【インタビュー】「和ジャズ」の 激ディープなセレクション、人気コンピ『J-JAZZ VOL.3』3月3日リリース
シティ・ポップからニューウェーヴ、ニューエイジに至る様々なジャンルで近年爆発的な盛り上がりを見せるメイド・イン・ジャパンのミュージック・ライブラリーの中でも古くから海外で評価の高い、いわゆる「和ジャズ」の激ディープなセレクションでコンパイルし話題となった『J-Jazz(和ジャズ)』待望の第3弾が登場する。
◆『J-JAZZ(和ジャズ)VOL.3-DEEP MODERN JAZZ FROM JAPAN』 関連画像
アケタズ・ディスクからのリリースで知られる河野康弘トリオが86年にリリースした激レア中の激レアのプライヴェート・プレスのアルバムのタイトル曲「SongOfIsland」から、サックス奏者・峰厚介の『Mine』(スリー・ブラインド・マイス)と同年にリリースされたフィリップスからの『First』の一曲目を飾る「Morning Tide」、『祭の幻想』と双璧を成す白木秀雄の人気盤『プレイズ・ボッサ・ノバ』からニコラ・コンテら海外著名DJもピックアップする「Groovy Samba」、中島政雄のファースト・リーダー・アルバムからドナルド・ベイリーのドラムが冴えるスリリング・ジャズ「Kemo Sabe」、高瀬アキの1981年ベルリン録音にして森山威男/井野信義とのトリオでの名演「Song for Hope」、「Aya's Samba」が人気のジャズ・ベーシスト中山英二の78年録音「Cumorah」、杉本喜代志、峰厚介、本田竹曠など錚々たる面子が揃った名ドラマー村上寛の78年作『Dancing Sphonx』のタイトル曲、沖縄のジャズマン・友寄隆生による「Kirisame」、Katsuの活動名で知られる板倉克行の激レア盤『密林ダンス』(邦題)よりタイトル曲、島根のジャズ・スポットDIGでのライヴ録音を収めたサックス奏者の寺川秀保によるウェイン・ショーター「Black Nile」、『Earth Mother』リイシューも話題を呼んだ日本のエリック・ドルフィーこと松風鉱一による中央大学427教室での録音『AT THE ROOM 427』から古澤良治郎オリジナル「Acoustic Chicken」など。今回もグラミー賞ノミニーのカーヴェリーによるリ・マスタリングによる初リイシュー/カルト曲てんこ盛りの内容だ。
ここで本シリーズの監修者のトニー・ヒギンズとマイク・ペデンのインタビューをお届けしよう。
◆ ◆ ◆
──BBEもレーベル25周年記念になります。あなたたちにとってBBEや創設者のピーター・アダークワーはどんな存在でしょうか?
トニー・ヒギンズ(以下、ヒギンズ):俺は90年代にロンドンでピートがオーガナイズしていたクラブ、Barely Breaking Even(当初レーベルよりもイヴェント名だった)に通っていた。当時、ファンク、ジャズ、ヒップホップなどプレイしていた幾つかのパーティのひとつで、いつも良い音楽がかかっていたんだ。その流れで彼がレーベルを立ち上げたときに、その転身はある意味には理にかなっていたと思うね。BBEから出た最初のコンピレーション・シリーズ『Stop Look & Listen』は、今聴いても気持ち良いし、ボブ・ジョーンズとジャスパー・ザ・ヴァイナル・ジャンキーらの素晴らしいDJにより監修されていた。それから25年が経ち、まだレーベルが存続しているとは驚きで、当時想像もしなかったよ! 品質を重視し続けていれば、人々はその姿勢を尊敬し、評価し続けてくれることを証明しているといえるね。そんな訳でBBEは25年も続けられたんだと思う。BBEは長年どんなアーティストと一緒にプロジェクトをやられた名前のリストを見ると、どんなレーベルなのか一目瞭然だ。マスターズ・アット・ワーク、ロイ・エアーズ、Jディラ、ウィル・アイ・アム、ピート・ロック、ディミトリ・フロム・パリ、ジャジー・ジェフ、クエストラヴ……とこのリストは続く。すごく立派なリストとしか言いようがないだろ!? そんな訳で、我々に取ってBBEと関わっていることは光栄だよ。
