンドでの歌い方も、僕は向いてないと思うんですよ。音源を作るためだけに出している声という部分が大きいので。その音源を聴いてくださったうえで僕に依頼するということは、そのままやればいいんだなと思ったので、「楽しそう」と思ってやらせていただきました。それは間違いじゃなかったなということをレコーディングの時に確かめながら。


▲君島大空

――三船さんが、プッチーニの「Nessun Dorma(誰も寝てはならぬ)」、そして君島さんが、シューマンの「献呈」。二人に歌ってもらう曲は、あらかじめ決めていたんですか。

水野:「Nessun Dorma」をやろうと思った段階では、誰に歌ってもらおうとかはなかったんですけど、制作陣といろいろ話をして、「これは絶対に三船さんがいいよね」と。それは本当に正解だったし、完成してあらためて「俺は間違ってなかった」と思います。それ以降は、だんだん「誰に歌ってもらおう」ということを意識し始める段階に入って行くんですけど、その中で、君島さんに歌ってもらった「献呈」という曲は、作曲がシューマンというロマン派の時代の人で、もともと君島さんの音楽に僕はシューマン的なエッセンスを感じていたんですよ。ロマンチックでどこか文学的なもの、叙情的なもの、感情を揺さぶるエネルギーがありながらも、歪んだギターのストローク一発で人を感動させるストレートパンチのようなものも両方を持ち合わせているところに、すごくシューマン的なものを感じていて、「これはいけるんじゃないか?」と思いながらデモを作っていったら、バッチバチにハマってくれた。キーも、事前に君島さんの音楽をいっぱい聴いて、「このキーなら絶対ハマるな」というものを選びました。

君島:僕が一番使うキーでしたね。ぎりぎり出る、一番いいと思っているところ。Dですね。

水野:三船さんのほうは、原曲のキーそのままで、ばっちりハマったという奇跡が起きました。パヴァロッティばりの高い音を余裕で歌えるという。「これ、三船さんの曲じゃん」みたいな。

君島:変な意味で、違和感ないですよね。

三船:言いたいことはすごくわかる(笑)。一周回って、違和感がないよね。

――三船さん、「Nessun Dorma」を歌ってみてどうでした?

三船:この曲と向き合ってみて、テンポとかリズムとかBPMとか、今の価値観だと「どうなってるの?」と思うかもしれないけど、意外と曲の構成は現代的なんだよね。

水野:めちゃくちゃ現代的ですね。

三船:今のポップスに繋がるような、コーラスで盛り上がったり、物語を伝えていくことがすごく構成的にできているから、今のロックミュージックやポップスのご先祖様感に歌いながら触れた感覚があって、すごく勉強させていただきました。何百年の歴史を圧縮して、2021年にそれを体感するのは、なかなか刺激的なことでしたね。


▲水野蒼生

――このアルバムの効能の一つは、そこだと思います。変わらないものを一つ提示すること。

水野:ここ数十年の音楽の歴史、アメリカベースで進んでいった20世紀があったと思うんですけど、結局変わっていったのは音楽の中身というよりサウンドだと思うんですよね。録音技術が発達するにつれて、サウンドはどんどん進化していったんですけど、それを楽譜にしてしまえば、結局のところ使っている音階は今でも十二音だし、メジャー/マイナーもクラシックの時代からあったものだし。たとえば、いま世に出ている音楽をすべて弦楽四重奏にアレンジしたら、やってることは当時とたいして変わらない。だとしたら、逆もありえるんじゃないか?と。サウンドを拡張して、2021年にフィットする形にしてあげると、また新しいクラシックの形が見えてくるんじゃないか?ということを、すごく感じていましたね。

――君島さん、「献呈」という曲は知っていましたか。

君島:知らなくて、デモと和訳された歌詞をいただいたんですけど、その段階で、僕が自分で作る曲で歌いたいことをあけっぴろげに言われているような訳詞が来たんですよ。

水野:ふふふっ。

君島:直接的に“僕を許さないで”とか、自分では絶対に選ばない言葉だけど、でもそういうことを言ってる気がしているんです。僕の言いたいことは、たぶん一個しかなくて、それを言い終わらないために、周りの言葉で歌っているという感覚がずーっとあるんですけど、それをズバッと言われた気がして、「はぁー」ってなって、「これ、俺の曲だ」ってなって。

水野:あはは。

君島:すごくうれしかったです。これを僕に「歌ってください」と言われた理由がわかったような気がしました。これは直訳ではなくて「超訳」と言っているんですけど、日本語がすごくモダンになっているんですよ。「こういう人、今の時代にいるよな」と思ったし、僕はこっち寄りの人間なので、親近感が湧いたんですよね。クラシックは、すごく歴史があるものだし重んじられているものだし、日本では敷居が高く見られがちだけど、超訳をもらった段階で、ちょっと近くなれた感覚があって、すごく得難い経験だなと思いました。


――歌詞も大事なんですね、今回のアルバムでは。なぜこの言葉を、この人が、この声で歌うのか?と。

水野:そうですね。オファーする前の段階で、超訳をしてたんですけど、「断られたらどうしよう」というぐらい、君島さんに寄せたものを作ってしまったなって改めて思います。ドイツ語の歌詞を直訳すると、“あなたは私の心臓で、あなたは私の魂で”って、ただひたすら連呼する、ちょっと病的なんですよ。今の感覚からすると。当時の西洋では、そういうダイレクトな表現こそがロマンチシズムだったけど、それをそのまま今の日本でやって感動するかな?ということをすごく感じて、同じ文脈のまま言い換えることは必須だったのかなと思います。それをやっていたら、知らない間に、君島さんの曲になっていったということです(笑)。

君島:さっきこのインタビューの前に話していて、わかったんですけど、僕のセカンドEP『縫層』に入っている「縫層」という曲は、自分の体外にある心臓のことをずっと考えていて、それでできた曲なんですね。内臓ではない、精神的なものを支えるものとしての心臓というものは、自分の体の外にあるんだろうということで、作った曲なんですけど、それをシューマンの話と重ね合わせると、なおさら僕にぴったりの曲を選んでくださったんだなと思って、ひとり感動してしまいました。

三船:君島くんにはシューマン感、あるもんね。

水野:僕はもともと、それを感じてました。

三船:言葉は優しくて、情緒的な感じがするけど、だいたいいつも出血してるもんね。

君島:(笑)。

水野:意外と、ダイレクトなんですよね。音楽が。

三船:そうそう、ダイレクト。僕もそう思った。

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