──J-Jazz シリーズを立ち上げるきっかけを教えてください。
マイク・ペデン(以下、ペデン) 相棒であるトニー・ヒギンズと俺は、会うたびに数時間かけて、異なる作品、ミュージシャン、レーベルと帯の特長について駄弁り続けるくらいJ-Jazz熱狂者なんだ。ある日パブの梯子をしていたら、日本のジャズを集めたコンピレーションの企画を二人で考えた。俺たちは自分らの理想なトラックリストを組み立て、選択基準を設定した。それは、日本人のアーティストと日本のレーベル/販売されていない作品、または長い間廃盤になっている作品/現実的にライセンス可能な作品/最高級の音楽であり、バランス良く、幅広いジャズのスタイルをなるべく網羅していることを基準にした。長い間この企画について議論し、当初の選曲を選別した後、J-Jazz 1の暫定版にたどり着いた。J-Jazz 2と3も同様な方法で行った。俺たちにとってライセンス交渉の達人に、経験豊富で日本の音楽業界内に顔が広い人物で、日本の現場にいるBBEの代理人・日高健介がいることがとてもラッキーだ。しかし、全3作の収録楽曲のライセンス過程がどれも1年以上かかり、幾つかの理由でライセンスするのが不可能な、当初選曲した楽曲を差し替えなければならなかった。主な理由は、経済的、著作権所有者を識別することが出来ず、何回かはレーベルから「ノー」と断られた。
──1、2の世界的な反響はいかがでしたでしょうか? 全世界のどの都市で販売しているのでしょうか?
ヒギンズ 今まで発表した全3作において、幸いにもこのコンピレーション・シリーズの市場は国際的で全世界で売られたそうだ。もちろんUKが主要な市場シェアを占めているが、BBEはThe Orchardという流通会社を通じて良い流通網を確保しているので、各作品はどの諸国でも入手出来、オンラインで簡単にオーダーすることも出来る。売上枚数を見るとトップ4の市場は順にアメリカ、日本、ヨーロッパ圏と中国(中国では日本のジャズは超人気で、また高額を費やすコレクターの本場でもある)だ。東京の多くのディスク・ユニオンの支店の壁に、我々が関与している諸作品が飾っているのを見ることは素晴らしいことだね! 初回プレスにはJ-Jazz 1と2共に速攻完売した後、BBEは直ちに再プレスをオーダーするほど、このコンピレーションに収録されている、とても美しい音楽の需要が存在していることが裏付けている。全過程において、BBEと一緒に仕事をするのは素晴らしくて、このレーベルぐらい我々の企画を支援するところがないと思い、俺たちは大いに満足しているよ。彼らが俺たちのためにやってくれた全てのことに頭が下がる思いだ。
ペデン ほぼ世界各国のジャズの作品は既に盗まれ、収集され、再発され、コンパイルされているので、日本のジャズが真に最後の辺境地といえるだろう。今まで言語の壁とレコードが入手困難なことで、海外のコレクターに取って、入り込み、収集するのが困難だった。俺たちはこのJ-Jazzシリーズにより、日本から出てきた素晴らしいジャズをより多くの人々が堪能出来るため、扉を開く様に目指している。2作とも素晴らしい入門として機能し、彼ら自身の日本のジャズのレコード・コレクションを構築する良い出発点になるかと思う。何よりもこの音楽をシェアすることにより、この今まで割と無名な領域の素晴らしいジャズの知名度が引き続き上げられるように努めたい。
──過去の2作品と『J-Jazz 3』はどんなところが違いますか?
ペデン 第1弾は形になるまで数年間かかった。まず俺たちは名作だと確信した楽曲と共に日本のジャズを素晴らしく紹介できる入門編となる楽曲を第1弾で披露したかったので、かなり特定なサウンドの音源を集めた楽曲リストを考えた。第2弾は選曲対象となる幅を広げ、ジャズのジャンル内に入っているあらゆるスタイル、ビッグ・バンド、モーダル、フュージョン、ファンクとその他を網羅しようと試み、俺たちにとって第1弾より良く聴こえたような気がしたほど出来が良くて満足している。より多様性で、より隂陽があったが、すごくタフな、ワクワクさせる非商業的なエッジ感を保持することが出来たと思う。第3弾となる本作は、前作のスタイルの広範囲に及ぶ感覚を保ちしつつ、沖縄のジャズ、ボッサとファンクなどにさらに分岐し、日本のインディーズやプライベートなジャズ・レーベルの音源を深く掘り下げた。そんな訳で、Johnny’s Disk、A.S.C.A.P Records、Yupiteru、Planets、Carnivalなどのレーベルの自主盤が満載で、さらにプライベート・レーベル“Red Horison”が唯一残した作品で、このバンドの公演でしか販売されなかった、激レアな寺川秀保カルテットのライヴ盤に入っている楽曲も本作に入れた。
──アメリカの伝統的なモダンジャズや美しいヨーロッパ・ジャズと日本人のアーティストの違いはありますか?
ヒギンズ 多くの日本のジャズ・ミュージシャン、特に我々のJ-Jazzシリーズで取り上げた、60年代と70年代のアーティストを観察し、気づいた特徴としては、彼らは数多くのジャズのスタイルを演奏することが出来、またどのスタイルが上手であることだ。特にリズム奏者、ドラマー、ベーシストとピアニスト。そんな訳で彼らはスタンダート、バラードから、ストレートアヘッドなハード・バップから、ファンク、フュージョン、モーダル、フリーな即興まで全ての演奏が出来、各スタイルを均等な良さでプレイ出来る。アメリカやヨーロッパのプレイヤーの傾向としてはあまり多く見られない、魅力的な多様性を日本人のジャズ・ミュージシャンが持っている。もちろんアメリカとヨーロッパの素晴らしいプレイヤーたちで幅広いスタイルを行き来出来る人たちもいるが、日本みたいに一般的ではないかと思う。アメリカのジャズ・ミュージシャンは、ひとつの特定なスタイルや少数のスタイルの組み合わせに留まる傾向がある。しかし、多くの日本人のプレイヤーたちは、雇われ続け、録音仕事に呼ばれ続けるため、全てのスタイルに学ばなければならなかったと思う。忘れてはならないが、戦後に米軍が日本を占領したころ、多数の米軍基地があり、アメリカの軍人のために日本人のジャズ・ミュージシャンがその基地内でコンサートを開催していた。現地のプレイヤーたちは、クール・ジャズ、ビバップ、ジャンプ・ブルースなどの全スタイルを演奏する多様性を持たなければならなかった事情がある。その多様性が60年代と70年代に発展していった。日本人のプレイヤーの技術力は並ならぬものだ。特にドラマーは別次元にいる。素晴らしいよ。
──本アルバムへの意参加アーティストの基準などありますか?
ペデン 俺たちは自分らが率直に楽しめる音源を収録しつつ、また60年代から80年代までの日本ジャズ界の黄金時代の公正な描写をしたかっただけだ。この時代に日本ではジャズのスタイルがかなりの速さで発展していき、特に60年代の下旬に、峰厚介、菊地雅章と日野皓正などの、電子楽器やエフェクト装置などの新しい変わった楽器を試す、新しい、若手のプレイヤーたちが現れ始めた。彼らは当初ハードバップとブルースの演奏から始めたが、70年代の初めにはポスト・モーダルや即興/フリー・ジャズに転換し、すごく興味深いジャズをプレイしていた。さらに俺たちはこのコンピ・シリーズには幅広いスタイルを入れたかった。早弾きのヘヴィなフュージョンだけ入れるのは簡単だが、そんなものを出すのはあまり面白くない。俺たちはハード・バップ、サンバやモーダルなどの多数の異なるスタイルと共にフリー・ジャズの領域に接近する、とてもレア盤に収録されている、松風鉱一と古澤良治郎による素晴らしい20分に及ぶ楽曲「Acoustic Chicken」も入れた。このコンピ・シリーズ用にレーベル事情や条件により、多くの楽曲は契約出来なかったが、もしも俺たちが当初欲しかった全ての楽曲を取ることが出来たら、今よりもさらに良くなっているに違いないよ!
──今後のシリーズのリリースやプロジェクト、活動など教えてください。
ヒギンズ J-Jazz Masterclass Seriesの一環として、俺たちは多数のアルバムを再発する予定だが、驚きを台無しにしたくないので、名前は今明かさないことにするよ。J-Jazzの第3弾を出す前に最近再発した作品は、元々1984年に発表された中村慎太郎クインテットのアルバム『Evolution』だ。J-Jazz Masterclass Seriesのシリーズの7枚目のアルバムだ。俺たちは大傑作しか再発したくなく、最低でも10枚ぐらいは出したい。再発見必須の音楽が日本にあまりにも多くまだあるので、俺たちは旅を始めたばかりなんだ。
『J-JAZZ(和ジャズ)VOL.3-DEEP MODERN JAZZ FROM JAPAN』
BBE
CD2 ( 帯・日本語解説付き国内仕様盤 ) 3,300円+税
CD2(輸入盤) 2,240円+税
3LP(輸入盤) 4,080円+税
■TRACKLIST
●2CD
DISC 1
1. Song Of Island - Yasuhiro Kohno (河野康弘) Trio + One
2. Morning Tide - Kohsuke Mine (峰厚介)
3. Kemo Sabe - Masao Nakajima (中島政雄) Quartet
4. Groovy Samba - Hideo Shiraki (白木秀雄) ※CDのみ
5. Song for Hope - Aki Takase (高瀬アキ) Trio
6. Cumorah - Eiji Nakayama (中山英二)
7. Phoebus - Hiroshi Murakami (村上寛) & Dancing Sphinx
8. 1/4 Samba II - Tatsuya Nakamura (中村達也)
DISC 2
1. Cumulonimbus - Shigeharu Mukai (向井滋春)
2. Burning Cloud - Ryojiro Furusawa (古澤良治郎) ※CDのみ
3. Planets - Masaru Imada (今田勝) Trio + 1
4. Wolf's Theme - Seiichi Nakamura (中村誠一) ※CDのみ
5. Honey Sanba - Itakura Katsuyuki (板倉克行) Trio
6. Kirisame - Ryusei Tomoyose (友寄隆生) Quartet
7. Black Nile - Hideyasu Terakawa (寺川秀保) Quartet Featuring Hiroshi Fujii (藤井寛)
8. Acoustic Chicken - Koichi Matsukaze (松風鉱一) Trio feat Ryojiro Furusawa (古澤良治郎)
●3LP
A1. Song Of Island - Yasuhiro Kohno (河野康弘) Trio + One
A2. Cumulonimbus - Shigeharu Mukai (向井滋春)
B1. Morning Tide - Kohsuke Mine (峰厚介)
B2. Black Nile - Hideyasu Terakawa (寺川秀保) Quartet Featuring Hiroshi Fujii (藤井寛)
C1. Song for Hope - Aki Takase (高瀬アキ) Trio
C2. Honey Sanba - Itakura Katsuyuki (板倉克行) Trio
C3. Kirisame - Ryusei Tomoyose (友寄隆生) Quartet
D1. Kemo Sabe - Masao Nakajima (中島政雄) Quartet
D2. Phoebus - Hiroshi Murakami (村上寛) & Dancing Sphinx
D3. Planets - Masaru Imada (今田勝) Trio + 1
E1. 1⁄4 Samba II - Tatsuya Nakamura (中村達也)
E2. Cumorah - Eiji Nakayama (中山英二)
F1. Acoustic Chicken - Koichi Matsukaze (松風鉱一) Trio feat Ryojiro Furusawa (古澤良治郎)
◆BBE オフィシャルサイト
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